艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
それでは、抜錨!
―――――CND-RED/ STBY DD-AK04, 503TSq, 504TSq
網膜に直接投影されたその表示に電は管理区画に飛び込んだ。第一種戦闘配備、電、503水雷戦隊、504水雷戦隊出撃用意。どの戦隊にも所属しない独立旗艦である電には隊のナンバリングとは別に自らのシリアル番号がコールされる。
―――――DD-AK04, 503TSq STRK CAT-I/ 504TSq STRK CAT-II
電と503水雷戦隊は第一カタパルトから、504水雷戦隊は第二カタパルトから出撃せよ。それが視界に入るころにはもう電は一番カタパルトの待機位置にたどり着いていた。指定の位置に立つと電の生体反応を読みこんだ。右サイドにあるホロスクリーンが電の艤装の状態を示す。警告音と共に背後の床がスライドしぽっかりと空いた空間から武装キャニスターが背後を塞ぐようにせりあがってくる。警告音と黄色の警告灯ががなる中で電は自らの脈拍が少しずつ上昇しているのを知る。電がすっぽり入るほどの巨大なキャニスターが開かれ電の艤装が姿を現す。キャニスターごと前進し電の背中に艤装が接続された。システムアクティベーション開始。エンジンスタータが接続され外部から小型水素エンジンをぶん回す。
フューエルコントロールスイッチがOFF、
―――――DD-AK04 / ON-LINE. LAUNCHING STBY
戦術リンクの正常接続が確認されると同時に武装キャニスターから艤装が解放される。電の体に全ての重みがかかるが、彼女はびくともしない。艤装に合わせて義体は作られているのだから当然である。警告灯が回りキャニスターが再び階下に消えていく。それを見とどける間もなく、電が立っている床ごと前にスライドした。前方隔壁解放。現れたのは……艦娘用の強制発艦システム。天井から吊られた高輝度電光表示にはDD-AK04 / CHECK INと表示されていた。その奥に開いた開口部が海と空を四角に切り取っていた。
「こちら電、全システム、グリーンライトなのです」
《こちら水晶宮、チェックオンモニタ。―――――実戦では初射出だな。自信のほどは?》
無線の奥は高峰大佐だ。そのいつの通りの軽い声にクスリと笑った。通ってきた通路を閉鎖するように隔壁が再び閉ざされる。隔壁の裏では天龍が出撃準備を始めているはずだ。
「上手くいくかどうかはやってみないとわからないのです」
《上等、じゃあやってみましょう。―――――口頭確認行くぞ、DD-AK04電、ミッションナンバー、SBO-0830401002A、オペレーション・ウェヌス・オブセクェンス。今回の出撃の目標はパッケージ・ホテルと説得、それが叶わない場合は敵艦隊の撃滅だ。いいな?》
「了解なのです」
そう聞いている間にも電の立っている床が変形し、電の脚を支えるように立ち上がる。脚部ロック展開、接続、ロックチェック。
《電ちゃん、何があるかわからんが、……くれぐれも死ぬなよ》
「大丈夫なのですよ、高峰さん」
無線の奥が笑った気配。同時に電光表示に出撃用のシグナルが表示される。
―――――DD-AK04 / LAUNCHING RDY
《DD-AK04、義体コントロールをローンチへ変更、―――――グットラックだ、電ちゃん》
高峰の無線がオフになる。体の制御がオートコントロールに切り替わる。自然に前傾姿勢を維持、強烈な勢いでレールに沿って体が加速する。その加速度を受けて一気に明るい外へと飛び出した。足を前に振り出すようにしてバランスをとって着水。あすかが作った波で上手くショックを減衰させつつ安全域へと抜ける。体の制御が戻ってきた。全システム異常なし。
《電ちゃん、管制をカズに引き渡すぞ》
「了解ですっ!」
戦術リンクが切り替わる。―――――月刀航暉准将の直接リンク、慣れ親しんだ感覚だ。
