艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
リアルが修羅場過ぎて書けてませんでした。
それではパラオ艦隊演習編続き行きましょう。
それでは、抜錨!
砲撃は一瞬で勝負がついた。
「―――――さすが、ですね」
苦し気にそう言った扶桑の右肩がペイント弾で真っ青に染まっていた。
「そう言う扶桑も、なかなか手強かったネー」
金剛が被弾判定で使えなくなった一番主砲をシャットダウンしながらにやりと笑った。判定は扶桑大破、金剛中破。――――――金剛が競り勝った形だ。
「……まさか、その艤装背負って大暴れすると思ってなかったネー。“ジェンガ”の扶桑が今やジャイロ持ちですカー?」
「ふふふ、トレーニングのおかげよ? 貴女も東郷大佐についてみるといいわ」
「それは必要ないネー。私にはDarlingがもう決まってマース!」
――――――ふーん
金剛の後ろから極低音のひっくい呟きが走る。直後に耳の真横を砲弾が駆け抜けた。慌てて飛び退く金剛。
「相手がいないのは私だけというわけね……」
「足柄……ッ!」
紫に近い服を身に纏った茶髪の女性が金剛をぎらついた目で睨んでいた。笑みを浮かべているものの、その目は一つも笑っていなかった。
「目の前の扶桑も、五月雨ちゃんも東郷大佐にべったりだし、この前に補給とかの応援に来てくれた皐月ちゃんも司令官ガッツリ捕まえてるし、あんたら艦隊ももうすでにカップル成立状態だし……? ふふふ、それはそうよね。愛の料理のレパートリーが揚げ物限定だったり、バトルジャンキーってあだ名ついてたりする女なんて誰も見向きもしないわよねぇ……!」
そんなことを言いながら再装填を終える足柄。
「ア、足柄……?」
「“ガッツリ系で行くから一歩引かれるんだよ”? そんなことわかってるわよ! それでもこれが私なのよ! Born This Wayなのよ! こうなる運命の下に生まれてきたのよ!」
「ヘーイ、足柄サーン?」
「もういいわよ、このまま私は一人で行くわ。というわけでリア充候補の貴女は沈みなさい!」
「理不尽ッ!」
金剛の叫びを無視するかのように足柄が発砲。それを金剛が避けたことで後ろにいた扶桑の額にヒットした。
「はうっ!?」
「な、なに
「そいつはリア充確定だからもう関係ないっ!」
そう金剛に飛びかかってくる足柄。その後ろから「あぁ、空はあんなに青いのに……」という呟きが聞こえた気がした。だがそれを確認する間もなく、足柄が距離を詰めてきた。脇差しサイズの竹光がいきなり目の前に突きだされ、金剛は慌ててバックステップ。
「なんでそんなもの持ってるネー!?」
「
下段から喉笛目がけて繰りだされた突きを躱し、さらに間合いを外そうとするがそれ以上に足柄の動きが早かった。
「シャッ!」
突きの動きを殺さないようにしたままそのまま得物を右肩側に振り上げる足柄。その動きは担ぎ胴か。
金剛は相手の右側に回り込むように海面を蹴り込んだ。相手の刃物に向かっていくような動きだ。――――刃物との対峙する場合、相手の刃物がない方向に逃げたくなる心理が働くことが多い。右手で刃物を持っているなら左側へ逃げたくなる。しかし接近戦を強いられる場合、それは悪手となる。振り下ろされる側に逃げることは刃物に初速がつき、相手にとっては振り抜きやすい位置になるからだ。それを金剛は熟知しており、そうはしなかった。
金剛は足柄の振り上げられたその手首を掴むようにして相手の動きを封じる。
「……へぇ、やるわね」
「お褒めの言葉どうもネー」
至近距離から冷たい笑みの押収が始まる。さっきも似た状況になったなぁとどこか冷めた心で思い出す。このつばぜり合いから離れた瞬間でおそらくまた勝敗が決まる。
……はずだった。
「足柄さん金剛さんどいてください――――――――っ!」
「ちょっ! 名取っ!?」
足柄の後ろから艦載機に追われた名取が半分涙目で二人に向かって突っ込んでくる。両脇から雷跡、どけと言われても、どいたら魚雷が海の中からこんにちはである。
