聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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 今回は、おシャカ様が普段以上に出張っています。
 ですが何と言うか『普段以上にヒドイ状態』です。ついでにデスマスクが登場しますが、扱いが可哀想な気がする。

 なのでシャカのファンやデスマスクのファンは見ない回れ右を推奨します。
 『それでも構わん!!』と言う剛の者はスクロールをしてください。





07話

 

 

 

 最近、シャカの真似をして少しづつ髪の毛を伸ばしているクライオスです。

 もっとも、俺の髪の毛はシャカと違って直毛では無く少しクセが入っているため、伸ばせば伸ばすほどに何処かサガやアフロディーテのような髪型に成っている気がするのだが……。

 まぁどちらかと言うと、薄いオレンジ色(萱草色)の髪の毛もあって漫画版のミロに近いのかな?

 しかしそれ程モサッとしてる訳でもないし……表現が難しいな。

 

 何で切らないのかって?

 聖域にはまともな理髪店が無いのですよ。なので殆どは自分で切るのが普通……。

 

 シュラの聖剣とか便利そうだよな? まぁ散髪に使ったらバチが当たりそうだけど。

 

 

 さて、俺が聖域に身売りされ、修行を開始してから既に2年と3ヶ月。

 

 今日まで色々な事があった。

 

 シャカに叩きのめされたり、シャカに五感を奪われたり、アイオリアにぶっ飛ばされたり、シャイナの素顔を見てしまったり、カミュに氷漬けにされたり、シャカに幻術を掛けられたり、シャカに六道に落とされそうになったり、シャカに精神を破壊されそうになったり、シャカに――――あれ?

 

 やたらとシャカの比率が多いな……。

 まぁ、一応は師匠である訳だし仕方が無いのか? 師匠が弟子を殺しそうに成るのは聖闘士の風習みたいなものなのだろう。良くは解らないが。

 ――――解らないが、きっとデスクィーン島での一輝の修業を思い返してみるにそうに違いない。

 

 …………ま、その事は今は取り敢えず置いておこう。

 

 さて、何故俺がこの聖域に来てからの事を思い返したのかと言うと、それは今日一つの事件が起きたからだ。

 とは言え、それは別に『俺の抹殺指令が下った』とか『聖域が何者かに蹂躙された』といったような、危険極まるような内容ではない。

 

 まぁ心温まる内容か? と問われれば、それは甚だ疑問であるが……。しかし俺にとっては一つの大事件である事に変わりは無かった。

 その内容とは『技』だ。

 

 アイオリアが、俺の拳に技名を付けてはどうかと提案してきたのだ。

 

 もっとも、今では『ソレ』も台無しだけど。

 

 

 事の始まりは今から少し前のこと。

 今日も朝から迎えに来たアイオリアに連れられて、既に恒例と成っている高速拳の修業を行っていたのだが……

 

 まぁアレだ、拳速が遅いと殴られるヤツ(とは言え、殴られなかった事が無い)。

 

 黄金聖闘士に殴られるとか……、

 ハッキリ言って、命の限界ギリギリな修業をしているような気がしないでも無いだが、最近ではそれに慣れ始めている自分が居るからな……本当に慣れってのは怖いものだ。

 

 だがそんないつもの練習風景も、今日はいつもとは全く違った様相を呈している。

 

 ……いや、少なくとも最初の内はいつもと一緒だったんだよ。

 

 ところがそれが現在では様変わり。

 

 ひょんな事から、俺の目の前では普段よりも遥かにスリリングなことが起きている状態だ。

 

 それは――――

 

 

「さっさと掛かってきやがれ!!」

 

「クライオス! 『セブンセンシズ』だ!!」

「…………」

 

 何故か蟹座のデスマスクに拳を放つことになり、それをアイオリアとシャカが見学をするといった状況になっていた。

 

 

 

 

 第7話 必殺技?――――どうだろうね?

 

 

 

 

「クライオスよ、お前に稽古をつけるようになってから随分と月日が経った。

 正直、これまでのお前の成長は、他の候補生達と比較しても比べ物に成らない程に目覚しいものがある。

 既にお前のその拳速は、青銅の域を遥かに超えたところに在ると言っても過言ではないだろう」

「えっ? 今の状態でもそんな評価なの?」

「何か言ったか?」

「……別に」

 

 持ち上げたかと思えば遠まわしにまだ青銅レベルという言われ方をした俺は、ほんの少しだけ落ち込んだ。

 少しは自信が有るのに……俺の拳速ってそんなに遅いか?

 

 それともアイオリア的には『青銅も白銀も大して変わらん』って事か?

