艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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最近忙しいです、イベントする余裕ありません……つらい。(と言いながら丙作戦ポチー)

さて、こちらも更新していきますよ。ちょっと短めですが何とか……。
演習開始、レイキャシール先生ごめんなさいシリーズ(?)開幕です。
それでは、抜錨!



ANECDOTE021 異次元サッカーじゃねぇんだ

 

 

 

「ふむ……川内を外してきたか」

 

 パラオの戦闘指揮所(TCC)で東郷徹心大佐は鼻を鳴らした。

 

「おそらくは川内が夜戦じゃないから出撃拒否したってところじゃないのか?」

 

 それに答えるには子供にしては少々低めの声が応える。明かりが落とされた部屋に特徴的な緑色の髪が光る。

 

「……川内とは懇意だったな」

「元同僚だからな」

 

 スッと目線をそらす長月を見やりどこか優しい目線を送る東郷。どこか慈愛の籠る目線だ。

 

「そう言えば、お前が着てからまだそんなに時間が経ってないんだったか」

「4月1日付けだからまだ、1ヶ月と少しだぞ」

「という割には馴染んだな」

「誰のおかげかな、東郷司令」

 

 そう言って懐かしそうな目を正面に表示させた地図を見る。

 

「強敵だぞ、笹原大佐の部隊は」

「……よく知ってるよ」

 

 “敵”の構成は電を旗艦にした編成。登録順に電・雷・天龍・龍田・金剛・大鳳の6隻構成だ。

 

「こちらは五月雨を旗艦にして扶桑、足柄、名取、霞、雲龍か……。当然と言えば当然か」

「ほぼ総力戦になる。お前を残したのは笹原大佐や月刀航暉の動きを予測できるのがお前だけだからだ。頼むぞ参謀」

「私のような参謀が本当に必要なのか? 東郷大佐」

「無駄なことはしないたちでね」

 

 そう言った東郷は首の後ろにQRSプラグを差し込んだ。

 

「さて、始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開始早々度肝を抜かれた。

 

「空母が最初に水上突貫って馬鹿かこんなん!」

 

 そう真っ先に叫んだのは先鋒役を務める天龍だった。どこか眠そうなほんわかとした目のまま高速で錫杖を手にして、どこぞの二水戦よろしく真一文字に突っ込んでくる姿に、天龍は不本意ながら一瞬怯んだ。真っ先に来るのは扶桑か足柄あたりの砲撃か、名取か霞の吶喊が来るものと思っていた分余計に反応が遅れた。

 

《――――――龍田!》

 

 笹原の声が無線越しに飛ぶ。天龍がハッとする頃には横をひゅっと龍田がすり抜けた。そのままの勢いで龍田は長柄の長刀を逆袈裟に振りぬいた。雲龍の錫杖がシャンと音を立て振るわれると同時、一瞬の鍔迫り合いを挟んでお互い飛び退いた。その空隙を突くように艦載機が急降下してくる。青い認識票、動体視力が避ければD4Y2改aのコードが読めたかもしれない。……大鳳に積まれた彗星二二改型が日光を照り返させながら、それの爆撃フックが爆弾を振りだした。雲龍が慌てて飛び退く。その瞬間を読んだように龍田が一気に距離を詰める。

 

「こっちは私が持つから天龍ちゃんたちはそのまま進んでぇ」

「おう!」

 

 龍田を残して残りの面々が前進する。空中ではすでに空中戦が始まっていた。月刀航暉が操る航空隊が優勢を握る。

 

《敵本体を捕捉。金剛、弾着観測砲撃いくぞ》

「ハイっ! 待ってたネー!」

 

 最後尾についていた金剛がそう言って艤装を展開する。システムリンク、射撃座標がダウンロードされていく。東側のロックアイランド側から回り込むルートだ。ロックアイランドの島影を避けて比較的広い西側でのハイテンポな高速戦闘に持ち込むつもりだろう。そのための尖兵として雲龍が飛び出してくるとは思ってなかったが。

 

「あれ? 鷹の眼って使わないデース?」

《あんなシステム杉田ぐらいじゃなきゃ使えないからね》

 

 無線の奥の航暉が答えると納得する、考えればそうだ。今回の司令部は航暉と笹原と高峰。そんな狙撃をしている余裕はなさそうだ。

 

