艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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さて、こちらも更新です。
少々短めな上に趣味炸裂してます。いろいろごめんなさい

それでも、抜錨!


ANECDOTE010 血道を拓くよ

 

 

 

 天気は晴朗、波も外洋としてはかなり穏やかな中、艦隊が速度を上げていく。

 

「……敵ピケット艦隊の殲滅を確認しました」

 

 艦列最後尾で艦載機を格納したマガジンを確認しつつ大鳳が報告を上げる。

 

「これで残存勢力は……」

「戦艦レ級3隻に戦艦タ級2隻、重巡リ級1隻、軽空母2隻……ですね」

 

 電がそう言うと川内が頷いて横に並んだ。

 

「どうする気? この面子で突っ込んでもまずい気しかしないけど」

 

 川内の声に電が頷く。

 

「もちろんこの人数で昼間から相手にして勝てる相手ではないのです。だから私達ができることは、大和さんたちの用意完了までここで漸減を実施することです。そして可能なら」

「交渉、だよね?」

「なのです」

 

 睦月の声に電が頷いた。その瞬間に一瞬だけノイズが走った。

 

 

 

――――――遅かれ早かれ、彼は潰れる。間違いなく君たちのせいでね。

 

 

 

 瞬きよりも長く、考えるには短い時間、電は目を閉じた。

 

 大丈夫だ、きっと、大丈夫だ。

 

「私は―――――」

 

 司令官さんを、信じているのです。

 

 そう納得したことにして顔を上げたタイミング、睦月が気がついた。

 

「前方から潜水音! 数、最低で3!」

「対潜戦闘用意、睦月ちゃん、対潜指揮をお願いするのです!」

「了解なのです!」

 

 電がすぐに対潜戦闘指揮権を睦月に移した。餅は餅屋だ、ここは睦月に預けた方が得策だろう。睦月は物怖じすることなくそれを受ける。対潜装備を積んでいる如月と文月が前に出る。

 

「一緒に戦うのは久しぶりだねー」

「そうね!」

 

 文月はマイペースにそう言って如月の真横に並んだ。その間を埋めるように睦月が立ち、目を閉じる。

 

「グリット共有開始。如月はd5! 文月c6!」

 

 座標平面を固定、敵の水面下の位置を見取り、それをグリットに落とし込む。睦月自身も前進。対潜爆雷の展開用意を急ぐ。

 

「門扉解放音、魚雷、来ます!」

 

 直後に敵の推進音が増える。

 

「数6条! 川内さん黒15即時回頭左2点! 電ちゃん赤黒なしの左1点!」

「おう!」

「了解なのです!」

 

 睦月が射線を確保すると手にもった機銃をきっちりと両手で構える。軽く背筋を曲げ、顎を引いたアイソセレススタンスを確保。狙いを付けてゆっくりと引金を引いた。数瞬のラグの後、大きな水柱が立つ。直撃の危険があるのはこの一本だけか。

 

「如月e6へ向かって! たぶんそこで捕捉できる!」

「はぁい」

「文月はd4!」

「わかったよぉ!」

 

 自分の真横を通過する魚雷を躱しながら睦月も前に出た。相手の推進音が反響し複雑なうねりのある音を残すが、睦月には“視えて”いた。

 

「文月、いまっ!」

 

 文月の腰に括り付けられていた爆雷が海面に落ちていく。安全圏まで文月が逃げる間にも睦月が、続いて如月も爆雷を投下した。爆雷の立てた籠った爆発音と共に突き上げられるように海面が盛り上がり、弾ける。

 

「……圧潰音確認、対潜戦闘終了、指揮を電ちゃんに戻すのです」

「了解なのです」

 

 電が睦月の方を見た。

 

「今のって……」

「たぶん深海棲艦版の甲標的だと思う。潜水艦にしては反応が小さかった」

「睦月がこんな近くまで気がつかないんだもんねぇ」

 

 まだ残っている爆雷にセーフティを改めて掛けつつ如月がそう言った。どこか悔しそうな顔をする睦月、もっと早く気がつけていればと思っても仕方ないのはわかっているがそれでもそんなことを考えてしまう。

