艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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今回 残酷な描写や非人道的描写が山積しています。相当の警戒をよろしくお願いいたします。

それでは、抜錨!



00010001 Si Vis Pacem, Para Bellum PHASE2

 

 

 

「……本気か?」

「なのです。司令官さんを止めるにはこれが一番だと思います」

「た、確かにそうかもしれんが……」

 

 高峰は電の笑みを見てわずかに頬をひきつらせた。ティルトローターの端から漏れこむストロボのような日差しに彼女の笑みが映える。

 

「大丈夫なのです。私は艦娘ですから、それに……」

 

 司令官さんを信じているのです、と儚げに笑う。

 

「……電のプランで行くのが一番いいと思うぜ」

 

 天龍が電の肩を叩く。

 

「司令官がどういう状況であれ、止めなきゃいけないのは変わりねぇ。なら一番止められる可能性があるのは電と雷だろう。なら電たちが思うようにやらせるのが一番じゃねぇか?」

「……杉田、今回のリーダーはお前だ。どうする?」

「……電嬢、雷嬢。お膳立てはしてやるが、うまくはいかないはずだ。月刀航暉は特殊部隊出身、戦闘になったら俺たちじゃおそらくまともに勝てない。月刀に聞かせる体制に持っていかせることすらできない可能性がある。それでも、できるか?」

「きっと大丈夫です。司令官さんなら、きっと」

「……だそうだ。行動は俺と雷嬢、高峰と電嬢がバディ、天龍は切り込みで動いてもらえるか?」

「おうよ」

「野郎二人と天龍の仕事は雷電姉妹を月刀航暉の元に送り込むことだ。無駄に相手を殺す必要も戦う必要もねえ。いいな?」

 

 杉田がそう言って後部ハッチに近づいていく。

 

「さて、降下用意といこう」

 

 戦場の黒い煙が近づいてくる。一列に上がる煙の終点には大きな工場があった。周囲の金属には錆が生じているが、機能としては問題ないのだろう。

 

「嬢ちゃんたち、見えるか」

 

 杉田がハッチから視線を外に向けつつそう言った。

 

「あれが、あそこが月刀航暉の、お前たちの司令官の戦場だ。この煙と石油と鉄の匂いが混じったこの空気だ。これがアイツの風景だ。これがアイツの戦場だ。……ここはな、まともであろうとすればするほど気が狂う、文字通りクレイジーな場所だ」

 

 熱帯雨林を見下ろして杉田が辛そうな顔をした。

 

「この惨状を見るに、自走爆弾をもう50体は撃破して進んでいるはずだ。お前らと同じように子どもの個の情報(アイデンティティ・インフォメーション)を元にした魂を積んだそれを50も壊して進んでる。……もう、お前らのこともこうとしか見えない可能性もある。それくらい狂っている可能性があるんだ」

 

 横に立つ二人の少女を見て、至極真面目な表情で二人の頭を撫でた。

 

「もしそこまでアイツが狂っていて、お前達の声すら届かないようなら……お前らは下がれ」

「杉田さん……」

「その時は俺がアイツを撃つ。いいな?」

 

 杉田はポンプアクションのショットガンの薬室を解放し、スラッグ弾のシェルを叩き込んだ。室内での取回しを意識して銃身切詰処理(ソウドオフ)したそれの薬室が改めて閉鎖され、鋭い金属音が響く。セーフティをオン。

 

「わかりました。でも、そんなことにはさせないのです。……そうですよね、お姉ちゃん?」

「当然よ。しれーかんは私達で止める」

 

 それを聞いた杉田が笑う。高度が下がりヘリパッドが目の前にスライドしてくる。

 

「降下!」

 

 2メートルほど下のヘリパッドに飛び降りる。艤装の分重い天龍の膝が深く沈み込み、全員が飛び降りるとティルトローターが一気に高度を上げて去っていく。

 

『無事着いたようで何よりね、高峰君、杉田君』

「スキュラ―――――じゃないな、誰だお前」

 

 飛び込んできた合成音声の通信に高峰は眉を顰めた。

 

『スクラサスって呼んでよ。スキュラからあなたたちのサポートを頼まれててね。パッケージ・タンゴは西階段の地下2階と3階の間の踊り場でショットガン片手に乱闘中』

 

 目標T(パッケージ・タンゴ)……月刀航暉の位置までご丁寧に教えてくれるスクラサスと名乗った合成音声に高峰は歯噛みする。

 

「気に入らねえが信じていいのかそれ」

『信じるも信じないもあなたたち次第だけど、ここで嘘をついてもどうしようもないでしょ?』

 

