艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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ペースを落とすとか言っといて通常通り投稿する作者、おいおい……

今回から次のステップです。
それでは、とりあえず、抜錨!

(2015/11/29 言い回しや誤字を修正しました。)


第7話_演習・盛夏

 

《両舷原速黒15! 左三点回頭用意、始め!》

 

 無線越しの天龍の声を聞きながらウェーク環礁内海の様子を眺める。内海で艦隊機動の練習をしているのは電以下第551水雷戦隊に配属になった駆逐艦。特に先日クェゼリンの第553水雷戦隊から移籍となった雷、北方艦隊第二作戦群の第563水雷戦隊から移籍になった暁と響の三人の艦娘の教育がメインだ。

 

「なかなかいい動きするのねぇ……」

 

 龍田がそういって笑う。それを聞きつつ、航暉はコーヒーを煽った。

 

「それぞれ特徴的だ。“あたらなければどうということもない”を実践する暁に、雷撃を中心にして手堅く攻める響、フロントアタッカータイプの雷に、周囲に目を配る司令塔スタンスをとる電……。対空さえ気をつければそつなくこなす如月に対潜警戒を得意とする睦月……ここまで多彩な水雷戦隊もなかなかないだろうな」

「そうねぇ、ある程度の事態ならこれで対応できそうよねぇ……」

 

 龍田は頭上の天使の輪っか(本人曰く水上電探のアンテナ部らしい)をふよふよ上下させながら上機嫌に笑った。

 

「それで? 私を呼んだ理由を聞かせてくれるかしらぁ?」

 

 龍田がそういうと航暉は応接ソファに腰掛けるように進めてその反対側に座り込んだ。

 

「……元551水雷戦隊の面々のことだ」

「それなら天龍ちゃんに聞いたほうがいいと思うのだけれど……部外者じゃなきゃだめなことかしらぁ?」

「イエス、だ。残念ながら」

 

 航暉はそういって応接セットのテーブルをタップした。

 

「月刀中佐よりウェーク島戦術コンピュータ(WTC)、第551水雷戦隊所属の全駆逐艦およびCL-TR01のパーソナルデータを司令室デスクスクリーンに投影せよ」

[Projects Personal-Data of DD-AK01~DD-AK04, DD-MT01, DD-MT02, and CL-TR01 CMPL/ Comnd Tsukigata]

 

 ガラスの天板がスクリーンに代わり7つのウィンドウが立ち上がる。そこに浮かぶのは龍田以外の所属艦の経歴や能力を数値化したものなどが並んだデータファイルだった。そのうちから天龍、電、睦月、如月をピックアップして並べて龍田の方に向けた。

 

「……風見大佐が殉職している以上真偽の程はわからんが、なぜ彼女たちを起用し続けたんだと思う?」

「……どういうことかしら?」

「天龍はウェークに来る前から命令無視や上官への不適切な対応が報告されていた。睦月、如月は特型ユニット開発後、どうしても後続艦と比較すれば性能が劣る。電は特型最終ロットとはいえ戦果を出していない状態だった」

「つまりは効率重視の風見大佐が使い続ける理由がない、ってことかしら」

 

 そういった龍田に航暉は頷いて見せた。

 

「……天龍ちゃんが解体されかけたことを考えると、おそらく理由は駆逐艦のうちの三人の誰か、もしくは三人全員かなぁ」

 

 龍田は顎に人差し指をあてながらそういった。

 

「暁ちゃんたちの比較でも何も出ないのかしらぁ?」

「規則性は今のところなしだ」

 

 それを聞いて考え込む龍田。天龍たちのデータを見つつ口を開く。

 

「天龍ちゃんは面倒見がいいから小っちゃい子たちをまとめるのがうまいわ。天龍ちゃんをずっと手放さなかったのはおそらく駆逐艦の子たちをまとめるためだと思うけど、駆逐艦の子たちはわからないわねぇ……」

「龍田でも、そうか……」

「で、どうするつもり?」

 

 龍田が笑うが、目の底は冷えていた。

 

「とりあえずは保留、だな。理由が出てきてそれが彼女たちにとって害となる可能性があるならその可能性を潰し、そうじゃないならそのままだ」

「それが諸刃の刃でも?」

「諸刃の刃ならデメリットが発生しないように状況を整えるさ」

 

 そういって立ち上がり、デスクの画像を消した。

 

「そうだ、昼の休憩の後にでも一度全員をここに集めてくれるかい?」

「わかったわぁ、全員ね。作戦参加でも決まった?」

「そんなところだ」

 

 そういって苦笑いを浮かべた航暉に龍田は目を細めて笑い、司令室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演習?」

「それも下村艦隊相手に、だ」

 

 所属する艦娘の前で大仰に肩をすくめる航暉に天龍が呆れた顔を向けた。

 

「司令官、それってそんなに問題になることなのかい? 演習はごく普通のことだろう?」

 

 銀に近い色をした長髪を揺らして響がそういうと、龍田が笑った。その反応にむっとした顔をしたのは暁だ。

 

「なによ、響はそんなおかしいこと言ったのかしら?」

「北方艦隊から来たばっかりだから知らないのも無理はないだろう……龍田、下村艦隊の概要言ってみてくれ」

 