「――――――ふっ」
金剛はつばぜり合いを解除すると、そのまま足柄の肩に手を置いて後ろを向かせてその場に抑えつけた。
「ちょ、アンタ何やってるのよ!?」
「模擬魚雷だから痛くないネー。そして判定は魚雷に当たった子にだけ下る――――足柄、私の盾になりなさいッ!」
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!?」
じたばた慌てる足柄をここぞとばかりに押さえつけ……そしてそこに左右の雷撃のせいで真っ直ぐにしか進めない名取が突っ込んでくる。
「お願いですから退いてくださいぃぃぃいいいいいいっ!」
「金剛放せぇぇぇええええええええええええええええっ!」
「動くな足柄ァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
三者三様の叫び声が響いて、かなり硬質な衝突音が響いた。
「痛ってぇ!」
リンク中の航暉が思わぬ衝撃に眉をひそめる。だがその間にも足柄と名取の周りに爆弾を落としていく。もちろん模擬弾だ。
「痛いという割には容赦ないねカズ君。―――――まぁさっきの衝撃て足柄も金剛も伸びてるからとりあえず名取ックスを戦闘不能にできればそっちは終わりかな」
笹原の声を聞きながらも航暉は無言で艦載機のコントロールを続ける。手元にあるのは18機、そのうち3機は演習域の高度上限いっぱいいっぱいで偵察用に
「……あれ、カズ君が余裕ない? 珍しいね」
「先輩相手に手加減してられるか?」
端的に返事が返ってきて、笹原が肩を竦めた。
「……だね。で、どうするの? さっきから五月雨のコンタクトが消えてるんだけど」
「潜水艦でもあるまいし、どこに消えやがった」
「さぁ。少なくとも雷ちゃん電ちゃんの電探から消えてる。被害状況を知らせるマーカーは生きてるし、そもそも東郷先輩が艦娘の信号をロストするような事態を起こすはずがない」
「あったとしても即刻演習が止まるよな」
話に入ってきていなかった高峰がそう言った。
「あら、情報のクリーンナップ終わった?」
「なんとかな」
高峰がそう言って作戦リンクの支援を開始した。直後、警報。
「おいおい今度はなんだ!?」
「通信障害……これって……」
高峰と笹原が慌てるが航暉は静かに唇を噛んだ。
「――――――ウィンドウ弾」
「え?」
レーダー情報がかく乱され使いものにならなくなると同時、電波が不安定になった。空気中を渡る指揮系統は電波に乗って送受信が行われる。―――――それを空気中にアルミ片をばらまくことで阻害した。即ち、その影響かでは、通信による指揮や情報支援は途切れがちになる。
つまり、艦娘独自の判断で行動することが必要になる。
「グアム演習の再現かな、これは」
航暉はどこか獰猛な笑みを浮かべる。
「スタンドアロン運用には、うちの部下は慣れてるんだよ。行け!」
「あぁ、もうなんでこうなるかな」
通信阻害が入って一番影響を受けるのは空母であり……案の定いきなり制御が難しくなって一気に劣勢になったのは大鳳である。空母の攻撃手段は艦載機であり、艦載機を封じられた空母などただのカカシとなり下がる。そしてほかの護衛は今、大鳳の周りから引き離され、単独行動を強いられている。
はっきり言って、かなりピンチである。
「と、とりあえず捕捉されないように逃げていかないと」
ウィンドウ弾で妨害できる周波数は使うアルミ片のサイズで決まる。そして互いに通信回線の詳細な周波数は秘匿されている以上、ある程度の周波数帯を抑える様にいくつもの大きさのアルミ片を混ぜているはずだ。
「なら、敵も同じ状況のはず……」
ならば、捕捉されなければ攻撃は受けないのだ。
「と、とりあえず島陰に……」
そう言って踵を返そうとして、直後。
「――――――そこまでです、大鳳さん」
背中に何かが触れた。冷たい、鉄の感覚。銃口よりも重く、丸い。
「動かないでくださいね、魚雷、当たっちゃいますよ?」
その言葉に足が竦む。何とか首だけ動かすと目が覚めるような蒼の髪の色が目に入った。
