艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
それでは、抜錨!
(2015/11/29言い回しなどを修正しました)
37ノット――――艦隊が持てる最高速で海上を滑っていく。
「響の方は大丈夫なのか?」
「えぇ、司令官に預けてきたわ」
最後尾に追いついた如月がそういうと隣の雷が溜息をついた。
「よかった……」
「それはいいとして、どうする旗艦様! このまま神風特攻するか?」
「それなんだけど司令官から伝聞預かってるわ」
如月がそういって艦隊の中央に移動して言われたことをそのまま伝えていく。
「……要は時間を稼げればこちらの勝ちってことか」
「そうなるわ。司令官の方は睦月がついてるし大丈夫よ」
如月の声を聴いて電が口を開いた。
「相手艦隊が攻撃してこなければそのまま海域を通過してグアム司令部に向かい、司令官さんと合流します。攻撃が来た場合は私と暁お姉ちゃんで航空隊を攪乱するのでその間に天龍さんと龍田さんが先行して突入、陣形を崩して乱戦に持ち込んでください!」
先頭で主機をほぼ全力で回し続けながら電が声を張り上げる。無線はあえて使わない。相手の司令官に盗聴されている可能性が高いからだ。データリンクも
「攻撃の意思を見せない相手への攻撃は禁止、相手のバイタルエリアへの攻撃はできる限り避けてください。……っ! 12時方向、高速飛翔体数1!」
電の声に艦隊の全員が顔を上げると、薄い線が彼方を飛ぶのが見える。それを見た暁が声を張る。
「狙いはおそらく天龍さんよ! 左翼側散開!」
天龍が左に跳ぶ。その数瞬あと、あのまま進んでいれば天龍がいたであろう位置に巨大な水柱が立つ。水しぶきを浴びながら天龍が笑う。
「さすが暁、目がいいな!」
「当然よっ! 伊達にネームシップはやってないわ」
胸を張る暁の横で悔しそうに顔をしかめて空を睨んだのは雷だ。
「本当に撃ってきたわね……!」
「仕方ないのです……、あんな脅し方をされれば、そして艦隊に仲間がいるならそうするしかないのです……!」
電の声に最後尾でしんがりを務める如月がうつむいた。天龍がそれを聞いて歯を食いしばる。
「……いくぞ。こんなふざけた戦いなんてさっさと終わらせるぞ。そしてホテルで打ち上げパーティだ」
「はい!……電より全艦へ、相手艦隊からの攻撃を確認、攻撃の意思ありと判断し、これより相手艦隊の武装解除を強行します!」
「了解!」
盛大な水しぶきとともに艦隊は前へ向かう。
「日向っ! なんで撃ったの!?」
第一主砲からまだ発射煙をくゆらせる日向に伊勢がつかみかかった。
「あの子たちならこれくらいかわすさ」
「かわすかわさないの問題じゃないでしょう!? なんで仲間相手に実弾撃ってるのよ! 向ける相手が違うじゃない!」
伊勢に胸倉をつかまれて吊るされても、日向は表情を変えなかった。それを見た筑摩が慌てて伊勢を止めにかかった。
「そう。向ける相手が違う。でもね、伊勢。だからってここで攻撃しなくては“こっちが死ぬんだ”。伊勢はわかってるのか?」
「あなたこそわかって言ってるの!? それであなたは同族殺しをするつもり!?」
「わかってるさ。自分でも嫌になるがな」
電探の情報だと真正面12時方向から足を止めることなく6隻が突っ込んでくる。どうやら初撃はあたらずに過ぎたらしい。足止めにもなっていない。
「伊勢、あの子たちが突っ込んでくる」
「だからなに!? 味方の水雷戦隊相手に実弾で弾幕でも張れって!? 冗談じゃないっ!」
「伊勢さん、落ち着いてください!」
「止めないで筑摩! 日向は私に味方を殺せって言ってるんだ!」
今にも殴り掛からんという気迫を込めて伊勢は妹艦を睨む。日向の瞳は表情が読めないところまで沈み込んでいた。
「ならここであの子たちを通して全員で解体処置を受けるか?」
「でも……!」
「でももなにもない。ここで撃たずにこの艦隊の誰かが解体されるくらいなら、私はあの子たちを撃つ」
話は終わりだとでも言いたいのか日向は伊勢の手を振りほどいて艦隊と向き合う。
「こちら下村艦隊隷下第531戦隊2番艦、BB-IS02日向。第551水雷戦隊、聞こえているか?」
《こちらは第551水雷戦隊旗艦、DD-AK04電です。日向さん、よく聞こえています》
無線の奥から固い声が返ってきた。どこか甘い、思春期前独特の少女の声。
「電、悪いことは言わない、転進して引き返せ。この戦いは無益だ。そして確認したところこちらの艦隊は全艦実弾を持たされている。……言っていることがわからないわけがあるまい。引き返せ」
伊勢の鋭い視線を背中に感じながら無線の反応を待つ。筑摩が不安そうにあたりを見回していた。
「大丈夫じゃ、筑摩。日向も伊勢も道理のわからぬ馬鹿ではないし、551の旗艦もきっと話のわかるやつじゃ。落としどころにちゃんと落ち着くぞ?」
