艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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何とか完成、コラボらしくないのはもはやお約束になりつつありますね……
りょうかみ型護衛艦先生ごめんなさいシリーズ、開幕(?)です!

それでは、抜錨!


ANECDOTE028 守れるか、彼女達を

 

「それで、本当に景鶴を出すのか?」

 

 高峰が航暉にそう聞いた。夜の帳がおり切ったが、国連海軍パースには煌々と明かりが灯り、窓の外に停泊する“あすか”を照らしていた。伊豆諸島や硫黄島への補給物資を乗せた輸送艦と民間からの借用タンカーなどが出港していく。海面近くで揺れる赤と緑の航海灯は艦娘のものだろう。

 そんな光景を目の端で見ながら航暉は廊下を進む。

 

「それをお前が聞くのか、高峰。グラウコス対策で影のトップを務めるお前が」

 

 白い詰襟を飾緒が叩く。一際大きく揺れた銀の飾緒は高峰のものだ。

 

「たしかにまだグラウコス、そしてその裏にいるであろう誰かにはまだ俺たちが『トンネルの出口』が景鶴だと気が付いているとは伝わっていないだろう。ここで景鶴を下げればばれる可能性もある。だが、出すリスクは高すぎるだろう」

「だからこそ、お前と委員長がそっちに付くんだろ?」

「……買いかぶりすぎだ」

 

 溜息交じりにそういって、航暉の方を見る。

 

「景鶴は艤装とのマッチングが不完全だ。左腕の震えと痛みの停止措置ができない状況だ」

「……幻の痛みか」

「生身の記憶は義体になっても、生身の身体を求め続ける。義体との拒否反応で発生する幻の痛みに酷似している。だが、ありえるか? 水上用自律駆動兵装は“艦としての記憶”と“電脳の元になった人格”を合成し身体の記憶がない状況で義体を得る。彼女たちは生身の記憶は持ちえない」

「景鶴の場合の個の情報(アイデンティティ・インフォメーション)として入力されているものがなんだかわからないがな。景鶴の“艦としての記憶”は存在しないはずだ。瑞鶴のものをコピーレントして使用していると聞いているが、ファーヴニル生化がどんな形でそれを落とし込んだのかわかったものじゃない」

「わかっているなら、なぜ下げない?」

 

 高峰が足を止めた。一歩先に進んで、航暉が振り返る。金の飾緒が揺れた。

 

「……高峰、俺たちの敵はなんだ?」

「……」

「深海棲艦だろう。たしかに景鶴を下げるメリットもある。だが優先順位を間違えるべきじゃないと、俺は思う。AL方面では装甲空母を揃えておきたい。可能ならば夜間攻撃が可能な状況に持っていきたい。そのためには景鶴が必要になる」

「それで誰かを沈めてから同じことが言えるのか?」

「さあな。覚悟はしているつもりだが、それで乗り切れるかわからない。だから手を尽くして守る。そして戦果をあげることが部隊の皆を守ることにつながっていく。簡単に手を出せないと言わせることで皆の居場所を作る。そのためだ」

 

 そういって航暉は笑った。

 

「いつも通りのオペレーションだ。味方を死なせず、相手とせめぎ合って、最良の結果を持ち帰る。そのためのオペレーションだ。そのためには高峰の電子戦能力が必要だ」

「……結局俺頼みか」

「人間からの横やりは最小限にとどめておきたい。だから期待してる」

 

 高峰が肩を竦めて歩き出す。目的地の前まですでに来ていた。―――――第一電脳試験管理室。そこのドアを開けた。真っ白い壁の部屋に設えられたコンソールは大量のタッチパネルで埋まっていた。病院というよりは妙な研究をしていそうな雰囲気だ。そんな部屋に鎮座するオペレーターシートはQRSプラグの接続端子やら情報タブレットなどが格納されているせいでやたらとゴツく見える、その椅子の横に航暉が進むと、コンソールの奥のガラス越しに睦月が目を瞑って横になっているのが見える。病院着などではなく、いつもの制服姿だった。電脳試験のための部屋だから別に着替える必要がないからだ。

 

