艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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では、第4部第一場と参りましょう。

それでは、抜錨!


ANECDOTE001 少し臆病になったよ

 

「まだ間に合うっぽい! だからっ、だから……っ!」

「聞き分けなさい夕立!」

 

 嵐の中だった。波を被りながらもがく彼女を僚艦総出で抑え込む。

 

「どうしてよ! 村雨姉ぇは……!」

「悔しくない訳ないでしょう!」

 

 後ろから彼女を羽交い絞めにしながら叫んだ。

 

「でもね、今の私達じゃこれ以上無理。さみも吹雪ちゃんも限界なの。だから……」

 

 全員がずぶ濡れだった。波しぶきが目に入ったせいだ。絶対に、そうだ。

 

「わたしだけでも行く! あの子が待ってるっぽい!」

「許可できるわけないでしょう!?」

「でも、なんで、なんで……」

 

 彼女の声が浪間に消える。

 

 

 

 

「どうしてそっちにいるの……春雨!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――1 hour 45 minutes before.

 

「司令官さん」

 

 呼びかけられて彼は声のした方に顔を向けた。

 

「悪いな、もう少し待ってくれるか?」

「いえ、いなづまが早く来ただけなのです。発足式までまだ2時間近くあるのですし」

 

 彼は小さな鏡の前でネクタイを調整している。ショルダーループには既に准将を示すソフトタイプの肩章がついていた。それを見て電がクスリと笑う。……本当は司令官さんなんて読んではいけない階級だ。呼ぶなら司令長官さん、だろうか。司令長官さんはさすがに言いにくいし、提督さんもなんだか変だ。やっぱり司令官さんの方が言いやすい。彼もそれでもいいと言ってくれていることだし。

 

「司令官さん、こっち向いてくれますか?」

「ん?」

 

 電が彼の襟元に手を伸ばした。濃紺のネクタイに触れてゆっくりと直していく。

 

「この結び方って……ウィンザーノットなのです?」

「よく知ってるな。これが一番結び目の形が綺麗に収まるんだ。目はでかいけどな」

 

 シャツの中心線にノットを合わせ、ディンプル……結び目の下にできるネクタイのえくぼの部分だ……を整えるとそっと手を放した。

 

「はい、大丈夫なのです」

「ありがとうな。電」

 

 そう言って軽く頭を撫でると電は小さく頬を染める。それに気がつかないのか彼はハンガーから第一種軍装のジャケットを取り上げる。ネクタイと同色のスプレッデットアウトのダブルスーツを羽織る。右胸には『K. TSUKIGATA』と刻まれた金メッキのネームプレート、その下には部隊勲章(ユニットアワード)が並んでいた。左胸には水上用自律駆動兵装運用士官(IDrive-AWS Officer)を示す技能章やいくつものリボンが並ぶ。この間また一つ増えた……彼にとってはあまり意味のない略綬だ。国連海軍の海軍殊勲十字章なんて、受賞者の数が死者含めてやっと二桁に届いたような勲章だからとんでもなく名誉なことなのは間違いない。だが、今一つ実感が湧いていなかった。それよりも右肩で揺れる金の飾緒の方がまだ重みがあるというものだろう。勲章は過去の栄光を示すが、司令長官を示すその飾緒は部下を導く責務を示すのだ。彼にとってはこっちの方が重要だ。

 

「電、覚悟はできてるか?」

 

 国連海軍の徽章が刻まれた金メッキのボタンを留めながら彼が尋ねた。

 

「これからの任務は防衛戦じゃない。相手を交渉で抑え込めなければ力技でねじ伏せて通る棍棒外交のような作戦が続く。辛くなるぞ」

「大丈夫です。司令官さん」

 

 その答えを聞くと彼は小さく笑った。

 

「お前の方が覚悟決まってるかもな」

「なのです?」

 

 聞き返されると彼は気まずそうに笑う。内ポケットに黒の万年筆を差し込んで天井を仰いだ。

 

「少し臆病になったよ。……誰かを失うことが、怖くなった。これまで以上にね」

 

 それを聞いて電が笑った。それで一歩寄って彼の手に触れる。

 

