艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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せ、戦闘回!(嘘は言ってないはず)

それでは抜錨!


00001001 ウェーク・ウィークポイント PHASE4

 

 

 

 艦娘の出撃ドックが次々に解放され、艦娘たちが飛び出していく。その様子を見て無線に怒鳴り散らすのは宮迫大佐だ。

 

「誰が出撃していいと言った!? 出撃命令を出した覚えはないぞ!」

《国連海軍水上用自律駆動兵装交戦規定第47条に基づき、水上用自律駆動兵装の完全自律運用を開始したまでじゃ》

 

 返ってくるのは利根の声、それを聞いた宮迫は拳を握る。

 

「完全自律運用だ!? 誰の許可を取って……」

《第47条第一項! 水上用自律駆動兵装は以下の場合において、事前に、時宜によっては事後に国連海軍司令部の承認のもと、完全自律運用による作戦実行が許可される!》

 

 利根の怒声が相手の発言を許さない。

 

《第二項の適用条件より一! 人命や人権の保護のためにやむを得ないと判断されるとき! 咸臨丸の乗組員及びウェーク島基地特別根拠地隊の人命保護のため即時出撃が必要であると第三分遣隊旗艦の権限を持って吾輩が判断した。六波羅軍医大尉の指示ですでに咸臨丸に基地所属隊員の収容を開始しておる。この出撃を輸送隊の咸臨丸船長坂本中佐、六波羅軍医大尉、伊波特務少尉をはじめとした基地士官が支持しておる。あとは貴官だけじゃ。どうする?》

 

 あまりの状況に宮迫大佐は二の句を告げない。

 

《宮迫大佐、吾輩たちは貴官と一緒に基地で心中するつもりは無い。自殺志願者なら止めはしないができれば咸臨丸に移り艦隊の指揮を開始してほしい。もしくは自律運用を認めてほしい》

「貴様ら、兵器の分際で誰にものを言っている……!?」

《その兵器にすら愛想をつかされる指揮官だと自覚せい、宮迫大佐》

 

 その物言いに宮迫は顔を赤くする。怒りにわなわなと震えながら無線に怒鳴り返した。

 

「明らかな命令違反行為だぞCA-TN01! 司令官たる私を差し置いて――――! その出撃の責任をだれがとると」

「宮迫大佐、だよね?」

 

 無線ではない肉声が答え、宮迫は顔を上げた。司令室の入口には黒いカチューシャを付けた露出度の高い服を着た少女が立っている。

 

「おぉ、島風か。島風お前は私の指揮下に残ってくれたのか」

 

 背中につけた魚雷管に気を付けながら島風は入室して笑った。

 

「一応代理だけど司令官だしね。それで、宮迫司令。利根たち出てっちゃったけど、どうするの?」

「上層部の指示通り動く。それだけだ」

 

 島風は右手を腰に当てたラフな姿勢のままその言葉を聞く。

 

「なら私達は何をすればいい?」

「島風はとりあえず命令違反をした艦たちを連れ戻してくれないか?私も艦娘たちがいなければここで何もできなくなってしまうからね」

 

 そのまとわりつくような目線を遠慮なく島風に向けながら宮迫はそう言った。そしてそれが、最後の指示となった。

 

「……宮迫大佐、先に言っとくね。ごめんね」

「島風……?」

「貴官の指揮権停止申請を極東方面隊総司令部およびCSCに提出、CSC承認、山本元帥、承認。……たった今を持ってあなたの指揮権を凍結します」

「な……なぜだ!?」

「なぜも何もないよ? 利根たちが動かなかったら今頃どうなってたかわからいもの」

 

 そう言うと島風は笑う。そして背を向ける。

 

「ま、まて! お前は残ってくれ!」

「どうして? 指揮官でもない人に命令権はないもの」

「残れと言っている!」

 

 そう言って机の下から伸ばした手には、軍支給の拳銃が握られていた。海軍の正式拳銃FN-FiveseveN。それを見た島風が笑って半身を返した。肩から水平に伸ばされた右手には同型の拳銃。互いに銃口を向け合う構図だが、そこに浮かぶ表情は正反対だった。驚愕の表情を浮かべる宮迫と薄い笑みを浮かべる島風。

 

「な、なぜ艦娘が人間用の拳銃なんぞを持っている!?」

「あれ、知らない? 少佐以上の権限があれば部下の艦娘に交付させることが可能なんだよ? まぁそれをする必要なんてないだろうけどね。司令官が外出する際のボディガードとして艦娘を使ったりする時に艦娘に持たせるためにね」

