艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー   作:オーバードライヴ/ドクタークレフ

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盛大に遅れましたが昨年のホワイトデー編(軽快な鏑矢 初霜「お買い物……ですか?」)をこちらにも投稿します。
去年のおまけと今年のものとはこの次に投稿します。

それでは、抜錨


INTERVAL03 繋げたいものがあります

「はい、どうぞなのです」

 

 ノックを聞いて電は顔を上げた。

 

「どうも恐縮です! 青葉ですぅ!」

 

 ひょこっと顔を覗かせたのは青葉だ。第50太平洋即応打撃群設置準備室の執務室によく出入りしているから(高峰がオブザーバー参加しているためだ)珍しいことではないが、その顔は……プライベート用の笑顔だ。

 

「月刀大佐はお休みですよね?」

「なのです。司令官さんはどうも頑張りすぎるきらいがあるのでこれぐらいにコンスタントに休んでくれると助かるのですが……もしかして司令官さんにご用事なのです?」

「いえいえ、電さんや雷さん、あとは金剛さんあたりに面白い情報を提供しようかなと」

「司令官さんに知られたくない内容ですか?」

 

 電が胡乱な目を向けると青葉は慌てて手を振った。

 

「そんなことはないですよ、ただ司令官さん“が”知られたくない話題かもしれないけど……まぁ、今回はロハで情報差し上げますよ?」

 

 青葉が首の後ろからQRSプラグを引き出して電に差し出した。電は僅かに躊躇いながらもそれを受け取って首の後ろに差し込んだ。電脳同士は直結されるとその刹那にデータが送付されてオフラインになった。この情報以外はないということだろう。コードを返しつつ、電は注意しつつ……電脳ウィルスなどがないことを確認しながらファイルを―――――画像が数枚入れられたフォルダを開いた。

 

「…………んっ!?」

「ちなみに画像は今日の朝0821のものです」

 

 それでは恐縮ながらお先に失礼と言い残して青葉が去っていく。電は呆然としながらその場に立ち尽くした。

 その画像ファイルは超望遠のレンズで狙ったのだろう。少々荒い画像にブラッシュアップをかけたものだ。横須賀鎮守府のゲート、そこの門が大写しになっている。そこを超えて横須賀鎮守府から出ていく人たちが映っていた。映っているのは4人。ひとりは門兵。ひとりは私服姿の航暉だ。私服と言ってもスーツのようなジャケットに同色のスーツでにこやかに微笑んでいるのがわかる。それ自体はいい。問題は同行者の二人―――――同僚の艦娘だ。

 

「ヘーイ! カズキどういう……! って、電だけですカー?」

「金剛……さん?」

 

 執務室の扉を蹴破らん勢いで飛び込んできたのは電が問いかけたように金剛である。

 

「どーいうことですカー! 青葉から貰ったこのPhotograph! 若葉と初霜を連れて……!」

 

 その言葉に電は金剛が自分と同じ写真を見ていたことを悟る。

 写真には恥ずかしげに目を伏せて頬を赤くしている初霜と、クールに振る舞おうとしているどこか浮き足立っているのが見て取れる若葉が映っていた。

 写真を送ればゲートを出ていくその後ろ姿を捉えていた。初霜の背中を押すようにしてエスコートする航暉の後ろ姿。これではまるで……。

 

「カズキがまさかロリコンだったなんテ……」

「いえ、まだそうと決まった訳ではないのですっ! そういう……訳では……!」

 

 電はそう言うが言うが、言ってからどんどん怪しくなってくる。

 

 そういえば、前のバレンタインでは駆逐艦の子たちからかなりの数のチョコレートをもらっていて、まんざらでもなさそうだった。大人の女性―――――特に基地職員からのは逃げていたのに。

 そういえば航暉には浮いた話の一つも上がってこない。顔も悪くはないし、軍人としても人間としても特に優秀な部類に入るだろう。家柄に至っては軍閥のお金持ちで最高クラス、准将への昇格が確定しているとなれば、おそらくは相手を選びたい放題より取り見取りのはずだ。だのにそれを全てシャットアウトしている。女性職員の間では月刀航暉ホモ説が取り沙汰されるほどだと青葉からいらない情報を聞かされたこともある。

 

 

 

 もしかして、大人の女性に興味ないんじゃ……?

