聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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短くて済まねぇ………


49話

 

 

 

 ……遅かった、か。

 十二宮への入り口に到着すると、其処には呻き声をあげて倒れる兵達で埋め尽くされていた。

 職務に忠実なのは良いことだが、もう少し彼我の戦力差を考えたほうが良いのではないか? とも思ってしまう。

 

 周囲に破壊の跡がないことを見ると、どうやら殆どが一撃で押し通られたようである。

 ……まぁ、それも仕方がないだろう。

 此処に居るのは人一倍使命感に燃える、一般人と変わらないのだから。

 

 あぁ、しかし……。この状況は俺の知らない物語(ストーリー)が起きようとしてるのだろうか。

 

「おい、しっかりしろ。何があった?」

「ク……クライオス様……?」

 

 倒れている兵の中から比較的軽傷な者を選び、ゆっくりと抱き起こしながら声をかける。

 何が起きたのか、少しでも情報が欲しい。

 俺は短く、解ることだけを伝えるように兵に言うが返ってきた言葉は―――

 

「ローブを纏った賊、か」

 

 ―――というだけであった。

 俺の記憶にあるローブを纏った賊と言えばハーデス編の前教皇を含む黄金聖闘士達だが……。

 しかし、幾らなんでも奴等が出て来るには早すぎる。

 そもそも冥界の相手ならば、五老峰の老師が動くはずだ。

 

 いったい……何が起きている?

 

 俺は兵達に直ぐに救援が来ることを告げて先に進むことにした。

 今現在、十二宮は余りにもスカスカ過ぎて防衛能力が殆ど無い。

 もっとも、それも自業自得なのだが……。

 急いで追い駆けて賊をどうにかしないと後が怖いっ!!

 

 白羊宮に居なければならないムウはジャミールから動いていないので無人、金牛宮のアルデバランは工事現場、その次が双児宮か……

 

「いや、双児宮はなぁ……いや、確かに黄金聖闘士を全員バイトに送った訳じゃないとは言ったけど。それでも双児宮はなぁ」

 

 流石に双児宮はマズイ。

 だってあそこは双子座の聖闘士が守っている場所だから!

 やばい雰囲気を感じ取って、十二宮の階段を目指して俺は駆け上がる。

 

「教皇は機嫌の良い時(白い時)は大抵のことを許してくれるけど! 機嫌が悪い時(黒い時)は箸が転がるだけでキレるヤンチャ者だからねぇッ!!」

 

 音速を超える絶叫を撒き散らしながら、俺は白羊宮、金牛宮と通過して問題の双児宮へと辿り着く。

 

 しかし、あぁ、しかし………

 

 其処には既に、どす黒い小宇宙がモクモクと渦巻いていた。

 

「………」

 

 思わず表情も暗くなって顰めっ面を浮かべてしまう。

 これが効果音の浮かぶ漫画であったなら、確実に『ゴゴゴゴゴゴ』とでも描写されてそうな勢いで黒い。

 

 ……やべぇよ。これ、絶対に双子座の聖闘士が出張っちゃってるよ。

 何とかしなくちゃいけないのに、この中に入りたくない。

 

 このまま帰って、何事も無かったようにベッドに入っちゃ駄目だろうか?

 俺、最近疲れてるし双子座の聖闘士ならアナザーディメンションで一発だよ。

 

「あぁ、いや、けど、此処で帰ったのがバレると、アナザーディメンションどころかギャラクシアンエクスプロージョンを頂く羽目に成る……か。

 おいおい。俺のライフポイントは其処まで高くはねぇんだぞ」

 

 予想する未来に今にも腹の中の液体をぶち撒けたく成る。

 あー、もう本当に嫌だ。

 

 一寸先は闇ばかり―――な、双児宮に足を踏み入れ、俺は一歩一歩と進んでいった。

 普段なら素通りできる双児宮だが、迷宮化している時は勝手が違う。

 空間が螺曲がり、前に進んでも後ろに進んでも先へと進むことは出来なくなるのだ。

 しかも単純に小宇宙を頼りに進もうとしても、双児宮の内部全体に双子座の聖闘士が発する小宇宙が充満して上手く周囲を探ることが出来ない。

 正直、かなり悪趣味な迷宮だと言わざるをえないだろう。

 

 なにせ仮に壁に手を突いて歩いていたとしても、気がつけばスタート地点に戻されているのだから。

 

 つまりはこうなる訳だ。

 カツーン、カツーン……一歩一歩確実に前に進んでいる筈なのに一向に戦闘現場には辿り着かない。

 あれぇ、可怪しいな。現場はまだかなぁ?

 アナザーディメンションかなぁ?

 

 みたいな、ね。

 

 まぁ、アナザーディメンションは正解なんだけどさ。

 

 とは言え冗談はさておき、目的地に辿り着く方法が無い訳でもない。要は慣れだ。

 

 黄泉平坂に何度も落ちれば、感覚として正しいルートが分かるように成る。

 要は五感に頼るなってことだ。

 まぁ、俺達聖闘士は小宇宙を感じ取れなければどうしても五感に頼らざるをえない者達が多いので難しいかも知れないがな。

 

 多分、今現在の聖域で双子座の迷宮に掛からないのは、俺とシャカの二人ぐらいじゃなかろうか?