 

 まぁ余計なことを言って、『当然だろう?』なんて肯定でもされたらショックなので、敢えて何も言わないけどさ。

 

「いいかクライオス、お前は幸せ者だぞ。黄金聖闘士2人に教えを乞えるなんてな……。常識であれば考えられんほどの幸運だ」

「そう? 自分ではかなり早まった感がするんだけどね」

「お前はいちいち――――まぁ良い。それでだ、俺は『そろそろ頃合なのではないだろうか?』と思うのだ」

「頃合って何のことだよ?」

 

 目を細めて首を傾げた俺に、アイオリアはスッと眼を閉じると間を置き、次いでカッと眼を見開いて口を開いた。

 

「今日は、お前の必殺技の名前を決めようと思う」

「な……え、必殺技!?」

 

 この時の俺の衝撃が解るだろうか?

 聖闘士を目指してはや2年と3ヶ月。俺はついに現役聖闘士に、それも黄金聖闘士に認められたということか!? と。

 

 まぁ、何だ。

 先日のカミュとの一件では、一応は凍結拳の使用方法を覚えはしたものの、とても戦闘に使えるようなモノではなかったのだ……これが。

 良いところ前もって氷を作って置くとか、デザートを冷やすのに使える程度の凍結能力でしか無い。

 当然そんなものに名前をつける訳にはいかず、冷凍保存や冷やし作業に使うのみ。

 

 だが今日アイオリアは、俺の拳に一応とは言え『合格』を出したという事なのだ。

 

 これが嬉しくないわけがない。

 

 まぁ、実は少し前にも一つの技が使えるよう成ったのだが……それはシャカに怒られたので使わないようにしている。

 

 おっと、話を目の前の事に戻すとしよう。

 

「そう必殺技だ。

 今のお前は、その拳速だけなら確実に聖闘士の域に達している。

 これからも修業の日々が続くだろうが、名前をつける事でそれらの励みになるだろう」

「…………」

「ん?……どうした? 嬉しくは無いのか?」

 

 俺は喜びの表情を浮かべた後、一つの疑問が浮かび上がったためみるみる眉間に皺を寄せて行ってしまった。

 それは――――

 

「いや、正直なところ認められたってのは嬉しいんだけど――――そういうのって師匠であるシャカに断りも無くやっても良いのかなって……」

「…………」

 

 と、いう事だ。

 まぁ自分の師匠に『俺の技の名前はこういうのが良いんですが、大丈夫ですかね?』と、聞くのもどうか? とも思うのだが、何せこんな事は生まれて初めての経験だ。 可能な限り憂いは絶っておきたい。

 

 アイオリアにも俺の考えが伝わったのか? 『ム……』と唸るように声を漏らすと口元に手を当てて考え込み始めた。

 だが――――

 

「まぁ良いだろう……多分」

 

 と余り深くは考えてくれなかった。

 

 その後アイオリアは、『まぁ気にするな、成るように成るさ』と言いながら俺の肩をバンバンと叩きながら言ってくる。

 痛いから止めて貰いたい……本当に。

 

「ではお前の技の名前だが……さて……良い名前…名前」

「は? なに? アイオリアが考えるの?」

「む……いや何、考えるとは言っても案を出すだけだ。選ぶのはお前だからな」

「……はぁ」

 

 『選ぶ』のは俺って……俺には『考える』権利は無いって事なのか?

 だとしたら少し憂鬱だ。

 

 俺が未だ見ぬ自身の必殺技(名前)にちょっとした悲壮感を漂わせていると、当のアイオリアの口からとんでもない『単語』が飛び出してきた。

 

「ふむ、ライトニング…いやサンダー?……それともアトミック――――」

「ちょちょちょッ――――ちょっと待った!!」

「? なんだクライオス? 突然そんな大声を出して?」

 

 俺は流石にその『単語』を見過ごす事など出きず、間髪入れずにアイオリアの思考に割って入る。

 だって流石に其の名前は……

 

「……案を出してくれるのは嬉しいし、感謝もしてるけど――――そういった『電気』を連想してしまうような名前はやめてくれ」

「何故だ? それでは俺に師事したことが解らなく――――」

「少しで可能性は消しておきたいんだよ!!」

 

 勿論『雷電聖闘士』のである。正夢なんて絶対に嫌だからな!

 

「ならば、お前はどんな名前が良いと言うのだ? そう言うからには何か良い案でも有るんだろうな?」

「え? あーいやー……急に言われてもなぁ。……金◯寺エクスプロージョンとか?」

「……何だそれは?」

「いや、冗談だけどね」

 

 でも名前か……。

 実際、急にそんな事を言われても思い浮かぶわけがないんだよな。

 大体自分の技の名前なんて考えていられるほど、俺はゆとりのある毎日を送って等居なかったし。

 

 毎日が生きるか死ぬかの日々だぞ?