「新艤装とのマッチングは?」

「今日のところは睦月ちゃんで終わりだね。金剛たちの艤装改修が少々遅れ気味かな。ハードが上がってこないとソフトの調整もできないから金剛型4隻を残してる。明日以降に改装が入ってない子の調整と一緒にやるさ」

 

 渡井がゴツいオペレーターシートに座って航暉を見上げた。透明なグラスデバイスにいくつもの画面が投影されているのが見える。渡井がシートからタブレットを切り離すと航暉に渡す。

 

「12.7cm連装高角砲後期型に主砲を換装したのに合わせて対空管制系をアップデートしてある。暁ちゃんの電探とか高峰が作った統合情報を相互にやり取りしながらになるから通信規格も合わせてある。双方向でアップデートしているから睦月ちゃんのソナーデータのリンクももっと高速でできるはずだよ」

「通信規格自体をいじったのか?」

 

 よくやる、と驚嘆が混じった声色で高峰がそう言った。

 

「まぁ、フリップナイト用のシステムを流用しただけだよ。睦月ちゃんの場合他の艦のソナーを外部入力で使用できるようにした。これなら離れた位置にあるソナーを連携させてより高精度に利用できるようになる。アクティブとパッシブの両用でもっと多角的な解析ができる。電探はこれまでもこれでリンクしてきたけどソナーでやるのは初めてかも。でも潜水艦対策としては十分でしょ」

「睦月がパニックにならなきゃいいが……」

「もちろんバックアップはするし、いきなり実戦で使うわけじゃないでしょ?」

 

 航暉の心配を笑い飛ばしながら渡井は操作を続ける。

 

中央戦略コンピュータ(CSC)の支援も受けられるわけだし、少なくとも演算に関しては問題ないはずだ。あとは睦月ちゃんが感覚を掴んでくれるかどうかだけだ。最悪僕が理想郷(ARCADiA)ネットワークシステムで介入するさ。使いたくないがGUINIOL-E(ギニョール)って手もある」

 

 その言葉に航暉は顔をしかめた。GUINIOL-E――――戦域制圧用火器統合管制(GamUt of IgNItion contrOL Executer)、前線で戦う兵隊の思考を強制的に塗りつぶし、リンクの奥にいる指揮官の行動の動きをなぞらせるものだ。元は空軍で新人パイロットにエースの動きを叩き込むために使われたものだが、電脳の可処分領域を圧迫するために人間相手には(・・・・・・)使われなくなったものだ。今でも緊急時以外の使用は禁じられているし、新人の指揮官は知らない人間もいるだろう。

 

「そんな苦い顔しなくてもいいでしょ、最悪の場合って言ったでしょ? そう簡単に使わないよ。飛燕の懐刀に手軽に手を出したらいろいろ危険だしね」

「お前に任せるといろいろされそうで怖いんだが、スク水マニア」

「えー、いいじゃんスク水」

 

 渡井はそう言いながら笑った。

 

「まぁGUINIOL-E使うことはないだろうから安心しなよ、ARCADiAネットワークだけで十二分。通信規格の脆弱性も解決させたし、月刀向けに対空ソフトも組み直した。お前以外が使うとピーキー過ぎる仕様だけどね」

「……お前、やたらと詳しいな」

 

 そう言うと渡井が苦笑いに近い笑みを浮かべた。

 

「ARCADiAもフリップナイトもGUINIOL-Eもやってることは実はあんまり変わらない。要は暗号化された高規格高速通信による兵装群のリアルタイム外部管制だ。対象だったり、電脳領域のどこを使うかだったり、細かいところが違うけどね。相互利用は不可能じゃないし、通信だって突き詰めれば0と1の集合体だよ。それに、フリップナイトプロジェクトのユーザーインターフェースと通信規格を作ったのは僕だ」

「「……え?」」

 

 渡井の言葉に同時に首を傾げた航暉と高峰。その反応にどこかムッとしながらも、渡井は続けた。

 

「だから、平菱インダストリアルのフリップナイトプロジェクトでユーザーインターフェースと通信規格の開発を行ってたのは、僕。だからそれの応用プログラムを作るぐらいは余裕」