「臆病でも問題ないと思うのです。蛮勇って言われるより臆病と言われた方がいいですよ?」

「……そっか」

「はい。大丈夫です。司令官さんを信じているのです。だから大丈夫です。司令官さんが帰ってこいというなら。貴方の部下は帰ってきます。絶対です」

 

 そのままゆっくりと彼の体に体重を預けるように寄り掛かる。

 

「抱え込まないでいいのです。怖い時は怖いと言ってください。いなづまがちゃんと聞きますから、何回でも大丈夫だって言ってあげますから」

「……そっか。ありがとうな」

 

 彼は小さく笑ってその肩に手を回しポンポンと叩いた。

 

「さて、そろそろ時間かな」

「なのですね」

 

 電がそう言ってそっと彼から離れる。彼はデスクから腕時計を取り出した。その金属のベルトの隣に薬が入った紙袋があるのを見て、電はわずかに視線を下げた。ぱちりと時計の金属がはまる音がする。

 

「必ず、生きて帰って来いよ」

「大丈夫ですよ。司令官さんは心配性ですね」

「かもな」

 

 彼は制帽を手に取り丁寧に髪を撫でつけてからそれを被る。国連を示すメタリックブルーに染められた飾りの顎紐が光った。

 

「それじゃ、行くか、電」

「はい、月刀航暉司令官。やっぱり司令長官って呼ばないとダメですか?」

「好きに呼べ。できれば今まで通りが嬉しいけどな」

 

 電は彼の――――航暉の背中を追いかける。前よりも近くなった背中はしゃんと伸びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――で、部隊の発足式典ぶっちぎって出動要請って訳だ。状況は?」

「35分前に硫黄島の578が新種と接敵。返り討ちに合ったってことらしい」

 

 廊下を速足で進みながら高峰春斗が至極真面目な返答を返した。階級が一つ上がり中線4本の袖の階級章は大佐を示している。

 

「予想以上の大攻勢だったとかか?」

「15隻、確かに大艦隊だ。だが戦闘艦と見られるのは7隻、新種1、駆逐3の軽巡3」

「残り8隻は?」

「輸送艦らしいが、内2隻が新種。もっとも本当に輸送艦かどうかもわからんがね、武器が露出しているわけでもなく攻撃をしてこなかったから輸送艦と判断したらしいけどな」

 

 高峰がそう言う。銀の飾緒……副官を示すそれが揺れた。

 

「偵察機は?」

「今千歳の艦載機が向かってるそうだ」

「上々、とりあえずは前進待機か」

「だが問題が一つ」

 

 高峰がファイルを差し出した、歩きながらそのファイルを開く。

 

「戦闘艦の未確認種―――――敵味方識別装置(IFF)味方(FRIENDLY)と出てるんだよね」

「……トランスポンダの返答は?」

「DD-SR05――――パーソナルネームは“春雨”、3か月前に戦没したはずの艦娘だ」

 

 それを聞いて曖昧な笑みを浮かべた。

 

「……化けて出たって訳か?」

「さぁ? そこは本人に確認するしかないんじゃない?」

「気軽に言うなよ寺の子」

 

 航暉はそう言って手に持った制帽を被り直した。そのまま外へ、春の陽が眩しい外へと出る。

 

「……湿度が高い。天気が崩れる証拠だな」

「だね、南から低気圧が接近中だ」

 建物を出るとそこはすぐ埠頭だった。そこに横づけされている、艶消しグレーの巨大ば鋼鉄の塊。

 

 

 水上用自律駆動兵装搭載型駆逐艦、DDI-1。艦名は“あすか”。あすか型の1番艦だ。

 

 

「全く。初日からこれに乗るとは思わなかったよ」

「だよな。電ちゃんから聞いたよ? “司令官さんが部隊指揮に上がる初日には必ず出撃があるのです”だってさ」

「否定はせんよ。551水雷戦隊の時も、第三分遣隊の時もそうだったからな」

 

 そう返せば高峰が噴き出した。

 

「確か521の副官の時もそうだったよな?」

「全く、一度は初日をゆっくりと終わらせたいところなんだがな」

「もう諦めなよ、カズ」

 

 そうぼやきながら船へ繋がるタラップを上がる。三胴船(トリマラン)と言うよりはスタビライズド・モノハルと言った方がいいその船形のために直接ブリッジの所在する中央の船体部……センターハルに行くことはできない。船体後部のミッションベイから伸びるタラップを駆け上がる。タラップの隣には大きなものの積み込みがまだ残っているのかローディングランプもともに下りている。

