艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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カンのいい人、アーマードコア知ってる人はタイトルでピンとくるでしょうか?

はい、ネタ回です! 短いです! いつにもまして駄文です!

それでは、抜錨!


第14話_試験・社長

 

 

「月刀中佐」

 

 司令官執務室に顔をのぞかせたのはハルカだ。工廠から直行したのだろう。オイルで汚れた作業着の袖を揺らして敬礼を送る。

 

「どうした? なにか壊れたとかか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど……すこし時間よろしいですか? フェアリィたちが荒ぶっちゃってよくわからないもの作ってしまいまして……」

「? どれ」

 

 艤装の修理や改装を主に担ってくれている妖精たちだが、兵装の生産、開発も行える。艦娘を建造するには大規模なシステム構築が必要なためウェーク島のような小規模前線基地では行えないが、兵装開発に必要な装備は整えていた。その土地の妖精の性格や特徴の影響を受けるのか、場所によって出来る装備が異なるとという特徴のために、「指揮官は一定数の開発を行わなければならない」と軍規則まで制定して開発に励ませている。

 一応艦娘が装備できるもの……砲や電探やソナーの強化システム、魚雷、果ては安定性の強化を図るバルジキットなどができることが多い。……そう、多いだけで絶対ではない。「妖精(フェアリィ)が荒ぶる」と人間や艦娘が全く意図しないものを作ることがあるのだ。

 

 そもそも成功する場合だけではなく何もできないこともある。鉄と油と火薬にボーキサイトを投入して、どうやったら綿のような物体ができるのか正直理解に苦しむのだが、よくある話である。艦娘が装備できないものを作ることもあるしどう見てもカービン銃にしか見えないような陸軍装備が飛び出すこともある。まれに使用用途不明なトンデモ兵装を作ることもある。

 こういうことを防ぐためにハルカのような妖精とコミュニケーションを取れる人材を特務士官として徴用し妖精との橋渡し役を担ってもらうのだが、特務士官も抑えきれないこともままあって、今回もそのパターンなようだ。

 

「……それで、これができた、と」

「にゃはは……」

 

 今日の工廠担当艦(艦娘にもシフトがあるのだ)の睦月がどこか引きつった笑みを浮かべていた。小柄な睦月の身長の約2倍強はあるだろうか?全長3メートルオーバーの巨大なカノン砲ができていた。

 

「これ、使えるのか?」

「一応主砲マウントと規格統一されているので載せられないことはないですね」

「そもそも水雷戦隊でこれ保持できるのか?」

「暁型なら重量的には魚雷も主砲も全廃してこれだけ積めばなんとか浮いてられるかなってところです。天龍型だと機銃が精一杯でしょうし速力も犠牲になるし実用的じゃないですね」

 

 それを聞いて航暉は頭をかいた。

 

「妖精さんは『・ワ・<しゃちょうほうはおとこのロマンです!』とか言ってますけど……」

 

 なんだかわけのわからないこと言っている妖精は放っておくとして、これどうしよう?

 

「……たぶん報告例がないから横須賀の艤装研に送付になるかな? 明日補給艦が入港するし、持って帰ってもらうか」

 

 射程によっては戦艦クラスの艦娘が使えるかもしれない、と言いながらそれを持ち上げてみる。大の大人でも持ち上げるのがやっとで生身の人間では撃つこともできない代物だ。艦娘に使ってくれないとただの無駄になってしまう。

 

「おーい、いたいた。訓練計画なんだけど……なんだそれ?」

 

 訓練計画の改善案を持ってきたらしい天龍が工廠をのぞき込んでいた。執務室にいなかったので探しにきたらしい。

 

「……工廠担当艦の睦月が新兵器の開発に成功してね。その真価を確かめるためにこれから横須賀に送る手配を……」

 

 口を開いてから航暉はしまったと後悔した。目の前の軽巡は最新鋭とか世界基準とか“スゴそう”なもに目がない。

 

 

 新兵器という司令官の言葉

 目の前には黒光りする大ぶりな砲

 これから横須賀に送るような珍しい代物

 

 

「なぁ……試験だったらここでやってもいいんだろ? 送る前にデータを少し集めた方がいいんじゃないのか? 開発者の睦月にこの砲の雄姿を見せてあげないとかわいそうじゃないか」

 

 おもしろそうだから使わせろ。目は口ほどにものをいうとはまさにこのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、正確には1455。ウェーク環礁の一部であるビール島にいくつか影が伸びる。

 

「……暁、さすがに装備が勝ちすぎてるだろ」

「ちょうどいいに、決まってる、じゃない……!」

 

 天龍のあきれた声に移動だけでもう息が切れている暁が答える。

 

 あのあと、近海警備から帰ってきた暁が例の兵装……妖精たちは社長砲だのオイガミだの言っていた……を見つけ、テスターをやると言って引かなかったのである。レディの自覚はどこへやらと航暉がつぶやいていっしょに警備に出ていた雷が「平常運転ってことよ」とコメントしたため、引くに引けないことになったということもある。

 

「レディなんだから、これくらい、当然……」

 