 聖闘士になる前から『ペガサス流星拳』とか、自分で名付けてしまった星矢はある意味ではすごい存在と言える。

 

「やはりサンダー―――」

「だから嫌だっての!!」

 

 性懲りも無く、電気を連想してしまうような名前を付けたがるアイオリア。

 俺がそれに拒否の言葉を投げかける(ブツける)と、ほぼ同時に人の気配が増えたのを感じた。

 

 俺に解ることだ、当然アイオリアにも解ったようで同時にその気配の方へと向かって顔を向ける。 

 

「やめとけやめとけ、アイオリアにそんな事を考えて貰おうなんてのが、そもそもの間違いだ」

「デスマスク!?」

「……蟹座?」

 

 何とも嫌な予感しかしないような登場人物だ。

 第一、聖域に来てから一度も話をしたことが無いような人物が、何だってこんな処に来たんだ?

 

 正直なところ、ついこの間カミュに酷い目に合わされたばかりだからな、成るべくなら他の黄金聖闘士との関わりを持ちたくないんだが……。

 

 願わくば俺にじゃなくて、アイオリアに用があって来たのであれば良いのだけど……。

 

「何をしに来たデスマスク? よもや単に声を掛けただけと言うわけでもあるまい?」

「別に、特に何をって訳じゃねー。見学だ見学」

 

 はい、残念。

 どうやらデスマスクはアイオリアに用が有る訳ではないようです。

 

 まぁ……それはそうだろうな、この頃のデスマスクは教皇の事を未だ知らないだろうし(恐らく)、

 基本的に正義の為に働く黄金聖闘士様としては『逆賊アイオロス』の弟と仲良くしようなんて奴は居ないよな……。

 

 『見学だ』なんて言ってるデスマスクの雰囲気だって、何処か喧嘩腰っぽいし。

 もっとも、『あれが普段どおりの態度』という可能性も十分あるが……。

 

「ほぉー……そっちがシャカの弟子のクライオスとかいう小僧か? 何だか生意気そうな面してるな?」

「……アンタには言われたくない」

「ケッ、鼻っ柱は強そうだな……。おいガキ、何ならこのオレ様がお前に指導をしてやろうか?」

「ぇえッ!?」

「……何だよその反応は?」

 

 ついつい本音の言葉を使ってしまった。

 しかし……正直その提案は『有難迷惑』という奴だ。今の俺は二人の指導だけで日々を限界ギリギリで過ごしているのだ。

 そこに、また別の人間が指導に入るなんてのは勘弁して貰いたい。

 

 いや、社交辞令とか世の中には必要だとは思うよ?

 俺だってそれくらいの事は分かっているさ、世の中を上手く渡っていくにはそれなりのお世辞だって必要な事くらいは良く解っているんだ。

 ただ、その結果が『自分の生命を縮める』事にしか成らないと解っていて、それでもそれをする奴なんて居ないだろ?

 

 ――――いや、まぁそれも絶対に居ないとは言えないけどさ、少なくとも俺はしたくはない。

 

 だからどうしても『嫌だなぁ……』というのが顔に出てしまうのだ。

 

「お前な、俺達黄金聖闘士に数人掛りで指導されるなんてのは、普通常識じゃ考えられねーよーな事だぞ?」

「いや、だからって自分の生命を捨てて良いって事には成らないから」

「あん? 何のことだ生命って?」

「だって……仮にデスマスクが俺を鍛えることに成ったら、出来が悪かったり態度が良くなかったら積尸気送りに――――」

「しねーよ! どんな師弟関係だそりゃ!?」

 

 え? しないの?

 

 これは驚き。

 だってシャカなんてまんまその通りだし、アイオリアだって問答無用で殴ってくるし、先日のカミュだって暴走したからな……。

 

 これはデスマスクに対する評価をかえるべきか?

 

 ……解った。

 

 つまりは、元から他の黄金の人達よりもズレてるから、逆に常識的な一面が出てくるのかも。

 そしてシャカやアイオリア、カミュなんかは普段が真面目な分、歯止めが効かなくなると……成程。

 

「待てデスマスク。お前……一体何を考えている?」

「何がだ?」

「とぼけるな! 何の企みも無く、『善意』で候補生の面倒を見るなどと言ってくる訳がない!!」

「……何と言うかな、確かに動機は『面白そうだから』って理由だがよ。お前を含めた周りの、俺に対する評価って酷すぎねーか?」

 

 まぁそれは俺も感じなくはないが、どうにも『デスマスクだしな……』との感想になってしまう。

 

 イメージって大切だよな?