 

「となると雷巡が向こうにもいるのです……?」

「ううん、戦艦レ級よ。ウェーク撤退戦の時もこういう攻撃が来たことあったから」

 

 如月の言葉に睦月も頷いた。川内がどこか苦い笑みを浮かべた。

 

「……航空機を放ち、魚雷を放ち、砲撃もしてくる。マルチロールもここに極まれりって感じよね。そして、航空隊が向かってきてる訳だけど、大鳳さんいけます?」

「もちろんよ。何のために全機上げたと思ってるの?」

 

 直掩機のホールワゴン機動を真円として維持し続ける大鳳はそう言ってニヤリと笑った。

 

「電、敵のヘッドはわかってるんだろう?」

「なのです。クラリフィスと呼ばれる戦艦レ級がこの艦隊のトップらしいのです」

「となるとどうやっても戦艦レ級と刺し合わなきゃいけない訳か……いける?」

「いくしかないのです」

「ま、そうだよね。野暮なこと聞いた」

 

 川内が電の肩を叩いて彼女の前に出た。

 

「川内さん?」

「あんたの役割はレ級との折衝だしっかりその時まで体力は温存しときな。綾波、敷波、昼戦だけど少々暴れてこよう。血路(ひら)くよ」

「はい、いつでも用意できてますよ」

「露払いとはいえかっちり決めなきゃね」

 

 綾波と敷波が電の横を過ぎて前に出る。

 

「睦月如月文月は電の直掩、お願いね」

「任せてくださいっ!」

「なんだか551の時みたいねぇ」

 

 睦月と如月が笑う。文月が電の横から半ば抱きつくような距離まで飛び込んだ。

 

「護衛は睦月型の十八番だから、みーんなやっつけで護っちゃうんだから!」

 

 電はそれを聞いて少し複雑そうな表情を浮かべた。

 

「電、戦艦レ級は強敵だよ。それを複数相手に回して私達だけで倒せるとは到底思えない。真正面からぶつかっては押し負ける。でもね、あんただけは別だと私達は考えてるんだ、電」

 

 川内が振り返る。その顔にはいつもよりも大人びて見える、彼女のほほえみ。

 

「武力で叶わなくても、武力以外のところで勝てる。その可能性を持つジョーカー、それがあんただ。だからその力が使えるところまで。私達が血道を拓くよ。そんな心配そうな顔しないの。もうすぐ金剛さんたちも到着するんだし、負けたりしないからさ」

 

 そう言って川内は伸びをするように背を逸らす。

 

「大鳳、直掩回してくれる?」

「もちろんです。そのための私ですから」

「ん、頼むよ。それじゃぁ、いくよっ! 対空見張りを厳としつつ前進、砲雷撃戦、用意!」

 

 綾波と敷波が彼女について前に飛び出した。その三人の上空をカバーするように烈風が飛翔する。敵の艦載機の影がぽつぽつと上空に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスターアームオン」

 

 酸素マスクのせいで籠った声で永瀬ケイの声がする。防寒着を着ているとはいえ体が冷えていく。後部ハッチを解放している状況で上昇しているのだから当然だ。

 

《マスターアームオン》

 

 横の副操縦士が一つのボタンを押した。視界に投影された計器表示に武装システムが準備完了(ホット)になったことを告げるマーカーが現れた。

 永瀬が武器に力を与えると同時、僅かに出力調整レバー(TCL)を前にスライドさせた。上昇に必要な推力を得て高度を上げていく。二枚の大きなフロップローターが唸りをあげる。

 

 空戦において必ず必要なものがある。

 

 それは高度だ。位置エネルギー量と言い換えてもいい。

 

 航空機は地上で空を見上げることしかできない人間に翼を与えたが、人を地上に縛り付ける物理法則から完全に開放したわけではない。重力は航空機にも働き、地面へと大きな力で引き寄せようとする。だが、この重力は空戦においては大きな意味を持つ。

 

