艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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一か月近く更新できませんでした、お待たせして本当に申し訳ないです。特にレイキャシール先生、お待たせしてすいません。

精神的にかなりきつく、執筆ができない状況でした、そろそろ執筆を再開します。

明るい話題と参りましょう。
それでは、抜錨


ANECDOTE020 後は勝手に殴り合え

 

 

 

 東郷大佐が航暉たちを送り出した砂浜にやってくると想定外の事態が発生しており少々面喰っていた。

 

「……どういう状況だ? 誰か説明を」

「見てわかりませんかー」

 

 だるーん、という擬音がピッタリな雰囲気の笹原がそう言った。

 

「簡単に言えば決闘ですね」

「だからなんでそうなっているのかを説明してほしいのだ」

「名取にスキンシップを取ろうとした龍田が華麗に宙を舞ったので『強そうだあいつ!』と天龍が決闘挑んで接近戦闘最強決定をしようとしたら返り討ちにあってリベンジマッチラウンド2です。東郷先輩でしょう? あんなシラットみたいな格闘技教えたの」

「……むやみに使うなと言っているのだが」

「まあいきなり後ろから飛びついた龍田が悪いのは悪いので、御咎めなしでよろしくお願いしますねー」

「それは後にこちらで検討する。……止めなくていいのか?」

「問題ないでしょう。天龍も受け身はうまいですから」

「投げられること前提か」

 

 それを聞いた笹原が笑う。

 

艤装(エモノ)なしだと天龍の場合間合いがつかめない。間合い的には暁や電の方がうまく扱うでしょうね。天龍の場合間合いを詰めすぎる。だから―――――ほら」

 

 天龍が派手に空中を舞った。そのまま波打ち際に倒れ込んでいく。

 

「相手の慣性モーメントを利用して投げ切るようなああいう動きにはついていけない。相手の手首に親指の付け根を引っかけてきれいに投げてる」

 

 しっかり掴まなくとも十分固定できますからね、と笹原が笑う。その向こうでは波打ち際に倒れ込んだ体を起こす天龍がいた。

 

「だー! もう! なんで勝てないんだ!」

「ご、ごめんなさい……」

「謝ってくれるな。猶更惨めになっちまう」

「距離の詰め方と重心のかけ方だねー。もっと相手の初動掴まないとダメだよー」

 

 笹原が気楽にそう言うと名取が振り返り、驚いたような顔をした。

 

「と、東郷大佐、いつから見られてたんですか?」

「笹原君曰く第二ラウンドからだな」

 

 そう言うと東郷は肩をすくめた。

 

「手本を見せて遣ったらどうだ。笹原君」

「できないことはないですが……名取ちゃん連投大丈夫?」

「は、はい……!」

「名取、本気で行かないとあっという間に競り負けるから手を抜くな。笹原は元陸軍士官だ」

「元陸軍予備(・・)士官ですよ、先輩」

 

 笹原が立ちあがって水着についた砂を落とすとそのまま柔軟に入る。

 

「レフリーはいるか?」

「一応用意します? 慣れない水泳をやらされてグロッキーな月刀クンならそこで倒れてるんで」

「……なにがあった?」

「見ものでしたよー? 攻勢部隊のボスが駆逐艦娘の両手に縋って涙目になってる構図はいろいろ微笑ましかったです」

 

 膝上丈の海水パンツを身につけて椰子の木の下で疲弊している男の姿を見て東郷は溜息をついた。その横で看病(?)している電もどこか苦笑いだ。

 

「赤帽組だったか、あれ」

「しかも特Ⅲ型の面々プラス潜水戦隊と大鯨が総出で教えて浮いて終了でしたからね。金槌とは言いませんが木槌程度です」

「それで良く海大出れたな」

「しばらく泳いでなかったのと右腕にかなり重い義手吊ってるのでそれでマイナス要素でかいですけどね。おーいカズ君仕事だよー」

「……今度はなんだ」

「接近戦闘のレフリーやって!」

 

 航暉がのっそりと立ち上がるとその半歩後ろを歩くように電が付いてきた。

 

「今度は何をやらせる気だお前」

「そんなに私信頼ない?」

「あぁ」

 

 航暉の即答に笹原は水着に包まれた胸を揺らしながら掌底を突きだした。それを航暉は顔色が悪いながらもさらっとそれを避ける。

 

「危ねぇなぁ」

「危なげなく避けてから言うセリフじゃないよね、それ」

「初動がでかいんだよ」

 