「Get Readyネー!」

《了解、金剛、レコメンドファイア》

 

 それを聞いた金剛が引き金を引く。飛び出した爆炎と、模擬弾を目で追う。敵の本体は目の前の群島の裏側―――――島を挟んだ向こう側だ。観測機からのデータが追尾している。目標は―――――敵艦隊旗艦、五月雨。

 

「こういうのは残念だけど、狙えるうちはヘッドから倒していくのは定石ネー、恨まないことデース」

 

 そう言って弾道から直撃ないし至近弾を確信した直後結果が出る。――――――損壊なし。

 

「WHHHHHHHHHHHHHHHY!?」

 

 金剛の叫び声が虚空に響き渡る。無線の奥も大わらわだ。

 

《くっそ! 艦載機の“眼”が盗まれてやがる!》

「What!?」

《高峰!》

《なってこった、開始直後に“フリントロック”のログを確認! 艦載機のカメラ映像全部ぶち抜かれてるぞ! わざわざ仮想空間立てて演習用のシステム組ませた訳はこれかよくそったれ!》

 

 金剛にフリントロックなんて言葉は聞き覚えがないが……おそらくはスパイウェアか何かだろう。

 

《早々にクラッキングとは流石東郷大佐、やることが汚い!》

 

 わざわざ共用無線に流した笹原の声に返事が返ってくる。

 

《兵は詭道なり、教えたはずだぞ笹原君。司令部はそもそも1対3だろうが》

《長月ちゃんそっちにいるんだから2対3でしょーが! ハル君!》

 

 何やら修正パッチが当てられたらしくレーダーの虚像が除去され始める。

 

《高峰より月刀戦隊全艦、欺瞞情報(ディスインフォメーション)の除去を行う、レーダーリンクを一度カット、各艦の電探と目視による接近戦になるから、しっかり警戒よろしく!》

 

 そう言う高峰の声を聞きながら金剛は加速する。おそらくこちらの位置も割れている、おそらく――――――。

 

《警告! 敵砲撃! 金剛、散布域ど真ん中だ!》

《どこからだ!》

《南東象限! 正確な場所は確認中!》

 

 高峰の警告。やはり。

 

「高速戦艦を舐めるんじゃないネー!」

 

 最大船速に叩き込み前に飛ぶ。視界の上の端できらりと何かが光る。あれか。

 周囲に着弾する中、金剛は島の海岸線スレスレを飛ぶ。射角的に見ればここが向こうからの砲撃の死角だ。

 

「……しまったネー」

 

 電たちから切り離された。それに気が付き歯噛みする。

 

「カズキ、どうしますカー?」

《さっきのは不可抗力だろう。さて、案の定の個人戦だ。司令部のカバーも届きにくくなる。金剛は場馴れしてるだろうから少々手荒に行くぞ、頼むぜ》

 

 それを聞いて金剛が笑う。

 

「目を離さないでほしいのは山々ですけど、今回だけは見逃してあげるネー」

 

 改めて、加速。島影から飛び出すと一気に指示のあった場所へと走る。―――――先の砲撃の場所だ。

 島の端を高速で回り込んだ勢いのまま目の前の巨大な人工物に向かって殴りこみに入る。

 

「扶桑! 覚悟するネー!」

 

 艤装の推力そのままに相手の砲門の下を抜けるように体制を低くした。この角度からだと一気に距離を詰めようとすれば馬鹿でかい艤装を振り回されれば一気に弾き飛ばされることになる。それを避けて低い姿勢のまま主砲の仰角を調整。前へ向ける。

 発砲、反動に競り負けないように海面を蹴り込み、さらに前に。そして同時に驚愕する。

 

「その姿勢から避けるってアリデスカー!?」

「扶桑型を舐めるとひどい目に合いますよ」

 

 扶桑型艤装の特徴である高い重心を上手く使い回転運動に変え、砲弾の流れを読み、避け切った。その動きのまま回転を続け、砲門が金剛を捕らえる、が―――――

 

「Tooooooooo LATE!」

 引金が引かれるよりも早くその砲門よりも近くに飛び込んだ。その艤装をしたから殴りつけるようにして射線をずらす。直後、相手の砲弾が明後日の方向へ打ちだされた。その反動もあり相手の体が持ちあがる。そのスペースにねじ込むとそのまま持ち上げるようにしてタックルをかます。互いに出力を上げそのまま押し合う。