「……五月雨、ちゃん」
「はいっ」
満面の笑みだがその手には魚雷発射管があり、いつでも撃てる形だった。
「い、いつの間に……たしかあなたはあの島の向こうで電ちゃんたちと戦ってたはずじゃ……」
「そうですね、でも艦娘は
そう言って笑う少女の白いスカートには草の緑色の露が残っていた。
「まさか、あの島を踏破してここまで来たの?」
「レーダーから隠れて、かつ上空からの視界を遮れればばれにくいんですね。海の中ならソナーが使えますが、陸の上ならソナーは反応しません。小島を横断する間は姿を消せるんです」
艦娘は海で戦うっていうことに縛られたらダメなんですって、とどこか嬉しそうにそう言う五月雨。それを聞いて大鳳は諦めたように両手を挙げるのだった。
「んーと、この辺りで応援が必要そうなのは……霞ちゃんかなぁ」
「くおぉぉぉおおおおお!!」
「アンタはしつこいっ!」
金属が鎬を削る音がする。と同時にどこか湿っぽい『べたぁ』とか『ぬちゃぁ』とかそんな音が響く。
「だぁああああ、もう動きづらいっ!」
「というよりなんでそんなにトリモチ全身に喰らって動けるのよっ!」
「気合だ気合っ!」
どこか白濁した粘着質なトリモチを身に纏ったまま突撃する天龍。刃筋が立てにくくなった長刀を振るうも、霞のコンバットナイフがそれを抑える。
「こなくそっ!」
コンバットナイフと長刀のつばぜり合いだが、この場合は長刀の方が有利だ。力をかけやすく、相手の動きを封じやすい。それをわかっている霞も早々に距離を置く。仕切り直しだ。そうして距離を置いたところに小ぶりな影がひゅっと飛び込んだ。
「ちぇえええええいっ!」
霞がとっさに屈みこむようにして躱すと、すぐ上を錨が通り過ぎた。
「ちょ、雷アンタ私を殺す気!?」
「それぐらいしないと止まらないでしょ!」
錨を振り抜いた直後の雷の足を払うようにローキックを放つ霞。それを真上に飛ぶことで躱した雷だが、その眼前に巨大な銃口がつきだされた。
「―――――上に飛んだのが運の尽きね」
発砲。
「はうっっ!」
トリモチを額に喰らい、吹っ飛ばされる雷。
「うぅ、なんだかくらくらする……というよりこのべとべと何……」
「あれ、もう少し効いててもいいと思ったんだけど……」
霞が首を傾げるが、すぐに理解した。トリモチの水分が多かったらしい。そのせいで片栗粉を水に溶いたようなどろっとした半液体の白い塊が雷の顔と髪を中心とした上半身に中途半端に絡みついている。
「お、おう……」
天龍が一瞬目を見開いた。通信障害で提督たちに見えてないのがある意味救いかもしれないとか考えながら、ハッとする。
「よくも、よくも雷をぉぉぉぉおおおおお!」
「て、天龍さん!?」
「雷をそんな恰好にさせやがって!」
「ちょ、あたしどんな格好になってるの!? ねぇ!」
「はぁ!? さすがにこれは私も狙った訳じゃないんだけど……!」
「くらえ、雷の仇ぃぃいいいいいいい!」
「いやあたし死んでないんだけど!?」
激昂した天龍がそこに飛び込んで、目を白黒させる霞が慌てて応戦。雷が取り残されているがもはや天龍には視えていないらしい。
「あぁもうめんどくさいっ!」
半ば投げやりな戦い方になっている天竜を見て、そう言った霞がナイフの切っ先を天龍に向け―――――天龍に向けてありえない加速でナイフが突っ込んだ。判定、天龍大破。
「――――――え?」
「まさかこの射出機能まで使うことになるとは思ってなかったわよ」
そう言う霞の手にはナイフのグリップだけが残っていた。どうやら刀身の部分をバネかなにかで弾き飛ばしたらしい。
「……バリスティックナイフ」
「ご名答」
そう言いながら霞は靴下の内側から薄い板を取り出した。特製の薄刃のナイフらしい。
「あなた、いくつナイフ持ってるのよ」
「持ってるに越したことはないわ、よっ!」
飛びかかる霞に雷は警棒を抜いて受ける。交差は一瞬、同時にまた離れる。直後に声が響いた。
「お姉ちゃん!」
「霞さん下がって!」
同時に発砲音。その刹那の後。「はうっ!」という雷の声と「きゃっ」とどこかかわいらしいかみ殺した叫び声が響いた。