「ですが……」
「それでもうまくいかなかったときは吾輩たちでサポートすればよい。そう案じなくてもよいぞ」
利根がそういうと筑摩は不安を完全にはぬぐえなかったようだが頷いた。無線が改めてつながったのはそのころだった。
《日向さん。忠告ありがとうなのです。でも、私たちも引き返すわけにはいかないのです。……今、グアム在留の海軍警邏隊と私の司令官が動いています。……投降してくれませんか?》
「それができればいいのかもしれないが、そういうわけにはいかなくてな……仕方がない。痛い思いをしたくなければ精々逃げ回れ」
日向がそういって主砲を動かした。
「蒼龍、飛龍。航空隊を動かせるか?」
「動かせるけど……」
「あの子たちの対空装備を潰すんだ。できるか?」
日向の言葉に、戸惑いながらも頷く蒼龍。飛龍はもう矢を右手に掴んでいた。
「ちょっと飛龍もなにしてるのよ! 蒼龍も日向の言うこと聞かなくてもいい! 旗艦は私なの!」
「伊勢、みんな」
飛龍は声だけかけて、耳を軽くたたいて人差し指を下へ、無線封鎖を意味するハンドサインだ。
「伊勢、旗艦としてデータリンクしてたからわかってると思うけど……あの子たちは蒼龍の九九艦爆を蹴散らして、私の天山の雷撃もほぼすべてかわして見せたのよ。私たち二航戦の航空隊をかわして見せたの。その相手がそうやわな訳がない」
「……」
伊勢は黙り込む。飛龍は軽く笑った。
「さっきの日向の砲撃だって、最小限の動きで安全に回避して見せた。元々軽巡も駆逐艦もフットワークが軽くて攻撃はあてにくい、練度の高い駆逐艦娘は“こっちが本気で殺そうとしない限り沈められない相手”だよ、伊勢。いつものあなたなら落ち着けばわかるはず。あなたは旗艦なんだから誰よりも冷静じゃなきゃ、ね?」
クスリと笑って利根が前に出る。
「それに日向も本気で相手を沈めようとは思っとらんじゃろう?」
そういって日向の肩をたたくと口だけでにやりと笑った。
「さあね。……利根、お前カタパルトは大丈夫なのか?」
「それがのぅ……どうも不調じゃ。観測機を上げての着弾観測はちと厳しい」
「そうか、なら適当に弾幕でも張るとしよう」
お互いに武装を上げた時に相手の艦隊からなにかがうちあがった。
「高速飛翔体……軽巡の砲弾か?」
「それにしては距離が遠すぎる気が……」
筑摩の声がする頃には弾道は頂点を迎え、そこで弾がはじけた。
「ロサ弾か……。でもあそこに偵察機なんて飛ばしてたかのう……筑摩?」
「私も飛ばしてないですよ。飛龍さんたちは?」
「発艦済みのは直掩隊の方にまとめてるしあんなところ……!?」
飛龍の声が途絶える共に電探に大量の影が映る。同時に無線にもノイズが入り、司令部との情報リンクも不安定になる。
「まさか……あれってウィンドウ弾!?」
「電探断絶エリア拡大中。これって精密射撃は難しくない!?」
「お膳立てはそろったのぅ……」
満足げに笑った利根が振り向いた。
「向こうもやる気なようじゃ。どうする、伊勢?」
「……あーもう、どうなっても知らないからね! 伊勢より全艦、対艦戦闘用意! 目標、第551水雷戦隊!」
「了解、撃ち方、はじめ」
「第二射来るわ!」
遠くに敵艦隊を認めたころ、その艦隊がわずかに光った。太陽光の反射ではない、オレンジ色の閃光、発射炎だ。
「進路を維持、このまま突っ込んでも至近・直撃弾はゼロよ。結構あてずっぽうね……」
弾道を見極めた暁が声を張る。それから間隔があいて左右にばらけるように水柱が立つ。
「とはいっても、さすが第一作戦群主力撃部隊ねー、電探攪乱してもしっかり挟叉してくるわ」
龍田が感心したようにそういう。もう一度発砲炎。
「あれ艦隊ど真ん中に落ちるわよっ!」
「各艦回避してください!」
暁の焦ったような声に電が反射的に指示を出す。そこからは早かった。先頭をひく電と暁が主機を最大船速に叩き込んで海面を蹴った。瞬間的に加速した体が水切り石のように海面を跳ねて斜め前方へと進路を変える。それに追従するように天龍龍田が続く。最後尾の雷と如月は主機を反転し予備の鎖を投錨して急減速に踏み切った。瞬く間に艦隊が二人一組の作戦隊に分断され、着弾予測地点にぽっかりと隙間がのぞいた。そこに正確無比に叩き込まれた弾丸が海面を泡立てた。
それを見届けた電が声を張り上げる。
「こちらも射程距離に入ります! 攻撃意思のある艦から優先的に撃破してください!」
そういいながら前方に向かって電が噴進砲を作動。ロサ弾と電探妨害用のウィンドウ弾を大量に吐き出す。ここなら相手艦隊の近くでロサ弾が起爆する。三式弾までとはいかないがこの弾なら相手をまんべんなく攻撃することができる。わずかでも発砲が遅れれば、軽巡と駆逐艦の間合いに飛び込める!
