艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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三連休は東京遠征行ってました。
人酔いしました。

それでも、抜錨!


Chapter1-1 戦の海へ

 

 

 

「阿武隈、起きて」

「ふぁ~、司令官、おはようございます」

 

 合田正一郎が彼女をゆするとのんびりとした声が聞こえた。油槽船“サンポール号”の船員居住区の一室で横になっていた少女を起こす。

 

「ちょっと緊急なんだ」

「深海棲艦でも現れました?」

「うん」

「へ~……って“うん”!?」

 

 前髪をいじっていた阿武隈が飛び起きた。その時に急に上体を跳ねあげたため正一郎の顔面に頭突きをかます形になった。

 

「「~~~~~~!」」

 

 二人そろって頭を抱えて痛みに耐える。先に回復したのは阿武隈だった。

 

「今だれが海に出てます……?」

「利根と筑摩、望月と弥生の4隻だ」

「敵の編成は?」

「まだわからない。CTCの報告だと軽巡クラス以上の4隻らしい」

「……龍鳳さんと大鳳さんは?」

「いま用意してもらってるけど、この油槽船の上からじゃまともな通信設備もないしこの簡易中継器じゃ対空管制ができないんだ」

 

 正一郎はそういいながら右手に持った半円状の機械を振った。

 

「あと若葉さんと初霜さんは……夜間哨戒終了直後で動いてもらうのは危険ですか……」

「うん」

「……もしかして、今ヤバいんじゃないですか?」

「うん」

 

 それを聞いた阿武隈は一瞬黙ってから叫んだ。

 

「うんじゃないでしょ! うんじゃ! 早く船橋(ブリッジ)に行って水上艦の指揮を始めてください! 対空指揮ができる艦娘って今は龍鳳さんだけでしょう? 彼女に任せましょう!」

「わ、わかってる……」

「私も今出ますから敵艦隊予測位置への警戒を厳にしてください!」

「わ、わかった」

 

 正一郎は首の後ろに簡易中継器をあてがう。ちりりとする痛みと共に中継器がQRSプラグに接続され、視界に周囲の海域情報がオーバーレイされる。

 

「利根、筑摩、弥生、望月、聞こえてる?」

 

 無線回線を開きつつ鉄の急なラッタルを駆け上がる。ブリッジに駆け込むと船の船長が敬礼してくるのでそれに答礼を返す。

 

《聞こえとるぞ、合田少佐。どう動けばいいのじゃ?》

「真方位2-0-0方向に深海棲艦反応がでてる。利根たちの電探には映ってる?」

《いんや、映っとらん。きれいなもんじゃの……サンポール号の電探には映っとるかのぅ?》

「こっちもクリア……とりあえず現状を維持。今から阿武隈と龍鳳たちを下ろすからそうしたら偵察機をだそう」

《それじゃ間に合わないよ!》

 

 無線に声が割り込んだ。

 

《私なら走って見てこれるよ!反応だけ見たら帰ってくるから!》

「島風、一対多数になるのが確定してる。貴重な戦力を分散させたくない」

《大丈夫! 逃げ切れるから。だって早いもん!》

 

 無線越しのハイテンションな声が動く。彼女を示すマーカーが油槽船から飛び出した。

 

「そもそもまだ実験艦の域をでてないんだろう?」

《信じてください! 負けませんよ!》

「あっ! こら勝手に飛び出さないで!」

 

 島風が無線を切って走り出す。中継器の戦術リンクも応答がない。島風を示すレーダーマーカーは生きているから行方不明にはならないだろうが、正一郎の指示を全く聞かない気だ。

 

「龍鳳! 急いで偵察機だせる?」

《あと……あと5分待ってください! いま用意してます!》

「急いで! 島風が勝手に飛び出した!」

《へ? あ、わかりました! 急ぎます!》

《このチャンネルか……! こちら中部太平洋第一作戦群第三分遣隊司令、月刀大佐。合田少佐だね?》

 

 無線に男の声が割り込んだ。……おそらく若い。

 

「こちら、えっと530艦隊指揮官、合田少佐です。月刀大佐どうぞ」

《やっとつながったか。状況は? まだ艦隊は無事だな?》

「はい。まだレーダーでも敵影を確認できていません。そちらの部隊では……」

未発見(ネガティブコンタクト)だ。CTCのトラッキングを信用するなら君たちの艦列から見て方位2-0-0の距離27000。こちらが予測位置目指して割り込みをかける。輸送船団は進路そのまま速度を限界まで上げてほしい》

 

 中継器にいくつか情報が追加される。おそらく月刀艦隊の情報だ。

 

《おそらくその近海には敵の潜水艦がもう潜んでいるはずだ。もうそこはキルゾーンだと思った方がいい。軽巡駆逐を艦隊から離すなよ。一発でやられるぞ》

 

 それを言われて正一郎は艦隊の情報を確認する。艦隊から半径半キロの中に島風を除くすべての艦がそろっている。問題は潜水艦がいるかどうかだ。アクティブソナーを打てばわかるがそれは同時に相手に正確な自分たちの位置を教えることになる。うかつに取れる作戦ではない。