 高峰が歯噛みする横でヘリパッドの端にある階段室のドアを蹴破る杉田。

 

「今のところは情報提供感謝しとくぜ、スクラサスさんよ。急ぐぞ」

『杉田君。悪いけどもう一つ情報』

「あん?」

『パッケージ・タンゴに一緒に工場に侵入した人物は把握してる?』

「当然、浜地中佐だろう?」

『それを追って駆逐艦娘DD-MT05皐月が後を追って工場に侵入した。くれぐれも撃ち殺さない様に。ちなみに浜地中佐は地下二階でうろうろしてるわ』

「……厄介ごと増やしてくれてどうも。行くぞ」

 

 杉田は苦い顔をしながらも階段室に入る。高峰は階段室の外側に小さな機械を取り付ける。

 

「青葉、聞こえてるか?」

《はいはい、こちら青葉、クリアアンドラウド》

「さすが技術班、しっかり繋がるな。しっかり俺の眼に乗ってるか?」

《当然です。司令官の突入ですから》

 

 巨大な電波暗室となっている工場内部へ戦術リンクを持ち込むための中継器が無事作動していることを確認して高峰は僅かに頬を持ち上げた。

 

《工場内部のデータ、ロード完了です。今からサポートに入ります》

「頼むぜ」

 

 リンク中継器を残して高峰が最後尾で階段室に入る。

 

「西階段への最短ルートは?」

《今いるのは東階段なので、その階段を3階から出て右へ30メートル先のキャットウォークを左へ、その先が西階段です》

「ならもう一つ、図面の最下層、地下三階への最短ルートは?」

 

 高峰の言葉に一瞬青葉は沈黙。

 

《西階段は1階までしか通じていません。管理用の北階段か、もしくは、今いる階段室の隣のエレベーターシャフトです》

「高峰! お前ファストロープのスキル持ってたな?」

 

 その通信を聞いていた杉田が声を飛ばす。

 

「電嬢連れてエレベーターシャフトからアプローチできるか?」

「いける。そっちは西階段から?」

「あぁ、頼んだ」

 

 4階の踊り場の表示を確認して高峰は電に合図をだした。高峰もショットガンを構えゆっくりと廊下に顔を出す。廊下は非常電源に切り替えられたのか薄暗い赤い常夜灯だけが灯っていた。

 

「やな感じだ。急ぐぞ」

「なのです」

 

 リノリウムの床をわずかに鳴らし、急ぐ。その先には荷物用の大型エレベーターのドアが鎮座していた。

 

「青葉、タイプわかるか?」

《平菱重工の貨物輸送用バーチカルリフト、今外部操作で屋上にリフトを動かします!》

「頼む。上まで移動したらエレベーターをテストモードへ」

 

 エレベーターの表示の数字が上がっていく、それを見ながら高峰は首の後ろからQRSプラグを引き出すとエレベーターの呼び出しボタンが納まる操作盤の前に膝をついた。表示板の下にあるジャックにプラグを差す。Rの表示を確認してドアを見る。

 

《テストモード切り替え完了、エレベーター動作停止します》

「上出来だ、青葉」

 

 高峰はエレベーターの管理プログラムに潜りこむと4階のドアを開けるよう操作する。わずかな機械音と共にドアが開けば、真っ暗な空間が口を開けた。そのままドアを開けっ放しにするように指示を出してからジャックからQRSプラグを引き抜く。

 

「電、エレベーターケーブルを伝って7階分滑り降りるぞ。しっかりつかまってろよ」

 

 高峰はショットガンを釣り紐(スリング)で胴に吊るすと電をおんぶするように背負った。一応スリングでも電を確保する形だが気休めにしかならないだろう。

 

「しっかり足回しておけ。衝撃で落ちると艦娘とはいえ目が当てられないことになるぞ?」

 

「は、はいっ!」

 

 電はどうなるか想像してしまったのか慌てて両足をしっかり前に回してくる。それに苦笑いしながらも高峰は両手の対刃グローブを確認してエレベーターシャフトの壁面を這うケーブルの一本を掴む。

 

「“彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたけり”、か」

 

 わずかにつぶやいて、奈落へと身を躍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ショットガンシェルが宙を舞う。視界の先で藍のような髪をした少女が弾け飛ぶ。それを確認する間もなく航暉はその後ろから現れた真っ青な髪の少女を同じように破壊する。

 

「……浜地と別行動にしたのは間違いだったか」

 

 まだ使ってないスラッグ弾が詰まったチューブをUTS25ショットガンにはめ込みながらぼやいた。素人とはいえ周囲を確認する眼が減ったのは痛かったかもしれない。

 