 

「フン……自分の胸に手を当てて良く考えるのだな」

「あーそうかい……ま、テメエらがどんな風に俺のことを見てようと関係ねーけどな」

「おぉ、大人の反応だ」

 

 感心した。

 俺は感心した。

 

 デスマスクはもっとキレやすい、チンケな(言ったら殺されそうだが)小悪党なのかと思っていたが、そんな事はなかった。

 アイオリアに大して、年上の余裕を見せることの出来る大人だったのだ。

 

 コレは本当に、俺の中にあるデスマスクの評価を変える必要が有るかも――――

 

「つー訳で、此処でお前らがどんな遣り取りをするのか見学させて貰うぜ?

 ――――それとも何だ? 見学すんのに金をとるとか言うんじゃねーだろうな?」

「誰がそんな事を言うか!!」

「なら問題ねーな?」

「ぐ、ぐぅ……」

 

 ――――やっぱり小悪党かも。

 

 二人の言い合いを見ながら俺がそんな事を考えていると、

 

「――――いや、問題だ」

 

 と、その言葉が耳に届くと同時に『休日には感じないはずの嫌な感覚』が俺の身体を襲った。

 

 馬鹿な、何で此処にアンタが来るんだ!?

 今日は朝から瞑想に入り、神仏との会話をするって言っていたのに……!!

 

「シャカ!?」

 

 そこには、どう贔屓目に考えても聖域の風景とは合いそうも無い、袈裟姿のシャカが立っていた。

 

「ゲ!? シャカ!! 何だって此処に……」

「不思議なことを言う……この地は我ら黄金聖闘士の護る聖域だ。故に私が何処に現れようと問題なかろう?」

「グ……」

「とは言え、実際はアイオリアに苛められる弟子の様子を見物に来ただけ……なのだがな」

「……悪趣味ですね」

「何を言う? 自らの弟子の状態を、自身の眼で確認しようと言う私の気遣いが解らんのか?」

 

 『それはどんな気遣いだ?』

 と聞いても良いのだろうか?

 まぁ喩え聞いたとしても、碌な答えは帰ってきそうに無いのだが。

 

「しかし――――まさかこの場に君まで居るとはなデスマスク?

 一体何の話をしていたのだね? 何やら『金』がどうとか……随分と俗な話をしていたようだが?

 私の弟子の前で、そういった低俗な会話は謹んで貰いたいものだな」

「――――シャカ、俺はそんな話はしてなど居ない。言っていたのはデスマスクだ」

「ほう……デスマスクが。多分に漏れず、俗な男だな君は?」

「チッ」

 

 シャカが視線(眼を閉じてるのに視線とは変だが)をデスマスクへと向けると、当のデスマスクは舌打ちを一つして不快感を顕にする。

 

 ――――って何だコレ?

 なんだってこんなに仲が悪いんだ黄金聖闘士!?

 

 俺は重くなる場の雰囲気に耐え切れ無くなる前に、なんとか好転させようと試みてシャカに話を振ることにした。

 

「実は、アイオリアが俺の『技』の名前を決めようって話をして……」

「技……?」

「あーいや、アレじゃなくて高速拳の方の」

「そうか……」

 

 ピクリっと、一瞬だけシャカの片眉が跳ね上がるが、俺が補足を付け加えるとそれ以上の追求はしてこなかった。

 

「クライオスがお前の所で修業をするようになって既に2年以上、そろそろ何かしらの技名を持っても良い頃合だろう?」

「……とは言え、唯の高速拳なのだろう?」

「別に良いんじゃねーか? 特色があれば唯の高速拳って訳じゃなくなるんだしよ」

「――――なんだデスマスク、まだそこに居たのかね?」

「てめぇな……仮にも俺は三つも年上なんだぞ? ちったぁ敬いの心を持ったらどうだ?」

「君に敬える場所を見つけることが出来たら、その時はそうさせて貰おう」

「……この野郎」

「――――えぇっと、デスマスク。……特色って例えばどんなのを指して言ってるのさ?」

 

 一瞬、デスマスクの小宇宙が上昇したのを感じた俺は、冷や汗たらたらで間に割って入った。

 シャカも、これじゃ唯のいじめっ子みたいじゃないか。

 

「あん……そりゃ例えば、俺だったらこの『燐気』だな」

 

 とそう言うと、デスマスクは指先に小宇宙を集めて燐気を灯してみせた。

 『ボゥ……』と灯るその火は、何とも儚げだが怪しい光を放っている。

 