 

 もっとも管制ソフトは別の人の担当だったけど、と続けた。

 

「お前……」

「ただの変態じゃなかったんだな」

「……馬鹿にしてるよね? ねぇ?」

 

 ムッとしたままの渡井だが、最終的には笑った。

 

「でもまぁ、ここだと技術屋としても指揮官としてもやりがいがあるよ。みんな癖のある動きをするしね」

「そうか? 天龍とか素直で綺麗な動きをすると思うが」

 

 航暉がそう言うと渡井は笑って首を振った。

 

「天龍は左目が抉り取られたまま治してないでしょ。その経験とかもあってかなり独特なアイデンティティ・インフォメーションになってる。動きはきれいだけど左目庇った動きが無意識に入ることも多いからいろいろ調整入るよ」

 

 そうなのか? と航暉が聞き返すと笑った。

 

「部下の動きの特徴ぐらいは覚えておこうよ。まぁ今は高峰が直属になるのか。でも付き合いは長いんだし覚えていたほうがきっと喜ぶぞ」

「少し意識してみるか」

 

 航暉はそういって顎を撫ぜた。高峰は難しそうな表情をして考え込んでいたようだったが、しばらくして「そうだな」と頷いた。

 そのタイミングで部屋のドアが開いた。司令官三人が振り返れば息を切らして肩で息をする響が立っていた。響は電を引っ張りだすために秘書艦控え室のあたりにいたはずだ。まさか電たちに何かあったのかと皆が身構えた。

 

「月刀司令官、電と一緒に風呂に入ったというのは本当かい!?」

「はぁっ!?」

 

 飛んできた予想外過ぎる問いに航暉は反射的にそう言って、渡井と高峰が噴き出した。

 

 そんなことあったか!? と記憶を手繰ると―――――あった。月刀本家に呼び出された時にそんなことがあった。

 

「お前まで艦娘に手を出したか……」

「取り締まり対象を見る目で俺を見るな高峰っ。そもそもあれは事故だ!」

「限りなく故意に近い?」

「電の不注意で混浴露天風呂に向こうが踏み込んできたんだ! 俺に非はない」

「―――――ようこそ、変態の世界(こちらがわ)へ」

「ぶっ飛ばすぞ渡井」

 

 なんでこんなことになってるんだ、と航暉は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少しさかのぼって、司令長官付秘書艦控え室である。

 24時間365日体制で司令部には誰かが詰めているために、そのサポート役の司令長官付秘書艦の待機場所として利用されるべき部屋なのだが、現状その秘書艦が立てこもっている真っ最中だった。

 

「えっぐ……ぐすっ」

「もー、いつまでいじけてるかなこのポンコツ旗艦は」

 

 その部屋に何とか侵入した雷はそういってため息をついた。結局航暉の司令長官権限でドアのロックを解除し、代表して交渉役を任された雷が部屋に入る。航暉はドアを開けるだけ開けると、部屋の前からいなくなった。打ち合わせとかいろいろで忙しいらしい。――――限りなく言い訳臭いが。

 廊下の明かりが差し込むだけの入り口を振り返ってもう一度溜め息。それくらいの甲斐性見せなさいよ、この臆病モン。

 

「それで? そんなに恥ずかしかった訳?」

 

 そう言うとソファベッドの上で毛布をかぶって団子になっている電がさらに毛布を引き下げた。

 

「は、恥ずかしいに決まっているのです……っ」

「でも、それだけじゃない」

 

 片手を腰に当てて電の言葉を雷が継ぐと、毛布団子がピタリと動きを止めた。

 

「全く、それくらいわかるわよ。しれーかんと一緒にいるのが怖くなったんでしょ?」

「……なんでなのか、わからないのです」

 

 ほらきた、と雷は思ったが電の言葉の先を待つ。

 

「ずっと一緒にいたいのに、それが……それが怖くなってくるのです。いつまでもこのままではいられないのはわかっているのです」

「一緒にいることがしれーかんを殺すことに繋がるかもしれないから?」

 

 答えはない。それをいいことに続ける。

 