 見たことのある顔を見つけてわずかに目を細めたがそれをどかして地下3階のドアを開けた。

 

「……さすがに、ここで自走爆弾がネタ切れってこともあるまい」

 

 ショットガンは装填されているスラッグ弾14発で打ち止めだ。後は9mm径のサブマシンガンで何とかするしかない。サブマシンガンではストッピングパワーに欠けるためできればショットガンを温存したいところではある。

 

「……そこか」

 

 電脳に収められたマップを確認しさらに下へ続く通路がどこにあるかあたりを付ける。そこに向けてショットガンをすぐ撃てるように用意しながら走る。向こうから走ってくる影が見える。その面影は彼が551水雷戦隊の指揮官だった(、、、、、、、、、、、、、、、、)ころの部下に似ていて一瞬下唇を噛んだ。

 

 発砲、直後にその相手は頭をのけぞらせるように倒れる。その刹那に部隊の記憶が蘇る。

 

「……消えろ、影法師」

 

 その躯をまたぐようにして廊下の角に立つ。わずかに顔を除かせるとライフルの弾が耳の脇を飛び抜けた。その弾痕を見て小さくつぶやいた。

 

「……30口径か」

 

 機動戦になる。背負っていた自由空間蒸気雲爆発(UVCE)抑制装置を置くと腰のガンベルトに差していたマチェットを引き抜いた。それを左手に持つと右手一本でショットガンを保持する。……義手ならショットガンの片手撃ちも可能だろう。戦闘用義体制御プログラム起動。

 

「―――――、っ!」

 

 深呼吸をしてから射線に飛び出した。相手は二人――――獲物は30口径機関銃と短機関銃と見きわめると同時に重い発砲音。30口径機関銃を持った少女の首筋を抉るようにスラッグ弾が飛び抜ける。銃撃が一瞬止んだ。相手が持ち直そうとしたその時には機関銃の間合いはとうに過ぎ去り、至近距離の戦闘に切り替わる。

 短機関銃を持った少女の脳天に向けマチェットを振り下ろす。相手はそれを機関銃で受け止めた。そのために相手の全面はがら空きになる。そこを前蹴りで弾き飛ばすそうして確保した空間に武器をねじ込み、相手の頭に向けて狙いをつける。―――――イナーシャ・オペレーション式のUTS25はすでに再装填を終え、シェルはすでに撃発の時を待っていた。

 

 発砲。彼女の頭を跡形もなく消し飛ばす。

 

「――――――っ」

 

 もう一度発砲。今度は地面で倒れている30口径を持っていた少女の電脳を破壊する。いくら痛覚がないと言っても、首が半分持っていかれた状態で生かせておくのもかわいそうだ。

 

「……畜生」

 

 こみあがってくる吐き気のような不快感に壁を叩く。ここにきて見たことある顔ばかり現れる。

 

「ダンカンに手をかけたマクベスはこんな気持ちだったのかね」

 

 その呟きに答える声はない。航暉は唇を噛んで再び走り出す。目標の部屋に飛び込んだ。部屋はおそらく義体用のパーツの保管庫だ。その中を目標目指して駆ける。

 オートメーション化された倉庫には人の気配はない。ひたすらに走っていく。

 目標の地点についた。

 

「ビンゴ」

 

 そこに現れたラッタルに足を掛ける。埃一つないラッタルが示すのは、日常的にここが手入れされていると言うことであり、その先に明かりが灯っているというのは、今現在ここが使われているということを示す。

 

「――――――そろそろだと思っていたよ、航暉」

 

 下りた先、現れた広い空間に不釣り合いな椅子が一つ、ポツンと置かれていた。

 

「……こんなところで会うとは、意外ですね。中路章人中将」

「先を急ぐとはわかっているが、少しだけ付き合ってほしい。この老害の懺悔の一つ、聞き届けてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここを渡れってか」

 

 杉田は苦笑いをしながら前を見た。仄青く光る培養プールの真上を渡るキャットウォークを見ながら杉田はセーフティを解除しながら前を見る。

 

「俺が先頭を行く。天龍、後方警戒は任せた」

「了解だ」

「雷嬢は俺の後ろから離れるな。万が一のことがあっても俺の体が盾になるはずだ」

「わ、わかったけど無茶しないでね……?」

「それこそ無茶な相談だ」

 

 杉田はそう言ってからグレーチングのせいで足元が透けるキャットウォークに踏み出した。足元の鉄の格子の下には角柱のようなものが等間隔を保ってプールに浮かんでいた。

 