「シャカなら小宇宙の爆発や操作、俺の場合は小宇宙で生み出すこの雷だ。だから技名もライトニング・ボルトなんだがな」

「つまりどんな技にせよ、それがどんな技なのか解るような名前が好ましいってこと?」

「そうとも限らん。

 私はそうでもないが、恐らく他の者達は『天魔降伏』と言われても私の技がどのようなモノか……想像することは出来んだろう。

 ……だが考えても見給え、『ロイヤル・デモンローズ』と言いながら、スカーレットニードルを放つミロは些か変だろう?」

「あの人は、酒飲ませればそれ位ノリでやってくれそうです」

 

 そうか、つまりはノリだけで名前を付けても実際は問題ないが、聞いた人間が『えぇ!?』と思うようではダメだという事か。

 せいぜいが『ん?』っていうレベルでの名前だな。

 

 まぁ、シャイナなんかは電気を出せなくても、技名は『サンダークロウ』だしな。

 とは言え、アッチは打撃の加え方にコツが有って、まともにくらえば本当に電撃でも浴びたような衝撃を受けるらしいが。

 

「でもそうなると……本当にただ殴るだけの俺の拳ではまともな名前は難しいのでは――――」

「待て、クライオス。いっその事、技自体を殴るものから違うモノに変化させてはどうかね?」

 確か先日、君は幻術も覚えた筈だが……?」

「ゲ、そんなもん覚えやがったのか?」

「……まぁ一応」

 

 嫌なことを思い出させてくれる。

 正直忘れていたかったのに。

 

 ――――あぁ、一応誤解の内容に言って置くが、別に使えることを忘れたかった訳じゃない。

 力技が主体のこの世界では、それこそ非常に効果的なスキルだとも思うからな。

 

 俺が言っている思い出したくない事とは、それを身に付けた後に起きた出来事のことだ。 

 

「成程……直接の師であるシャカはその類のものが得意だからな。――――しかしなんだ、『一応』とは? なにか問題でもあるのか?」

「いや、問題とかそういう訳じゃなくて、ちょっとトラウマが……」

「トラウマ?」

 

 アイオリアの問に、俺は声量が小さくなってしまい返すことが出来ない。

 しかしそんな俺の言葉を代弁するかの様に、シャカはニコっと笑って説明をするのだった。

 

 あー……有り難くない。

 

「なに、クライオスが幻術を覚えて直ぐのことだ。事も有ろうに、私に向かってそれを仕掛けてきたのでな……。

 仕返しとばかりに『それをソックリ其のまま返して』、その後に少々の『折檻』をしたまでだ」

「…………」

「………………」

「自分で『やってみろ』って言ったクセに……」

「私にかけろとは言っていなかった筈だが?」

 

 あの場には俺とシャカしか居なかったのに、他にどうやって見せれば良かったのか?

 まさか、道行く人(雑兵の方々)に幻術を仕掛けろとでも言う積りだったのか?

 

 ……幾らなんでも其れは無いか、多分。

 

 恐らく。

 

「さて、逸れた話を元に戻すが――――クライオス、要は拳を浴びせた相手に幻術を掛けるような技にしてどうか……ということだ」

 

 俺がシャカの発言に頭を悩ませていると、シャカは笑顔を向けながら俺にそんな事を言ってきた。

 

 つまり、

 

 拳を浴びせる→直接小宇宙を叩き込んで幻術を仕掛ける→『奴の神経はズタボロ』

 

 幻魔拳ですか?

 

「それはちょっと……『色々』と問題が出そうな気がするので次点と言うことで」

「ム、戦闘中でも拳を浴びせるといったワンアクションを挟むことで、相手を幻術に陥れ易くする事が出来るのだが?」

「まぁ……理解は出来ますがね」

 

 ただそんな技を身につけると、一輝との『どちらの技が上か――――』的なフラグが立つ様な気がするので……。

 

「ならば、先日お前はカミュに『殺されかけた』ときに、たしか凍結拳を身に付けた聞いたが? 何ならそれを利用してみてはどうだ?」

 

 とはアイオリアの言葉。

 成程、随分と建設的な言葉だ。もっとも、

 

「それは面白そうだけど、今現在ではとても戦闘に使えるレベルで凍らせる事なんて出来ないよ?