 

「わかりました。今島風が敵艦隊の予測される方向に一人で走っちゃってるんです。こちらでもトラッキングしてますが……」

《了解、島風を捕捉(レーダーコンタクト)した。彼女はこちらでなんとかする。あと22分でそちらに538TSqの第二小隊が合流する。それまで耐えろよ》

 

 そういって無線が切れた。

 

「少佐殿、どう回します?」

 

 声をかけてきたのはこの船の船長だ。濃いあごひげを蓄えた初老の男性だ。

 

「両舷強速で進路を維持してください。対潜見張りを厳にして最短で走り抜けます」

「了解だ。サンポール号よりアルバレス号、速度を上げる。進路そのまま両舷原速黒30」

《進路そのまま両舷原速黒30、よーそろー》

 

 わずかだが船のエンジンの音が変わる。白い航跡はわずかに大きくなる。

 

《司令官、用意できました!》

 

 阿武隈の無線が飛ぶ。

 

「空母の二人は?」

《あと2分待ってください!》

 

 阿武隈の反応を示すマーカーが現れ、オンラインを示す。

 

「こちら530艦隊指揮官、合田少佐。現時点をもって旗艦機能を阿武隈に預けます。水雷戦隊は船団を囲むように位置取りをしてください。潜水艦の雷撃の可能性があります。利根と筑摩は進路2-0-0に向かってください。538のサポートに入ります」

《こちら利根、悪いが意見具申させとくれ。いま少佐の中継器は首かけ型の簡易中継器じゃろう? それならウェークの月刀大佐に水雷戦隊以外の指揮を預けた方が確実じゃないかのぅ?》

 

 そもそもサポートせんでも月刀の艦隊ならなんとかするじゃろうしと利根は続けた。

 

「――――――わかった。空母艦隊の指揮権を移す。利根たちはまだ僕の指揮下にいてくれ。利根・筑摩は転進2-0-0……530合田より、538の月刀大佐、応答願います」

《こちら538月刀、クリア&ラウド》

「龍鳳と大鳳の指揮権を渡していいですか?」

《了解、龍鳳と大鳳の指揮権を受け取る。龍鳳・大鳳、応答せよ》

《こちら龍鳳、あと30秒で海に出れます》

《こちら大鳳……あっ、ちょっと待ってください艤装が引っかかって……》

《大鳳焦らないでいい。龍鳳、先行して海上に出てくれ、艦載機は今何が飛ばせる?》

《九七艦攻7機、零戦二一型12機が即時発艦可能です》

《艦戦を優先して発艦、6機を船団上空で直掩、残りの艦戦は俺にコントロールを渡してほしい。艦攻は敵の状況がわかるまで直掩のそばに置いておけ》

 

 矢継ぎ早に出される指揮を聞きながら正一郎は笑う。チャンネルを切り替える。

 

「阿武隈、対潜警戒を厳に。望月は右舷側、弥生は左舷側。大鳳が後方にいるから阿武隈は前で張ってくれ」

《わかったわ》

 

 簡易中継の放つわずかな熱を感じながら正一郎はわずかに唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海面を飛ぶように走る。その後ろを小さな砲台を模して造られた“自律砲台”が三基追いかける。

 

「横須賀とはやっぱり空気が違うね連装砲ちゃん!」

 

 そういいながら島風はタービンをぶん回し海上をかっ飛ばす。速度はほぼ40ノット、長い少々くすんんだシルバーブロンドの髪を風がたなびかせて後ろに吹き抜ける。

 

「そろそろ電探に写ってもいいころなんだけどなぁ」

 

 目を凝らして前を見る。電探の感度を上げていく。

 

「お……あれかな?」

 

 わずかな感のうねり。それはやがて焦点を結び、全体像を露わにしていく。

 

「軽巡1、駆逐1、重巡2……? 巡洋艦隊の編成かな?」

 

 そういいつつ速度を緩める。こちらの電探に写ったということは相手にも捕捉されている可能性があるということだ。“最速”をそう簡単に晒すのも惜しい。適度に速度を殺しつつ相手との接敵を図る。……はずだったのだ。

 

「……え?」

 

 自律砲台の一基が警告を放った。直後に大きな風切り音。頭上を確認して慌てて舵を切った。面舵いっぱい。飛来する黒い塊は――――爆弾だ。

 

「おぅっ!」

 

 艦載機の攻撃、それを認識したころには島風のすぐ真横に水柱が立った。すぐに立つ爆炎。それが島風の白い肌を焼こうと襲いくる。舵をメカニカルリミット限界まで叩き込んで急旋回。缶は最大に改めて叩き込む。爆風よりも速く走ることなんてできはしないが、それでも危険域を脱出する。

 

「……艦載機!? 電探の情報が違う!?」

 

 空を見上げると敵機が10機ほど、島風を捉えていた。島風がいくら早いと言っても艦載機を追い抜けるような超絶性能を持っているわけではない。だがその足は他の艦を凌駕し、それは対空戦においても有利に働いていた。

 

「……連装砲ちゃん!」

 

