インフィニット・ストラトス 光の彼方   作:ichika

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決着の刻

noside

その戦いは圧倒的な速さで行われていた。

 

箒が繰り出す二刀の斬撃を、一夏は雪崩を抜刀し弾き返す。

止めると宣言した一夏は、箒の斬撃を捌くことに徹し、

攻撃は鞘や拳で行っていた。

 

「どうした!?私を止めるんじゃなかったのか!?」

「ああ、だから手加減して刀使ってねぇだろ?」

「貴様ぁぁぁぁッ!!」

 

一夏は敢えて挑発的な態度を取ることで、箒の自滅を狙っていた。

それに引っ掛かり、箒は冷静な判断をすることが出来ず、激昂してがむしゃらに斬りかかる。

 

(とまぁ、余裕かましてるけど、実際避けるのもかなり難しいな、コリャ。)

純粋な妬みと怒りで研ぎ澄まされた刃は、鋭さを増し、

振られる速さも尋常では無かった。

 

一夏がそれらを捌けている訳は、気配の先読みである。

余りの怒りに、気配が駄々漏れになり、一夏はそれを直感的に感じ、

その全てを回避する事ができるだけだ。

 

「一夏ぁぁぁぁッ!!」

それとは知らず、箒は更に攻撃の手を速めた。

 

(ちっ、そろそろ身体が悲鳴を上げてくれると有り難いんだがな。)

攻め続けてばかりいれば、身体に溜まる疲労で動きが鈍る、

彼はその隙を突き、一気に勝負を着けようとしていた。

 

そして、何十度目になる箒の斬撃を払い、

一夏は彼女の背後に回り込んだ。

 

「小賢しい!!」

それに反応し、振り向き様に切りつけようとした、だが、

蓄積された疲労により、ほんの一瞬振り返るタイミングが遅れた。

 

一夏はその隙を逃さず一気に抜刀、がら空きになった背中に斬撃を叩き込んだ。

 

「ガアァァァァッ!!」

その一撃に箒は吹き飛ばされる。

 

「はあぁぁぁっ!!」

一夏は瞬間加速<イグニッション・ブースト>を発動させ、

急接近し、切り上げ、切り落としの二連撃を立て続けに叩き込む。

 

だが、それで攻撃を終える程、彼は甘くはなかった。

 

そこから更に箒の身体を蹴りあげ、身体を捻りつつ飛び上がり、

アッパーを喰らわせ、そのままの勢いで踵落としを腹部に叩き込んだ。

 

余りの威力に、箒は凄まじい速度で落下、地面にクレーターを穿った。

 

「どうだ・・・!?」

一夏は着地し膝を着き、肩で息をしていた。

彼とて、すでにかなりの体力を消耗していたのだ。

仲間達が道を切り開いてくれたとは言え、移動や戦闘でその体力をすり減らしていた。

「これで、おわってくれりゃあ、万々歳なんだがな。」

不可能な事と理解しつつ、一夏は今だ晴れぬ土煙を睨んだ。

 

その時、土煙の中から巨大な黒い火柱が上がった。

 

「あ、あれは・・・!」

一夏が声のした方を向くと、シャルロットの隣にいる束が口元を抑え、

驚愕の表情をしていた。

 

「あんなに巨大な火柱、想定外だよ・・・!!」

「どういうことです?」

束の反応を訝しみ、一夏は緊迫した声で訊ねた。

「黒焔の単一仕様、<煉獄>は確かに焔を纏う、けど、あれは限界を超えてるんだよ!!」

「つまり、妬みが機体の限界を越えさせたと・・・、厄介だな。」

 

束の説明に納得しつつも、彼は刀を杖のようにして立ち上がり、

鞘に納め、腰に据えた。

 

火柱の中より、箒が歩み出る。

その目は、憎しみに染まりきっていた。

「この一撃で・・・、お前を殺す!!」

「やれるもんなら・・・、な。」

 

一夏は僅かに腰を落とし、何時でも駆け出せる体制を取る。

対して、箒は身体の余分な力を抜きつつ、戦気を高める。

 

(一夏は多分、海斗お義兄ちゃんに使ったあの技を使う気だ、

箒は焔を刀に纏わせて一夏を貫く気だ、技量は一夏の方が上だけど、

勝負を決めるのは、一瞬・・・!!)