 それ所か、やられた相手は凍気を乗せて殴られた事にも気が付かないかも知れない……」

 

 前述もしたけどコレは本当。

 多分使っても『あぁ、何か一緒に冷たいのが――――』って成る程度だろう。

 

「それじゃ意味ねーな。……シャカ御得意の、小宇宙を爆発させるタイプの技はどうなんだよ?」

「有るには有るが、現在は使用禁止だ」

「あん? 何でだよ」

「まだまだ実戦で使えるレベルではない」

 

 と、デスマスクの質問をシャカはあっさりと返した。

 

 シャカの言っている実戦では使えないと言うのは、俺がサガの『ギャラクシアン・エクスプロージョン』や、シャカの使う『天魔降伏』のような技を目指して独自に練り上げた拳である。……まぁ言ってて恥ずかしいが。

 

 とは言え、それを使用するには小宇宙が足りない。

 

 使用可能に成るまで小宇宙を高めているとそれだけで無防備を晒してしまうし、実際小宇宙を高めていざ放って見ても、

 師匠で有るシャカには簡単に止められてしまった。

 

 シャカ曰く――――

 

『その技を実戦で使うには、まだまだ小宇宙が足りんな……それと瞬間的な爆発力も弱すぎる。

 そもそも、君程度の実力でそんな大それた技を使おうと言うこと自体――――』

 

 まぁ後半は置いといて、そう言う事らしい。

 

 その為、折角作った技であったが其の侭お蔵入り、と成っているのだ。

 

 もし俺が『セブンセンシズ』に目覚めることが有るのなら、その技も使えるように成るのかも知れないが……そんな日は来るのかねぇ?

 

「なぁー……そもそもな? その高速拳とやらは、実戦で使えるレベルに成ってんのかよ?」

「それに関しては問題ない。少なくとも青銅や白銀レベルの働きは出来るはずだ」

 

 デスマスクの問にアイオリアがそう答えると、デスマスクは「フム……」と口元に手をやって考え込み、

 

「……しょうがねーな。……おいクライオス、お前ちょっとアイオリアに教わった拳を全力で撃ってみろ」

 

 なんて言ってきた。

 

「へ?」

「へ? じゃねーよ。何だかんだで俺はお前の拳がどんなもんか知らねーからな。一度ちゃんと見てみないと何とも言いようが無いからな」

「でも――――」

「正直、君が何かを言う必要は――――」

「そうだよね!? いや、すっかり失念してたな俺!!」

 

 やんわりと断るつもりだった俺だが、シャカの吐く毒を何とか和らげようとして肯定の言葉を言ってしまった。

 

 はぁ……これでまた気に入らなかったら、アイオリアの時みたいに殴られるのかな。

 

 俺は溜息を吐きつつトボトボと歩き、誰もいない空間に向かって拳を構えた。

 

「それじゃコッチに向かって撃てば良い?」

「あー……いや、それじゃちょっと面白くねーからな目標はコッチだ」

「コッチって……デスマスクに向かって撃てって?」

「む?」

「ほぅ……」

 

 トントンっと自分の胸元を指さしながら言うデスマスク。

 そしてその行動にシャカもアイオリアも興味を持ったようだ。

 

 ただその興味の持ち方が――――

 

「面白い……。クライオス構わん、全力でその蟹を叩きのめせ!」

「滅多に無いことだが、私もアイオリアと同意見だ。クライオス、『やって』しまって構わん」

「お前等な……」

 

 と言うのは如何なものか?

 

「まぁ、シャカやアイオリアがあぁ言ったとしても、俺の拳は黄金聖闘士に当てられる程の速度は出ないから」

「んな事は解ってる。元々当てられるとは思ってねーよ。

 いくらシャカの弟子だとか言ったって、たかだか聖闘士候補生。そんなガキの攻撃をくらう訳がない」

「まぁそりゃ――――」

「ならばデスマスク……君は私の弟子の攻撃など当りはせんと言うのだな?」

「当たり前だろうが? むしろくらう様だったらその方が問題だ」

 

 何故だろう?

 

 面倒事に巻き込まれる予感がする。

 

 俺は一時撤退をすべきでは無いか? と考え、気付かれぬように出来る限りゆっくりした動きでその場から離れようとしたのだが。

 

 グイッ……

 

「どうしたクライオス?」

 

 俺の行動理由が解ってい無いアイオリアに肩を掴まれ止められてしまった。

 

「では、少し賭けでもしようでは無いか? もし、クライオスの拳を君が全弾避けることが出きたのなら、それは君の勝ち。

 逆に喩え一発でも触れるような事があれば私の勝ちだ」

「……それじゃ賭けに成らねーだろ? どう考えても俺がくらう訳がねー」

「そうだぞシャカ、確かにクライオスの実力は大したものだと思うが、黄金聖闘士相手にどうこう出来るようなものでは断じて無い」

「そのような心配など杞憂だ、私は自身の弟子とそれを鍛え続けてきた『私自身』を心底信じているからな。

 この『程度』のことなら必ずやってのける」

 

 何だか微妙に変な言い回しをしているシャカに、俺は首を傾げたが、周りに居るアイオリアやデスマスクはそんな事は感じなかったようだ。

 俺の気のせいだろうか?