「それも違うんでしょ? 答えは――――しれーかんに嫌われたんじゃないかって思って、それを確かめるのが怖いから」

 

 合ってる? と聞いても依然沈黙。でも反応でわかる。図星。

 

「まったく。ずっと籠ってるとそれこそ呆れられるわよ?」

「わかってるのですっ!」

 

 毛布団子がガバリと動いて真っ赤に腫れた目とそれ以上に真っ赤になった頬をさらす電。

 

「はいはい、そのまま外にでましょーねー。あんたがいじけてた間にドアの修理とか書類整理とかは加賀さんが終わらせてくれてるけど、ヒメちゃん関連のこととかはあんたがいないと話にならないんだから」

「で、でも……っ!」

「そこで毛布を被り直さないっ!」

「いやっ……! 乱暴しないでほしいのですっ」

「それはこっちのセリフよっ! 暴れないでさっさと毛布を放しなさい!」

「これは必要なのですっ!」

「往生際が……悪いっ!」

 

 やめるのです――――――っ! という叫びも空しく、毛布がガバリと跳ね飛ばされた。

 

「これ暑くないの? ソファベッドも毛布もしっとりしてるんだけど。……というより電、あんたすごいことになってるわね」

 

 セーラー服タイプの制服が汗でしっとりと張り付いている。髪の毛も軽く束になり、あらぬ方向へ跳ねているものもある。毛布を取られまいと暴れまわったせいでソファベッドに敷いたシーツもぐちゃぐちゃ、雷を蹴ろうとしたりいろいろしたせいか、スカートが盛大に捲りあがって、白い何かが見えている。

 

「良かったわね、電。しれーかん見てなくて」

 

 バババッという音と共にスカートを直し、慌てて正座する電。顔が真っ赤だ。

 

「それで、本当はどうしていじけてたわけ? 青葉さんに見られたからってだけじゃないんでしょ?」

「そ、それもありますけど……高峰大佐と追いかけっこしていましたし、きっと反省してると思うのでいいのです」

「後悔はしてない感じだけどね。今まさかのトイレ掃除中よ、青葉さん」

 

 それを言われて電はちょっと笑った。青葉にとっては書類整理増量よりも下手したら辛い。青葉の場合書類整理にかこつけて電子空間にアクセスできてしまえばそれなりにいろいろできるがトイレ掃除じゃそうもいかないからだ。

 

「で、なんでしれーかんと一緒にいるのが怖くなった訳?」

「……怖い、とも違うのです。でもなんだか……」

「恥ずかしい?」

「……そうなのかもしれません」

 

 電の顔から熱が引かない。律儀に正座して打ち明けた電を見て雷は笑った。

 

「安心しなさい。とっくのとうに恥は死ぬほどかいてるんだから失うものは何もないでしょ?」

「えっ、なっ……!?」

「ごく最近だと帽子の匂い嗅いで? 北陸で一緒に露天風呂に入って?」

「やーめーるーのーでーすーっ!」

「『はっきり言っておくのです。私は司令官さんが大好きなのです』って大胆告白したのはいつだっけ?」

「あれはスキュラさんに焚き付けられて言っただけなのですっ! というよりそれ司令官さんは……?」

「んー? 高峰大佐辺りから聞いててもおかしくないわね」

「~~~~~~~っ!」

 

 わたわたと意味もなく腕を振る電。久々に妹分のこんな姿を見てなんだか気がせいせいした。最近はしっかりしすぎてたというか、努めてしっかりしていた電を見ていて心配だった分、からかいたくて仕方がない。

 たぶん航暉は電の大胆告白のことは知らないし、知ってたとしても態度を変えることはないだろう。本心はどうであれ任務の間は上司と部下の関係を保とうとして、部隊を守るように動いていくだろう。そして何よりそんなことで電を嫌いになっていくような展開にはなるまい。

 でもそれをわざわざ教えてあげる必要はないわね。と、雷は無情にも黙っておくことにした。最近は珍しくなった電のポンコツっぷりを満喫するとしよう。

 