 

「少し……暑苦しいのだけれど……!」

「なら、サッサと離れて砲の餌食になるがいいネー、早く冷房のかかった部屋で休めるデース……!」

 ここまでの接近戦になったら先に相手の射線に体を晒した方が負ける。そして一番安全な場所は相手の砲が向けられない場所、相手に引っ付くしかないのである。

 

(……ここにはすでに扶桑しかいなかったということは……すでに各個撃破の流れになってるはずデース、早く片づけてみんなの救援に行かなきゃまずいデース……!)

 

 金剛は相手の軸足を払うように足を振りだし、そのまま相手の肩を奥に押し出した。その反動も使って後進一杯で距離を取る。

 

「これで、決めるネー!」

 

 再装填はとっくに済んでいる。それは向こうも同じだろう。だが、向こうは不意打ちで体制を崩された分初動が遅れる。そこに、勝機がある。

 

 

 双方、発砲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 雷と電ペア、五月雨と霞のペア、双方ほぼ同時に相手を捕捉した。

 

「島の向こうね」

 

 雷の声に電はハンドサインを出す。このまま回りこむ。挟み撃ちにするてもあるがこの場合おそらく味方同士で射線を潰しあって撃てなくなる。

 

「しれーかん、エンゲージよ」

《了解、視覚情報を回してくれ。艦載機からの映像だと信用ならん》

「わかったわ」

 

 セーフティはすでにすべて解除状態だ。いつ何が起こってもおかしくない状況下である。

 

 そして、接敵は突然だった。

 

 島影から一気に飛び出してきた霞を認める。電がとっさに警棒を艤装のラックから引き出した。それとほぼ同時、霞は腰のベルトから落とした何かを、防弾強化された靴先で雷電姉妹に向けて蹴り上げた(・・・・・)

 

 それを確認して、喉が干上がる。あれは―――――爆雷!

 

《異次元サッカーじゃねぇんだ畜生!》

 

 航暉の叫び声が無線に響く

 

《雷!》

「オーライ!」

 

 足を止めていた電を押し避けるようにして前に出る。その右手には、巨大な錨。逆手に持っていたのを一度空中に投げ、順手に持ち替えそのまま横一文字に振りぬいた。これに驚いたのは霞だ。相手に蹴り込んだはずの爆雷がそのままライナーになって返ってきたのである。

 

「誰が野球にしろって言った!?」

「それより回避ですっ!」

 

 霞の後ろを進んでいた五月雨が叫ぶ。その裏の無線にため息が乗った。

 霞が右に、五月雨が左に飛び退くと時限信管が作動する。空中で弾けて放出されるのはペイント弾だが、ギリギリ回避せしめた。

 

「このままプランC-IIです!」

「了解っ!」

 

 五月雨の答えを聞いてそのまま前に飛ぶ。

 

「お姉ちゃん!」

「旗艦は旗艦同士で楽しんできなさいな!」

 

 それに合わせるように電が五月雨との距離を詰めるように移動。雷は戦域を一度離脱。それを霞が追いかける。女の子同士がおいかけっこという構図は微笑ましく見えるかもしれないが、海の上時速50キロオーバーでのおいかけっこだと微笑ましいよりも先に「物騒な」とか「危ない」といった感想のほうが先に出るだろう。

 

 雷の足元にいくつも水柱が立つ。速度を維持したままクルリと振り返り応射、そして相手の主砲を弾き飛ばした。

 

「しまっ……!」

 

 その衝撃に一瞬霞が片目を閉じた刹那、盛大に水飛沫を広げながら、警棒片手に打ち掛かりに入る。驚愕に染まったその顔が、笑みに変わる。

 

「……なんてね」

 

 直後右手が左腰に回り―――――刃渡り20センチほどの短刀を引き抜いた。居合の要領で逆袈裟に走る。

 

「朝潮型がそんな装備してるなんて聞いてないっ!」

 

 刃筋を見て慌てて警棒でそれを受ける、かなり硬質な音が響いた。

 

「三式近接戦闘用短刀を知らないの? まぁあんたの知識なんて知ったこっちゃないし、兵は詭道なり、よっ!」

 

 互いに弾き合って仕切り直す。そのまま雷が逃げの態勢に入った。再び追う霞、それと同時に霞は疑問に思った。

 

(……なんで逃げるのよ)

 

 雷にとってはまだ砲も爆雷も残っている。主砲弾だってまだたんまりあるはずだ。そして霞の主砲がすでに使えなくなっている以上、距離さえ放せば雷は相手の射程外から安全に攻撃できる。そのメリットがあるにも関わらず、逃げに入る理由は何だ?

