艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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第三部のイメージソングは『名前のない怪物』です。
割とどうでもいい情報を流して、抜錨!


00000100 ヨコスカ・アップサイドダウン PHASE4

 

 

 

 電が緊急呼び出しで病院に駆け付けた時にはもう火は僅かな燻りを残すまでになっていた。階段を13階まで駆け上る。

 

「お嬢ちゃん! この先は軍関係者以外立ち入り禁止だ!」

「その軍関係者なのです! DD-AK04電、データベースと照合してください!」

 

 10階で警備兵に呼び止められる。相手が網膜スキャンをかざす数秒がもどかしい。

 

「は、はっ! 失礼しました! 電特務官!」

 

 特務官として大尉相当の権限を持っていることに感謝して怪談を駆け上がった。13階は黄色いテープで封鎖されていたが、それをくぐって中に入る。揮発したオイルの匂いが鼻を衝く。

 

「電、来たか」

「高峰中佐、司令官さんは!? 月刀司令官は無事なのです!?」

「電落ち着け、ここで騒いでも状況は変わらん!」

 

 その声に、電は最悪の状況を覚悟する。

 

「……司令官さんは、無事なのですか?」

 

 高峰が立ち上がって、おいで、といった。

 

「爆発は12月18日、今日の13時34分、爆心地は1306号室、カズの部屋のど真ん中だ。現状確認できているのは死者6名、重傷者23名、軽傷者82名、身元不明のアンドロイドの残骸が一つに行方不明者1+1だ」

「1+1?」

 

 電が聞き返す。その頃には1306号室の前についていた。部屋全部が焼けこげ、窓枠があったであろう位置にぽっかりと大穴が空いていた。

 

 

 

「行方不明者は月刀航暉大佐、及び一緒にいたはずのDD-AK03、雷だ。二人の死体がどこにもない」

 

 

 

「それって……!」

「おそらく、まだ生きてる。どこに姿をくらませてるのかわからないがな」

 

 高峰はそう言って部屋の壁に突き刺さった破片を見る。

 

「生きてるなら、司令官さんから連絡があるかもしれないのです」

「いや……おそらくしばらくは無いな」

「どうしてなのです?」

「これ見ろ」

 

 突き刺さった破片を高峰が指さした。高峰はゴーグルのようなアイウェアを付けると、QRSプラグを電に渡す。

 

「これって……アンドロイドのパーツ?」

「だな。で、このパーツの素材を解析すると」

 

 電に高峰の視界が流れ込んでくる。アイウェアはどうやら物質の解析に使うアイテムらしい。

 

「平菱インダストリアル製の空間把握用センサーの一部……?」

「破損が激しいがな。爆心に近いところにあったんだろう。で、これを搭載しているのは、表向きには一つしかねぇんだよ」

「それって……」

「水上用自律駆動兵装、それも平菱インダストリアル社の軽巡クラス以下のロットに限られる」

 

 高峰はそう言うと眉を顰めた。

 

「特にこのタイプは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……冗談はよしてくれよ」

 

 どこかのバーを模した部屋で天龍が頭を抱えていた。特調六課の専用チャットルーム、ワードルームと呼ばれるその部屋には天龍だけでなく、龍田や雷電姉妹を除く特Ⅲ型駆逐艦や睦月たちが揃っていた。……航暉がまだ中佐だったころの第551水雷戦隊のメンツである。

 

「おれはその時チンチクリンたちの訓練中だ、アリバイもあるし、そのセンサーの持ち主が俺だったとしてなんで俺が生きてるんだよ」

 

 喧嘩腰というよりは困り切った感じで天龍がそう言った。

 

「ウェーク島基地から爆破できるなんて考えたりしてないよ。って言うよりウェーク島基地の面々に動機がない」

 

 高峰はそう言った。季節外れの夏服のアバターが困ったように笑っていたがすぐに表情を引き締めた。

 

「状況を整理する。というより君たちには知っておいてもらった方がいいだろうと思うからできるだけわかりやすく説明するつもりだ。質問があったらしてくれ」

 

 高峰はテーブルを叩き、そこに画像を表示した。

 

「13時29分、爆発5分前、犯人と思しき人物が病院の正面ロビーを通過。この様子が監視カメラに残っているんだが」

「見れば見るほど天龍ちゃんにそっくりねぇ……」

 

 龍田がそう言った。その映像が拡大され骨格表示に切り替わる。

 

「天龍の骨格パターンと照合したところ適合率96.9%、一般人なら同一人物と断定できる。だが……」

 