「一番槍は私が行きます! 右舷側空母機動艦隊に突撃します!」
「龍田、雷! 電のバックアップに入れ! 暁、如月は俺と一緒に左舷側の戦艦を叩く!」
天龍が叫んで速度を上げる。艦隊は二分され3隻ごとに分かれて進路をわずかに変える。自らが撒いたロサ弾の黄燐が放つ光を目指して電が飛び込んでいく。敵艦隊の直掩隊の矛先が向く。
できれば戦いたくない。でもここで戦うことがこんな嫌な状況をたち切ることになるのなら。
「電の本気を見るのです!」
特Ⅲ型武装ユニットがうなりを上げる。派手に水しぶきを上げて最大船速で前へ。砲弾の雨のなか敵艦隊に突っ込んだ。
「お主、なかなかやるのぅ。肝も据わっておるし頭もまわる」
「ありがとうなのです。でもできれば抵抗せずに武装を解除してほしいのです」
そういうと明後日の方向に砲弾を打ち上げる利根。それが返事だというように電の方向に副砲を向ける。
「……ごめんなさい、利根さん」
そう呟いてから噴進砲を改めて起動させる、発射は一発のみだが、その一発が利根めがけて発射され、利根の鼻先でそれがはじけた。
「熱っ……!?」
利根がとっさに顔を庇う。同時に煙たいような感覚に眉をしかめた。ロサ弾だったとしたら今頃黄燐まみれで全身火だるまになっているはずだが、服が発火してないところをみるとどうやら違うようだ。
「……ウィンドウ弾!」
大量のアルミ箔の塊が吹き付けられ、鋭い破片がチクチクと皮膚を指す。今下手に目を開けると危険だ。細かいアルミが目に入れば大変なことになる。
「ごめんなさい!」
「のわっ!」
そのうちに足が払われて背中を海面に打ち付ける。
「利根姉さん!」
「あなたの相手は私よ!」
筑摩と利根の間に割り込むように暁が飛び込んだ。右腕の主砲が振るわれて、模擬主砲弾が高速で打ち出される。筑摩はバックステップを踏むように何とかかわすと、逃がすまいと距離を詰めてくる暁によって利根から引き離される。
「ふ……なかなかいいチームじゃのう、電よ」
「自慢のお姉ちゃんたちなのです。……先を少し急ぐので。ごめんなさい」
横から軽いエンジンの音とともに何かが離れていく気配。その方向には……二航戦がいる。それを感じているとの割とほほんとした声が利根にかけられた。
「ごめんなさいねー、こんなことにつき合わせちゃって」
「その声は龍田じゃな? 謝らないといけないのはこちらじゃし、気にしないでくりゃれ?」
「そうねー。でもとりあえず……」
首筋に冷たいものを感じる。目開けることはかなわない。
「安全装置をかけてすべての砲弾と魚雷を投棄してもらえるかしらー?」
「……はぁ、念には念を入れるのぉ」
「信頼してないわけじゃないんだけど、万が一天龍ちゃんや駆逐艦の子たちを攻撃されると私もあなたを本気で潰しにかからなくちゃいけなくなるから、それは避けたいのよ~」
「なるほどのぉ……これでいいかの?」
「はい、結構です。お疲れ様でした」
首筋から圧力が消える。そうしたころにやっと目を開けても大丈夫かと思えるほどになる。
「まったく……大した部隊じゃな、月刀中佐よ。彼の部隊にこうも引き倒されるのは2度目じゃのう……」
海面に大の字に浮いたまま利根は笑う。
「提督は普段はあんなこと言うはずがないのじゃが……月刀中佐、どうか」
――――提督を止めてくれ。
利根はそう願い、溜息をついた。
ウィンドウ弾=チャフです。レーダー波の攪乱とかで今でも使われるやつですね、ウィンドウ弾は英国での呼び方で日本海軍ならこう呼ぶかなっと考えまして、チャフではなくウィンドウと呼ばせています。
感想・意見・要望はお気軽にどうぞ。
次回は提督sideメインです。お楽しみに!