 

 もっとも目指すのは双児宮の出口ではなく、戦闘現場なの―――

 

「―――だぁッ!?」

 

 嫌な気配を感じ、俺はその場で伏せをする。

 すると目の前にあった石柱が綺麗に切断されて、ズズズっと倒れてくる。

 流石にただ倒れてくるだけの石柱に潰されるほどグズではないので、其処はサッサと移動して難を逃れるが……。

 

「おいおい、もう戦闘中かよ……っ!」

 

 斬撃? の飛んできた方向へと視線を向ければ、思いの外に近い場所に件の相手は居たようである。

 

 視線を向けた先には黄金の聖衣を身に纏った双子座の聖闘士、そして対峙するように構えを取っているのは見知らぬ人物。

 赤く染まった鎧を身に付け、尋常ではないレベルの小宇宙を身に纏った相手だ。

 手甲に当たる部分に何やら刃物の様に飛び出している部分がある。

 先程の斬撃は其処から放たれた物だろう。

 

 ってか、いきなり何をしてくれてんだッ!!!

 

「―――チッ、なんなんだこの野郎は」

 

 と、突然のとばっちりにイラッとした頃に、侵入者である赤い闘衣の男が声を漏らした。

 思いの外にハスキーな声である。

 

「やっと出てきた敵かと思いきや、何しても反応しねぇ。だってのに、とんでもねぇ小宇宙が此処に在りやがる」

「………」

 

 向かい合う形になっている双子座の黄金聖闘士と侵入者。

 だが、苛立ちを言葉に乗せている侵入者とは違って、双子座の聖闘士はたったまま微動だにせず何の反応も示さない。

 

「聖域の黄金聖闘士……噂通りの奴等ってことかよ」

 

 歯噛みするように視線を向けながら双子座の聖闘士を睨んでいる侵入者だが、その視線の対象になっている双子座の聖闘士は暖簾に腕押しとでも言うように何の反応も示さない。

 

 ………いや。

 より正確に言うと、物陰に隠れている『()』に向かって威圧感を飛ばしてきている。

 バレてるんだろうな。

 と言うよりも、俺が双児宮に入った瞬間から解っているんだろう。

 なにせ此処は双子座の聖闘士が作り出している迷宮で、そして現在の彼は『神の化身』とまで言われるような人物なのだから。

 

「―――小宇宙は確かにデカイが、立ってるだけの木偶の坊が何だってんだっ!!」

 

 侵入者は小宇宙を高め自身の身体に漲らせる。

 ソレは、今現在双児宮に存在している双子座の聖闘士に匹敵するほどだ。

 

「斬り刻まれろ! クレッセントブレイクッ!」

 

 高まった小宇宙によって奴の手甲から伸びた剣が輝き、腕の振りに合わせて斬撃が飛ぶ。

 成る程。

 此方に向かって飛んできたのはアレだったらしい。

 

 其の威力は中々なもので、周囲の柱を容易く両断して切り裂いていく。

 斬れ味は大した物のようで、直接断面に触れてみたいと思わせる程だ。

 

 だが―――

 

『…………』

 

 当然のように、双子座の聖闘士には効いていなかった。

 必中で放たれた筈の侵入者の攻撃は、双子座の聖闘士をすり抜けるように通過していってしまう。

 

 それはそう。

 当然だ。

 侵入者の奴はどうやら気が付かず、攻撃が効いていないことに憤慨しているが。

 しかしそうなるのは当たり前のことなのだ。

 

 なにせ元々、其処には双子座の聖闘士は居ないのだから。

 此処は双子座の迷宮。

 目に見えるものだけが真実じゃない。

 流石は、黄金聖闘士の中でも最強と名高い一人だ。

 

 となると、まぁ、アレだな。

 このまま隠れてやり過ごすことは出来ないだろうか?

 

 此処まで侵入を許したのは完璧に俺の失態だが、この段階になてしまったら俺が戦うよりも双子座の聖闘士に敵の処理を任せてしまったほうが確実な気がするんだが。

 

『…………(はぁ)』

 

 出方を伺っていると、不意に双子座の聖闘士が溜め息を吐いたような気がした。

 

 だが、それは勘違いでも何でも無く。

 本当に溜め息を吐いたようである。

 

「やる気に成ったか!?」

 

 今まで立ち尽くすのみだった双子座の聖闘士は徐に腕を持ち上げた。 

 この動きは、俺は良くしていいる。

 なにせ、見るの初めてではないからだ。

 

 空間が歪むほどの小宇宙。

 否。

 事実として歪んで捻れるのだ。

 何故なら、ソレは

 

『アナザーディメンション』

 

 双子座の聖闘士が放つ、必殺の一撃なのだから。

 

「なん! だ、コレは!!」

 

 不意に浮遊感を感じ、平衡感覚位が狂わされることで自身の立ち居位置さえも把握できなくなる。

 侵入者もこんな状況に放り込まれることは初めてなのだろう。

 外から見て解るほどに狼狽えている。

 

 あぁ、そうそう。そうなんだよ。

 初めての時は前後不覚に成って手足をバタつかせちゃうんだよな。

 いやぁ、懐かしい。

 

 逆に俺くらいのベテランになると、同じ様な状況になっても焦ったりはしない。

 誰だって、行きつけの喫茶店でいつものコーヒーを出されて慌てたりしないだろ?