 

「そこまでコケにされるような事を言われたら、引く訳にはいかねーな。

 良いぜ、お前のその下らない挑発に乗ってやるよ」

「フ……後悔せんことだ。クライオスは、君が思っている以上に厄介だぞ?」

「フン! 抜かせ!!

 シャカ! 俺がこの勝負に勝ったら、お前を一日小間使いのように使ってやる!!」

「ほう……ならば勝利報酬は相手の一日小間使い権にするか」

 

 そやって話を纏めると、シャカは俺の方へ向かって足を進めてきた。

 

 俺としてはかなり困った状態だ。

 何故かって?

 

 そりゃ先ず第一に、『黄金聖闘士であるデスマスクに拳を当てられるわけがない』って事

 

 で第二に、『シャカが余計な約束をデスマスクとしてしまった』と言うこと。

 

 コレでもし俺がデスマスクに当てられないなんて事になろうものなら、問答無用で『六道落ち』が決定してしまう気がする。

 今だと『修羅道』行きかな?

 

「シャカ……」

「クライオス、君は何も迷うことはない。ただ全力で拳を振るえばそれで良い」

 

 震えるような声を出す俺に、シャカは暖かい口調でそう言ってきたのだが……。

 

 そうじゃなくて、勝手に話を進めないで欲しいのだが?

 

 って言ってやりたい。

 しかも、今はその優しげな口調が、逆に恐怖を煽る材料に成ってる事に気づいていないのだろうな……。

 

「さぁ! さっさと撃ってきてみろ!!…………クライオス!!」

 

 向こうは向こうでハッスルしてるし。

 

「俺からもアドバイスをしておこう。

 クライオス、仮にも奴は小宇宙の究極である『セブンセンシズ』に目覚めている黄金聖闘士だ。

 今のお前では、まともにやっても勝ち目などあるまい」

「…………」

 

 そんな事は分かっている。

 

 だから嫌な雰囲気を感じた時に逃げようとしたのに、それをアイオリアが邪魔したのではないか?

 

「だが、今こそお前は修業の成果を見せる時だ。俺やシャカの教えを元に、究極の小宇宙『セブンセンシズ』目覚めれば……あるいは」

 

 と、アイオリアはそこまで言うと言葉を飲み込み、押し黙ってしまった。

 どうせならそんなアドバイスよりも、この賭け自体を止める方向で動いてもらいたものだ。

 

「全く……簡単に言ってくれる」

 

 俺は唇を噛み締めながら、目の前のデスマスクに向かって拳を構えるのだった。

 

 

 

 

 デスマスク視点

 

「デスマスク! アンタに恨みはないが、シャカやアイオリアの期待を裏切る訳にはいかない」

「…………」

「悪いがこの勝負、勝たせて貰うぜ!!」

 

 目の前で拳を構えているクラウオスは威勢よく啖呵を切ると、鋭い視線を俺へと向けてくる。

 

 全く何を言ってやがる。

 こんな事は勝負にも成りゃしねーのにな。

 

 たかが候補生如きの餓鬼が、喩えどれだけ頑張ったところで所詮――――

 

 と、俺の思考はそこで停止してしまった。

 何故なら、不可解な事が起こっているからだ。

 

 熱い……!? 何という熱さだ!!

 目の前に居るクライオスから感じるこの強大な小宇宙は一体に何だ!?

 

「何だコレは!? これが、これが本当に! 聖闘士候補生の発する小宇宙だってのか? これじゃまるで――――」

「おぉおぉおおおおおお!! 消し飛べ、デスマスクッ!!」

「まッ――――」

 

 一瞬の間に繰り出される無数の拳。

 それは既に百や二百は勿論、千や万を超えた拳――――

 

「これは!? クライオスの放つ拳が光の線になって……まるで光速!? あじゃぱーー!!!」

 

 目の前に光が走り……俺の全身を幾つもの衝撃が貫いていった。

 

 

 

 

 クライオス視点

 

「――――シャカ、何だか急に身悶え始めたけど……デスマスクに何かしたの?」

 

 俺が小宇宙を高めようと拳を向けたのとほぼ同時に、目の前でふんぞり返っていたデスマスクが冷や汗を流して俯いてしまったのだ。

 その後、何やら『何だこれは――――』とか『あじゃぱー』とか呟いていたかと思えば、今では一人で地面をのたうち回っている始末。

 