 

「ま、さか……!」

 

 雷が速度を上げて狭い水路を抜ける。その瞬間、一瞬だが雷の姿が消えた。そして、直後。

 

「ひっ……」

「チェックメイトだ」

 

 いきなり首の真横に赤い刀身が添えられて、霞は体を硬直させた。その視界の先には、雷がウィンクしながら島の裏側に向かう姿――――――あっちには五月雨と電がいるはずだ。

 それよりも問題は足柄が足止めをしているはずの天龍がなんでこっちにいて、背後から獲物の長刀を突きつけているのかだ。

 そんな空気を感じ取ったのか刃筋を正しながら天龍が笑って先回りして答えた。

 

「足柄なら“いつもそんなガッツリ系で行くから司令官たちから一歩引かれるんだよ”っていったら勝手に自問自答始めたから放置してあるぜ」

「あ、足柄ぁ……!」

 

 気にするのはわかるがそこまでかねぇ、とどこかおかしそうに笑う天龍に霞もどこか諦めたように笑った。

 

「まぁ、そういう過剰アピールが祟っていろいろやらかした人だからね、思うところがあるんでしょう」

 

 そう言いながら短刀をパチンと鞘に戻した。諦めたように両手を下に垂らす。

 

「まぁ、残念ね」

「開始からあんまり時間は立ってないが、まぁゆっくり鑑賞会としてくれ」

「そっちじゃないわ」

 

 霞がそう言うと、天龍が怪訝な顔をした。直後。だらりと下ろした左手を軽く振った。直後、スカートの中から飛び出してきた獲物を手に振り返る。出てきたのは単発式の信号弾発射筒。天龍がとっさに距離を取るように海面を蹴った。

 

「さっさと手を下さないアンタの判断が残念よ」

 

 飛び出してきた砲弾を天龍が一閃しようと刀を振りぬいた。狙いをつける必要もなく、単に信号弾を打ち上げればいいだけの信号弾発射筒は銃身が短く、弾を十分に加速させるスペースがない。弾を目視してから逃げることはできないにしても、弾の行方がわかっていれば対応することは容易だ。そして天龍はそれを成し―――――天龍本人が驚愕する。

 

「なっ……なんだこれっ!?」

「特製トリモチ弾。これでアンタはもう居合いの技は使えない!」

 

 切り捨てた刀身にべっとりとネバネバのトリモチが張り付いた。そこから加速度で飛び散ったかけらが腕について少々気持ち悪い。それを把握して天龍は歯噛みした。トリモチが結構まとまってまとわりついている分、重心が僅かにずれ、刃筋を立てることが難しくなる。それにこんな異物がついていては刀を鞘に戻すことは不可能だ。霞が言ったように逆袈裟に切り上げるような抜刀時の振り抜きは使えない。

 

 歯噛みする天龍の前で涼しい顔をした霞は空中に投げた信号弾――――を模したトリモチ弾を発射筒で掬い取るとそのまま手首のスナップを利かせて薬室を閉鎖。それを左手に持ち替え、右手で短刀を再び抜く。

 

「さて、どこまでついて来れるかしら?」

 

 そう言って短刀を逆手に構えれば、天龍がクスリと噴き出すように笑った。

 

 

 

「――――――おもしれぇ、そうこなくっちゃな!」

 

 

 

 天龍が海面を蹴る、波を気にせず一気に飛びかかる天龍、相手の銃口と刀身を見ながら、一閃。

 

 

 

 

 

 戦いはまだ、始まったばかりである。

 

 

 

 





演習……編?

なんだか面白いことになってきましたが、これでいいんですかね?

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回も続くよ演習編。

それでは、次回お会いしましょう。

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