 だから、さ。

 

「本当に懐かしいよ。このフワフワした感覚」

 

 こうして巻き込まれて一緒に異次元に放り込まれようとしてても、良く有る出来事の一つでしか無いんだよ。

 俺にとっては、さ。

 

「―――お、おのれぇ! 下賤な聖闘士ごときがぁ!!」

 

 あ、馬鹿!

 と思ったのも束の間。

 侵入者はアナザーディメンションに逆らおうと小宇宙を燃焼させてしまう。

 流されるままに成っていれば、適当な場所に出られるのにッ!?

 

 実際、今回の技はそういう意味で放った物の筈なのに!

 そういう余計なことをすると、行き先が不安定になるじゃないか!!!

 

「なに考えてるんだ、この馬鹿がっ!」

「な!? 貴様、いつの間に!!」

 

 いつの間に―――じゃない!

 余計なことをされたせいで、空間が更に歪になる!

 

 下手をしたらこのまま異次元を彷徨うなんてことになって―――

 

「冗談じゃないっよ!」

 

 まったく、こういうのは、俺の、専門外なのに!

 即興で小宇宙を高め、双子座の聖闘士が行った力の運用を真似る。

 

 空間の歪みと、入り口と出口を、まだ此方側の空間に繋がってる内に行う。

 と言うよりも、一度異次元に飛ばされてしまうと出口を作るというのは簡単な話ではないのだ。

 

 だから出口の先が何処かなんて事は無視をして、とにかく孔を開けることが先決だった。

 コレが海底やらマグマの底やらでないのなら何処だって構わない。

 

 一番繋げやすい場所に―――って!?

 此処? 此処なのか!?

 

 だってソレは―――

 

「あぁーーーーもう! わかりましたよぉ!! 行きゃあ良いんでしょ、そっちに!!」

 

 

 

 ※

 

 

「……レーフィンの小宇宙が消えた?」

 

 太陽の光が陰る、薄暗い神殿の奥。

 其処には三人の異様な出で立ちをした者達が居た。

 

 其々が色違い、細部の意匠は異なるが、それでも共通して『馬』を模した鎧に身を包んでいる。

 其々が大柄な男、小柄な男、そして特に大柄な男である。

 

「ねぇ、それって、死んだってこと?」

「……いや、流石にこんな急な死に方はしないだろう。もう少し、死ぬ瞬間の特有な小宇宙の高まりが有るはずだ」

「おいアヴァドル! だから言ったではないか、こんな面倒なことをせずに一気に攻め落としてしまえば良いのだと!」

 

 翠の闘衣を身に着けた小柄の男がニヤニヤと笑みを浮かべている。

 青い闘衣を身に着けた大柄な男が苛立ちを滲ませた表情をしている。

 

 そういった感情をぶつけられている黒い闘衣を身に着けた男は、半ば呆れたように溜め息を吐いていた。

 

「ソレについては説明をしたはずだぞ、ドムシル。我々の王が未だに目覚めない状況では、聖域と本格的に事を構えるべきではないと」

 

 ドムシル―――と呼ばれた大柄な男は、其の言葉に苦みばしったように口元を歪める。

 

「やーい、単細胞♪」

「黙れッ!」

「―――そもそも、今回は聖域の偵察任務のようなものだ。最強の戦力である黄金聖闘士の力の品定めも兼ねている。

 まぁ、レーフィン一人でアテナの首級を取れるなら、ソレに越したことはないのだがな」

 

 聖域と事を構えようなんて奴は、この世界じゃ馬鹿だ。

 なにせ聖闘士なんて言う訳のわからない連中が力を奮っている組織なのだから。

 仮に近代兵器でどうにかしようとしても、ソレこそ『核』でも使わない限り近代兵器で彼等を倒すことなど不可能だろう。

 いや、一部の聖闘士には『核』すら無意味かも知れない。

 

 そんな化物が居るのが聖域なのである。

 とは言え、そんな連中に『負けない力を持っている』と自負する者達からすれば、慎重過ぎる作というのはストレスに感じるのだろう。

 

「けどさぁ、居なく成っちゃったじゃん。あのバカ」

「………そうなんだが―――? これは、レーフィンの小宇宙が」

「むぅ?」

「あれ? あのバカの小宇宙が、また出てきた。しかも、殆ど場所変わってないじゃん」

 

 三人は消えた仲間の小宇宙が急に表れたことに首を傾げる。

 しかも、消えた場所からたいしてズレては居ないようにも感じるのだ。

 

「何が起きている。聖域で」

 

 黒い闘衣を見に纏った男は呟き、眉間に皺を寄せて居るのだった。

 

 

 


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