 そう言って航暉はあたりを見回す。

 

「手合せは笹原と名取か?」

「そ、レフリーよろしく」

「危険行為があったら止めるぐらいだろ。背中を砂浜に打ち付ければ終了でいいか?」

「レスリングと一緒ね、了解~。名取はそれでいい?」

「えっと、はい。大丈夫です……」

「ん、じゃそれでいこう」

 

 そう言った笹原が一歩前にでる。

 

「ルールは確認した通りだ。用意は?」

「いつでも」

「大丈夫、です!」

「それでは――――――かかれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? ぼろ負けしたアンタが部下使って艦隊演習を吹っかけた、と?」

 

 浜辺から帰ってきてパラオ基地司令部棟地下、暗い部屋の中で盛大に青筋を額に浮かべた高峰がそう聞くと、正座させられている笹原が舌を出した。

 

「えっと、ごめんなちゃいっ☆」

「……。」

 

 追加制裁がかなりいい音で鳴った。その音を聞いて渡井が肩をすくめた。

 

「で? あの“奇術師”東郷仕込みの艦隊に接近戦? メンバーどうすんだよ、というよりまともにやり合えるのいるのか?」

「さぁな。まぁ俺と渡井は全体の演習の監視員になるから関係ないっちゃ関係ないがね」

 

 肩をすくめたのは杉田である。

 

「月刀、どうするよ? 今から詫び入れて東郷大佐に笹原差し出して終わりってのが一番手っ取り早くないか?」

「まぁ一番それが手っ取り早いんだが……天龍が躍起になってる」

「あちゃー」

 

 航暉の声に渡井が額をぴしゃりと打った。高峰が航暉の方を見る。

 

「一応のトップはカズだ、ここはカズの判断に任せるが……どうする?」

「高峰。勝機は?」

「接近戦演習という内容だからかなり不利だな」

 

 そう言ってホロスクリーンを立ち上げると情報を浮かべた。

 

「東郷大佐の強みは相手の間合いを外しての戦闘にある。艦娘や深海棲艦が不得意とすることが多い接近格闘戦を積極的に取り入れたスタイルを取ることが多い。逆に言えば東郷大佐にはその距離の感覚は誰よりも蓄積があることになる。かなり分が悪い。ロングレンジ系を強めている大和型、空母勢だとあっという間にやばいだろうな」

「だろうな」

 

 不満げに鼻を鳴らすのは杉田だ。それに反論する笹原。

 

「でも、戦力的にはかなりいい勝負になるはずだよ、ハル君」

「どういうことだ?」

「天龍龍田、川内、電ちゃん、雷ちゃん、……あと、大鳳あたり。この辺りなら接近戦でも十分いけるはずよ。少なくともパワー負けすることはないはず」

「なぜ大鳳を入れた?」

 

 杉田の声に渡井が笑う。

 

「なるほど、爆撃させる気か」

「そ。いくら東郷大佐と言っても低空爆撃の嵐の中だと足を止めざるを得ないはず。そのうちに距離を合わせる。それに大鳳の打たれ強さならある程度は耐えられるはずだからね」

「そういうことか……ってことは管制役には月刀一択か」

 

 そうなるわね、と笹原。

 

「ただ、東郷先輩もそれぐらい読んでくるわね。でも、これしかないわ。カズ君頼むわね」

 

 それを聞いてどこか下品な笑みを浮かべるのは杉田だ

 

「結局他人頼りだな、酷い様だぜ、笹原さんよぅ」

「しかたないじゃない! 名取ウムが想像以上に強かったし引っ込みつかないじゃない! それに東郷先輩に冷笑されっぱなしじゃきついし!」

「なんだそのあだ名。あと、それに巻き込まれるこっちの立場にもなってくれ」

 

 高峰はそう言いながら頭を掻いた。

 

「で、決行は?」

 

 その声に笹原が笑う。

 

「明日の朝」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいですね、東郷提督が売り言葉に買い言葉なんて」

「そうでもないだろう」

 

 扶桑にそう言われ東郷は鼻を鳴らした。

 

「あの5人のこと、扶桑は知っていたか?」

「時々話してくださったバカ烏の5人……だったかしら?」

 

 扶桑の声に頷いて椅子の背に体重を預けた。

 