 航暉がそういうと喜んで、と頷いて、龍田が口を開く。

 

「下村艦隊は中部太平洋第一作戦群の別名で第五三中部太平洋艦隊の攻勢部隊の中核よねぇ、指揮官は名前の通り下村和人准将でクェゼリン奪還作戦の総指揮官で名前を挙げたんじゃなかったかしらぁ」

「補足するならグアム在留艦隊の指揮の全権を任せられてなかったか? 戦艦2隻に重巡4隻、軽空母4隻、正規空母2隻他4つの水雷戦隊……こんなこと言いたくないが今の551が逆立ちしたって勝ち目のない艦隊だぜ?」

 

 天龍がそういうと慌てた顔になる暁。

 

「し、司令官! いくら私たちがれでぃだからってそんな無理難題押し付けられても困るわよっ!」

「そうなる前にちゃんと相談してよね、しれーかん!」

「それは下村准将に言ってくれ……」

 

 げんなりした顔でそういうと電が口を開いた。

 

「もしかして、下村准将のほうから話があったのです?」

「正解。きれいにお膳立てして俺のサインだけすればいい状態にして送ってきやがった。……もうCTCのイベントナンバーまで取得した状態でわざわざ伝令をここまで飛ばしてサインかっさらってった」

「あぁ……朝のリアジェットってそれだったのね……」

 

 如月が納得顔をしている横で腕を組むのは睦月だ。

 

「それでもわかりませんねー。第一作戦群が第二作戦群の、それも新設された格下の部隊に演習を申し込むメリットなんてあまりないんじゃないのかにゃーん?」

「あー、それ、俺のせいだと思う」

 

 気まずそうに航暉がそういうと全員の視線が突き刺さる。

 

「……司令官、何をしたんだい?」

「江田島海大はわかるか?」

国連海軍大学校広島校(UNNStaC-Horishima)……だったかな? たしか提督の訓練をするコースがある」

 

 響の答えに頷くとそれがどうした、と天龍の視線が鋭くなる。

 

「そこで指揮幕僚(CS)課程と水上用自立駆動兵装運用士官(IDrive-AWS Officer)課程の総仕上げに現役将校との模擬戦をやるんだが……」

「……いやな予感がプンプンするんだが」

「たぶん天龍の予感は正しいだろうな。……それで下村准将率いる打撃艦隊を軽空母と水雷戦隊で叩き潰した」

「うわぁ……」

「なんというか……すごいことやるわねぇー。海大所属の空母って鳳翔さんよねぇ、軽空母で比べてもあまり艦載機積めないし、よく勝てたわね~。ちなみに下村艦隊の戦力は?」

「旗艦は伊勢で利根、筑摩、阿賀野、能代、龍驤だ」

本気(ガチ)の攻略部隊じゃないか……それに水雷戦隊と軽空母で挑んだのかい?」

「相手が油断してたし、自分の試合時間が夕方だったからな。夕日を背にした艦攻隊に開幕雷撃で龍驤を落としてもらって、水雷戦隊で逃げ回りつつ適度に爆撃決めて夜戦で水雷戦隊の雷撃一発」

「もしかしてそれを根に持ってるってことなのです?」

 

 電の質問に「それぐらいしか理由が思いつかん」と正直に話すとまわりの空気が微妙なものになる。

 

「……大人げないわねぇ」

 

 如月がそういったのに頷く艦娘たち。

 

「そこまでお膳立てされると断れないわよね。で、しれーかん。どうするの?」

「演習は2週間後の8月18日1500時よりグアムの演習用レンジで行われることになっている」

「……おい、グアムに行っている間の海域防衛どうする気だ?」

「それに先立って558水雷戦隊が出張ってくれるってさ」

 

 至れり尽くせりだと嘯いて、一つのデータを皆に見えるようにデスクに表示した。

 

「で、対戦相手なんだが」

 

 資料をみて全員が動きを止める。長い沈黙が続いた。

 

「……これ、殺しに来てるだろ」

「天龍ちゃんもそう思った~?」

「さすがにこれは……勝ち目あるのかい?」

「だ、大丈夫よね、しれーかん。わ、私もいるんだし、ねっ!?」

「れでぃーなんだし、へっちゃらだし……」

「これは、びっくりしたのです……」

「射程が違いすぎますぅ……」

「終わった後の髪の手入れが大変そうねぇ……」

 

 相手は伊勢・日向・利根・筑摩・蒼龍・飛龍とある。この時点で艦爆・艦攻の嵐に射程外からの砲弾のラッシュが見て取れる。開始時間が15時からでは夜戦に入ることすら厳しい。ペイント弾でカラフルになる事態が容易に想像できた。

 

「で、誰が行く?」

「……こういうことこそ司令官の采配じゃないのか?」

「天龍の方が練度は詳しいだろう? あと本人たちの希望もある」

「……指揮官の戦略は?」

「正直に言って勝つことは絶望的だ。あとオフレコで頼むが……ここで勝ってしまうと後が怖い」

「かといってさっさと負けて帰るような編成で挑むのもそれはそれで不満を買うのでしょうねぇ……」

 

