艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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演習から帰って結構すぐのお話。
さて、新キャラ登場です!

それでは、抜錨!


第12話_査察・通知

 

 

 艦隊司令の仕事を想像したことがあるだろうか?

 

 艦隊や隊員に指示や許可をだす。……とんでもなく大雑把に言えばそれでいいのかもしれないが、その内容は恐ろしく多岐に渡る。……特にウェーク島基地のように特根……特別根拠地隊の指揮官と艦隊司令が兼任される場合は恐ろしく激務になる。

 

 艦隊の出撃指示、それにかかる兵站の管理、出入港の管理に財務処理、各種作戦や任務のための会議への出席に、果ては人間関係のもつれによるいざこざの仲介まで。それらを指示し、もしくは直接行い部隊が最高のコンディションを保てるようするのが職務である。そのために何百という報告を受け、書類にサインをし、戦術ネットを利用して中央への報告を上げ、会議を行うのである。日本本国とは3時間の時差があるため朝は少々余裕があるが、本国の終業時間1700JST(日本標準時17時)ぎりぎりに事案が飛び込んでくると、受け取ったウェーク島ではとっくに通常業務を終えて当直業務に切り替えた2000WAKT(ウェーク島時間20時)から書類づくりに忙殺されることになるのである。

 

「書類を主敵とし、余力をもって深海棲艦と戦う」といった人は誰だったか、まさにその通りである。

 

 

 

 

 さて、その日もウェーク島特根指揮官兼第551水雷戦隊司令である月刀航暉中佐は大量の書類に目を通していく。書類の送付先は最低でも3桁キロ離れた場所であるため、ほとんどが電子化した書類である。それを司令官用のテーブルに埋め込まれたタッチ式スクリーンで確認し、電子マーカーでサインをして、しかるべきところに送り込む。重要なものは印刷してファイリング、そうでないものはデータタグを添付してデータとして保管。基地内の書類は紙の書類が多いので実際に紙を捲り、サインをして送付、上層部に上げなければならないような書類をスキャニングして送信。指揮官としての仕事はほぼこれで潰れるといっていい。

 

「よぉ、司令官。提出した訓練計画どうなった? 許可出たか?」

 

 司令官室でその日273回目のサインを終えたころ天龍が司令官室に入ってきた。そもそもドアは開けっ放しであり、あまり礼節にうるさくない方針のためか、敬礼も何もなく本題に入る。

 

「月型コンビのほうか? それとも特Ⅲカルテットのほうか?」

「両方だ」

「特Ⅲの方は全部許可が下りた。睦月たちのは対空演習以外下りた」

「あいつらが一番やらなきゃいけない分野だろ。なんとか通せないか?」

「今エニウェトックに交渉中だ」

「エニウェトックっていうと……539航偵隊か! 千代田が相手か?」

 

 頷きながら書類にサインを続ける航暉。

 

「そうなればいいな。539が合意してくれれば早い段階で演習を組む。おそらくエニウェトックまで遠征することになるからその時の旗艦は天龍、お願いできるか?」

「もちろんだ。必ず通してくれよ!」

「善処するよ」

「それにしても……ほんとに忙しそうだな」

「さっきどっかの技師がお菓子と缶チューハイを経費で申請してた書類に辟易してたところだ。そしてこれからマーカスの給水塔の電気代がこっちの予算に紛れ込んでいた件についての喧々諤々ネット会議さ」

「お疲れさんだ。代わってやる気はさらさらないけどな」

「つれないなぁ」

 

 軽口を交わしていたが、航暉の手が止まったことで中断される。重要度の高い書類が飛び込んてきたのか、スクリーンに重要書類新着のタブが現れた。明らかに表情が冷えた航暉に怪訝な顔を向ける天龍。

 

「……どうした?」

「……、電を呼んでくれるか?」

「戦隊総旗艦が出なきゃいけない話題か?」

「…………明日緊急査察が入る」

「はぁ!?」

 

 晴れ渡ったウェーク島の日差しだが、嵐の予感を漂わせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急査察、ですかぁ……」

 

 お昼のスパゲティ・ミートソースを食べながら睦月がのんきにそういった。

 

「なんでそんなことになったのでしょうね~。まぁ、理由一つだと思うけど」

「下村准将電脳汚染事件、ね……」

 

 如月がそういうと天龍が頷いた。電たちも目を伏せる。

 

「……嫌がらせ、だね」

「? 響、どういうことよ」

 

 ミートソースを口の端につけた暁が響に聞き返した。ミートソースに気が付いた雷がそれを拭こうとして押し合いになるが無視して響が口を開く。

 