「……まさかの相打ちなのです!」
「ですね」
ほぼ同時に応援に駆け付けた電と五月雨がそれぞれ発砲、相手に大破クラスのダメージを叩き込んだのだ。
「……これで、1対1なのです?」
「みたいです、ね」
そう返事をした五月雨がどこか照れたように笑う。
「旗艦同士、戦ってみたかったので少しだけ胸をお借りしてもいいですか?」
「もちろんなのです。……いなづまは負けるわけにはいかないのです」
「私……だって!」
そう言った直後、お互いに反転。ここで戦うには大破になって行動不能判定になった相手が多すぎる。遮蔽物として“使う”ことも可能だがいささか忍びない。また、もっと戦うなら双方状況を整えておきたい。
「……五月雨ちゃんはまだ魚雷を使ってなかったのです」
戦うなら場所を選んでおきたい。少なくとも相手の罠に不用意に飛び込むような動きは避けたいところだ。電は意見をまとめながらも動き続ける。
(あと、肩で息をしていたからスタミナの限界も近い。おそらく狙ってくるのは、雷撃戦による短期戦。直線的に視界が開ける西側の広い海域で戦おうとするはずなのです)
魚雷は基本的に直進するものだ。旋回するような動きをする魚雷もないわけではないが、それをわざわざ放ってくるとは思えない。となれば魚雷を使えるような広いエリアでの戦闘に五月雨は持ち込もうとするはずだ。
(でも、それだといなづまの射線も通るからそこにおびき出すためには東の島影にいるいなづまを西側におびき出さないといけない)
そのためにはどうしても五月雨は東側での戦闘を強いられる。それを知っていても五月雨はそうするしかないはずだ。地の利は電が握れる。
それを思って電は笑った。
東側で戦うとするならば魚雷はあまり使えない。狭い水路が多いせいで視界も開けない。どうしても交戦距離が詰まる。
「だからと言って、五月雨ちゃんの懐に飛び込むわけにはいかないし、警棒を装備していることを五月雨ちゃんは知っているのです。向こうも接近戦の激しい動きは避けようとするはずなのです」
深呼吸を一つ。
「なら、五月雨ちゃんは―――――」
「――――さすが電ちゃんだ。追ってこなかったんだ」
上がった息を整える五月雨は用意していた爆雷を自爆させながら笑った。あのまま突っ込んできていたら狭い水路の機雷原で身動きを封じ、雷撃で仕留めるつもりだった。
(電ちゃんは接近戦も得意らしいし、遠距離からしかけたいけど、魚雷を切り札にしていることもばれてるんだろうなぁ)
五月雨はそう言いながら拳銃型の主砲を確認した。残弾はまだ十分ある。大鳳を抑えるときに撃たずに武装解除できたのがよかった。おかげでまだ弾薬はたんまり残っている。ここで機雷は全部使ってしまったけれど。
「……電ちゃんなら、東側のロックアイランドの近くでカタをつけようとするはず」
魚雷が使いにくい状況に持ち込もうとするならそうなる。そこで戦うならおそらく。
「接近戦でくる……?」
そう考えてすぐに否定する。
(もうすでに東郷さんの部隊の艦娘は短刀なりなんなりを持ってることは知っているはず。いくら得意だとしてもそれに不用意に頼ることはないはずだし、電ちゃんの方がまだ体力があるから逃げ切りもできるはず)
「なら―――――」
二人の視線が空中を彷徨う。
「電ちゃんはたぶん―――――」
「五月雨ちゃんなら―――――」
島の多い東側での砲撃戦で決着をつけるつもりのはずだ。
実は啓開シリーズの縦書きPDFの編集作業を開始しました。
第一部の分だけはできてたりします。
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加筆修正が入っていたりするのでお暇があればお読みください。
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コラボ回はもうしばらく続きます。次は早めに投稿したいなぁ。
亀更新がしばらく続きますがこれからもどうぞよろしくお願いいたします。
それでは次回お会いしましょう。