インフィニット・ストラトス 光の彼方   作:ichika

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一夏荒れる

side一夏

「ぐっ!?あたたた・・・。」

朝、俺は身体に走る鈍い痛みに叩き起こされた。

にしてもマジでイテェ・・・、

原因はハッキリしている、昨日の襲撃事件で、

あばら骨が一、二本折れている上、肩の骨にもヒビが入っているらしい、

 

「こいつは当分、無茶出来ねぇな。」

苦笑しつつも、汗を洗い流すために、

寝間着を脱いでシャワールームに入る。

 

「・・・。」

熱いシャワーを浴びながら、俺は昨日の夜の事を思い返す。

 

未だにムカムカしているのも確かだが、

何故俺はあんなに感情的になってしまったのだろうか?

 

・・・、いやいや、俺のこの苛立ちは、

あいつらのせいだ、責められる理由にはならない。

 

それに、あいつらのあの態度は気に入らねぇ、

俺はあいつらが目立つためのアクセサリーなんかじゃねぇ、

マジでふざけんなと思う。

 

おっと、休みと言っても、朝食の時間は限られてる、

さっさと食堂にでも行って、腹ごなしでもしますかね、

 

俺はそんなことを考えながらシャワーを止めて、着替えて食堂に向かった!

 

 

sideout

 

 

 

side千冬

さて、徹夜の作業も終わり、朝食でも摂るかと思い、

食堂に来てみたら、専用機持ちの五人が魚が死んだような目で、

どこか遠くを見ていたり、頭を抱えて何やらぶつぶつ譫言を言っていた。

 

あまりにも気味が悪かったので、

取り敢えず声をかけてみることにした。

 

「おい、お前ら、何を死にそうな顔をしている?」

『織班先生・・・。』

 

声を掛けた事で、漸く気が付いたのか、

五人とも顔を上げるが、目に光がない・・・。

 

(何があったんだ・・・。)

そう思って溜め息をついた時だった、

 

「おはよう簪!怪我とかは大丈夫だったか?」

「うん、大丈夫。」

声がした方に振り返ってみれば、

そこには一夏と更識妹が楽しそうに話をしていた。

 

あいつは本当に女誑しだな、

更識妹も、奴と話しているとどこか嬉しそうな表情をしている。

 

おっと今はそんなことはどうでもいいな。

 

どうせあいつもこちらに来るだろうしな。

 

そう思いながら眺めていると、

一夏は此方を、というよりはこの五人を確認して、

此方とはかなり離れた席に独りで座り、食事を始めた。

 

もしやと思いながら連中を見てみると、

今にも泣きそうな表情をして、一夏を見ていた。

 

(一夏と何かあったな、わかりやすいやつらだ。)

 

おっと、朝食の時間は限られている、

私がしっかりせねば、他の教師や生徒に示しがつかない、

まあ、後でもう一度声でもかけてやるか、

 

取り敢えず今は放置して、食事をとることにした。

 

sideout

 

 

 

side一夏

朝食を終えた後、やることも無いので部屋で

授業の復習をしていると、

昨日の事件の事で取り調べがあるそうで、

そのまま半日・・・、いや、部屋に帰ってきたら

もう夕食の時間に近かったから、1日潰れた。

だが、若干の時間はあったので、俺はある人のところに行くことにした。

 

さてと、苦手だと聞いてる編物の練習でもさせてあげますか、

今までの仕返しさ。

 

 

sideout

 

 

 

Noside

一夏がへんなことを企んでいた頃、

寮のシャルロットとラウラの自室では・・・、

 

昨日、一夏に食って掛かった五人が集まっていた。

 

目的はこれからの事を話し合う為に集まっていたのだが、

全員が酷く落ち込んでいたので、話は遅々として進まない。

 

部屋の空気は非常に重く、まるで通夜さながらだった。

 