 その骨格モデルが動き出す。それを一通り見た後、高峰が天龍を見た。

 

「天龍、そこを歩いてみてくれ」

「お、おう……」

 

 言われた通りに歩くと、高峰は、うんOKと言ってまた座るように促した。

 

「何をしたかったんだ?」

「まぁ見てなって」

 

 高峰がテーブルをショットグラスで叩くと天龍が歩いた位置に二人の天龍が投影される。

 

「手前が病院の監視カメラに映っていた犯人、奥が天龍だ。動かすぞ」

 

 そう言うと二人の天龍が歩く。一定距離を歩いていくのを見た後天龍が口を開いた。

 

「……何がしたかったんだ?」

「犯人の方が足が重い」

「え?」

 

 指摘したのは響だった。言われて暁が映像に目を凝らす。

 

「響ちゃん正解。足の上げ幅が犯人の方が少ない」

 

 そう言うと二人のホロを重ねて表示する。確かに足の上げ方が犯人の方が重い。

 

「13階まで向かうエレベーターの感圧板にデータが残ってた。犯人の体重は230キロ前後だ。勿論艤装なし」

 

 ぐるんと全員の視線が天龍に向いた。

 

「お前らふざけんなよ。俺がそんなデブに見えるかっ!?」

「犯人は体の中に爆弾詰め込んでるんだ。外殻は天龍のモデルを使っているものの、中身はおそらく爆薬と起爆装置とそれに必要なコンピュータが詰まってるだけの張りぼてだ」

「そんな兵器があるんですか……?」

 

 睦月がどこか恐怖が混じった声でそういった。

 

「自走爆弾……第三次世界大戦で使われた兵器だ。おそらくこれはARB-00451の派生モデルだろうな。女性型義体に仕込むことを想定した奴だ。製造元は平菱インダストリアル、とっくの昔に終了しているがね」

 

 高峰はそう言って、時間を進めよう、といった。

 

「爆発-25秒の時点でカズへの最後の電脳通信。発信者不明、メッセージはB-Pとだけあった。その8秒後の-17秒、犯人が1306号室、カズの入院している部屋に進入、これ以降の画像はないが、-5秒前後にパンパンと何かが破裂する音を聞いた人がいる。あと爆発直前に窓ガラスが割れるような音がしたという人もいる」

「破裂音……?」

 

 おうむ返しの声は如月だ。

 

「現場から22口径の弾頭が見つかった。数は3つ、銃はベレッタの950BSジェットファイア、所有者は月刀航暉で間違いない。おそらく、カズが撃った。二発が壁に、一発は犯人の脳殻ケースに突き刺さって止まってた」

「撃ったってことは……司令官は危ないって判ってたってことよね?」

「そうなる」

 

 高峰はそう言った。

 

「ここから予想するに、カズは危ないと気がついていた。で、隠し持ってた22口径で抵抗、もっとも戦闘用ガイノイド相手に22口径なんて意味なかっただろう。で、雷連れて窓から飛び降りて逃走」

「窓からって……13階だぞ?」

「カズの義手に仕込みのワイヤーランチャーがついてる。おそらくはそれで地面に下りたんだろう。義手の接続から1週間たってないって言うのによくやる」

 

 胡散臭げな目を向けていた天龍が口を開く。

 

「そのワイヤーは見つかったのか?」

「あぁ、現場の足元に落ちてた。長さ的には足りないが、おそらくはとりあえず落下しながらワイヤーを撃ちこんでそれで降下ってところかな」

「ってことは少なくとも提督は外に出てるってことだにゃぁ」

 

 睦月の声に暁が首を横に振った。

 

「ほぼ間違いなく雷も一緒ね、司令官が雷を置いていくとは思えないもの」

「俺も同意見だ。カズが艦娘を置いてひとり逃亡なんてシナリオは想像がつかんし、雷の体のパーツが何一つ見つからないってのもそう言うことだろうと思う」

「……少し質問いいかなぁ」

 

 龍田がニコニコ笑顔で手を上げた。

 

「月刀司令の死体はまだ上がってないし、雷ちゃんも行方不明、でもそれでも司令と雷ちゃんが一緒にいる線が濃厚なのよねー?」

「そうだ」

「雷ちゃんの戦術リンクは使えないのかしら~? リンクを使えれば少なくとも生きてるかどうかはわかるんじゃないかなぁ?」

「雷の電脳通信は軍の方でロックがかけてある。電脳に不法侵入を受けた後だからな。で、パッチの作成で安全が確保されるまでロック状態が続いている」

「今も、か……」

 