 どう考えても普通じゃない。

 

「何……少しばかり楽しい幻覚を見せてやっただけのことだ」

 

 あぁ……そうですか。

 『私自身を心底信頼』ってそういう事ですか。

 

「 それよりクライオス、今の内に一撃いれたまえ」

「えっ!? 良いの?」

「何か問題でもあるのかね?」

 

 『有るだろう……どう考えても』とは、思っていても言えない俺だった。

 

「――――じゃあデスマスク……ゴメン!!」

 

 そうして俺は、限界まで小宇宙を高めてデスマスクの顔を殴るのだった。

 

 

 

 

「アゴが痛ぇ……」

 

 アゴを摩りながら言うデスマスクとそれを見ている笑顔のシャカ、

 そして眉間に皺を寄せている俺とアイオリア。

 

「しかし……俺は全身を撃たれた気はするが、アゴにこんなん成るまでくらったか?」

「記憶が飛んでいるのではないかね? アイオリア、君は見ていただろ? クライオスの拳がデスマスクのアゴを捉えた瞬間を」

「まぁ……確かに見はしたがな」

「…………」

 

 見ていたアイオリアも、当然それをやった俺も揃って微妙な顔をして言葉を詰まらせた。

 アレは有りなのだろうか?

 

 既に殴った後では有るが――――

 

『私は何も騙すようなことも、嘘もついては居ないぞ? 良く聞いていたのかね?』

 

 との事。

 まぁ確かに嘘は付いてないのだろうけどさ……。

 一体どんな幻覚を見せたんだろうか?

 

 デスマスクのこちらを見る表情が、何だか最初と変わっているような気がするんだが。

 

「――――兎も角、この勝負は私の勝ちで良いな? 君には後日、処女宮で働いて貰う。心して待っていたまえ」

 

 シャカの台詞に舌打ちで返事を返すデスマスク。

 

 俺はこのとき『雑用でもやらせるのかな?』と軽く考えたのだが、次にシャカから発せられた言葉を聞いた瞬間、開いた口が閉まらなくなった。

 

「今度、クライオスの小宇宙を高める修業の一環として、何度か『黄泉比良坂』に送ってやってくれ」

 

 だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そのちょっと後。

 

 アイオリアは『今日はもう、修業という空気ではないな。名前はおいおい考えるとしよう』と獅子宮に帰り。

 シャカは『私も当初の予定通りに瞑想に入るとしよう』と処女宮へと戻ってしまった。

 

 その為、その場に残される形に成った俺とデスマスクだったが、デスマスクの提案により軽い技術指導が行われていた。

 

 単に殴るだけではなく、『特色』とやらを持たせる方法が思い浮かんだらしい。

 

「――――でな、いっそのこと拳で殴るんじゃなくてだな、こうして……」

「手刀?」

「おう……コイツで突く技にすればどうよ?」

 

 デスマスクが言う方法とは、手の形(要は握り)の変化だった。

 だが、成程。

 

 確かにこれは良いかも知れない。

 

 これなら星矢の使う流星拳と確実に差別化を図ることが出来る。

 

「小宇宙を高めれば大抵のモンは貫けるように成るんじゃねーか?」

「おぉ……!」

 

 俺は歓喜の声をあげて腕を一振り――――とは言え一発では無く数千発だが突きを繰り出してみる。

 

 結果は上々。

 

 俺の突きが触れた場所は単純に破壊されるのではなく、何かが刺し貫いた様な跡が残っている。

 これは鍛えれば、面白い技に成るかも知れない。

 

「…………良い。発想が良いねデスマスク」

「そ、そうか?」

 

 俺の褒め言葉にデスマスクは若干の照れた表情を浮かべた。

 

 何だか周りにいた黄金聖闘士達が何処かずれた人達ばかりだったものだから、デスマスクが凄く普通の人のように感じてしまう。

 まぁ、良い人では無いのだろうけどな。

 

 しかし見ろこの拳を! 腕を振れば大地を切り裂き、触れればたちまち貫く狂気の技!!

 そう! まるで南◯聖拳――――……いや、……バイキング・タイガークロウか? これ?

 

 何だか凍ってないところ以外は『神闘士ζ(ゼータ)星ミザールのシド』が使っていた拳に似ている気がして成らないぞ……。

 

 

 

 …………まぁ良いか。

 

 後で名前を考えておかなきゃな。

 

 

 

 

 

 今日の成果

 高速拳の形が『殴る』から『突く』に変化した。

 クライオスのデスマスクに対する評価が若干変わった。

 

 


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