「……有事の人材は平時には歪、それを体現したような面々だ。背中を任せさせるには危なっかしいが、皆それぞれ光る部分を持っている。だが……」

「優秀であることを知っているからこそ、それに頼りすぎる……かしら?」

「……扶桑にも先を読まれるとはな」

「何年一緒に過ごしていると思ってるんですか? 提督」

 

 高々四年だろ、と答えると扶桑は顔をほころばせる。

 

「これでも最長ですよ、貴方とずっといる時間では」

「いつの間にか古参だな」

「本当にです。……今日は五月雨も戻ってきているし、なんだか昔みたいですね。貴方がパラオに来たすぐ後の……」

「こんな五月蠅くなかったがな」

 

 彼がそう言うと扶桑がくすくすわらう。

 

「素直じゃないのは昔からですね」

「なんだ」

「ここがまだボロボロだったころのことを本当に思い出します。霞の人間不信がひどかったり、五月雨のドジが行き過ぎていたり……、多摩も神通もいたころですね」

「……そんなこともあったな」

 

 そう言うと鼻を鳴らす。

 

「多摩は北方、神通は横須賀で戦果を挙げていると聞きますし、みんな立派になりましたね」

「……お前はこんなところで燻ぶってていいのか、扶桑」

 

 ポツリとそう言うと扶桑はどこか不本意そうな顔をした。

 

「私は残りたくて残っているんです。不満がないのに出ていく必要はありませんし」

「それでもここはこんな辺境だ。お前の能力を欲している所はいくらでもある」

「欲しているのは私ではなく、私の戦力でしょう。また、道具として扱われるのは御免こうむりたいわね」

「……今のは聞かなかったことにしてやる。艦娘は思想統制の制限を受けるぞ」

「ありがとうございます」

 

 どこか満足したように頷いた扶桑にどこか不機嫌そうな東郷。

 

「それだから、ここに送られたんだぞ」

「それで貴方に会えたならそれでよいでしょう。おかげで私でも戦える、そうしてくれたのはないですか?」

「さぁ、な」

 

 そう言った東郷は溜息をついた。

 

「で、今回果たし状をもらったわけだが」

 

 どこかむすっとしたまま手元の書類を眺める。演習許可申請書。乱雑にサインをし、勢いで印を押す。その取ってつけたような雑さを見て扶桑はさらに笑みを深めた。

 

「それで、演習の編成はどうするんですか?」

「おそらく向こうは川内と天龍、龍田あたりはまず出てくるはずだ。かなり攻勢に偏った配置になる、元々短気で攻めたがりな黒烏だからそういう構成でくるだろう。……あとは空母が一隻」

「空母……」

「月刀航暉准将が航空戦のプロだ。正直雲龍程度なら軽く封じてくるだろう。先の共同戦線の低空艦爆、見ただろう?」

「……あの目視すら難しい艦爆艦攻隊ですか?」

「それがおそらく3個飛行隊程来る。それで動きを封じておいて水雷戦隊の電撃戦でカタを付ける。月刀と笹原、そのバックアップで高峰。この辺りがいればそれぐらいやってくるだろう」

「……勝ち目、あるのかしら?」

「無策で挑むほど馬鹿に見えるか?」

 

 東郷はそう言って電子書類をピックアップする。

 

「明日とはいえ、作戦会議ぐらいはしておこう」

「編成は……私と足柄、名取、霞、五月雨、雲龍……この六隻ですか?」

「気合を入れろ、笹原も月刀も陸軍関係者だ、格闘戦の勝手を知っている。それにおそらく……電も出てくる」

「電……そんなに警戒する必要があるのですか?」

 

 東郷が指を組んで俯く。

 

「どういうわけか、月刀とのリンク率が破格の数字を叩きだしている。それも双方リスクを承知でな。動きがかなりアグレッシブになってくるだろう。それをわかった上で挑め」

「はい」

 

 そう頷いて笑って渡された電子リストを確認する。

 

「……どうした」

「笑ってますよ、提督。やはり後輩の成長を見るのは楽しいですか?」

「いいから呼んで来い」

「わかりました」

 

 からかうような笑みを湛えたまま。扶桑は執務室を出ていった。

 

「まったく……」

 

 東郷はこめかみを指で揉みながらそう呟いた。

 

「明日はどうなるやらだ」

 

 そう言いながら、どこか頬が緩むのを不本意ながら認めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 METAR PTRO 132150Z 12003KT 14SM SCT016 BKN120 BKN300 25/24 A2993 NOSIG=

 

「なんですかこれ?」

 