 重力が与える位置エネルギー。高さが上がれば上がるほど、位置エネルギーを蓄えることができる。そして位置エネルギーを消費することによって急激に加速することが可能になる。航空戦が予測される場合、特に出力に限界があるプロペラ機のような低速機になればなるほどこの高度という要素が大きな鍵となる。逃げるにも追うにも速度や機動性は高いに越したことはないのだ。

 

《さて、奴さんも近づいてきましたね》

 

 PJこと森田は軽く緊張したようにわずかに肩をこわばらせた。

 

「死ぬわけにもいかないがまずはこちらが上を取れる。何とかこちら有利で状況を開始できそうだから、慌てずに行きましょう? 死ぬわけにはいかないしね」

《そうっすね、パトリシアを泣かせる訳にもいかない訳ですし》

「……たしか、婚約者だったか?」

《いえ、突き合っているだけですよ。今は技官として衛生課で“とわだ”に乗ってるんです。この戦争が終わって、本当に平和になったら、結婚指輪渡そうって。無垢の削りだしのそっけない奴ですけど、実はもう買ってあったりして……》

 

 接近警報が彼の会話を叩き切った。高度2万4500フィート、大体7500メートル弱、上昇させることのできる上昇高度限界が近い。身を刺すような気温の低さを感じる。高度を考慮すればもうマイナス20度を切ろうとしているはずだ。

 

「宮藤伍長、設置オッケー?」

《はいっ!私もちゃんとハーネスつけてます。宙返りしても大丈夫ですよ》

「そりゃぁ上等。舌噛むから口閉じてなさい。さて、いこうか」

 

 永瀬がそう言ってミサイル発射管性システムを起動させる。

 

「――――――エンゲージ」

 

 右に大きく傾きながら相手の上目がけて降下する。一瞬フラッターを起こしたローターが鳴った。速度計の数値が跳ね上がる。ほぼ真下に向けてのパワーダイブ。頭から真下の雲の向こうの海面目がけて落ちていく。

 

 敵の反応を確認、数6。相手は真上から降ってくる巨大な塊を見て慌てたように編隊を解いたがもう遅い。すでにこちらの照準装置が捉えていた……敵の推進法方法では赤外線による誘導は通用しない。画像判別による誘導に切り替える。翼の下に懸架されたミサイルポッドがミサイルを切り離した。前を向いた巨大なローターを避けるように大きく距離を取ったミサイルの推進装置に点火。一気に加速する。

 相手から距離を取るように操縦桿(サイクリックレバー)を引きつけて機体を引き起こしにかかる。強烈なGがかかり、水面の位置が前から真下、やや後ろへと変化していく。

 

「敵残存勢力は!?」

《数2!》

「4機撃墜(スプラッシュ)か! 上々!」

 

 武装のセレクタをGUNにセット、機首下にセットされた武装ターレットが始動する。機体が僅かに持ち上がっていく。高度1万500フィート、真っ逆さまにほぼ最高速で急降下しただけある。まばらに浮かんだ雲とほぼ同じ高度まで下りてきたことになる。

 

《敵との距離詰まります!》

「わかってるっ! 向こうの方が最高速早いんだから当然だっ!」

 

 フォワードスリップ、機体が進行方向に対して横滑りするように動きを変える。操縦席の窓からちらりと黒い点が見えた。全速力て反転してきた敵艦載機だ。ターゲットロック、操縦桿のトリガーを叩き込んだ。機首側のターレットに積載されたバルカン砲が火を噴いた。空に曳光弾の帯を作るが、それを敵は躱してくる。敵から緑の線が伸びる、すぐ真上を通過したそれを見て一瞬歯噛みした。

 

「敵の高度が高すぎるっ!」

 

 スリップの姿勢を戻す勢いでそのまま180度ロール。失った加速度を取り戻すようにスプリットエス。ダイブするようにして進行方向を180度変える。いま来たルートを戻る位置だ。機動終了と同時にエンジン全開、高度を上げるように全速力で高度を上げていく。同じようにスプリットエスで追いつこうとした敵艦載機がかなり下方に超過飛行(オーバーシュート)する。