《―――――いけるな?》
「もちろんなのです。司令官さん」
電の視界の先に天龍が飛び出してきた。反対の舷側からは川内たちが出撃を行っているはずだ。
大丈夫なのです。司令官さん、司令官さんならみんなを守れます。
電は高いあすかの船橋を見上げた。黙したまま物言わぬ塔を見上げ、微笑んだのだった。
「……なぁ、
あすかの航海艦橋で山本平蔵准将はぽつりとつぶやくように口を開いた。
「弱気とは、珍しいですな山本准将」
「そうか……まぁそうかもしれんな」
荒れだした海の水平線を眺めながら山本は首を回した。
「また私達はここで蚊帳の外かと思うと、どうも悔しくてたまらなくなる。そうは思わないか、科奈畑」
階級や役職を抜いて呼びかけた、それを聞いて科奈畑は小さく笑って口調を崩した。
「それでも、やっとですね、やっと我々も戦場に立つことが許されました」
「そうだな。本当にやっとだ……深海棲艦に海を掌握され、年端もいかない女の子たちを前線に出さなきゃいけなくなってもう10年」
「水上用自律駆動兵装の嬢ちゃんたちが主力になってからは7年ですよ、山本さん」
「それでも辛酸を舐める日々は変わらない。海を守り、国を守る。その我々がずっと海にすら出れないまま、盾にすらなれないままだ。この不甲斐なさをどこに向ければいいのかと思ってしまう」
「時と場所をわきまえましょうよ山本平蔵“司令官”」
「―――――そうだな」
ぴしゃりと言われ、山本は自嘲のような笑みを浮かべた。その笑みの先を進んでいく―――――海を駆けていく少女の集団。
「腑抜けたな、前線が遠くなりすぎた」
「それでもやっと我々はスタートラインに戻ったのではないですか? 今は素直にそれを喜びたいものです」
作業帽を一度脱いで髪を撫でつけると科奈畑は笑った。
10年間も島国たる日本が海を明け渡すと言うことがどれだけ酷い事態であるか、想像に難くないだろう。食糧難、エネルギー問題、それらに端を発するハイパースタグフレーション、経済格差の是正もならないまま起こった暴動に略奪。それらは深海棲艦のせいで、否、深海棲艦から日本を守れなかったせいで起こった結果だ。
深海棲艦への特効薬、銀の弾丸とまで言われた艦娘、水上用自律駆動兵装の登場で最低限の物流は確保され、防衛にある程度は成功した。それはすなわち、既存海軍の仕事が艦娘にシフトしたということになる。
通常の艦艇から水上用自律駆動兵装へ。日本国海上自衛軍から国連海軍へのアップデート。深海棲艦への
「……そうだな。やっと海に帰ってきたんだ。陸でしか動けない船乗りほど役立たずはない。やっと我々は役立たずの汚名を雪ぐことができるわけだな」
山本はそう言って背を向けた。
「CICへ降りる、艦橋は頼むぞ、科奈畑艦長」
「はっ!」
あすかは今回後方での指揮船がメインだ。CICで捌かなければならないような事態は起こらないと思うがそれでも何があるかわからない。それが戦場だ。
「私達の海だ……。そろそろ返してもらわないとな」
船橋を後に山本はそう呟いてラッタルを降りた。
「お久しぶりです、電さん」
「五月雨ちゃんもお久しぶりなのです」
海上を進みながら村雨率いる578駆逐隊と合流した。村雨に夕立に五月雨、そして吹雪。一隻だけ別の型の駆逐艦が混じっていることが、その部隊に何があったかを嫌でも思い起こさせる。
「電、勝算はあるっぽい?」
挨拶もなにもすっとばしてそう聞いてきたのは夕立だ。夕立は泣き腫らした後なのか
いつもより赤みの強い目を向けて電に聞いた。
「夕立ちゃん、あの子は……」
「春雨で間違いないっぽい。私はずっとあの子と組んできたからわかるよ。あの子は間違いなく春雨だよ」
電はそれを聞いて頷いた。
「まずはお話できるかどうかやってみるしかないのです。お話できれば分かり合えるかもしれないのです。そうなれば……」
「私達ははると戦わなくて済むって訳ね?」
村雨が後を継げば電が頷いた。