 

シャルロットは緊迫した雰囲気に、息を飲む。

 

「いざ。」

「勝負!」

 

白と紅の二機は、まったく同じタイミングで飛び出した。

 

(一夏の抜刀術は、左足を要とした超神速の抜刀術、

左足さえ注意していれば、何も恐れることはない!!)

一度、生身の時に彼の超神速の抜刀術を喰らった箒は、

その正体を見破っていた。

 

(右か、左か!?)

 

一夏が抜刀する、その直前・・・!!

「左!!」

彼は左足で踏み込み、神速を越えた速度で抜刀する。

箒はそれに一瞬で反応し、刀で防ぐ。

 

(止められた!!)

シャルロットはそれを見た瞬間、悲鳴を上げそうになった。

 

「ぐっ、ぐぅぅぅぅ!!」

「あぁぁぁっ!!」

呻き声が、それとも叫びか、どちらともつかない声を上げ、

二人は刀をぶつけ合う。

 

余りの衝撃に、彼らの足元がへこみ、クレーターを穿つ。

「ぐぅぅぅぅぁぁあっ!!」

数瞬の拮抗の後、箒が一夏の刀を捌く。

 

「これで・・・、終わりだぁぁぁぁッ!!」

箒は二本の内、刃が欠けた一本を捨て、残った一本を天高く掲げた。

その刀に黒い焔が絡み付き、竜巻のように渦巻く。

 

これぞ、黒焔最大の技、堕炎。

そのまま振り下ろされれば、間違いなく必殺となる大技は、

箒の体勢が崩され、不発に終わる。

 

(何!?奴に引き寄せられているだと!?いや違う!

引き寄せているのは、その前方の空間か!?

まさか、抜刀の時に衝撃と威力で弾かれた空気が、時間差を生じて元に戻ろうとしている!?)

 

「ハアァァァァッ!!」

箒が体制を崩した刹那、一夏は右足を軸に回転、

もう一度踏み込み、がら空きになった脇腹に斬撃を叩き込んだ。

 

「ガハァッ!!」

その威力と衝撃は絶対防御では止められず、内臓を傷付け、吐血させた。

 

一夏の上後方に飛ばされ、一瞬宙を漂った後、重力に引かれ地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ、はぁ・・・、はぁ・・・。」

一夏は膝を着き、荒い息を吐く。

 

「(決まった、これで一夏が勝ったんだ・・・、)ッ!?」

勝負が着いたと思い、シャルロットは箒が吹き飛ばされた方向を見て、驚愕した。

 

なんと、箒は今にも立ち上がろうとしていたのだ。

だが、余りのダメージに身体が言うことを聞かないのか、

立とうにも立てない状態であった。

 

(嘘でしょ!?あの技の威力は尋常じゃないのに、

それで立とうとしているの・・・!?)

シャルロットは箒の執念に背筋が凍るような感覚を抱いた。

 

「ぐっ、ガアッ、ガアアッ!!」

苦しみながらも立ち上がろうとしていたが、身体が仰け反り、更に吐血する。

 

「アァァッ!ガアァァァァッ!!」

最初にその様子に気付いたのは、シャルロットだった。

「苦しみ方が変わった・・・!?」

 

先程までの呻きとは違い、今度は絶叫しながらのたうち回っていた。

絶対防御が、先程の攻撃により機能しなくなり、機体の高熱が直に箒の肉体を責めているのだ。

一夏もその様子に気付き、振り返った。

そして、止めを刺すべく彼女に近づいた

 

sideout

 

side束

「ウアァァァァァァッ!!」

私は瞬きもせずその光景を見ていた。

 

いっくんの一撃で絶対防御が機能しなくなり、

箒ちゃんが機体の高熱にもがき苦しんでいる。

 

駄目だ、やっぱり、私にはできない!!

箒ちゃんを見捨てるなんて、私にはできない!!

 

気が付けば私は二人の間に向けて走っていた。

いっくんが私の見張りを頼んだ金髪の子が何か言ってるけど、

そんな事私には聞こえなかった。

 

二人の間に割って入り、いっくんの方を向く。

 

「やめて!もう箒ちゃんは充分苦しんだんだよ!!

私達の敗けでいい、降参するよ!!だからもういいでしょ、いっくん!!」

世界に敗けを認めてもいい、だから箒ちゃんだけには、

もうこれ以上傷付いて欲しくない!!