「だとしても! お前に許可を出した覚えはないぞ!」

「うん、だってあたしの本当の司令官は貴方でも月刀提督でもないもん」

「な……!」

 

 島風が笑みを深くした。

 

 

 

「私の指揮官は高峰春斗中佐、月刀航暉大佐の監視のために特別調査部から派遣された監査役なんだもの」

 

 

 

 彼女が構える銃口は過たず相手の眉間を捉えたままびくともしない。

 

「第三分遣隊って実験的な要素もあったし、司令官が司令官だったから手放しに承認って訳にはいかなかったの」

「実験的要素、だと?」

「中央即応打撃群構想、優秀な艦を優秀な指揮官のもとで集中運用する。聞いたことあるでしょう? そして今度第50太平洋即応打撃群として成立する。その前身としてここの分遣隊は設立された。だから海域を超えて出動させられることが多かった訳だけど」

 

 向けられた銃口越しに宮迫大佐の目を見て笑った。

 

「その査察も兼ねてあたしが送られてたわけ。非公式だけどね、その様子を特調と総司令部に送ってた。そして私には最悪の場合に備えて銃の所持と指揮官の罷免を上申できる権利を与えられていたの」

 

 この辺りは月刀大佐も知らないはずなんだけどね、といって笑う。

 

「そしてあたしは第三分遣隊指揮官代理である貴方が指揮官として非適格として上申した。それを上層部が支持した。だからあなたはここの指揮官じゃなくなった。そろそろ横須賀が指揮代行を開始するはずよ」

「き、さま……」

「貴方は優秀だった。それは間違いないよ。ただし前線向きじゃなかった。そしてこの非常時に対応できなかった。それだけの話」

 

 そう言うと笑って見せる島風。

 

「……貴様ごときに、兵器ごときに……!」

「うん、あたしは兵器だよ? でも利根も言ってたよね“その兵器にすら愛想をつかされる指揮官だと自覚せい”宮迫大佐?」

「貴様――――――!」

 

 銃声が響く。それをあっさりとかわすと島風はデスクを飛び越え宮迫の懐に飛び込んだ。相手の右手を取るとあっさりと銃を引き剥がし、左手一本で宮迫大佐をデスクに叩きつける。

 

「うがっ……」

「貴方って遅いのね。照準も下手だし。まぁ、あたしの動きに追いついても艤装を背負った艦娘に拳銃なんて効かないんだけどね」

「う……あ……うぐっ!」

 

 顎に掌底を打ち込んで相手を昏睡させると島風は脱力した男の体を抱きかかえた。

 

「うーん、案外体鍛えてるのかなぁ。結構重いなぁ」

 

 そういいながらデスクを回り込む。

 

「こちら島風、宮迫大佐を確保したよ」

《了解、そうしたらそのまま咸臨丸に放り込め。その後は咸臨丸の防衛を551に任せて島風は最大船速で538に合流してほしい》

「わかった。高峰中佐の指揮で戦うのって実は初めて?」

 

 島風が通信の先に声をかけると男の笑った雰囲気が帰ってきた。

 

《だろうな。俺は後方支援メインだからな。……こっちは焦ったぞ? いきなり島風から緊急通信飛んでくるんだからさ》

「しょうがないじゃん。こっちの司令が遅いんだもん。高峰司令は大丈夫?」

 

 島風の声に高峰が笑った。

 

《言っておくがまったく自信がない。今マーカスの駆逐隊がそちらに急行中、二航戦も出港したが、間に合わないものと思え。守り切れんと思ったら咸臨丸を守りながら撤退しろ》

「りょーかい。でも、負けませんよ?」

《おう》

 

 通信が切れると同時、浮かんでいた笑みが消える。

 

「さて、微風の前じゃカッコ悪いところ見せられないし、頑張らなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、代理の司令部がこんなことになってるわけか」

「ようこそ、ごたごたの最前線へ」

 

 高峰は管制卓のキーボードを叩きながらそう答えた。入ってきたのが誰だか見なくてもわかる。杉田だ。

 

「杉田中佐」

「おう、電嬢と天龍もいんのか」

「バックアップ要員でいてもらってる。何があるかわからないしな」

 

 極東方面隊第三戦闘指揮室、急遽あてがわれたその部屋の壁面いっぱいのスクリーンにはたくさんの情報が並んでいる。杉田はそれをぱぱっと確認しながら遠慮なくずかずかと入り込む。

