聖闘士星矢 9年前から頑張って   作:ニラ

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地味に、ジワジワ執筆中


29話

 

 

 

「成る程。ワルハラ宮の外に通じているのか」

 

 薄暗い場所から出てきたためか、直接の日差しが眩しく目に痛い。地下牢に迎えに来てくれたフレアやハーゲンに促され、地下牢の抜け穴から狭苦しい洞穴を突き進んでいくと、到着した先はワルハラ宮殿の外壁部分であった。

 

「丁度、ワルハラ宮の建っている外周部分に辿り着くようになっている」

「へぇ……。本当に、落ち延びるための隠し通路みたいだな」

「なにぃ?」

「なんでもない」

 

 耳ざとく睨みつけるようにしてくるハーゲンに、俺は手をパタパタと振って気にしないようにと言う。軽く流してくれれば良いのだが、未だソレが出来るほどに、俺という人間に心を許しては居ないと言うことなのだろう。

 まぁ、聖域は元々が潜在的な敵なのだ。

 ソレも仕方が無いのだろう。

 

 そう思った瞬間、ふと、俺は奇妙な気配を感じた。

 視線の先に広がっている森、木の奥に誰かの気配を感じるのだ。

 この感覚は……あぁ、ジークフリードか。

 

「出てこい、ジークフリード。追手は居ない」

「……思っていたよりも遅かったからな。用心に越したことはない」

 

 隠れていたジークフリードに声を掛けると、少しばかりの間を置いて木陰から姿を現してくる。流石に神闘士(ゴッドウォーリアー)ではないため、ハーゲンと同様に私服姿であるが、恐らく戦力にはなるのだろう。

 小宇宙が使えないとしたら、今のジークフリードやハーゲンの服装は自殺行為に等しいくらいに薄着だからな。

 

 俺は柔らかく見えるような笑みを浮かべると、ジークフリードに声を掛けた。

 

「昨日ぶりだな、ジークフリード。一晩の間、確りと考えたか?」

「あぁ」

「答えは出たんだな?」

「……あぁ」

「そうか」

 

 表情は優れないままであったが、ジークは此方からの問に頷いて返す。しかし、俺はその答えに取り敢えずは満足であった。先ず間違いなく、ジークフリードはヒルダのために動くと解ったからだ。

 ……もっとも、ソレが必ずしも『俺』の考え通りかどうかは解らないのだが。

 

「クライオス、ともかく移動をしよう。此処にいては、巡回の衛兵に発見される可能性もある」

「ん? ……それもそうか。俺は余所者だからな、其の辺の事情とか地理には疎い。任せるよ」

「その、フレア様も宜しいですか?」

「えぇ。ですが、余り時間は掛けられませんよ、ジーク」

「心得ております」

 

 フレアの言葉に会釈をしながら恭しく答えると、ジークフリートは先導するように歩き出した。俺達は其の後ろから、後を追うように付いて行く。

 歩く道の雪は深く、俺やハーゲンには問題ないが、フレアには少しキツイのではないだろうか?

 

「フレア様、足場が不安定ですので、どうか御気を付け下さい。なんでしたら、オレが御運びします」

「ハーゲン……。今はそんな事は、どうでも良いですから」

「……畏まりました」

 

 フレアとハーゲンの判りやすい遣り取りが無事に終わり、俺達は森の中へと歩き続ける。とは言え、目的地は俺には解らない。完全に先導するジーフリードに丸投げ、任せた状態である。

 

「歩きながらでも、少し話を詰めておこう。途中過程は兎も角としてだ、最終的な目標としてはヒルダを救い出す――ってことで問題はないよな?」

 

 ジークフリードが何処に向かって進んでいるのかは解らないが、持てる時間を無駄にする必要はないだろう?