「それで……もしうまくいかなかった時は、どうするんですか?」
吹雪が不安そうに電を見る。
「最終防衛線までに話がつかなければ……」
「沈めるの?」
夕立が敵意すら見せて電を睨む。
「……可能性としてなのです」
「絶対、春雨は戻ってくるっぽい。私が戻すんだもん。沈ませなんてさせないよ」
夕立はそう言った。それを見て電は僅かに目線を下げた。
「それでも、万が一でも間に合わなければ、春雨ちゃんに攻撃をすることになるのです。何とか間に合わせるしかないのですが、それでも可能性としてわかっておいてほしいのです」
「だからそんなことはさせないっぽい!」
「ゆう」
村雨が夕立をたしなめるようにそう言った。
「電ちゃん相手に怒ってもしかたないでしょ。はるが正気に戻ることを信じましょう?」
村雨の視線が斜め下に落ちる。
「……村雨ちゃんも大丈夫なのです?」
「大丈夫よ。大丈夫」
そういう笑みにどこか既視感があった。……これは、あぁ。
司令官さんの笑みに似てるんだ。どこか無茶をして冷静でいようとするときの笑みだ。
「村雨ちゃん、とりあえず私が先に呼びかけるのです。返事があるかどうかわかりませんが呼びかけます」
「呼びかけるって……向こうが聞いてくれるの?」
「ヒメちゃん……北方棲姫が日本語を覚えるときに使った無線周波数帯を中心に多チャンネルで呼びかけます。深海棲艦も意味はわからなくてもよく聞いてたらしいので、春雨さんが深海棲艦化していたとしてもそのチャンネルなら届くはずなのです」
深海棲艦化と聞いた時に夕立の耳がピクリと動いた。
「……春雨はまだ艦娘だよ。深海棲艦に騙されてるだけっぽい……!」
「いなづまもそれを信じているのです。それでも最悪の状況を回避するように用意するしかないのです」
夕立は何かに耐えるように唇をかみしめていた。それを見て電も胸が苦しくなる。
「万が一のことを考えて、そうならない様に全力を尽くす。今できるのはそれだけなのです」
「わかってるっぽい。でもそんな最悪の事態になんて絶対させないっぽい」
夕立の視線は曇天で見えにくい水平線のむこう、会敵予定地点の方へ向いていた。
「ぜったい、させないっぽい!」
「高峰、視えてるか?」
「当然」
「報告通り、パッケージ・ホテル、軽巡ツ級1、軽巡ホ級2、足付き駆逐ハ級2に足付きのロ級1、輸送ワ級が6に未確認種2隻。計15だ」
「毎度毎度高峰の索敵性能には驚くよね~」
そう言って笑うのは高速でタイピングしていく渡井だ。
「505SSq、前線展開完了。この位置で狙えるのは45分後ぐらいから75分が限度だよ。低速の潜水隊でもこの相手の速度なら浮上航行に限れば並走できる。でも追いつくことはできなくないけど攻撃はきついぞ。位置を変えるなら早めにお願いね。今は潜望鏡深度で中性浮力を保たせてて……潜航しっぱなしで行けるのは……後8時間」
「大丈夫だ。8時間も経ったら防衛戦超えてる。大和他で袋叩きにすることなるだろう」
「うげ、僕のしおいたんを巻き込まないでよ」
「あほか。だれがそんなヘマをすると思ってんだ?」
鷹の眼のアイウェアを付けたまま不機嫌そうにそう言ったのは杉田である。顔の半分以上がおおわれており表情を窺い知ることは難しいが、声色でかなり不愉快に思っていることがよくわかる。
「わかってるって“スティンガーキラー”杉田一曹?」
「……懐かしい名前を知ってるもんだな、渡井、誰から聞いた?」
「風の噂で。仙台市街地ゲリラ討伐戦で名を馳せた狙撃手が今は30キロレンジで狙撃してるんだから世の中わからないよな」
「だな、“ワンマンイージス”杉田大佐?」
「“千里”の名も忘れちゃダメよねカッちゃん?」
「そろそろ俺の名で遊ぶのはやめにしないか、明鏡に飛燕に夜鷹」
そろそろ潮時だろうと皆が黙ると一瞬妙な間が生まれた。それを高峰の噴き出すような笑いが破る。
「ホント懐かしいなこの感じ。海大のバカやった時を思い出す」