 

「で、この状況になっても月刀の馬鹿は連絡を取ってこないと」

「あぁ、まったく、どこで何してるやら」

 

 高峰の隣の席についた杉田はバックレストからQRSプラグを引き出すと自分のうなじに突き立てた。

 

「状況は?」

「あと12分で538と敵との距離が30キロを割る。いつ砲撃が来てもおかしくない。島風と微風があと3分で538と合流」

「航空隊」

「龍鳳の烈風が咸臨丸と各艦隊の直掩に入ってる。利根の偵察機からの連絡は23分前に途絶えた」

「落とされたか?」

「暗闇の中でな。正直めちゃくちゃな精度だ。かなり高精度の電探を積んでるらしい」

「らしいってお前、らしくないな。幻視の名が泣いてるぜ?」

 

 そう言われて苦い顔をする高峰。

 

「俺でも視えないんだよ。敵が」

「あ?」

「敵が本当に一隻しか視えない」

 

 それを言われて杉田は考え込むように黙った。

 

「……つまり可能性は二つだろう。高峰の目を欺けるほどのステルス戦隊か」

「120を超える艦載機運用能力と戦艦クラスの長距離高威力の主砲と片舷16門なんてふざけた数の魚雷管を備えるトンデモ深海棲艦の単騎突撃か」

「……どっちがトンデモかねぇ」

「どっちにしても変わらねぇよ。前者のトンデモが後者のトンデモに切り替わるだけだ」

 

 その切り替えしに杉田が笑った。

 

「ま、その通りだわな。どっちにしてもやることは変わらないわけだ。……利根と筑摩はこっちで持つ。鷹の目が使えるから何とかなると思うが……」

「水雷戦隊は俺が持つ、空母は……」

「私がやろう」

 

 飛んできた声に高峰は顔を上げ、すぐに立ち上がって敬礼の姿勢を取った。すぐ後に杉田も同じように敬礼の姿勢をとる。数テンポ遅れて艦娘たちが敬礼をする。

 

「山本元帥……! どうしてここに!」

「月刀君にはマニラで借りがあるのでな。人が足りんのだろう? 飛燕のようにはいかんだろうがやれるだけやらせてもらおう」

「はっ!」

 

 高峰が敬礼の姿勢のまま答えると山本は高峰の隣の卓につく。

 

「私が指揮に上番するのは実に3年ぶりでな。少々自信がない。全体指揮は任せるよ。高峰君」

「へ? りょ、了解しました!」

 

 背中に汗をかきながらも高峰は無線をオープンする。

 

「ホテルケベックよりウェーク艦隊、これより高峰春斗中佐が指揮をとる」

《こちら第三分遣隊旗艦利根じゃ。自律運用を終了し指揮権を高峰中佐に引き渡す。どうすればいい?》

「捕捉できるのは未確認種一隻のみ。これを叩く。利根と筑摩は杉田中佐の指揮下に入れ、鷹の目を使った遠距離射撃で前方展開する水雷戦隊を支援。航空隊は山本元帥の指揮下に」

《や、山本元帥!?》

 

 無線の奥で何人もの声が被った。その反応を聞いて高峰は自分の感じる違和感が自分一人のものじゃないことを確信した。

 

《元帥御自ら指揮をとられるんですか!?》

 

 この声は大鳳だろう。山本も通信をオープンにする。

 

「久々で自信はないが、協力させてもらうよ。諸君の働きに期待する」

《はっ!》

 

 そして全員が配置につく。電と天龍も管制卓についた。指揮をとることはできないのだが状況を監視する目としての役割を担う。そしてその時を高峰が見極めた。

 

「ターゲットマージ! 敵艦砲撃態勢!」

「こっちも射程に入った! 利根、徹甲弾!」

《了解じゃ!》

 

 リンクした視界が明るくなった東の空を見る。一条の光が差し込むと同時。

 

 

 

「交戦開始!」

 

 

 

 双方の砲が閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントに航空隊が出てきたっ!」

 

 先頭を切るのは島風だ。40ノットの高速で航空戦が展開される空域の真下に飛び込んだ。数瞬遅れて微風が突入する。

 

《突出しすぎるな! 後続が追いついてない!》

「後続を待つより相手に突っ込んだ方が早い!」

 

 島風は高峰の声を無視する。その上で遠く点のように見える相手を見る。

 

「ウルファイス、ケイ、頼んだ!」

 

