艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
それでも、抜錨!
「開幕早々潜水艦なんて聞いてないわよ……」
「す、すいません……避けられたかもしれないのに……」
「潮のせいじゃないわよ。島影から雷撃で気づくの遅かったっていうのは艦隊の責任、艦隊の責任ってことは旗艦の責任よ。貴方のせいじゃないわ」
暁はそういいながら泣いている潮の手を引いて艦隊に合流した。
「それにしても、横須賀軍港出て10分で雷撃一発とかどこまで潜り込まれてるのよ潜水艦に!」
横須賀哨戒圏のど真ん中で雷撃の洗礼を受ける羽目になって暁は必死に頭を回す。
「矢矧さん、そっちのほうは大丈夫?」
「何とか追い返したわ。それにしても不運ねー。あれだけ射角を広くとった魚雷にあたるなんて」
「うぅ、面目ないです……」
「いいのいいの、自力航行できる?」
「はい、28ノットまでですけど……」
矢矧は大振りな艤装を背に静かに笑った。船団に合流した後、潮を船団の真ん中に寄せるように配置する。
「おー、大変やったなぁ、お疲れさん」
落ち込んでいる潮の肩を龍驤がぽんと叩く。そうしたあと龍驤は横を見る。両サイドを固めるように軽巡コンビ、阿賀野と矢矧。先頭の定位置に戻った暁と最後尾には霞、今回のチーム編成はそんな形になった。その周りを見回して、龍驤は人知れず溜息をつく。
(……4番目やなぁ)
何がとは聞かれたくなかったので務めて口にしない様に気を付ける。
それでも気になってしまうのは自分の性なのだろうと龍驤は人知れず諦めていた。
「それにしても君ぃ、本当に駆逐艦なんか?」
「ひゃつ!? ご、ごめんなさい! 頼りなくて……」
「いや、そんなことを言っているわけじゃないんやけどなぁ、アハハ……」
左から強い目線を感じれば矢矧が睨んできている。だからそう言う意図はなかったんやけどなぁと思いながら龍驤は乾いた笑みを浮かべるのだった。
「お疲れ様です! 睦月さんどうでした!」
艤装を背負って現場レポーターのように飛び出してきているのは青葉だ。海上演習の予定をクリアし、一度横須賀に帰港することになっているのだが、その前にどうやら感想を聞きたくて飛び出してきたらしい。
「えっと……神通さんと戦って、すごく勉強になりました!」
「そう言われた神通さんはどう思いました?」
睦月たちの後ろをついてきていたニコニコ顔の神通に青葉がマイクを向ける。
「動きにはまだ改善できるところがあると思いますけど、アイデアや行動力はすばらしいと思いました。第一線で活躍しているだけあると思います。私も久々に楽しい演習ができてます」
「おーっと、高評価出ました!」
青葉がハイテンションにそういいってインタビューを続けている。その後ろでペイント弾まみれになって肩を落とすのは陽炎である。
「……綾波、想像以上に鬼神だったわ」
「陽炎、自分の訓練が足りてないのを相手にせいにするのはよくありませんよ」
「そういう不知火も川内さんを抑えきれてなかったじゃない」
「――――――不知火に落ち度でも?」
そう言って眼光を鋭くする不知火に陽炎は肩を落とした。
「いや、どう考えでも落ち度でしょ。川内さんに見事に誘い込まれてさ。いつの間にか戦ってる相手が入れ替わってましたとかどういう状態よ」
そう言うと無言で拳を向けようとしてくる不知火と押し合いになった。