 舷門を守る下士官が敬礼で出迎える。それに答礼で返して船の中に入れば、人工的な明りに満ちた広い空間に通じた。ミッションベイは任務に必要な各種装備が適宜換装される、今は掃海器のセットや支援機用の武装などが収められたコンテナが整然と並べられていた。すでに出港用意が進められており、固定索の確認などがせわしなく行われている。艦内はそこかしこで人が走り回る気配がする。

 それを見ながら航暉は水密扉を開けてセンターハルに入り込んだ。すべり止めの効いた緑の床を蹴り、進む。

 

「高峰、お前は渡井連れて水晶宮へ、敵性基本必須情報(EEEI)の生成に入ってくれ」

「了解。ヒメと電ちゃんのチームが戻り次第に出港になるのかな?」

「おそらくはな、期待してるぞ高峰副司令長官?」

「おだてるなよカズ」

 

 高峰がそう言って航暉の肩を叩いて脇のラッタルを駆け下りる。それを追うことはなく、航暉は別のラッタルを登り、その先の航海船橋に入る。

 

「司令長官、入室!」

 

 艦橋に入ると皆が敬礼を送ってくる。答礼をラフに返し金色のカバーがかけられた椅子の横に向かう。

 

「さっそく実戦ですね。山本平蔵准将」

「まさか発足式まで投げ出しての出撃になるとは思ってませんでしたけどね」

 

 航暉よりも一回り年上と言った雰囲気の男性がその金色の椅子に座っていた。―――――国連海軍山本平蔵准将、“あすか”を含む第50支援艦隊、水上用自律駆動兵装の支援のための通常艦艇を率いる司令官だ。

 

「嬢さんたちの搭乗はどうなっています?」

「敬語じゃなくていいですよ。階級は同格、ならこんな若造よりも経験豊富な山本准将に敬語を使われるとなかなかむずがゆくて……」

「実際の戦闘指揮は貴方ですからね、月刀准将。ここの序列ははっきりした方がいいかと思いますが……司令長官の意見を尊重するかね。で、お嬢さんたちの搭乗状況はどうなってます?」

「501の艤装のローディングとヒメと電を待ってます。501のローディング終了はネクスト02、ヒメはネクスト04に完了予定、それさえ終わればすぐにでも」

「となると出港は……1015(ヒトマルヒトゴー)あたりかな」

 

 山本准将の銀の懐中時計がちらりと光った。

 

「今回はあきつ丸やとわだの用意が間に合わん。あすかだけの単独航海になる。燃料も満載って訳じゃないが大丈夫なんかね?」

「何とかしますよ。航空燃料は満載してますね?」

「ああ、きっちり」

「なら最悪現場海域まで艦娘を空輸します。とりあえずは指示通り硫黄島目指して出港しましょう」

「了解だ、司令長官殿」

 

 その答えを聞いて航暉が踵を返す。金の飾緒が揺れ、船橋を後にした。

 

 その20分後、あすかは9000トンを超える巨体をゆっくりと鼓動させ、横須賀鎮守府第14パースを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員揃ってるな」

 

 出港から45分、浦賀水道を抜け公海へ向け船がさらに加速しているころ、あすかのブリーフィングルームには所属する艦娘全員と司令官が顔を合せていた。航暉と後ろに控える電を見て、一同敬礼。答礼を返しつつ、楽にしてくれと声をかけて航暉はブリーフィングルームの一番前のデスクの前に立った。

 

「状況が更新された。敵艦隊は硫黄島の哨戒圏を優雅に北上中、あと20時間で関東州本土が危険域に入る。―――――初っ端からカテゴリーⅣa、難易度AA+のハードミッションになる」

「輸送船の護衛水雷戦隊の撃滅と聞いていたのですが……?」

 

 そう声を上げたのはCV-KG01、加賀型航空母艦の現身、加賀だ。それを聞いて航暉は笑った。

 

「詳しい説明は、渡井大佐、頼むぞ」

「僕に丸投げかい?」

 

 いいけどさ、と言って最前列左端にだらしなく腰を掛けていた渡井が首の後ろからコードを引き出して、目の前のテーブルに備え付けられたジャックに差し込んだ。

 