それもそうだろう、片想い中の相手にあそこまでの嫌悪感を示されては、

こうなるのも必然だった。

 

そんな時間がどれ程続いたのだろうか、

誰かが部屋の扉をノックした。

 

「・・・、誰だろう・・・?」

シャルロットはおぼつかない足取りで扉の前まで行き、

外の相手に返事をする。

 

「織班だ、入るぞ。」

そう言って扉をあけて入って来たのは、一夏の姉の千冬だった。

 

部屋に入った千冬は、五人の顔を見た瞬間、

重傷だな・・・と思ったそうだ、

 

「ところでお前ら、一夏と何があった?」

無駄な世間話をするより、単刀直入に聞いた方が良いと判断した千冬は、

その話題を切り出した。

 

その瞬間、部屋の空気が更に重くなった。

 

「教官・・・、実は・・・、」

五人を代表するように、ラウラが昨日の夜の出来事を話す。

 

「まさかあの一夏がか?」

千冬にしては珍しく、少し驚いた表情をしていた。

彼女も、(ラウラの話からの推測になるが、)一夏がそこまで怒るのを見た事が無いからだ。

しかし、驚くと同時に、五人に対して少なからず呆れてもいた。

 

(あの優柔不断かつ 、唐変木かつ、天然な一夏がキレるのだから、

流石に今回ばかりはコイツらが悪いな。)

呆れてものも言えなかったが、取り敢えず何か言う事にした。

 

「お前らは何をしとるんだ、馬鹿共が、

貴様らはあいつの事情を考えてやったか?」

 

千冬の言葉に五人は一様に表情を固くする。

恐らく、考えていない、否、考えている余裕など、無かったのだろう。

 

一夏の事を狙う女子は多い、その中から自分を選んで欲しいと思うあまり、

些細な事で嫉妬し、突っかかったが故に、

今回のような結果になってしまったのだ。

 

「取り敢えず、お前らも落ち着け、

過ぎた事を悔やんでももうどうにもならん。」

千冬は溜め息をつきながら、そう言った。

 

「あいつがそれほど女々しい奴とは思わんが、

当分避けられるのも覚悟しておけ。」

そう言って千冬は部屋を出た。

 

「しかしあの一夏がなぁ・・・。」

廊下を歩きながら千冬は独りそう呟いた。

 

長らく離れていた故が、このような時にどう接すれば良いかが、

わからずに自嘲する。

(長引きそうなら、話を聞いてやるかな・・・。)

 

 

sideout

 

Noside

一夏はそこ手に編物セットを持って、ある部屋を訪れていた。

 

「あら、いらっしゃい一夏君。」

その相手とは、IS学園生徒会長、

更識楯無であった。

 

昨日の襲撃事件で重傷を負い、現在絶賛入院中であった。

 

「なんだ、案外元気そうじゃないですか、心配して損しましたよ。」

一夏は楯無に向けて、軽くそう言う。

 

「案外は失礼じゃないかしら?」

楯無は顔を少し引きつらしながら、一夏にそう返す。

 

「まあそれは良いとして、差し入れを持って来ましたよ。」

そう言いつつ、一夏は楯無の目の前に編物練習セットを取り出す。

「ねぇ一夏君・・・?これは私に喧嘩売ってるって、判断していいのかしら?」

眉をひくつかせながら楯無はそう尋ねる。

 

「まさか、俺はただ楯無さんに編物が上手くなって欲しいなって、

思ってるだけですけど?」

「覚えてらっしゃい、一夏君・・・。」

一夏の言葉に盛大な溜め息をつきながらそう言う。

 

「それはそうと、一夏君、簪ちゃん以外の専用機持ちの子達と何かあったの?」

楯無は一夏に何気なく質問してみた。

理由は、彼が行く先には大体あの五人の内の何人かは居るはずだが、

今日は彼1人だった事に疑問を感じたからだ。

 

しかし、その言葉を聞いた一夏の表情は、僅かだが苛立ちの色が浮かび上がる。

「・・・、何を言ってるんですか?あの五人って誰のことです?」

「・・・。」

楯無は、一夏のその表情と言葉から、

何かあると察した。

 

「・・・、もしかして、私のせいかな?