「第一作戦群っていう攻勢の部隊に領土防衛を主任務にする第二作戦群が競り勝っただけでも大問題なんだ。それも戦艦2隻を中核とした機動艦隊が格下の水雷戦隊相手に昼間の1時間足らずですべての艦を武装解除されるっていうのはたぶん前代未聞。少なくとも私は聞いたことがない。それを艦隊司令に就任して間もない中佐がやってのけたってことは上の人にとっては面白くないだろう?……抜かされる前になにか脅迫できるような情報をつかんでおいて言うこと聞かせたいって魂胆があると思うよ」

「……ひどい話だ」

 

 天龍が吐き捨てるようにそういうと「そうかしら~」と上機嫌な龍田。

 

「それは上層部が月刀司令を無視できなくなってきてるってことでしょ~? それだけ有能な指揮官に仕えてるってことになるわよね~? あとこのタイミングで監査を入れる意味があるとすれば、はい電ちゃん」

「ふぇっ?……えっと……司令官さんへの牽制、なのです?」

 

 電がスパゲティを慌てて飲み込んで恐る恐る口を開くと、龍田が満足げに頷いた。

 

「そういうことねー。さすが旗艦を任されるだけあるわね~。月刀司令は結構独特な艦隊運用をするけど、しっかり成果を上げている。かつ軍閥生まれでバックボーンもしっかりしてるから、あっという間に上層部に食い込んでいく可能性がある。上層部にとってこれほど煙たい人間はいないでしょうねー。だから彼を認めないって意思表示をするためにこんな抜き打ちに近い査察を組んだ。そんなところかなぁ」

「……龍田さん、頭いいのね……」

 

 雷が感心したように呟いた。それを聞いて笑みを深める龍田。

 

「あなたたちより長く海軍にいるからね~。少しだけお姉さんなだけよ。あと天龍ちゃんのせいかなぁ」

「俺が何をした、龍田」

「天龍ちゃんは誰かがフォローしないと消されるわよ~、上から」

「え……?」

 

 さらっとそんなことを言って、笑った。

 

「それはともかくとして……」

「おい龍田。ともかくで置いておくなよ。俺が何をした。そして龍田は何をしてる!?」

「禁制品とか持ってる人いるかしら~? いるなら午後の訓練の時にでも海中投棄しときましょうねー。あと、私的な日記帳とかつけてる人はしっかり隠しといたほうがいいわね。艦娘は人じゃないから思想統制を受けるし司令官以外の不平不満は処罰の対象になるわよ~」

「司令官以外ってどういうこと?」

「上官の悪口に優劣はないわよねぇ……」

 

 睦月が首をかしげると、如月もはてなマークを浮かべる。それに答えたのは響だ。

 

「そこから司令官を脅す糸口を探すためさ。そのために見逃してくれる」

「それって結局見つかったらだめじゃない! そもそもしれーかんの悪口なんて書いたことないけど!」

 

 椅子を蹴り倒さんばかりの勢いで雷が立ち上がる。そのまま周りを見回した。

 

「しっかりミスなく査察を終えるわよ! とくにクマさんパンツのそこのレディ」

「ブフォッ!……ケホッ、ケホッ……!」

 

 飲んでいた水を思いっきり噴出した暁は顔を真っ赤にしてわなわなと震えだした。

 

「えっ、なっ、あっ! 如月!」

「私のせいじゃないわよ? 交戦記録は公開されてるし」

 

 さらっとそういいながらデザートのヨーグルトを涼しい顔で食べる如月。顔を真っ赤にして机をバンバン叩く暁に、にやりと笑って彼女の肩を叩く天龍。

 

「でも鬼神のような戦い方だったよなぁ、くまさんレディ・暁?」

「綾波ちゃんにも負けない活躍ぶりよねぇ、くまさんレディ・暁ちゃん~?」

 

 軽巡コンビがいじわるな笑顔を向ける。さらに赤くなる暁。今なら額で目玉焼きを作れる自信を持った。

 

「でもくまさんレディ・暁お姉ちゃん、パンツの柄がばれたからってロサ弾乱射はあんまりだと思うのです」

「おしとやかさが足りないわよね。くまさんレディ・暁姉ぇ、ちゃんと謝った?」

「う、うぅぅ! おっぱい魔神雷も魚雷フルスイング電もそんな生暖かい目で見るな! あんたらの姉よ! 一番艦なのよ! ネームシップなのよ!」

「そうだね、レディレディ」

「響もそんな目でみるなぁ!」

 