「今回見つかった戦闘艦未確認種、仮コードでパッケージ・ホテルとしているが。そいつをIFFが友軍(FRIENDLY)と判断している。トランスポンダの解析からして三か月前戦没したDD-SR05“春雨”となんらかの関係があると見て間違いない」

 

 渡井の言葉に合わせて正面の画面に春雨の登録データが表示される。白いセーラー帽に桃色の髪、どこか気弱な雰囲気も感じるその姿の横、現状を示した欄にはLOSTと出ている。

 

「で、今回確認された新種の姿が……これだ」

 

 横に嵐の中での戦闘シーンが流される。

 

「これは578駆逐隊旗艦、村雨の視界映像だ。いま中央に映ってるのがパッケージ・ホテルだ。クリーンナップかけると……」

 

 背景が消え去り、対象の姿が拡大される。解像度が上がるようにその姿を鮮明に映し出す。

 

「……外骨格しか見てれないけど、かなりそっくりなんだよね」

 

 拡大した映像と春雨のデータが並べて表示される。

 

「脚部魚雷接続部は、完全に一致しているし、顔のつくりに関しては骨格からしてほぼ一緒だ」

「……技官としての意見は?」

 

 航暉がそれを聞くと渡井がニヤリと笑みを深くした。渡井がテーブルを叩くとバーチャルキーボードが現れる。そこに手をかざすとメカニカルな音と共に手首から先が“展開”する。指の一本一本がさらに細く枝分かれするように広がり、目で追えないほどの勢いでキーをタイプする。それに対応するかのように膨大なテキストが正面のスクリーンに流れ、それが像を結ぶ。

 

「春雨となんらかの関係があると言うよりは、戦没した春雨の義体を活用して深海棲艦として活用している。……その可能性が高いかな?」

「……死霊魔術師(ネクロマンサー)もびっくりね」

 

 どこか小さく笑った女性の声に視線が集まる。渡井の反対側の壁に背中を預けた笹原ゆうだ。

 

「で、そういうのはあり得るの?」

「あり得なくはないみたいなのです」

 

 笹原の問いに答えたのは電だ。

 

「ヒメちゃんによると鹵獲した武装を使えないか試すことはあったみたいなのです。問題は……」

「艦娘を本当に丸々リサイクルすることが可能かどうか、か」

「なのです」

 

 それを聞いて、笹原は小さく溜息をつく。

 

「それで、どうするの?」

「我々第50太平洋即応打撃群(J-PaReS)の任務は停戦条約の締結会場に深海棲艦の代表格を引きずり出すことにある。IFFが友軍を示している以上、一度接触し相手の意志を確かめる必要がある。電と503水雷戦隊、578駆逐隊で接触。決裂した場合、戦艦クラスの遠距離砲撃で叩き潰す」

「あら珍しい。カズ君が航空戦力を使わないなんて。赤城に加賀、大鳳と龍鳳で502航空戦隊、こんな過剰なほどの航空戦力があってそれを投入しない理由はなに?」

 

 笹原が肩を竦めると航暉は苦笑い。同じ不満を加賀や赤城も感じていたらしく頷いていた。その答えは意外なところから帰ってきた。高峰だ。

 

「航空偵察に千歳航空隊が出撃したんだが、接触に失敗した」

「撃ち落とされた?」

「違う。艦娘の航空戦のコントロールに使う周波数帯が強度にジャミングされているんだ」

 

 その答えに眉を顰める笹原。

 

予備回線(オルタネーツ)は?」

「そっちもアウト。まぁ出力的には敵艦隊から20キロは危険域だ。雷撃も爆撃もできる距離じゃねぇな」

「周波数帯の変更はできないんですか?」

 

 赤城の声には渡井が答える。

 

「艦娘の機材はともかく、艦載機何十機のトランスポンダと送受信機の再調整をしている時間がない。それをしている間に敵艦隊が哨戒圏を突破する」

「……つまりは、今回航空戦力はお呼びじゃねえってことか」

 

 そう低い声で言って中央に座った大柄な男が言った。

 