 二機の自律砲台が前面に出る。遠くの点がチカリと瞬いた。数瞬後に島風から500メートルほど離れたところに着弾した。続いていくつか落ちてくる。

 

「遠近峡差!」

「お姉ちゃん! 上!」

 

 微風の叫びにとっさに転舵。海面を蹴れば左手に爆弾が落ちてきた。その水柱を見つつ空を見上げれば爆弾を抱えた数機が急降下しようと背面飛行に移ったところだった。

 

「エルフィーナ!」

 

 島風の叫びに呼応するように主砲が閃く。敵機を脅すように飛び抜けた砲弾のために一度敵機の編隊が散る。そこに龍鳳の艦載機が飛び込んできた。

 

《上空はなんとか押さえます! 島風さんたちは前へ!》

「ありがと!」

 

 改めて前に飛ぶ。再び敵の点が瞬いた。想像以上にサイクルが早い。島風の頭上をかすめるようにして飛び抜けた鉛の塊が起こした衝撃波が島風を叩く。一瞬眉を顰めるが、これくらいなら問題ない。その衝撃波すら利用して加速する。

 

《龍鳳より島風、航空隊が雷跡視認! 数8! そっちに一直線!》

「了解!」

 

 上空の航空戦は拮抗、いや、こちらの分が悪い。だからこそ早々に相手に食いつく必要がある。警告のあった雷跡が見えた。射角も広く避けるのは容易い。連装砲ちゃんもこれなら楽に避けるはずだ。

 

「微風! そっちに一本! うまく避けてね!」

「わかってるっ!」

 

 微風がそう答えてわずかに進路を変える。それを横目で見ながら島風は笑った。思ったよりもうまく避けている。この全力についてきてくれるのも微風だけだ。

 

「やっぱり嬉しいなぁ、こういうのは」

 

 こういっては不謹慎なのかもしれないが、微風と一緒に戦える機会になったのは嬉しい気がする。そしてそう言う思考をする余裕がある自分に驚いた。

 

「案外慣れてきたかな……っと!」

 

 真上で敵機がひっくり返って落ちてくる。速度を緩めつつ右へ転舵。左前に爆弾が落ちてくる。

 

 水柱が治まるころに敵艦から小さく煙が上がった。どうやら利根たちの砲を当てたらしい。

 

《徹甲弾だぞ!? どんだけ硬いんだあの船!》

 

 杉田の声が無線に割り込む。

 

(それじゃぁ駆逐艦の砲じゃ抜けるわけないね)

 

 そう思いながらも島風は歩みを止めない。止めることは相手に負けることになるからだ。

 

「それでも、魚雷なら!」

 

 島風は全速で前へ。そろそろ駆逐艦の砲も射程に入る。

 

 ここまで来たらやることは単純だ。砲で牽制しながら全速で相手に近づいて魚雷をありったけ叩き込むだけの簡単なお仕事だ。

 

「高峰司令! フリップナイトの使用許可を!」

《高峰より島風微風、フリップナイトシステム起動承認。無茶するなよ!》

「保証できないけど了解っ!」

「了解です!」

 

 島風の背中に乗っていた最後の一基――――ルーカンが海上に飛び降りる。

 

「ルーカンから順に砲撃開始! 目標、敵艦船!」

「こっちもいくよ! アル! 一番槍お願いね!」

 

 4基8門を操りつつ島風は前を見据える。そこに並ぶように同じく4基の連装砲を繰る微風が追いつく。

 

 

 私達は“島風型”だ。

 

 

 最速の駆逐艦にして、最強の駆逐艦だ。速いだけではなく、火力と雷撃能力を高い水準で備えた駆逐艦だ。誰よりも速く、誰よりも強く。

 

 視界にメッセージが現れる。RDY/Flip-Knight.

 

 8基の自律砲台がうなりを上げる。エンジンが一際甲高く鳴いた。

 

 

 フリップナイトシステム、実行(エグゼキュート)

 

 

 それを合図に8人の騎士はそれぞれの女王の命の元に動き出す。

 

 

 

「微風、連装砲ちゃん、一緒に行くよ!」

 

 

 

 そして、さらに加速する。最速の名に恥じぬ速度で前へ。

 

 まだ遠い敵が笑った気がした。

 

 

 

 




戦闘(開始)回!
……いえ、ほんとすいません。戦闘シーンまでいくとかなりの長さになりそうだったんで切りました。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回 島風型vs.深海棲艦

それでは次回お会いしましょう。


ウェーク・ウィークポイント編の年内完結を目指すけど終わる気がしない……

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