 俺は黙々と歩いている面々に、確認をするように尋ねてみる。

 

「当然だ。ヒルダ様はアスガルドに於ける神、オーディン様の地上代行者であられる。このままで良い訳がない」

「ハーゲンも同じ考えか?」

「あぁ。ヒルダ様をお救いするということに、異論はない」

「……そうか」

 

 俺は頷いて返すが、正直不安で仕方がない。

 ジークフリードはヒルダの事を考えるに、相手側に裏切る可能性は低いだろうが。しかし、ハーゲンはフレアという抑え役が居なくなった場合、相手側に廻る可能性も否定出来ないのだ。

 とは言え今の俺には、この二人以外に味方が居ないことも事実である。

 

(難しいな。こういうのは)

 

 ヒルダは救う、俺の生命も救う、……ついでにコイツラのことも活かす。

 ……何というか、相手のことが信用出来ていないのに、信頼を求めるとか……。俺はつくづくダメな奴だな。

 

 とは言え、そんな事を此処で吐露しても仕方がないか。

 

「フレアとハーゲンは、ジークフリードからどの程度のことを聞いているんだ?」

「どの程度のこと?」

「敵についてのことだよ」

「それでしたら――」

 

 最初は首を傾げたフレアとハーゲンだたが、言い直した後で其の説明をしてくる。しかし、其の内容は

 

「――おそらく、ワルハラ宮の内部に敵が居る……と」

「それだけか?」

「え? あ、はい。そうですけど?」

 

 内容的には期待通りとは行かないものだった。

 聞き返した俺の言葉に、フレアは逆に困惑するかのような聞き返しをしてくる。

 

「……おい、ジークフリード?」

「仕方がないだろう」

 

 恨みがましい表情を浮かべながら俺はジークフリードを睨みつけるが、しかし当のジークフリードは、ただ困ったような表情を浮かべるだけである。

 

 どうやら思っていたよりも、ジークフリードの奴は踏ん切りが付いていないのかもしれない。

 

「しょうがないな、ジークフリートの説明では誰が敵なのか解らなかったようだから、俺が代わりに説明をしよう。……敵はドルバル教主と、3人の神闘士(ゴッドウォーリアー)だ」

「なっ!?」

 

 ハッキリと告げた言葉に驚いた声をあげたのはフレアではなく、隣で聞いていたハーゲンであった。フレアの方はと言うと、特に表情にも変化は見られない。どうやら、ある程度の予想は付いていたようである。

 

「細かい部分は一度ジークフリートにも説明をしたから省くが、少なくともドルバルや神闘士の手引きがなければ、最初の行方不明騒ぎは状況的に在り得ないからな」

「……」

「ついでに言うと、仮に俺が犯人だとしたら――だが。流石に、こんなズサンな計画は立てないな。其の場合はもっと慎重に、自分の容疑が掛からないようにしてから事を起こすね♪」

 

 ちょっとだけオチャラケて言葉を付け加えてみるが、どうやらそれは失敗だったようだ。3人の視線が痛く、俺は態とらしく咳き込んでみせる。

 

「あ――さて。それで、フレア? 君は、これからどうするつもりなのさ?」

「どう、とは?」

「何かしらの目的があって、俺のことを助けに来たんでしょ?」

「お姉さまを、お救いします。其のためにも、クライオスさんの御力を貸して頂きたいのです」

 

 ペコリ――と頭を下げてくるフレア。

 小さな子供が、真摯に御願いをしてくるのを見ると、まるで自分が悪いコトをしたのではないか? と、変に勘ぐってしまう。

 フレアは下げた頭を正面に戻すと、ジッと視線を投げかけながら思いをぶつけてきた。

 

「ジークもハーゲンも、修行を重ねているとは言っても未だ見習い。神闘士に正面から立ち向かって太刀打ちが出来るかどうかは判りません。ですがクライオスさんは、聖域(サンクチュアリ)に認められた聖闘士です。どうか、御力を」

「フレア様!? そんな! こんな奴の力をなど借りずとも、我等だけでも!」

「ハーゲン。今の貴方とジークだけで、本当にロキ達と戦えるの? 本当にお姉さまを救うことが出来るというの?」

「っ!? ……そ、それは」

 

 1~2歳程度であろうが、自身よりも若輩であるフレアの的確な言葉に、ハーゲンは言葉を続けることが出来なくなってしまう。将来的には問題ないのだろうが、しかし今現在に置いては神闘士と戦えるレベルではない様だ。