今回の事で・・・。」

「貴女は関係ない、貴女は簪との仲を改善したいと思い、

俺に依頼したにすぎないんですから。」

口ではそう言いながらも、一夏は苛立ちを抑えられていないのか、

手を握りしめていた。

 

楯無は自らの判断を少し呪った。

自分達の仲を心配するあまり、一夏に降りかかる諸々の事を

考慮していなかった。

 

「その・・・、ごめんね?」

「貴女が謝る事はありませんよ、それにいい加減あいつらにも自覚してもらわないと、

俺はあいつらが目立つためのアクセサリーなんかじゃねぇって事をね。」

「・・・。」

一夏はそう言って笑うも、抑えきれていない苛立ちの色が見え隠れしていた。

 

「おっと、面会時間も終わりそうだ、楯無さん、今日はこの辺で失礼しますね。」

「ええ、わかったわ。気をつけて帰ってね?」

一夏は楯無に一礼したあと、部屋を出て行った。

 

「・・・、やっちゃったわね・・・。」

一夏の気配が病室から完全に離れた事を認めてから、

楯無はポツリと呟く。

(面に出さなかったけど、一夏君相当キレてるわね・・・、

あの五人と喧嘩でもしたんでしょうね・・・。)

 

先程の事を思いだし、溜め息をついた後、どうするべきか思案する。

 

「やっぱり彼女達にも話すべきよね・・・、

それで謝らなきゃね。」

 

sideout

 

 

 

side一夏

「ふざけんなよ・・・、ふざけんなよ!!」

夕食後、俺は滅多に立ち寄らないトレーニングルームに来ていた。

ここは普段、体育会系の部員が筋トレなどに使うとあって、

ルームランナーやサンドバッグなど、様々な備品が置いてある。

今回俺は部屋の端の方にあるサンドバッグを、ただ力任せに殴っていた。

 

危なかった。

楯無さんの所でも、あいつらに対する怒りが込み上げてきて、

抑えるのが本当に大変だった、

流石に関係の無い人を巻き込むつもりは無いからな、

 

「何が傷付いただ!?自分達のしたこと棚に上げやがって!!」

頭の中に例の五人の顔を思い浮かべながら、思い切りサンドバッグを殴る。

もう名前を呼ぶことすら億劫だ。

 

「俺の都合を・・・、考えやがれぇぇぇ!!」

渾身の右ストレートを叩き込み、一旦深呼吸する。

 

長いこと休み無しに殴っていたせいか、息切れも激しく、

手を見てみれば、擦りむけて血が滲んでいた。

 

「ちっ、面倒くせぇ、だけど、少しスッキリしたな・・・。」

あー、帰って傷口の手当てでもしますかね・・・。

 

俺はそのままトレーニングルームを出て、自室へと戻る為に廊下を歩く。

寮の付近に差し掛かった辺りから、背後に人の気配を感じる。

考えるまでもない、どうせあいつらだ。

 

此方から話し掛ける義理は無い、何か話があるなら向こうから来るべきなんだよ。

 

俺はそのまま無視を決め込み、さっさと自室に戻り、鍵を掛けた。

 

(クソッタレ・・・、またイライラしてきたじやねぇか・・・。)

もう何をするのも億劫になったので、ベッドに倒れ込み、目を閉じる。

あー、シャワー浴びてねぇな・・・、明日でいいか・・・。

 

俺の意識は闇に溶けていった・・・。

 

sideout

 

 

 

 




次回予告
五人をあからさまに避け続ける一夏
楯無は彼女らを集め、今回の件を全て話す

次回、インフィニット・ストラトス 光の彼方
一夏避ける

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