 あすかの食堂兼会議室の部屋の中、青葉が張り出された紙を見て眉を顰めた。高峰がつまらなさそうに答える。

 

「天候状況通報。風が東南東から3ノット、視程22キロ、千切れ雲が散見されて湿度が高い。その状態がしばらく続くらしい。湿度でいやになるな」

 

 絶好の演習日和だ。そう皮肉げに言うと青葉がクスリと笑う。

 

「そういう高峰さんは司令部で缶詰だからまだマシなんじゃないですかぁ」

「んなことねぇよ」

「だよな」

「なんだカズ、来てたのか?」

 

 いきなり会話の外から同意の声が返ってきて高峰が振り返ると航暉が立っていた。

 

「ブリーフィングの準備があるだろうが、だから来たんだよ」

「気象と波のデータ揃ってるよ、湿度が高い以外は絶好の演習日和だ」

「艦載機が使えるのはありがたいな。湿度によって弾道も僅かだが変わる。少し気を付けた方がいいかもな」

「今回は半径10キロの半球が演習範囲だ、そんな誤差気にしなくてもいい距離がフィールドだぜ?」

「……それもそうか」

 

 杉田の精密砲撃じゃねえからな、と高峰が笑う。

 

「で、メンバーは変更なし?」

「あぁ」

「……と、言いたいところなんだけどねぇ」

「なんだ笹原、来てたのか?」

「今さっき起きたわよ。……川内が夜戦じゃないし、上司の尻拭いに付き合う気はないって出撃拒否で二度寝に入った」

 

 それを聞いて頭を抱える男二人。

 

「どうする?」

「どうするもこうするも誰かを補填するしかないだろう……接近戦がある程度できて回避を考えると高速艦で……火力もできれば欲しいな」

 

 航暉がそう悩んでいると廊下を走る音が響いてくる。

 

「ヘーイ! テートクゥ! 話は聞きましたヨー! ここはこの金剛にお任せデース!」

 

 食堂のドアがバーンという音とともに開いた。

 

「金剛、君どこまで耳イイのー?」

「キャプテン笹原は細かいこと気にしすぎネー。今回は接近戦! 戦艦の万能性を証明するいいチャンスデース!」

 

 巫女服が元らしいデザインの千早のような服装に赤毛交じりの茶髪、金剛がつかつかと航暉に歩み寄りその手を取った。

 

「それに、私はカズキとのリンクで近接戦闘のコツを掴んでマース! 北方のヒメちゃんの拿捕の時もしっかり動けてたデショー? だから私を使うのが一番手っ取り早いと思いマース」

 

 そう言われ、航暉はしばし考え込むような動作をした。

 

「高峰、向こうの艦隊構成の予測出てるか?」

「とりあえず扶桑と足柄は出るんじゃないかと見てる」

「……わかった、金剛」

「ハイっ!」

「代打で悪いが出てくれ。金剛、電、雷、天龍、龍田、大鳳で挑む」

「まっかせなサーイ!」

 

 どうなるやらだ、まったくと肩をすくめる高峰。

 

「正直予測不能だ、この戦い。向こうもこっちも不確定要素が多すぎる」

「キャプテン高峰、どういうことねー」

 

 胡乱な目線を送る金剛に高峰は右の人差し指を立てる。

 

「一つ目、半径10キロの半球型のフィールド東側にはロックアイランドがあって死角が多すぎる。待ち伏せ、奇襲、なんでもありになる」

 

 次に中指が立つ。

 

「二つ目、向こうの指揮官は奇術師東郷、どんな手が飛んでくるか正直予想もつかん」

「黒烏にそこまで言わせるってなかなかの人物ネー」

「ご名答」

 

 高峰の答えに笹原が噴き出す。

 

「まぁ、私たちが東郷先輩に影響受けたともいうわね」

「突飛さではいい勝負だと思うね。そして三つ目」

 

 高峰が指をもう一本立てる。

 

「作戦立てても結局双方引っ掻き回すから戦況を読んだところで意味がない」

「……それで、テートクたちはどうするつもりネー?」

 

 それを聞いた司令官三人がニヤリと笑った。

 

 

 

 

『支援はするから後は勝手に殴り合え』

 

 

 

 




はい、次回は演習開始です。これノリがいろいろあれですね。外伝の『軽快の鏑矢』でやることも考えてた企画なのでそのノリです。


感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は近距離戦闘演習編、Let's Roll!

それでは次回お会いしましょう

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