 

 ……だからと言っても、俺が神闘士と戦えるレベルに有るのかどうかも判らないがね。

 

「まぁ、フレア。その辺にしておきなよ。俺は手伝わない――なんて言ってない。ヒルダのことは護るって誓ったし、それに……」

「それに?」

「いや、兎も角ヒルダを救うことに、皆で全力を尽くそう」

 

 思わず、『此の侭だと、聖域から逆賊呼ばわりされかねない』と、言ってしまうところであった。弱音を吐くのは嫌いじゃないが、吐いて良い場面と悪い場面が有る。今は悪い時だ。

 

「この辺りまで来れば良いだろう」

 

 ふと、ジークフリードは足を止める。

 着いてみると其処は、森の中で上手い具合に開けている場所であった。誰かが切り倒したのか、中央には大きな切り株が一つだけある。

 俺は周囲に軽く視線を向けると、「あぁ」と頷いてジークフリードへと返した。

 

 そして全員を見据えるように向き直ると、再び口を開く。

 

「一番良い解決パターンは何か? だけど、それはドルバル達が改心して良い奴になることだな」

「良い奴って……」

「お前、それは」

「解ってるよ。まぁ、それは多分無理だろう。一般人が相手なら、俺でも無理矢理に改心させられるだろうけど……相手は一般人とはいえない奴らだからな。なので改心案はボツ。第2案として、ヒルダを救うことを第一に考えた行動をとる――ってことだけど」

「お姉さまの救出を、ですか?」

「あぁ」

 

 コクリと頷き、俺はフレアの問に答えていく。

 

「衛兵達はワルハラ宮の中を隈無く調べたんだろ? それでも、ヒルダは見つからなかった」

「そうだな。俺が聞いた話では、侍女がヒルダ様の不在を知ってから、10分もしない内に宮内の捜索がされている」

「その後で、捜索範囲を変えてワルハラ宮の外周部を探している」

 

 ハーゲンの言葉を繋ぎ、ジークフリードは衛兵の動きを説明してくる。俺は満足気に頷き、口元を緩めていった。

 

「そうだ。中に居ないのなら、普通は外部へ連れ去ったと考えるべきだからな。……もっとも、ソレは有り得ないことなんだ」

「有り得ない?」

「だって昨日の晩、この辺りでは雪が降っていなかったんだからな」

「あっ!?」

「……」

「……?」

 

 俺の言いたいことに気が付いたのか、フレアはハッとしたように声を上げた。しかし、ハーゲンとジークフリードはソレがどうしたと言わんばかりに首を傾げている。

 

「……普通に考えれば、外に出るには雪を踏む。雪を踏めば、足音が残るだろ? 何せ昨夜は雪は降っていなかったんだ、仮に昨晩から朝の間に外部へと連れ去られたとしたら、其の痕跡が必ず残る」

「しかし、衛兵達からはそんな報告は――あっ!?」

「普通は、そんな足跡があれば直ぐに解るはず。だが、そんな足跡の存在をだれも報告してなど居ない。……となれば」

「ヒルダお姉様は、まだワルハラ宮内に居る?」

「先ず間違いなく、な」

 

 答えに辿り着いたフレアに満足をし、俺はコクリと頷いた。

 ……元から答えを知っているような俺とは違い、第三者的な立場であるフレア達を上手く誘導する方法――なんて言うと、俺が悪人みたいだが。しかし、上手く言葉巧みに納得させることが出来て良かったと思う。

 

 今の説明には、基本的に穴はないだろう。

 容疑者が普通の人間であれば――だが。

 

「ちょっと待て、クライオス。流石にヒルダ様がワルハラ宮内に居るというのは、些か無理があるんじゃないのか? 衛兵達はそれこそ、各部屋は勿論のこと、家具の中に至るまで捜索していたのだぞ? ……幾らなんでも、見落としが有るとは思えん」

 