「まぁ最初からバレバレでしょ、司令官さん司令官さん言ってずっと一緒に歩いてー。漣ちゃんのからかいも真に受けてしれーかん殴ってー」

「も、もういいのですっ!」

「まだまだあるわよー? とりあえずこれまでの恥ずかしいこと全部挙げておいてその時しれ―かんがどうしたか考えてみるとなにかつかめるかもよ?」

「そんな……っ!?」

 

 まぁ、この様子なら大丈夫かなと思いつつもいたずら心が納まらないのでもう少しからかうことにする。

 

 ちなみに、『恥ずか死』しかけた電が雷をノックアウトするまであと3分。

 

 電と司令官が一緒に風呂に入ったという部分だけ立ち聞きしていた響が当の司令官に問い詰めるのを開始するまであと30秒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五〇太平洋即応打撃群の庁舎が夜だというのに大分賑やかなのを気にしながら、井矢崎は秘書艦を務める翔鶴と一緒に夜空の元を歩いていた。夏の気配を感じる空を見上げる。

 

「……提督、気になることでもあるんですか?」

「ないわけじゃない。でも全部小さな問題だね」

 

 そう言うと井矢崎は視線を地面に落とした。極端に視線を動かした彼を翔鶴はどこか不安げに見つめていた。

 

「気にしないで……っていっても君は気にするわな」

「秘書艦ですから」

 

 答えになっているようでなっていない答えに井矢崎が笑った。どこか寂しそうな笑い顔だ。

 

「また君たちの命を掛け金にしたギャンブルを始めようとしている」

「でも、それをやめることはできないんでしょう?」

「私は軍人だからね。この国を、ひいては世界を守るために戦う。この世界の利潤の最大化が私達の役割だ。そのための駒に過ぎないよ、私も、君たちも。水上用自律駆動兵装が前線で戦わなければならない理由も、君たちが死んではならない理由も、私が戦う理由もそこに集約される」

 

 翔鶴はそれを黙って聞いていた。そう嘯く井矢崎の本心は読み切れなかったから何も言えなかったという方が正しい。

 彼が足を止める。

 

「誰かを一人を、大切な人だけを守ることは簡単だ。でも、それは軍人の仕事ではない。顔も見たこともない、市民を守るのが軍人だ。そのために、翔鶴、君たちを危険にさらす。そしてそれを私は是としている。世界平和のため、日本の安寧のため、私は君たちに命を奪えと命じて、必要ならば切り捨てる。そういう人間だよ、私は」

「……知っています。それでも私たちはあなたを信じて付いていくんですよ、井矢崎提督」

「それで殺されるかもしれないとしても?」

「何を今更」

 

 そういって微笑んだ。少しでも井矢崎が安心するようにと、翔鶴は微笑んだ。

 

「そんな指揮をしたことは一度もないでしょう?」

「そうかな?」

「そうですよ」

 

 井矢崎が笑った。それを素直によかったと思う。そう思っていたら不意に井矢崎がまた歩き出した。

 

「……でも、今回ばかりはうまくいかない可能性が出てきた」

「どういうことでしょう」

 

 井矢崎は暗闇を見据えた。その顔からどこか余裕のある色が消えた。

 

「南北アメリカ方面隊から支援の申し出があった」

「……それは喜ばしいことじゃありませんか?」

「景鶴やヒメを力ずくで奪いに来る可能性があるとしても、同じことが言えるかい?」

 

 翔鶴が息を飲んだ。

 

「今、奪われる訳にはいかない。厳しい戦いになる。――――――守れるか、彼女達を」

 

 いつもより真面目な目が翔鶴を射抜いた。翔鶴は、笑みを深める。

 

 

 

「五航戦の実力、お見せします!」

 

 

 




普通の艦隊戦を書きたいとかいってた作者……どこに行った……!
はい、また陰謀渦巻く中での艦隊戦です。どうなっていくやら

GUINIOL-Eシステムの設定はエーデリカ先生『艦隊これくしょん~鶴の慟哭~』からお借りしました。この場を借りてお礼申し上げます。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ
次回は……たぶんまだ戦闘に入らない!

それでは次回お会いしましょう。

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