 響の苦々しい声が響いた。

 

「それに自走爆弾は軍装備で厳重に管理されているはずだ。それを使ってきた以上軍の方が怪しい。カズなら、一度姿をくらませるはず。そして、カズにも協力者(パトロン)がいる」

「パトロン?」

 

 暁が聞き返した。

 

「軍の敷地内でカズが見当たらない以上、軍の敷地からは脱出していると見るべきだろう。病院の爆発でテロ騒ぎの中、カズひとりで脱出できるとは到底思えない。鎮守府の門番は馬鹿じゃない。犯人を逃がすまいと監視を強化しているんだ。それでもカズは軍敷地から忽然と姿を消した」

 

 それに、と高峰は続ける。

 

「俺にBCCで送られてきたメッセージ、B-Pってやつだな。あれを送ってきた奴がいる」

 

 高峰が腕を組む。

 

「B-Pと略される人物や標語、格言などを調べてみるとそれらしいもんにあたった」

「それらしいというと?」

「ロバート・ベーデン=パウエル卿……B-Pと呼ばれたボーイスカウトの創設者だ」

「ボーイスカウト?」

「その組織の標語は備えろ常に(Be Prepared)。……一種の警告と見て間違いないだろう。そして。俺とカズのことを知っている。どこの誰だか知らないがな」

 

 高峰がゆっくりと腕をほどき、周囲を見回した。

 

「この警告は今回のテロだけに当てたものじゃない。おそらくはまだ先があるんだ。だから気を抜くなと言っている。カズと雷の死体が上がってこない以上はこの先も続く可能性がある。カズの関係者の誰がいつ標的になってもおかしくない。全員に警戒をさせてくれ」

「了解した」

 

 天龍が代表して答え、その後に不安げな表情を浮かべた。

 

「電、大丈夫か?」

「……かなりヤバい、ってのが正直なことろかな。軍上層部が血眼になってあたりを捜索しているがまだカズは見つかってない」

 

 高峰はそう言うと溜息をついた。

 

「カズを見つけるのが先か……」

「……電が精神的に限界を迎えるのが先か、かい?」

 

 響の声に高峰はこめかみを押さえた。

 

「タイミング的には最悪なんだ。ここまで極端に相手が動いたのにはおそらく新設部隊の指揮官にカズが内定したことがある」

「新部隊? 初耳だぞ」

「初めて言ったから当然。ヒメの情報を元に動く深海棲艦との交渉にあたる専門チーム、第50太平洋即応打撃群。そこの実働部隊のトップにカズ、旗艦に電、大和型、金剛型、一航戦は参戦確定。それに二個水雷戦隊、空軍に陸軍。場合によっては欧州や南北アメリカ方面隊からの派遣隊を巻き込んだ超大型の特務部隊だ。衝撃的だろう?」

「……なんというか“ぼくのかんがえたさいきょうのかんたい”って感じだな」

「で、こんなことになると困るのは今権力の椅子に座ってるお年寄りとか軍需産業で栄えてる経済界の皆様とか、あとカズもなんだか黒い事情に関わってたっぽいしなぁ、ヒメの登場が与えた衝撃でただでさえ目を付けられてたカズが一気に袋叩きにあう状況になったわけ」

 

 高峰は頭が痛いよとぼやく。

 

「……で、その発端がヒメ、でヒメを助けたいって言ったのは電で、電は私のせいで司令官さんがって見当はずれの自己嫌悪がノンストップ。こういう時に抑えになるようにって航暉もまとめて横須賀に呼んだつもりなんだろうが、一気に悪化しやがった。俺の言葉じゃ止まりもしねぇ」

「おいおい、どうするつもりだ?」

「ほんとどうしようかねぇ。……天龍」

「あんだよ」

 

 高峰の目が細められた、

 

「お前らしき人影が写ってたから観察処分になる。というより重要参考人扱い……まぁ、正確には物証扱いなんだろうが、まぁそんな感じになる」

「はぁ? だから関わってないってわかってるだろ?」

「顔の骨格まで含めたデータがいつ盗まれたんだと思う? ……そこらへんの確認をしたいから少し横須賀まで来てくれ」

「……俺は文字通りの無実なんだが?」

「ならこっちで無実を証明してくれ。すぐに手配書を回す。来い」

 

 それを聞いた天龍が肩を竦めた。

 