「こ、これって……」

「義体製造の神経接続工程用の溶液プールだな。溶液には微弱な電流が流れてて、皮膚のセンサと内部の光ファイバーを接続させる作業をしてるらしい」

 

 杉田はそういいながら青い足元からの光を浴びながら雷の声にこたえる。

 

「わ、私の体もこうやって……」

「そうだろうな。全身義体はこうやって作る訳だ。個の後は皮膚の仕上げと動作確認とかが控えるだけだから、ほぼ完成形だな。おそらくプールに浸かってるあのケースの中に1つずつ義体が詰まってるんだろう」

 

 杉田がそう言ったタイミングで青葉の無線がつながった。

 

《杉田中佐! 上です!》

 

 その警告に散弾銃を振り上げる。同時にその視界には白い肌の少女型の義体が落ちてくるのが映る。

 

「南無三!」

 

 その腹を撃ちぬいてショットガンの銃床で横に吹っ飛ばすように殴りつける。キャットウォークの手すりにぶつかって跳ねたそれは雷の驚いて目を見開いた顔を眺めるかのようにしながらプールに向けて落下していく。歪んだ手すりには白濁したナノマシン溶液がべっとりと付着した。

 

「走れ!」

 

 一気に前へ駆けだす杉田、キャットウォークが盛大に鳴る。

 盛大にガツン! という金属音と共に真上から直立姿勢の義体が降ってくる。義体はその姿勢のままキャットウォークに下りると、マリオネットのような不自然な動きで杉田目がけて動き出した。

 

「……昔見た映画を思い出すな」

 

 引き金を引く杉田。正確なヘッドショット。左の義眼には銃口の向きに対応した照準ドットが揺れている。それでも義体は止まらない。

 

「往生際が……悪い!」

 

 それの上体を再び銃床で叩き、プールへと落とす。同時に後方でもガツンと強い音がした。

 

「―――――天龍!」

「問題ねぇっ! 先に渡り切れ!」

 

 天龍が居合の要領で抜刀、相手の喉笛を掻き切った。同じ色の瞳を睨み天龍は返す刀で相手を両断する。

 

「こいつ……!」

 

 予備動作もなしに繰りだされた手刀を、上半身を逸らすように避けながら相手の首筋目がけて突きを繰り出した。勢いは半端だが、それでも相手に突き刺さり、生体部品を潰す嫌な感覚を天龍の手のひらに返した。

 

「これでも止まらないのかよっ!?」

「天龍、バック!」

 

 杉田の叫びにとっさに飛び退くと、相手の電脳が正確に狙撃され、吹っ飛んだ。どさりとキャットウォークの手すりにもたれるようにその義体が動きを止める。

 

「……50口径を持ってくるべきだったかな」

「ソウドオフしたショットガンでよくやるな」

 

 天龍の呆れのような賞賛に、杉田は肩を竦めて答えた。ショットガンをひっくり返してチューブ型弾倉にスラッグ弾のシェルを突っ込んでいく。

 

「……おい、さっきの」

「気づいたか。気がつくよなそりゃ。……病院を襲撃したのと同じ型だ」

「……やっぱりか。気味が悪いぜ」

 

 天龍は刀が歪んでいないことを確かめて鞘に戻した。カチンという音と共にロックされる。

 

「青葉、他に反応は?」

《ほとんどが地下3階に集中している見たいです。……と言っても工場内の稼働している機体は元々数が無いので、残り……6体。そのうち3体が地下3階で……あ、反応途絶えました。おそらく……月刀大佐です》

 

 それを聞きながら杉田は再装填を終えたショットガンを持ち直すと、薬室にスラッグ弾を差し込んで、セーフティをかけた。

 

「なら月刀は無事西階段を突破したわけだ。急ぐぞ。追いつけなくなる」

《今高峰中佐がガイノイド2体と交戦中、残り一体は浜地中佐と戦ってます》

「浜地中佐の方に応援は必要そうか?」

《いえ……おそらく大丈夫かと》

 

 青葉の声が僅かに安堵のような声に変わった。

 

 

《皐月ちゃんが間に合いました》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 単装砲が火を噴いて、相手の右肩から先をもぎ取った。

 

「さ、皐月……?」

「司令官、動かないで」

 

 浜地の盾になる位置に立って皐月は振り返らずにそう言った。左腕には相手の銃弾が掠めた傷から赤い血が流れる。それを無視するように皐月は単装砲に次弾を装填する。

 

「……まだボクとやり合う気なの? かわいいね」

 

 両手に提げた単装砲を構えながら相手を見やる。

 

「さよならだ。ボクのそっくりさん」

 