 

 

 

 そんな考えがほぼ同時に頭を過ったのか金剛と電は同時に首を振った。

 

「と、とりあえず帰ってきたら少し話してみるのです……」

「同席させて欲しいネー」

「わかりました。それではそういう方向で行くのです」

 

 金剛は「カズキが帰ってくるまでに今日のWorkを終わらせるネー!」と言って、執務室を飛び出していった。電はそれを見送って自分用のデスクについた。

 とりあえずは待つことしかできないがそれすらもどかしくなっていく。

 

「はーぁ、どうしてこんな人を好きになっちゃったのでしょうかー」

 

 そう呟いて、一人で勝手に赤くなった。言うんじゃなかったとすら思う。

 

 それでも考えずにはいられない。

 

 

 もしも、もしもである。

 

 もしも彼がそういう趣味だったとしたら、自分にもチャンスはあるだろうか?

 

 こっちに来てから……本土勤務で生鮮食品が潤沢に使えるようになってから、電には毎日続けていることがある。

 

 毎日牛乳を飲むこと。

 

 自分の体は豊かとは言いづらい。どこがとは言わないし言いたくもないが豊かとは言えないのである。義体のリサイズをしなければ大きくなれないことはわかっているが、それでもわずかでも大きくなるような気がするのだ。あくまで気持ちの問題だが。

 

 今の子どもチックな体の方が司令官が喜ぶというのなら、それはそれでいい気がする。

 笹原中佐みたいにボンキュッボンな体型の方が航暉の隣に立つには似合う気がしていた。それを目指して努力はしてみたが、もし彼が大きいのが好きではなかったら、今の私の方が彼にとって魅力的なのではないだろうか?

 

 そこまで考えて思う。

 

 

 そうして彼が私のことを想ってくれたなら、それを行動で示してくれたなら。どんなに素敵なことだろう。

 そうしてそれを世間様が知ったら航暉はどう思われるだろう?

 

 

 電はしばらく冷や汗をかいてから、頷いた。

 

 

 

――――――自分達のこれは家族愛だからセーフ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電がそんな風に自己弁護をしているころ、黒いジャケットを翻して月刀航暉は振り返った。

 

「とりあえずはこの辺りでなにか探すか」

「あの……」

 

 航暉の後ろをおずおずと進みながら初霜は航暉に声をかけた。

 

「本当に一緒に行くのが私達でよかったんですか……?」

「女性にあげるプレゼント選びなんて野郎には選びにくくてね。意見を聞けるだけでも助かるよ」

「それにしても……横浜特区まで出てくる必要は……」

 

 彼らがいるのは横浜特区、旧横浜市―――――過去には深海棲艦の襲撃を避けるため放棄地区になった地区だが、国連海軍が日本近海の深海棲艦を一掃し、特別区として再興した地区だ。軍の高官や国連職員やその家族などの高所得者向けのブティックから、下町的なマーケットまで揃う関東の一大商業地区になっている。

 

「大宮あたりまで行けばさらに物が揃うがそこまで行くには時間が足りない。ここで我慢するしかない訳だ」

「我慢って……。ここ、横浜特区のアッパーブティック街ですよ?」

「それが?」

 

 即答で聞き返されて初霜は絶句した。

 

「ねぇ、若葉……金銭感覚違いすぎて意見が合うかどうか今更ながら自信がないです……」

「大丈夫だ。問題ない。」

 

 その返答にそこはかとなく不安を覚える初霜。その調子で一番いいのを頼んだらどんなものが出てくるのか想像だにできない。

 

「えっと……とりあえず誰にどういうものを送るかから決めていきましょうか……」

「お付き合いいただくと助かる。頼むぞ」

 

 そうして街中を歩きだす航暉と初霜たち、初霜はどうなることやらと冷や汗を掻きながら航暉の後をついて歩いた。

 

 

 

 ……のだが、そのさらに30メートル後方で動く影があった。

 

「こちらバンブーブレード、対象はアッパーブティック街に入った、オーバー」

《こちらブルーリーフ、了解した。そのまま尾行を続けろ。オーバー》

「……昼間っから引っ張りだされたと思ったらこういうこと? 提督も物好きだよね」

「そういう川内は気にならないの~?」

「真昼間から黒スーツにサングラスってお約束かもしれないけど目立つよこれ」

「気分気分♪」

 

 そう言って小さくサングラスをずらしてくっきりとした二重の目を覗かせるのはコードネーム“バンブーブレード”の女性――――――笹原ゆうだ。その横では呆れ顔で同じような恰好をした川内の姿も見える。

 

「で、女の子を引きつれて街にでて、ブティック街で買い物ねぇ……」

 