「あまり下がってると戦いの勘が鈍る。迅速に頼むよ?」

「それは、調査次第と言うことで」

 

 それを聞いた龍田が笑った。

 

「それで、高峰中佐は月刀大佐がどこに消えたのかのあたりがついてるのかしら~?」

「少しは、ね。とりあえず探ってみるよ」

 

 そう言うと高峰が場を畳んだ。天龍たちの意識はあっという間にウェーク島基地に引き戻される。

 

「……な、なによあの態度! 天龍さんを犯人扱いして! 物証扱いだ~とかどういうつもりよ!」

 

 暁が腕を振って抗議する。それを見た天龍が噴き出した。

 

「わかってないな、ちんちくりん」

「な、なによっ!」

「ああすれば、俺は証拠品として横須賀に送られる。送られた先におそらく高峰中佐がいるはずだ、で、高峰中佐が電の様子を細かく把握していると言うことは、電は高峰中佐の監視下にある。さすがにここまで言えばわかるだろ?」

「え? どゆこと?」

「おい大丈夫かバカツキ。要するにだな、俺に電を怒りに来いってことだろう」

「バカツキじゃないっ! ……って、え?」

 

 高峰は一度ウェーク島基地の監査に来たこともあるし、キスカ撤退戦に指揮官のひとりとして参加している。天龍が電に大きな影響を与えていることを知っているはずだ。ヒメとの交渉の時も背中を真っ先に押したのは天龍だ。それを見ていれば自然とこの人選になるのだろう。龍田はそう思いながら天龍の様子を眺める。天龍が笑って暁の頭を乱雑に撫でていた。

 

「ちゃんとお前らの分も怒ってくるし、とりあえず電を再起動させてくるさ」

「あ、頭をなでなでしないでよーっ!」

「ちんちくりんにはこれぐらいで十分だ、ちんちくりん」

「ちんちくりんちんちくりん言うなーっ!」

 

 そんなやり取りを見ながら龍田は笑顔の裏で願う。

 

 

 

 雷ちゃん、大佐、無事でいてね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談、だろ……!」

 

 浜地は首筋のQRSプラグを引き抜いて荒い息を抑え込もうと必死になった。

 

「恨むぞ、笹原中佐。こういうことをなんで早く言わないんだよ……」

 

 浜地はそう言って天井を仰いだ。暗く沈んだ天井はどこか不気味に彼を包んでいる。

 

「もし、この情報が本当だったとしたら……、国連軍は……」

 

 今の地位を無数の屍の上に築いたことになる。

 そして、それに浜地も加担していたことになる。

 

「くっそ、情報が整理しきれない、とりあえず誰かに……」

 

 誰かに、誰に?

 誰に話せばいい?

 

 鳳翔?ダメだ。 皐月?もっと駄目だ。艦娘たちに話すわけにはいかない、あの子たちは優しすぎる。こんなことを相談するわけにはいかない。自分を信じ、国連を信じて戦っているみんなにこれを伝えるのは、あまりに残酷すぎる。

 

「……駄目だ、話せない。下手したら戦術核を超える危険物じゃねぇかこの情報」

 

 そう言った浜地はQRSプラグを繋ごうとして動きを止めた。

 

「……手を止めて頂けますかな、浜地中佐」

 

 背中に何かが当てられている。小さい何か。

 

「そう言うおたくはどちら様?」

 

 動きを止めたまま目線だけを動かした、黒色の迷彩、室内迷彩が見えた。心拍数が一気に上がっていく。

 

「当ててみるかい?」

「DIH? EPCO? それともCIRO?」

 

 あまりに早い鼓動に笑い出しそうだった。それでも頭を回していく。後ろの感触はおそらく―――――減音器(サプレッサ―)

 

 さあね、と男の声が答える。

 

「……いや、どれでもないね、たぶん」

「ほう?」

「国連海軍極東方面隊特調三課分遣隊……強行偵察班」

「大正解。おめでとう。軍中枢への無料招待券をプレゼントだ。ただで旅行させてあげよう」

 

 垂れた汗が床にはねた。QRSプラグを手に浜地が一気に振り返る。

 

 抑制された銃声が、跳ねる。

 

 

 





うーん、結構ヤバめの事象を突っ込み過ぎた感満載ですがこのまま突っ走ります。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回はほぼ間違いなくバトル回(司令官勢)
艦これの話で男臭いリアルファイトとか需要あんのかこれ……

それでは次回お会いしましょう。

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