 島風は自律砲台の制御プログラムを対空戦闘モードで固定。主砲用のユニットを搭載表しているが、対空戦にだって効果はある。そして自律砲台は艦娘自体に装備される艤装武装に比べて格段に自由度が高い。

 艦爆機が急降下してくる。島風は取り舵を一瞬当てて進路をずらしつつ機関を原速赤30へ、自分の鼻先を掠めるようにしてば黒い矢が落ちてくるがその陰から連装砲の砲火が伸びる。敵機に過たず吸い込まれ機体を散らす。島風自身はその隙に回頭した。進路は2-0-5、敵艦隊を捕捉した方向だ。

 

「連装砲ちゃん、それくらいでいいよ! ついてきて!」

 

 最大船速、40ノットで海面を“飛ぶ”。その横を自律砲台が並走し、向かいくる敵艦載機に向けて弾をばら撒いていく。

 

「……こうなるなら対空砲もってくるんだったかな~。でも遅くなるし……」

 

 悠長なことを考えているようだが、その中でも島風はランダムに舵を切り敵の爆撃機の狙いを外していく。見たところ三機が艦戦、艦爆隊の直掩機。残りが艦爆隊。2機が爆撃済みということは、この攻撃隊ができる爆撃は最大で5回ということになる。連装砲ちゃんもふくめると4つの目標に攻撃するには数が足りない。おそらく今味方の空母が艦載機の発艦作業を進めているはずだ。第二次攻撃隊が来る前には艦載機の直掩が来るだろう。

 

「……でもそれを待ってるのもつまらないもんね」

 

 右のつま先でピボットターンを決めるようにくるりと後ろを向く。その動きに三基の自律砲台も連動する。動きがわずかに鈍重な艦爆機を目がけて砲撃が4線、当たったのは一つだが十分だ。それを横目で見つつもそのまままた進行方向を戻す。敵戦闘機の動きに合わせて右舷側に2機回していた自律砲台の一基を後方に回しつつそのまま左舷へ、航跡が滑らかに交差し、砲戦の主体が左舷に写る。

右舷側の低空に影が落ちたことを電探が示した。雷撃機にしては高く、爆撃機には低い位置、数1。

 

「……直掩おっそーい!」

 

 高速で迫ってくる機体が翼の先から雲を曳き、敵戦闘機のすぐ上を高速で横切った。直後に敵機が爆散する。翼端から伸びる白い線が絡み合いながら反転、それを見上げた島風は太陽の眩しさに目を細める。太陽に飛び込んだ飛行機雲はすぐに飛び出して、敵の航空隊に真上から文字通り飛びかかる。敵の艦戦が瞬く間に落ちていく。

 蜘蛛の子散らすように敵の艦爆が四方に散っていくのを見届けるとその機体……テイルコードからして龍鳳の艦戦隊だとわかる……が低空で島風の横に並んだ。失速直前の速度まで機速を落とし、それでもわずかに島風を追い抜くような速度で並んだ艦戦の制御部がわずかに光った。

 

「……発光信号?」

 

 数字の羅列、周波数だろうと思いその数値に合わせる。周波数帯域からして軍用通信。

 

「こちら530艦隊所属、DD-SK01“島風”」

《中部太平洋第一作戦群第三分遣隊司令、月刀だ。やっとつながったか。戦術リンクはちゃんと入れてくれよ頼むから》

「対応がおそいんだもん!」

《だからって命令無視していい理由にはならんぞ。……敵は軽空母1、重巡1、軽巡1、駆逐艦1、潜水艦については不明だ。制空権は優勢、あと15分で掌握できる。動けるか?》

 

 島風はニヤリと笑い、マスターアームを一瞬切って、すぐにオン。戦術リンクをしている司令官ならこれでわかるはずだ。

 

《転進2-0-0、両舷強速。もうすぐ大鳳の艦戦が追いつく。直掩に3機つける。行け》

「りょーかい!」

 

 島風は進路をわずかに変えた。

 

「……いくよ!」

 

 島風の声に呼応するように飛び出す自律砲台。速度を上げる。

 

 

 

 戦の海へ、航跡が一つ飛び込んだ。

 

 

 




さて、艦娘リクルートアンケートの結果が出そろいました。ついでに部隊の配属先も先に公開しておきます。

国連海軍極東方面隊中部太平洋第一作戦群第三分遣隊
指揮官:月刀航暉大佐
 第532戦隊(532Sq)
  利根
  筑摩
 第535航空戦隊(535CVSq)
  龍鳳
  大鳳
  若葉
  初霜
 第538水雷戦隊(538TSq)
  電
  天龍
  龍田
  暁
  響
  雷
  島風

国連海軍極東方面隊中部太平洋第二作戦群第五分遣隊
指揮官:合田正一郎少佐
 第551水雷戦隊(551TSq)
  阿武隈
  睦月
  如月
  弥生
  望月


……駆逐艦が想像以上に多いですね。
さて、キャラを描き切れるのか心配ですがこれで行きます!

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は早めに投稿できるように頑張ります。

それでは次回お会いしましょう。

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