 

いっくんはしょうがないといった表情をして、気を緩めた、

よかった・・・、これで箒ちゃんが傷付かなくて済む・・・。

 

「甘い・・・!」

安心した直後、低く唸るような声がして、私の胸を熱い何かが貫いて行った・・・。

 

sideout

 

side一夏

束さんを貫いてきた凶刃を避ける事が出来ず、脇腹に切っ先が深く突き刺さる。

 

刺された瞬間は何も感じなかったが、引き抜かれる瞬間に猛烈な痛みが襲い掛かってきた。

だが、必死に腕を伸ばし、束さんをこっちに引き寄せた。

 

彼女は心臓を貫かれてはいないが、どう見ても重傷だった。

 

「ぐっ・・・、ほ、箒・・・、テメェは・・・、じ、自分を愛してくれる人を、裏切ってまで・・・、そんなに勝ちを得たいか・・・!?」

自分を愛してくれる人を、それも血の繋がった肉親を裏切ってまで、

俺を殺そうとしてきた事に、俺は怒りを覚えた。

 

「かまわんさ!!貴様を殺せるならば、何も惜しくない!!」

ふざけんなよ、家族ってもんは何よりも重いだろうが!

 

「一夏ッ!!」

シャルが俺の傍らに来て、俺を支えてくれた。

 

くっ、血が止まらねぇ・・・、それに、身体に力が入らない。

まるで血と共に力が抜けてるみたいだ・・・。

 

ふと、シャルが俺の腕を支えてくれる。

「戦おう、二人で!」

「ああ、俺を支えてくれ・・・、これからも!」

 

シャルがいてくれるなら、俺はまだ戦える!

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

箒が斬りかかってくるのをみて、俺達は身構えた。

 

sideout

 

side束

うっ・・・、ああ、痛いなぁ・・・。

私・・・、刺されちゃったんだ、箒ちゃんに・・・。

 

あれだけ信じて、あれだけ愛したのに、箒ちゃんにとって、

私は所詮復讐の道具でしか無かったんだね・・・。

 

でも、それは信じた私が悪いんだ、

いっくんはずっと信じるなって言ってくれてたのに、

私は愚かにもこんな復讐の悪鬼を信じてしまった。

 

ごめんねいっくん・・・、私の甘さが貴方を傷付けちゃったんだね、

ううん、それだけじゃない、私が女にしか使えないコアを作ったから、

この世界のたくさんの人が傷付いたんだよね・・・。

 

バカだなぁ・・・、私・・・、なんで今になって気付くんだろ・・・?

 

もっと早く気付いていれば、この世界はもっといい方向に変わった筈なのに・・・。

ううん、死ななくて済んだ人もいる筈なんだ。

 

何が天才だよ・・・、こんなことも分からなかったなんて、

これじゃあ只の我儘を言ってる子供となんら変わりないじゃないか・・・。

 

私が犯した罪は、償い切れない程重い、

そして、私の身体ももう助からないだろう・・・、

でもね、このまますんなり死ねる程、私は弱くはない!!

 

だから、罪滅ぼしの一つとして、私はあるスイッチを押した。

 

sideout

 

side一夏

焼けるような痛みを堪え、その刃を防ごうと雪崩を掲げた瞬間、

箒の身体が機体ごと黒い焔に包まれた。

 

「うっ、ァァァァッ・・・!!」

奴は苦しみながら俺達から離れていく。

そして焔を払おうと、身体を大きく左右に振っていた。

 

一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、

シャルが左側に抱えている束さんの手を見ると、何やらスイッチのようなものが握られていた。

 

それと同時に、かつて自分が言った言葉を思い出した。

あれがストッパーだったのか・・・、推測になるが、

恐らく黒焔の焔を暴走させ、箒自身を燃やしているんだろう、

 

束さんはこれを最期の最期で使ったか・・・。

そうか・・・、奴は身内にすら見捨てられたのか・・・。

 

「・・・、ふはっ・・・、はははっ・・・。」

不気味な笑い声がし、俺はその方向に視線を向けた。

見ると、焔に包まれながらも、奴は笑っていた。

しかし、それは狂気に染まりきっていた笑みだったが・・・。

 

「ハハハハッ!!アーッハッハッハッ!!」

その狂気に、俺は動くことが出来ずに、奴が焼けただれ、

骨すら焼かれ残らないのを、瞬きも出来ずに見ていた・・・。

 

ここに、俺達の戦いが終わった・・・。

 

sideout




はいどーもです!

一応決着がつきました。

さて次回予告
全てを終えた一夏達、
死にゆく束より未来を託される。

次回インフィニット・ストラトス 光の彼方
秘密の継承
お楽しみに!

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