 

「伍長!」

《はぁあああああああっ!》

 

 後部キャビンから大量の銃弾が吐きだされる。鈍く燻された薬莢がキャビンのスロープを転がって海上に向け落ちていく。曳光弾の帯に一機が突っ込んだ。その刹那、何かが砕けるように飛び散り、煙に包まれた。

 

「グッキル伍長!」

 

 残る一機がブレイク真後ろに回り込もうと急速に加速していく。その機体から逃げるように上昇率を抑えながら加速していく。

 

「このまま旋回! 相手を落とすよ!」

《了解! えっ……!》

 

 接近警報。位置は――――上?

 

 とっさに見上げる森田。その視界に映ったのは今まさに機銃を放たんとする敵艦載機の銃口だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の数は案外少ないんだね」

 

 凪風がいつも通りの恰好で水晶宮に現れた。その後ろには甚平姿の星影の姿も見える。

 

「あぁ、だがどれも高火力艦だ。問題の戦艦レ級が無傷だ」

「それでどうするつもりだ、ガトー」

 

 星影がそう言いながら予備管制卓にどっかりと座り込んだ。

 

「赤城と加賀の航空隊も上がった。戦艦レ級以外をまず潰すあとは総力戦でフルボッコさ」

 

 ピケット隊を潜水艦で潰せたのはありがたかったと素直に感想を漏らせば、星影が鼻で笑った。

 

「気楽な身分だな。戦場を高みの見物か。“前と同じように”」

「“星影(、、)”」

 

 凪風が星影の隣の補助シートに腰掛けながらそう言った。

 

「それで俺たちは菊月たちを指揮すればいいんだね?」

「あぁ、金剛たちと一緒に行動してもらいたい。いけるか?」

「そもそもこちらに選択権は無いだろうが、准将殿」

 

 指揮管制卓に星影のIDが読み込まれ、指揮の用意が整っていく。

 

「ミスるなよ、ガトー」

「お前こそな。出撃管制、577台にカタパルトからの出撃を許可。現在の金剛型の射出終了し次第海上に出してくれ」

「了解。大和と武蔵、後部スリップウェイからの出撃を確認。杉田にハンドオフ」

「ハンドオフ了解、アイハブコントロール」

 

 出撃管制をしていた渡井に珍しく寡黙になった杉田がぶっきらぼうに返す。

 

「なんか不機嫌?」

「うるせぇ」

 

 笹原の茶化したような質問にぶっきらぼうに返す杉田。笹原は僅かに肩を竦めた。

 

「こちとらいつもの面子に加えて青葉と夕張の管制を持ってんだ。それに夕張のは扱いが殺人級にピーキーなんだ。下手したら死ねる。夕張!」

《ちょっと待って、もう少しで位置につくからっ!》

 

 帰ってきた夕張の声に杉田は肩を竦めた。

 

「あの短射程を使うしかないってのが辛いところだな、せめてもっと小型化できなかったのか」

《やったら単発になるけどいいの?》

「冗談だ」

 

 夕張にそう言われてわずかに笑った杉田、彼の隣でキーボードを叩いていた笹原が振り返って航暉を見た。

 

「よっし、とりあえず私達の射程に入る前に川内たちが動く。これ、私の管轄でいいわね?」

「あぁ、頼む」

「あいあい頼まれた」

 

 笹原がそう言ってヘッドレストに頭を押し付けるような姿勢をとった。高規格リンク開始用意。

 

「――――――504、水上艦隊エンゲージ」

 

 彼女たちの戦いが幕を開ける。

 

 

 

 




本当は次の話と合わせて投稿する予定でしたが予想以上に長くなりそうなので分割しました。次回から星影提督の本格参戦です。

戦闘機動、あれ輸送機なので本当にやったらたぶん墜ちます。そんなの何でやったかって? 作者の趣味です。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ
あと3話くらい続きそうです。なんだか話を経る度にどんどん話が長くなっている気がする。気を付けねば……

それでは次回お会いしましょう。

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