「だから、鷹の眼で遠距離狙撃ってわけだな?」

「今回はそう言うことになるな、負担がでかいが頼むぞ、杉田大佐」

「はん、だが鷹の眼もあてにできないぞ。着弾観測どうする気だ? 偵察機もなし、天候のせいで衛星映像もつかえないんだろ?」

「何のために電だけじゃなく503を前線にだすと思ってる。最強の眼がいるだろうが」

 

 それを聞いて周囲の視線が高峰の後ろに座っていた小柄な少女に視線が集まった。

 

「……え、私?」

「他に誰がいるんだい? 姉さん」

 

 響にそう言われ汗を流す暁。

 

「天龍」

「おう」

 

 杉田の呼びかけに503旗艦を任された天龍が部屋の隅で声を上げた。

 

「暁嬢と島風嬢を借りるぞ。二人が抜けても大丈夫か?」

「響も雷もいるし龍田も一緒だ。問題ねぇ。……川内たち504はどうする気だ?」

「後方にバックアップ要員で配置する。第二波に備えてね」

 

 航暉が答えると了解だ。と天龍が返事をした。

 

「さて、作戦海域まであと6時間、半日近くあるからしばらくはリラックスしておけよ、それじゃ一度解散」

 

 航暉が声をかけると人がまばらに出ていくその中で天龍はオレンジのような服を着た少女の肩を叩いた。

 

「悪いな川内、俺たちの方が前線だとよ」

「べつに問題ないわよ。時間的に夜戦の時間になったらこちらが引き継ぐだけの話でしょ?」

 

 川内が笑えば、天龍も苦笑いだ。ブリーフィングルームを同時に出て廊下を進む。

 

「本当にお前は夜戦が好きだな」

「まぁね、それに水雷戦隊の指揮には笹原中佐がつく。だからまず問題ないよ」

「そうかい」

 

 天龍はそう笑っていたが、すっと目の色を沈んだものに変えた。

 

「どうも嫌な予感がするだよな、この出撃」

「電のこと?」

「……いや、まぁ電のこともないわけじゃないが、硫黄島の部隊と同時に接触ってのが腑に落ちない」

 

 天龍はそう言って腕を組んだ。

 

「説得できればそれでいいが、出来なかった場合、旧友を目の前で落とさなきゃいけない訳だ。そんな判断を月刀司令長官がするかね」

 

「さぁ、私は司令長官のことをそこまで深く知らないから何とも言えないね」

「……それもそうか」

 

 天龍はその後考え込むように少し口を噤んだ。

 

「それでも、俺たちのやることは変わらねぇか」

「だよね。相手を切り捨ててでも、味方を守る。そのための武器だし、そのための仲間だ」

 

 川内がそう言うと手を差し出した。その手を天龍がとる。

 

「頼むよ、天龍」

「神通のように行くかはわからんが、善処しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……案外落ち着いてるのね、カズ君」

 

 笹原に言われ航暉は肩を竦めた。外は日が傾きかけており作戦海域が近いことを示した。

 

「電たちの方が覚悟決めてるんだ。俺が尻込みしているわけにはいかないだろう」

 

 その答えに笹原は笑って見せる。

 

「さすがにタフだね。カズ君は」

「狂っているって言った方がいいだろうさ。妹に銃持たせて相手を殺してこいって言うんだぞ」

「妹はあんた自身が殺したんじゃないの?」

「そんな割り切れるほど器用じゃ無くてね」

 

 航暉はそういって振り返った。そこには無垢な笑顔を浮かべる笹原の顔があった。

 

「何を考えてる、スクラサス」

「“今は”笹原ゆうだよ、カズ君?」

 

 笑顔の奥の眼がすっと冷える。

 

「さすがに今から動いてってのは旨みがないからね。そこは信頼してくれていいよ? どちらにしろ、今の月刀艦隊を相手取ってのドンパチは辛すぎる。大和型2隻に? 金剛型4隻に? 一航戦に? 二個水雷戦隊? 青葉に夕張、ヒメまでついて、おまけに潜水隊。合計35隻、それもどの一隻をとっても一級品だ。そんなのを相手取って戦うとなればそれこそ戦術核レベルを持ち出さなければまともにやり合えない。だから今はおとなしくしてるさ」

 

 笹原はそう言って航暉を追いこした。

 