 龍田がそういうと航暉は頷いた。

 

「まあもともと選択肢はないんだがな……演習参加枠6隻いっぱいに使って全力で挑む」

「それなら……俺と龍田、暁以下特Ⅲ型4隻が妥当だろう。睦月と如月の場合、練度は十分だがいかんせん対空が苦手だから、正規空母二隻相手に逃げ回りつつ距離を詰めるなんて負担がでかすぎる」

「ふえぇ……情けないのですぅ……」

「こればかりは仕方ないわよねぇ……」

「あ、ちがっ……! 別にお前たちが力不足だと言っているわけじゃなくてだな……!」

 

 天龍が慌ててフォローを入れる。それを見て目を細める龍田……目が怖い。

 

「でも負け戦ってわかってるのに突っ込むのは嫌いだわぁ……」

「俺だって嫌いだよ。……だからタダで負けるつもりはないよ」

「ほう……聞かせてくれ」

 

 悪がきのたくらみ顔のような笑みを浮かべて天龍が身を乗り出した。

 

 ……そしてその2週間後、周囲には青しか広がらない快晴の海の上を6人の少女が進んでゆく。

 

「……これ、使えるのかしらね」

 

 そうぼやくのは特Ⅲ型駆逐艦のネームシップ、暁だ。特Ⅲ型武装ユニットの主砲マウント部には普段なら主砲が乗っている場所に直方体の金属の箱のようなものが乗っている。

 

「二週間の焼き付け刃とはいえなんとか様になってるじゃねぇか。大丈夫だろ」

「それを言うなら付け焼き刃ねー」

「そ、そうともいう」

 

 艦隊を率いつつ天龍がどもった。どうも龍田には頭が上がらないらしい。

 

「演習なんだ。死にはしねぇし全力でぶつかればいいし、相手に負けたからって今回の場合は恥じゃねぇよ」

「そうよねぇ……、でもそれだけ下村准将は月刀中佐を警戒しているってことよねぇ。いくら次世代の有望格とはいえそこまで警戒するかしら?」

「おい龍田、アイツってそんなにすごいやつなのか?」

 

 しんがりを務める龍田の方を振り向いて天龍がそういうと龍田は笑う。

 

「天龍ちゃんは知らないかしらぁ? “月一族”って日本軍にすごく顔がきくのよぉ?」

「つきいちぞく……?」

 

 聞き覚え自体ないのかちんぷんかんぷんな顔をしているのは暁以下駆逐艦たちだ。

 

「たくさんの優秀な軍人を出している家の人って感じねぇ、月刀家を頂点にいろんな家系があるけど……そうねぇ月刀、月詠、月岡が“月の御三家”って言われてるわ。司令官はその中でも本家“月刀”の血筋の次男って話よ~」

「月の御三家……ねぇ。見かけ倒しじゃないことを願うぜ」

「あらー? “最初の戦いでもしっかり指揮できてた”ってほめてたのはどこの誰だったかなぁ……?」

「し、知らねぇよ……」

 

 うふふふ、と笑う龍田。肩に担いだ薙刀の刃が赤くきらめいた。それに背筋を震わせたのはその前を進む雷だ。

 

「龍田さん、いきなり後ろで殺気放たないでよねっ」

「雷ちゃんも戦いなれてきたわねぇ……でももっと気を付けないと駄目よ? 潜水艦に喰われないようにしないと駄目よぉ……?」

「龍田さん、怖いのです……」

 

 龍田の言葉に軽く震えているのは雷の隣で装備をどこか気にしている電だ。暁と同じように主砲ユニットを立方体の箱状をしたユニットに換装している。

 

「潜水艦はねぇ……いつ来るかわからないのよぉ? 来た敵を三枚に下ろしてやるぐらいの気迫がないとねぇ……」

「それって薙刀とか刀とか持ってる人じゃないとできないじゃない……」

「なんなら穴あきチーズでもいいわよ~?」

「砲撃も潜水艦には入らねぇって……」

 

 暁の突っ込みにさらに暴走の度合いを深める龍田。天龍の溜息をものともせずに笑い声を漏らす。

 

「航海も始まったばかりよ~。演習開始の時に疲れてるわけにはいかないけど、気を引き締めていきましょうね。……天龍ちゃん、転進ポイントアルファー・チャーリー317、到達まであと30秒よ?号令かけなくていいのかなぁ?」

「わかってら……。転進用意、左舷1ポイント、方位2-9-5、陣形は複縦陣を維持……」

 

 グアムまではかなりの大遠征となる。ほぼ最短ルートを通っているがそれでもまる一日+αを航海につぎ込まなければならない。なかなかにハードな航海だ。

 

「回頭かかれ!」

 

 

 おそらくさらにハードな演習が待っているグアムに向けて艦隊は進路を変えたのだった。

 

 

 




第六駆逐隊をそろえてみました。

最近はレポートの合間に艦これしつつ、第六駆逐隊が画面から出てきてくれることを願いながらつついてます。あぁ、癒される……。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それでは次回はいよいよ演習です。お楽しみに!

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