 二発の砲弾を受けて金髪の義体が倒れる。それを確認して単装砲にロックをかけた。そこに来て、皐月は初めて浜地の方を振り返った。

 

「さて、司令官、ボクに言わなきゃいけないことがあるんじゃないかな?」

「え……?」

「え、じゃないでしょ」

「ま、待て。なんでお前がここにいるんだ!?」

「なんでも何も。後を追っかけてきたんだよ?」

「後って……もしかしてあの爆撃の跡辿って?」

「それ以外にないよね? 月刀大佐の爆撃で死ぬかと思ったけど」

「そ、そんなすぐ後を追ってきてたの?」

「うん。何回か月刀大佐と目があったし、気がついてたはずだよ?」

 

 その答えに言葉が継げない浜地。

 

「で、追いついてみたらなんだかボクのそっくりさんに追っかけられてピンチみたいだから加勢したわけなんだけど、ボクがこれなかったらどうする気だったの?」

「……す、すまん」

「それよりもいうべきことがあるでしょ!」

 

 どこか顔を赤くしながら叫ぶ皐月。浜地はその気配に気圧されながら、恐る恐る口を開く。

 

「……助かった。ありがとな」

「……どういたしまして」

 

 及第点、と言いたげな視線を向けて皐月はついと顔を逸らした。

 

「それで? この後どうする? ボクはこのまま撤退を強く強くつよく勧めるけど」

 

 さぁ、帰るよと言いたげに砲を振る皐月。

 

「悪いけど、まだ帰れない」

「……司令官はこういう場面に限って意固地だよね」

「月刀大佐を放って一人で逃げるわけにはいかない」

 

 そう言うと浜地は空薬莢の排出不良を起こしたショットガンをいじる。機関部の樹脂製のカバーを外して振ると歪んだプラスチックのシェルを取り出した。改めてカバーを閉じて、ポンピング。スラッグ弾が改めて入ったことを確認する。

 

「まさか、ここまで来てボクを置いていくとか言わないよね?」

「……まさか」

「その間は何なのさ……ボクが信用できない?」

「そんなんじゃない!……そんなんじゃないんだ」

 

 浜地は俯いた。

 

「ここは戦場だ。皐月たちが戦う戦場とはまた違った戦場なんだ。こんな戦場を、お前に見せたくなかった」

「さっきみたいに誰かのそっくりさんが出てくるし?」

 

 黙り込む浜地。

 

「……スクラサスから聞いた。ここは艦娘の元になった人たちが集まる場所だって。ゴーストダビング? そのための施設だって」

「……」

「その結果生まれたのがボク達だってことも聞いた。それを壊そうとしていることも聞いた。それを壊すこと……ていうよりはこの施設のことを知らしめることで艦娘の扱いを変えようとしてるってことも聞いた」

 

 皐月は浜地の目を見つめる。今度こそ、彼に目を逸らすことを許さない。

 

「だから、もう隠さないで。ボクは何があっても司令官の味方になる。だから信じてほしいんだ」

 

 単装砲をベルトにひっかけ両手を空けた皐月は彼の頬に触れる。

 

「ボクは司令官のそばにいたい。言ったよね? そのためだったらボクは戦える。どんな相手だって戦える。ボクはボクの意志で戦える。司令官の見ているものを見て、一緒に考えて、一緒に戦って、そうしていたいから」

 

 司令官、と皐月は呼びかけた。

 

 

 

「だから、一緒にいさせてよ。あなたのそばにずっといたいんだ」

 

 

 

 皐月はそれを言ってから、しばらく経って顔を真っ赤にした。

 

 

 これって、遠回しな告白では?

 

 

「……ぷっ」

 

 その様子を見て浜地は小さく噴き出した。

 

「な、笑うだなんて酷いじゃないか!」

「悪い悪い、俺の負けだ」

 

 浜地は黒いグローブに包まれた手を握りしめる皐月に向けた。

 

「皐月、一緒に来てくれるか?」

 

 その問いかけに、皐月は笑って―――――満面の笑みで笑って拳を重ねる。

 

 

 

「まっかせてよ、司令官っ!」

 

 

 




なかなかハードモードな感じになってます。気分を害したとかありましたら申し訳ありませんでした。
次回以降、この程度の強度のグロが続くかもしれません。そこまで数は多くない予定ですが、まだ高峰&電ペアが残ってますし……

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回 『00010010 Si Vis Pacem, Para Bellum PHASE3』
消えろ、消えろ。束の間の灯火

それでは次回お会いしましょう。


杉田が見たという昔の映画……わかる方いらっしゃいますかね?


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