 腕を組み、首を傾げているハーゲン。

 しかし、その疑問も尤もだろう。自分達の身内から報告ではあるが、隈無く探して何処にも居ない。だからこそ、外部を疑ったのだ。

 コレでは互いの主張が、夫々を食いつぶし合ってしまうだろう。

 だが

 

「だけど逆に、探せていない場所も在るだろ?」

「探せていない場所?」

「もっと頭を使えよ、ハーゲン」

 

 俺はそう言いながら、外からワルハラ宮を見て憶えた地形と、内部を歩いて身に付けた構造とを組み合わせて簡単な見取り図を雪の上に描いていく。

 

 まぁ、図面が雪、筆が俺の指では、精巧な物には成らないが。

 

「まぁ、こんな所だろう。この図面の中でも、一般人が入ることが許されない場所があるだろ? ……少なくとも聖域じゃ、似たような場所には教皇以外は入ることも許されない」

「……まさか、それって」

「そう、此処だ。ワルハラ宮の奥。オーディン神像の立っている、祭壇のある場所だ!」

 

 強い口調で言い放った俺は、図面の中でも最奥に位置する場所。オーディンの巨大神像が置かれている場所を指さした。

 

「確かに、其の場所はワルハラ宮を抜けた先。切り立った崖の行き止まりになっている場所だ」

「衛兵たちも、『逃げた』犯人を捜索していたからこそ、探していない。そして此処に向かうには」

「ワルハラ宮の、謁見の間を抜ける必要があるんだろ?」

「……そうだ。そして其処を抜けるには、ドルバル様の許可が居る」

 

 一連の説明に対し、次第に表情を崩していくハーゲンとジークフリード。やはり、心の何処かでは身内を疑いたくはなかったのかもしれない。

 しかし俺にしてみれば、二人のこの反応は『上手く仲間に引き込めた』とも言える状況である。

 

 今後のことを考えるのであれば、ドルバル一派は壊滅させる必要もあるのだが、現実的には戦力不足だ。

 何とかジークフリードやハーゲンと陽動作戦を行い、その隙にヒルダを救出。その後に聖域に救援を要請――といった流れになるだろうか?

 

 ……救援、来るかな?

 

「ヒルダを救うために俺達が取る行動は、先ずは陽動をかけ――危ないッ!? フレア!!」

「え? きゃあ!?」

 

 一瞬にして高まった攻撃的な小宇宙に、俺は咄嗟に駆け出していた。

 走りだした先にいるのは、この中で最も戦闘力のないフレアである。突き飛ばすような形になってしまったが、俺はフレアを目指して飛来してきたソレを、間一髪で身代りになることに成功する。

 

「ぐぁあああああああああ!!!」

 

 真っ直ぐに伸びてきた一筋の煌き。

 それは斬撃と成って俺の身体を、そして周囲の木々を容赦なく蹂躙していった。

 

「クライオスッ!?」

「クライオスさんっ!?」

 

 周囲の木々が両断され、音を立てて倒れていく最中、俺の身体は炎に包まれていくのであった。

 

 ※

 

「――フレア様。よもや聖域のドブネズミの言葉を、信じる訳ではないでしょうな?」

 

 ザクザクと雪を踏みしめる音を鳴らし、その男は現れた。

 神闘士(ゴッドウォーリアー)の証である、神闘衣を身に纏い、手には炎を纏った無骨な剣を握りしめている。

 

「ウルッ!?」

 

 相手の名前を、神闘士(ゴッドウォーリアー)ウルの名前を私は呼んだ。

 それは、もしかしたら……信じたくはない最後の部分が、アッサリと覆されてしまったからなのかもしれない。

 

「フレア様。此度の1件は、そこのドブネズミが企てたこと。既に其のように、御達しも出ているはず……。如何にヒルダ様の妹君といえど、余りに勝手な振る舞いをされては身を滅ぼすことになりますぞ?」

「あなた、何故この場所が……!?」

 

 ニヤリと笑うウルの言葉と態度に、私はクライオスさんの言葉の正当性を認識してしまった。反逆――反乱だ。

 これはヒルダお姉様を亡き者にして、アスガルドを手に入れようとするドルバル叔父様――違う、ドルバルの企てだ。

 

 私は沸々と湧いてくる怒りに、下唇を噛み締めていた。

 でも、ウルはそんな私にはお構い無しに視線を横へと反らし

 

「フン。御苦労だったな、ジークフリード」

「……」

 

 あろうことか、ジークに声を掛けていた。

 でも、なんて? 御苦労だった?