神通が艦隊を落としに向かった間、迎撃に来た川内と綾波を相手にしていた。最初は押していたのだ。上手いこと足を使わせて川内の機動力を削ぎ、確実に攻め落とそうとした不知火と、近距離の乱戦で綾波を抑え込もうとした陽炎。だが不知火の砲から逃げていたと思っていた川内の航路と綾波の航路が交差した途端、対戦相手が入れ替わった。綾波が一気に不知火に躍りかかり、それに困惑した陽炎が川内の砲撃で一発中破。後は相手にされるがままで演習が終了した。そのあとは川内と対峙していた睦月に加勢する背中を見ているだけの演習だ。
「――――――陽炎、次の演習で勝負です」
「いいわよ、どっちが早く相手を仕留めるか、ね」
元々戦闘意識の高い二人である。そう言う展開になるのはある意味当然と言えた。
……さっきみたいに二人とも負けるという事態は端から頭にないらしい。
「それで、次の部隊はもう進撃してるんでしょう? 用意しなくていいのですか?」
「あれ、不知火聞いてないの? 次の暁ちゃんの相手は別の子たちがやるの。私たちは補給とか一通りして休んでから初春ちゃんたちの相手だよ」
「別の子たち……というと?」
「そろそろ始まってるんじゃないかなぁ?」
そう言うと陽炎はニヤリと笑ったちょうどインタビューが終わったタイミングのようだ。
「はい! ヒーローインタビューは以上です! ……っとと、どうやら沖合では暁ちゃんたちが敵艦隊と接触したようですよ! マイクをそちらに戻しまーす!」
《マイクをそちらに戻しまーす!》
「はい、現場の青葉からのインタビューでした。さて、スタジオでは引き続き解説役として夕張さんと天龍さんに参加してもらいます。さて天龍さん、暁さんの水上戦が始まろうとしていますがどう見ますかね?」
衣笠がそう言って笑う。
「そうだな……暁は強力な眼の持ち主だから水上戦は有利に進めると思うな」
天龍はカメラが入っているにも関わらず緊張せずにそう言った。
「強力な眼、というと視力のことですか?」
「視力って言えば視力なんだが、動体視力がめちゃくちゃいいんだ。距離にもよるが撃ちだされた砲弾を見て着弾地点をピタリと予想して動くことができる。戦闘の個人技能ならおそらく暁はトップクラスのものを持ってるぜ」
「なるほどなるほど。では夕張さん。この相手の陣容をみて暁さんはどんなふうに動くと思いますか?」
次に話を振られたのは夕張である。
「そうですね。……暁さんの目を活かしつつ艦隊を誘導しながら中距離で戦うのが最適解でしょうか。軽巡の阿賀野型二隻も揃ってますし、遠くからの射程にも対応でき――――――」
「たぶんそれはないな」
天龍はそういいきった。それに怪訝な顔をするのは夕張と衣笠だ。
「なぜです?」
「暁は自分の強みを知って運用しているが根は単純思考のちんちくりんだ。おそらく前に出張ってくる。前線で戦うことにも慣れてるし攻撃の腕もあるだから前に出てくるね、かならず」
「なるほど、ずっと一緒に任務をこなしていた天龍さんの言葉には説得力がありますねー。さて、暁ちゃんチームにも動きがあったみたいですよ。迎撃に動き出したみたいです。動いているのは……え、一人?」
衣笠の声に天龍はあからさまに眉をしかめた。
「みんなはそのまま護衛を続行! 之の字運動開始! 艦隊指揮は矢矧さんお願いね!」
「え? あ、ちょ!」
先頭を走っていた暁は海面を蹴り込むと艦列を離脱した。一気に加速する。ほぼ全速35ノットで敵に向かって真っ直ぐ駆けていく。
「え、暁ちゃん!?」
慌てたのは右舷を守っていた阿賀野だった。一応艦隊序列では第二位で阿賀野となっているはずなので暁が離脱した後は阿賀野に指揮権があるはずである。
「旗艦の命令なら仕方ないか。阿賀野姉、悪いが私が指揮を執る。総員転進用意」
矢矧はそういいながらもどこか不本意そうだ。
「暁も何も一人で突っ込む必要はないだろうに。どうしてそう攻撃に走るかな」
「対潜もそんな感じだったもんなー」