 姦しい昼休み、午後の航海訓練まであと30分である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小型のリアジェットが滑走路の上をタキシングしている。司令部棟のすぐ前にある航空機の駐機場で第二種軍装に制帽を抱えた航暉が立っていた。横には特Ⅲ型駆逐艦姉妹と龍田が控えていた。天龍と睦月たちは海上で近海警備に出ている。

 

「そんな緊張しなくても大丈夫だぞ。対応は基本的に俺だから」

 

 航暉はそんなことを言いながら回頭するリアジェットをハンドリングするハルカを眺める。飛行機に乗ったことはなかったというのだが、なぜか簡易的にではあるがグラウンドハンドリングライセンスを取得していたので、航空機がやってくるときはハルカに頼ることになっていた。

 

 飛行機が止まると、すぐにエンジンがカットされドアがすぐにあいた。備え付けのタラップが伸ばされるとすぐに影が飛び出してくる。あまりの速度に艦娘たちが反応するが、航暉が目で抑えた。

 

「恐縮ですっ! 今話題の551水雷戦隊の指揮官、月刀司令ですねっ! 特設調査部所属の重巡“青葉”ですぅ! 一言お願いします!」

「……遠路はるばるご苦労様、青葉特務官。国連海軍極東方面隊中部太平洋第二作戦群、第551水雷戦隊司令の月刀航暉中佐だ。お疲れでしょうがよろしくお願いする」

「聞いてた話だと階級に拘らないフランクな指揮官だとお聞きしてたんですが……もしかして緊張してます?」

「お前がいきなりそんな至近距離に飛び込んだら警戒もされるさ、パパラッチ」

 

 そういいながらタラップを降りてくる男性を第551水雷戦隊のメンバーはまじまじと見つめた。かなり細身で軍の制服とは少々ミスマッチな印象を受ける。黒の髪をオールバックに固め、横長のメタルフレームの奥には猛禽類を連想させるような金色がちな瞳を向けた。

 

「国連海軍極東方面隊特設調査部第六課、高峰春斗少佐だ。出迎えご苦労様」

「遠路はるばるご苦労様でした、高峰少佐」

 

 司令官同士で敬礼を交わす。それぞれの指揮官に合わせて艦娘も敬礼を交わした。どこか不穏な空気を感じたのか特Ⅲが不安そうに航暉の方を見た。

 

「……ぷっ、くくく……」

 

 いきなり高峰が笑い声を漏らす。さらに警戒の色を深める第551水雷戦隊の艦娘たちだが、航暉も笑いをこらえるのを見て盛大に?を浮かべる。

 

「……っはぁ! 久しぶりにもほどがあるぜ、カズ!」

「誰が来るのかと思ったらよりによってお前か、高峰。そういうお前はさらにガリガリになってないか?」

「司令官さん、お知り合いなのです?」

 

 もう見て明らかだが一応確認をとる電、航暉は明るい笑顔で答える。

 

「あぁ、国連海軍大学広島校(UNNStaC-Hiroshima)の同輩で大学史上まれにみる問題児だ」

「お前にだけは言われたくないぜ、カズ。CQB訓練で教官の毛根を死滅させたのはどいつだ?」

「銀蠅のためにセキュリティハックして機動隊を呼び寄せた馬鹿に比べればましだろ」

 

 ポンポン飛び出すいかにも危ない話に顔が青くなっていく駆逐艦ズ。それに気が付かないのか会話を続ける男二人。

 

「お前が来たってことは指示を出したのは横須賀か?」

「まぁな。中部太平洋総司令部からの依頼に中路中将が少々色を加えた」

「あの狸……勝手に貸を増やしやがって……」

「それだけ心配されてんだよ。カズ」

 

 互いに笑ってから改めて表情を引き締めた。

 

「高峰少佐。短い間だが、しっかり基地を見て回ってほしい」

「当然ですよ、月刀中佐。しっかり公平に、評価させていただきます」

「それではこちらへ、とりあえず荷物を置いて頂き、それから執務室へどうぞ」

 

 予想外の展開に目を白黒させる駆逐艦たちの後ろで龍田が感情の読めない笑みを浮かべていた。

 

 




はい! パパラッチ青葉の登場です。
最近第六戦隊任務でを使って、第六戦隊全員好みなキャラだと気が付いた今日この頃です。これまでなんで気が付かなかったし。

魚雷フルスイング電
おっぱい魔神雷
くまさんレディ暁
……響どうしよう?
そんなことを考えつつ今日はここまで。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
このペースだと次回は月曜ですが、北陸のねぐらから名古屋に長時間遠征に出航するため、更新できるかどうかわかりません。更新を楽しみにしてくれている方(がもしいれば)、申し訳ないです。

それでは、次回お会いしましょう。

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