 

「ジーク、貴方!?」

「どういうことだ! ジークフリード!!」

「……」

 

 ハーゲンも私と同様に、その言葉の意味に気が付いて声を荒げる。けれど、ジークは申し訳無さそうに表情を顰めるだけで、何も返事をしてこない。

 

「ジークフリードは、我等と取引をしたのですよ。聖域の人間が逃げるようなことが有れば、私達に伝えるようにとね」

「そんな……ジーク、貴方と言う人は!」

 

 声を荒らげてジークを非難するけれど、ウルはそんな私達の様子を楽しそうに眺めている。

 

「フレア様、もう諦めなさい。元々アスガルドは、既にドルバル様が支配していたようなものだったのですから。それが正しく、ただ形となっただけに過ぎませんよ。……それとも此処で私と敵対して、聖域のネズミと同じく無様な死に様を晒しますか?」

 

 クイッとウルは指をさして、倒れ伏して炎が燻る、クライオスさんを蔑むように言う。私は其処に視線を向け

 

「え!?」

 

 驚きの声を上げた。

 居ない、居ないのだ。炎に包まれ、倒れていた筈のクライオスさんが。

 

 私の声で、ウルもそのことに気がついらしく、目を見開いて周囲に視線を向けていた。

 

「――誰が、死んだって?」

 

 そう、声が聞こえてくる。

 私はその声に従って目を向けると、視線の先――樹の枝に座るようにして、クライオスさんが居た。

 多少は煤コケているようだが、怪我らしい怪我はないように見える。

 

「貴様……あの攻撃を受けて、いったいどうやって!?」

「あの攻撃でって、あの程度でどうにか成るほど、聖域の修行は軽くはないんでね」

 

 クライオスさんは言うと、口元にニヤリと笑みを浮かべている。

 

「フレア、安心しろ。ジークフリードは、裏切ったりはしちゃいないよ」

「え?」

 

 クライオスさんの無事に喜んでいた私に、本人からジークフリードを擁護する言葉がでてきた。

 

「コイツが出てきたのは、もっと単純な理由だ。単に足跡を追ってきただけさ」

「足跡を!?」

「あの手の抜け道を、ドルバルが知らないわけがないだろ。だったら、出口周辺を見張らせておくさ。俺が行動を起こした時のためにな」

 

 ウルを睨みつけながら、クライオスさんは説明をしていく。

 私はその内容に、小さく「あっ!」と声を出していた。

 更にクライオスさんは、ウルに向かって指を突きつけると強い口調でウルのことを糾弾していく。

 

「そして! そいつは、フレアやジークフリードの間に仲違いを起こさせて、自分達に対して手を組まないように不和を埋め込もうとしただけなんだよ!」

 

 私がジークを観ると、ジークは居た堪れないような表情を浮かべていた。

 

「――余計なことを言ってくれるな、このネズミが!」

「ネズミ、ネズミって五月蝿い奴だな? そういうお前は、いったい何様のつもりなんだよ」

「黙れ!」

 

 ウルは激号すると、手にしていた剣を横薙ぎに一振り。

 剣から発せられたモノなのか、クライオスさんの居た枝が綺麗に斬り落とされる。けれども、その場所には既にクライオスさんは居なくなっていて、

 

「さっきのが全力じゃなかったとしても、俺は負ける訳にはいかないんでな!!」

 

 空高く舞い上がったクライオスさんは、フワリっと雪の上に舞い降りると、睨むような視線でウルを威圧する。

 

「来い! 風鳥座(エイパス)の聖衣!」

 

 そう声を発したクライオスさんの元に一条の光が降り注ぐのは、その直ぐ後の事だった。

 

 

 


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