そう言うのは中央でのんびりと構えた龍驤である。横では心配そうな顔をした潮が航行している。
低く轟くような砲の音が聞こえだして、戦いが本格的に始まったことを知る。
「矢矧さん、意見具申よろしいでしょうか?」
「なに、霞」
最後尾でずっと黙って航行していた霞が武装を確認しながらそう言った。
「三対―では分が悪いでしょう。旗艦の命には背きますが私も前線に出た方が結果的にいいのでは?」
「命令違反だけどねー」
そう言うのは阿賀野だ。それを涼しい顔で流す霞。
「されるのは慣れっこですし、旗艦を守るのも僚艦の役目でしょう」
それを聞いて矢矧が笑った。
「いいだろう。行ってきなさい。暁の直掩、任せたわよ」
「はい、矢矧さん」
そう言うと霞も戦列を離脱。遅れながらも暁を追う。その顔には複雑な表情が浮かんでいた。
「本当は矢矧さんも前に出たいんでしょうに……ほんと、バカばっかりなんだから」
速度を上げてく。主砲弾装填。遠くに暁を捉えた砲弾行きかう戦場に飛び込んだところらしい。
「――――――まったく、危なっかしくて見てられないったら!」
そう言うと霞は全速にギアを入れ替えるのだった。
両脇から飛び込んでくる駆逐艦を見て暁は僅かに口角を吊り上げた。
《さあ暁、一緒に華麗に踊りましょう?》
「盆踊りは嫌いなのっ!」
ポニーテールを揺らして突っ込んできた舞風を暁は右の踵を軸にしてクルリと体を回して避けるそのまま、回り込み艤装にマウントされた砲が火を噴いた、
「おっと、えげつないところ狙ってくるねー」
それを舞風は上体をそらすようにしてかわすと舞風の主砲がこちらを向いた。
「じゃあお返しね!」
真正面で放たれた砲弾を暁は首をひねるだけで回避、バックステップで距離を取りつつ右手を真横に伸ばした。そこから放たれた弾丸が横を走っていた誰かにぶち当たる。
「げ、ばれてたか」
「当然。斜め後ろで魚雷管用意してて視えない訳ないじゃない」
横で涙目なのは巻雲である。思いっきり足元に弾丸を喰らっている。判定は―――――自力航行不能、あっさり行動不能に追い込まれて不満タラタラだろうがしかたない。
「やっぱり強いね。月刀艦隊のみんなって」
「そりゃどうも」
「でもしっかり踊らないと、次には進めないから! ほら行くよ!」
舞風が砲を撃ちこもうとし、その真横から影が割り込んだ。
「暁! 駆逐なんかに構ってないでさっさと軽巡倒してきなさい!」
「か、霞! なんでこっちに!」
「多勢に無勢でかっこつけてんじゃないわよ。ほら行った行った!」
「~~~~~~~ああもう!」
「それはこっちのセリフよまったく」
暁はくるりと背を向けて海面を蹴る。直後真横に水柱が立った。
「私を討つ気ならもっと狙ってきなさい!」
「そうかい、それは失礼したな」
目の前には不敵に笑う影、黒いマントには飾緒が揺れ、暁を見て笑みを深くした。
「勝負よ、木曾!」
「いいぜぇ、本当の戦闘ってやつを教えてやるよ」
そう言うと木曾は刀を――――――正確には竹光を引き抜きニヤリと笑う。暁も防弾板の裏に手を伸ばし、警棒を振り抜いた。伸縮警棒が展張され正眼に構えた。
「いざ―――――」
「尋常に――――」
「「勝負!」」
そして、互いに一気に踏み込んだ。
「ちょっとまて!」
戦闘指揮所で航暉が叫んだとしても演習は続く。航暉は今回指揮権を持たないからだ。その後ろでは高峰が遠慮なしに大爆笑している。
「暁のヤツまったく演習の意図を理解してねぇ! 誰が殴り合えと言った!?」
「眼で砲撃をかわして接近して警棒振り回して大乱闘。ひー、笑いすぎて腹痛い」
高峰が管制卓のコンソールを操作しリアルタイムの映像を呼び出した。