「あの黒歴史の嵐をか? 御免被りたいね」
渡井が肩を竦める。その間にも情報が目まぐるしく更新されていく。潜水隊の魚雷射程を描く淡い黄色の扇形が海域マップにオーバーレイ。半径32キロという特大の赤い半円が二つ、大和と武蔵の射程を示す。中間距離には金剛型の4隻のオレンジ色の射程が配置されていた。そこに川内たちが付き添うように待機している。
「第二次日本海海戦か、もう4年近く前なんだな」
「あの時の嵐に比べればこれぐらいいけるでしょ。たぶんさ」
気楽に答えるのは笹原だ。リンク率を調整しているらしく、んー、川内。もう少し潜るよーなどと言っている。
「で、カズ君。ひとつ聞きたいんだけどさ」
笹原がそう言って顔を後ろに反らせるようにして振り返った。
「本当に578も一緒に接触させていいんだね?」
スクリーンに表示された電と503水雷戦隊のマーカーの隣に578DSqとタグが振られた4隻の戦隊が進んでいる。
「確かに春雨の僚艦だった夕立ちゃんたちを接触させれば情に訴える可能性もあるよ。でもそれが上手くいかなかったら……というよりもう一度接触して追い返されてるわけだから上手くいかない可能性の方が高いわけなんだけどさ。かなりの確率でトラポンが
いつの通りの笑みでそう言って、笹原は航暉の目を見つめ続ける。
「――――“残念ながら、他人を不幸にせずには、自分が正しいと考えることを行えないときがある”」
「……サマセット・モーム?」
「それでも、ここで退くわけにはいかないんだ。どうしても勝たねばならない。俺たちと俺たちの後ろにあるもののために、負けるわけにはいかないんだよ。そのリスクを減らすために、打てる手は全て打っておく。それだけだ」
「……そう」
笹原は微笑んで前を向いた。
「間違ってないとは思うけど、不器用だよね。カズ君」
「器用に生きれたらこんなところで司令長官なんて胃が擦り切れそうな役職についてないだろ?」
杉田がへっと笑いながらそう言った。
「違いないな。カズ、嫌われ者になる覚悟はOK?」
「生憎ながら多感な時期を敵意に塗れて過ごしたせいで面の皮だけは厚くなったよ。――――――パッケージは?」
「第一警戒線到達まで後2分。武蔵の射程まで後15秒」
「杉田」
航暉の声に杉田はキーを叩く。
「はいよ、“鷹の眼”オンライン。モードスナップ。暁、島風、眼ぇ借りるぞ」
「金剛、聞こえてるか?」
《ハイっ! 待ちくたびれたネー!》
航暉の声にすぐに答えが返ってくる。
「パッケージ・ホテル以外に照準を振り分けろ。交渉決裂した場合は時間勝負になる。競り負けるな」
《わかってマース! こちらは4基8門の4隻態勢、輸送艦なんてただの射的ネー。一斉射で黙らせてやりマース!》
「鷹の眼は大和型で精一杯だ。照準は俺がサポートに入るが、期待するなよ」
《カズキは謙遜が過ぎますネー》
そうかい、と返してカウントダウンを確認する。
「射程まで、3・2・1……武蔵攻撃圏入った」
高峰の声を聴いて無線チャンネルを開く。同時にリンクを深く、彼女の鼓動を感じるほど、深く。
「電、通信及び交戦を許可する」
《……なのです》
そこの答えの無線の余韻が消えれば、一気に水晶宮の温度が下がるようにキンと空気が張った。すべての音が消えるように退いていく。そこに無線が乗った。
《春雨さん……聞こえますか?》
艦これアニメの出撃シーン、かっこいいんだけど何か足りないと思っていろいろ悩みました。
結論:オペレーターが足りない
あの実況中継的な何をやってるのかを想像させる声が足りない! と思った結果こんな出撃シーンになりました。空母じゃないんだからとかいうツッコミは無しでお願いします。海面に触れた瞬間縦に回転するだろとか思いますけどかっこいいからいいのですっ!
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次回から本格的に動く……のかなぁ。
それでは次回お会いしましょう。