「一応警告しておくね、スクラサスからできる唯一の警告だ。いまはまだライ麦パンに手を出すな。間違えてもそこにナイフを入れてしまえば、消えるのはあんたじゃない。電ちゃんたちが消されるということを忘れるな、見せしめとして消されるのは雷電姉妹になるぞ。もう奪われたくないなら、反逆しても絶対に負けない戦力を付けるまでじっとしていることだ、解かったな? “ガトー”」

「その名はもう捨てたんだがな」

「結構。それじゃ、行こうか。クソッタレな戦場のお出ましだ」

 

 笹原が戦闘指揮所―――――水晶宮(クリスタルパレス)と呼ばれる部屋のドアを開けた。暗い部屋にいくつもの電子機材が光る。いくつものホロスクリーンに囲まれた薄暗い宮殿はすべての情報が集められそれを俯瞰しコントロールできる戦闘指揮所(CDC)となっている。

 

 第50太平洋即応打撃群、Jointed Pacific Readiness Strike Group 50。西太平洋を守る最後の砦にして、攻勢の特務艦隊―――――通称J-PaReS Group50。

 

 その最初の戦いが幕を開けようとしていた。

 

「水晶宮より全艦、第一種戦闘態勢(コンディション・レッド)を宣言する。各艦、戦闘用意」

 

 水晶宮の頂点で航暉が宣言した。航暉の宣言に合わせていくつもの情報がホロスクリーンに投影される。水晶宮が息を吹き返すように明るく照らされていく。その灯りが司令長官席を囲むように半月型に配置された各艦隊制御卓に陣取るメンバーを青に染めていく。高峰が、杉田が、渡井が、笹原が、月刀航暉准将の命の元に動き出す。

 

「懐かしいわね、この感覚。なんだかんだで第二次日本海海戦以来じゃないの?」

「五期の黒烏全員集合だもんな、俺や杉田は結構カズと組んだよな?」

「月刀と組むとロクなことないけどな」

 

 杉田が笑いながらヘッドレストの脇から“鷹の眼”用のグラスデバイスを引き出していた。

 

「僕も久々だなぁ、月刀、少しは潜水の腕よくなったのか?」

「潜水チームの指揮はお前がいれば安泰だろうが、期待してるぜ“明鏡”」

「へいへいっと」

 

 渡井はそう言ってキーボードを目の前に笑みを浮かべていた。

 

「渡井、レディ」

「笹原、用意完了よ」

「杉田、レディ」

「高峰、レディ。第50太平洋即応打撃群司令部(ジェイ‐パレス‐ヘッドクォーター)総員配置よし。出撃管制(ストライクコントロール)、用意完了。―――――命令を、司令長官殿?」

 

 4人がそれぞれに表情を浮かべ、振り返る。航暉はそれを受けて小さく笑った―――――ように見えた。

 

 

 

 

 

「さぁ、終わらせにいくぞ。こんな戦争を。これより“オペレーション・ウェヌス・オブセクェンス”を発動する」

 

 

 




電の新妻感満載とかそこ言わない。

はい、中二病感満載な『オペレーション・ウェヌス・オブセクェンス』編開幕です。意味的には『寛大なる女神作戦』といった所でしょうか。

今回から本格的にコラボが始まります。りょうかみ型護衛艦先生の『艦隊これくしょん -防人たちの異世界漂流日誌-』より山本平蔵准将の登場です。りょうかみ型護衛艦先生の作品からは何人か登場予定です。

そして、もう一件のコラボ開始のお知らせです。
エーデリカ先生の『艦隊これくしょん~鶴の慟哭~』(URL:http://novel.syosetu.org/43550/)に高峰春斗&青葉ペアが参戦しました。他の作者さんが自分のキャラクターを動かしてるのをみるとやはりニヤニヤが止まりません。
SF要素を絡めながら感情を置き去りにしない文章で綴られる物語、陰謀めいたものも視えつつこの先が楽しみです。個人的にはヴェールヌイの可愛さにやられてしまいました、五航戦ファンオススメです。
そんなエーデリカ先生のキャラクターもこちらで出したいなぁとプロットを練っています。さてさて、どうなるやら……。

感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回からさっそく戦闘回なるか……

E-3の削りをまったりと続ける今日この頃、提督の皆様はどうぞ攻略はご安全に。

それでは次回、お会いしましょう。

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