 主砲マウントに巨大な砲を乗せているのだが、そのマウントの位置が問題だった。特Ⅲ型駆逐艦艤装ユニットは腰から背中にかけて集中して機器が配置されている。足元にあるのは浮力を得るための力場発生装置や推力制御ユニットにソナーなど……暁だけは足元に横揺れ(ヨーイング)抑制用のフィンスタビライザー兼用防弾版があるが、残りはすべて上半身に集中している。その中でも主砲や高角砲、対空装備などに使用する主砲マウントは右肩の後方に「のみ」位置している、ここに全長3メートルを超す砲という鋼鉄の塊を乗せたらどうなるか。

 当然、転覆の危機となる。ただでさえ重心が高いのだ。トップへヴィに加えて左右非対称ではいくらフィンスタビライザーを使っても限度があるのだ。移動中は砲を畳んで回転させればある程度重心をコントロールできるだろう。だが煙突が邪魔で完全に重心を固定できないのが悩ましいところだ。とにもかくにも駆逐艦にこれを積むのは問題だらけだった。

 

「友鶴っても知らないぜ?」

「縁起でもないこと、言うなぁ……っ!」

 

 それでもなんとか射撃訓訓練レンジまでたどり着いた。周りは上空も含め立ち入り禁止になっているため遠慮なく砲撃ができるのだが今回はわけが違う。妖精が作ったどういう威力があるかわからない謎兵器なのである。侵入禁止エリアを普段の20海里から45海里に拡張している。そもそも漁船などが海に出なくなって久しいし、ウェーク島は絶海の孤島で船なんてまず来ないとはいえ念には念をいれる必要があった。

 

「こちら暁、指定位置に到着よ!」

《ウェークオペラ了解、こちらでも確認した。観測班は状況をレポートせよ》

 

 無線の奥から航暉の声が聞こえる。ウェーク島の北端――ビール島と狭い水路を造る小さな岬だ――に止められた小ぶりなトラックの荷台で、きらりと双眼鏡が光る。移動指揮車を駆り出して航暉も目視できる位置に出てきている。

 

《観測Ⅰ班、龍田・如月両名ポイント到着よ~》

《観測Ⅱ班、響・雷。いつでもいいよ》

「保安班、天龍・睦月。準備万端だ。ミスっても受け止めてやるから頑張れよちんちくりん」

「だぁれがちんちくりんよ!」

 

 振り返ろうとしたところでバランスを崩しかけて慌てる暁を見て天龍たちは少々不安になる。

 

「さっさと始めましょう!」

《了解……ウェークオペラより各隊へ。これより兵装試験、イベントナンバーWT0814773を実施する。武装の展開を許可する》

「了解! 暁、展開開始するわ」

 

 折りたたまれていた鉄の塊が展張される。艤装にうまく重量を乗せているとはいえ、肩の上からバカでかい砲身を伸ばすとふらふらと揺れる。

 

「く、うわっ……ととと。こちら暁、展開完了!」

 

 本当に完了かよ……。とあきれる声が後ろから聞こえるのを暁は無視をした。

 

《了解、各員耐衝撃姿勢用意、暁、……発砲を許可する》

 

 直後にまぶしいほどの爆炎が閃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入渠報告書より抜粋

第一補修ドック

対象艦;DD-AK01“AKATSUKI”

補修内容上部武装マウント交換

艤装接続部修復

修理時間:145分(艤装のみ)

 

「ぐすっ……いけると思ったのになぁ……」

 

 風呂場でまだ鼻をすするのは暁だ。発射の際の強烈な反動で見事に吹っ飛ばされたのが約1時間前である。珊瑚の砂浜に半分埋もれてひっくり返ったところを天龍たちが慌てて掘り起こして事なきを得た。

 

「まったく、死ぬかと思ったじゃない」

「でもやりたいといったのはお姉ちゃんなのです」

「電に言われなくても……わかってるけどさ」

 

 隣で膝を抱えるように温もっている電にかるく体重を預けてみる。れでぃにだって休息が必要だ。今ぐらい甘えてもいいのかもしれない。

 

「装備、明日には横須賀行きかぁ、リベンジマッチは無理そうね」

「機会があってももう暁お姉ちゃんには撃たせないのです」

「即答する必要ある?」

「即答しないとする気になるにきまってるのです」

 

 そんな会話をしながらゆっくりと湯船につかる。それが許される束の間の平和。

 明日には深海棲艦の大攻勢が押し寄せるかもしれない。明日には誰かがいないかもしれない。それを艦娘は肌で知っている。船の記憶でも、艦娘の記憶でも知っている。だから、いまこうやって休むのだ。

 

「次のリベンジじゃ使いこなして見せるんだから!」

「絶対にやらせないのです!」

 

 勢いだけが乗った舌戦が始まる。きっと明日には忘れてるだろう舌戦だ。それがこんなに心地いい。

 

 

 どこか明るい気持ちのままで風呂場に姦しい声がこだました。

 

 

 

 




日常回、もう少しだけ続けます。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
それでは、次回お会いしましょう。

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