リーチで木曾に軍配が上がるためか、木曾の方が有利に進んでいるように見える。暁は基本的に相手の攻撃を受け止めようとせず、回避に徹し、時に思い出したように砲撃をしたり警棒で刺突したりを繰り返している。
「でも案外暁ちゃん警棒捌き上手いじゃない。これ持ってすぐの動きじゃないよ?」
「……天龍が刀持ってるだろ。暁はあれがかっこいいんで少し憧れてるんだと」
情報元は響だ、と航暉が追加情報を漏らすと、高峰は肩を揺らす。
「あー、ってことは練習してたかな?」
「時々手合せしてもらってた。天龍も天龍で熱いからな。わりかし
「なるほどねー。で、前のヒメ事案の時に晴れて警棒が正式装備に追加されて機会を窺ってたと」
「おそらくな。示し合わせたようにそれに付き合う木曾も同類か?」
そう言うとまた笑い出す高峰。あまりの接近戦に周りは誰も援護できない状況だ。……といってもまわりにいる霞も舞風も巻雲も、あまりの超展開に足を止めている。
《はっ! なかなか筋がいいな》
《と、当然よ!》
二人はさらにヒートアップ。もう砲弾すら飛ばず、文字通り鎬を削る戦いに移る。サブの画面に映し出されたスタジオの方では天龍も教え子の戦闘にヒートアップしているらしく、“行け! そこだ!”とか“なんで担ぎ胴なんて大技選ぶんだ!?”とかそう言う声が聞こえる。
「天龍はあんな感じだし、木曾も最初の威嚇射撃だけで砲撃してないし、もうお前ら何やってんだよって感じだ」
航暉が本気で頭を抱えると高峰はご愁傷様と肩を叩いた。
「本人たちは楽しそうだからよしとしようよ。絶対に広報資料としては使えないだろうけど」
「当たり前だ。木曾戦は全カットだ、全カット。警棒は対人兵器だぞ、そんなのをぶん回して戦ってる絵面なんか公開できるか。いろんなところがうるさい」
「ただでさえいろいろ問題抱えてるもんねー、艦娘関係は」
高峰はそういいながら映像を拡大していく。
「あーあ、竹光だと強度不足か、折れてら」
「……で、砲撃戦。順序が逆だ二人とも。接近戦用の武器は自衛用の最終手段だろうが」
暁の砲が木曾のマントをピンクに染め、木曾の砲弾が暁の帽子を吹き飛ばした。そのころになって再起動を果たしたのか霞がまだ呆然としている舞風をあっさりと落として暁に加勢した。
「ま、二対一なら暁陣営の勝ちっぽいかな。で、どうするの?」
「――――――
「さぁね」
高峰は笑いを噛み殺しながらその様子を眺めた。最後は霞が背後から砲撃を決めて戦闘終了。結果的にだが今回の戦闘、撃破数は霞が3で暁が0で終了した。与えたダメージ数なら暁の砲が上なのだがどうも攻めきれずに終わっている。
「ここで完全に決めきれないところが暁ちゃんらしいよね」
「知らんがな。暁の眼の良さとか旗艦向きの能力なんだがなぁ、ワンマンショーで何とかしようとしたりするのがあれだ」
航暉はそう言うと椅子の背もたれに体重を預けた、椅子がぎしりと音を立てる。
「で、次は初春か?」
「こんな飛び道具な戦いにならないことを祈るよ」
航暉はそう言うとゆっくりと息を吐いたのっだった。
オーバードライヴ鎮守府vs.E-3 ファイッ!
――――――勝者、猫。
……はい、E-3初出撃でボス到達直後にしてやられました。飛龍さんだけ中破であと無傷だったからこれ行っただろう! と思ったら猫。 帰ったら大和と比が大破してました。中破も五十鈴に電に伊勢に……裏で何があったし。あぁ、燃料が、鋼材が、バケツが……
みなさま、ネットの接続状態には気を付けて!
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次回は初春編、こんな展開にならないといいなぁ……
それでは次回お会いしましょう