 笹原がにししと笑ってその様子を眺めていた。その時向かいから出てきた集団に笹原は眉を顰めた。

 

「あーぁ、ここも質が落ちたかなぁ」

「あのチンピラたちがどうしたの?」

「あの白のジャケット、善良な市民様の意見を代弁するとか言って自分が暴れたいだけの集団。まぁ警察も自治警も手を焼いてるらしんだけど、こんなところまで出てくるんだねー」

 

 そう言ってる間にも子供連れでなに豪遊してんだというようないちゃもんをつけている声が響いてくる。普通の子供連れなら親の後ろに子どもが隠れるのだろうが、堂々と睨み返すあたり、さすが軍属である。直後に響く汚い悲鳴。

 

「あー、カズ君にケンカ売るから……」

「相手の重心を崩してそのまま吹っ飛ばした……だよね?」

「まぁそんな感じ。というより相手がトロすぎ。あれじゃ殴ってくださいって言ってるようなもんだしねー。見た目が派手に見えるけどそこまでダメージ入ってないんじゃないかな」

「で、激昂したところで月刀大佐にかなうことはない、と……」

「うっわ、上手いこと右肩外してる、カズ君チンピラ相手にそこまでやるー?」

「というより初霜に蹴られて涙目とかどうんだんだろ」

「まぁ艦娘としての機能を殺してはいるけど、まぁ腐っても義体ってことだね。艦娘二人引きつれた元特殊部隊隊員にケンカ売った時点で死亡確定だよね。あれでアウトレンジ専門の戦術航空管制要員とか身分詐欺だよ身分詐欺」

 

 あーこわこわ、と気楽に言ったタイミングで笹原の肩が叩かれた。

 

「横浜特区警察です。ここで何をやっているんですか?」

「……へ?」

 

 私服姿の警官2人組に提示されたのは立体ホロ式の警察手帳。

 

「えっと、いや、その……?」

「スーツを着込んだ怪しい二人組がいるという通報を市民の方からいただきましてね。御同行願いますか?」

「え、あ、ちょ――――――!」

 

 そうしてコードネーム“バンブーブレード”の冒険は早々に幕を閉じ、特調六課所属の某同期が火消しに翻弄することになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高峰が珍しく額に青筋を浮かべてしっかり腰の入った男女同権パンチを笹原に叩き込まんと全力疾走をしていたころ、無事に買い物を終えた航暉たちは本日最大の危機に直面していた。

 

「ヘーイ提督ゥ、お楽しみだったみたいネー?」

「休日の過ごし方ぐらい自由にさせてくれよ、金剛」

 

 苦笑いでそう言う航暉、同行していた初霜若葉は雷電姉妹と睦月が満面の笑みでどこかに連れ去った。そのせいか、航暉の前には金剛とその姉妹+αが揃っていた。どうやら全員金剛が呼んだらしい。そのほかにも暁や響がじとっとした目線でお出迎え。大鳳や龍鳳が大規模改装が終わった報告に来た後から付き合わされていた。その他にも利根や筑摩の姿も見える。

 

「金剛お姉さまをこんなに……」

 

 小さくぶつぶつつぶやいているのは比叡だ。そこから先は聞こえなかったが聞こえなくてよかったかもしれない。霧島は眼鏡の反射で目が見えないのが怪しく見える。榛名だけはにこにこ笑顔で航暉と金剛のやり取りを見守っていた。

 

「まぁ金剛さんそこまで責めなくてもいいじゃないですか」

「そうじゃぞー。浮気も男の甲斐性のうちと言うじゃろう?」

 

 航暉にとっては浮気前提で話が進んでいることに少々不満が残る。こういうとあれだが、浮気などしたつもりはないし、そもそも金剛と恋仲になった覚えはない。

 

「そうだとしても認めた覚えはありませんヨー?」

「買い物に付き合ってもらっただけだよ」

「何を買いに行ったネー」

「そこまで今日言わなくちゃいけないか?」

「お姉さまを愛してないんですか!?」

 

 そう詰め寄る比叡に航暉は半歩左足を引いた。

 

「大切な仲間だと思っているさ。それでも……はぁ、なんでお前が捨てられた子犬みたいな顔をするんだよ、比叡。わかったわかった、本当は明日まで黙っておくつもりだったんだがな」

 

 そう言うと足元に置いたバックから何かを取り出した。

 

「ほら金剛、おいで」

 

 そう言われて一瞬ぽかんとした金剛が顔を真っ赤にして航暉におずおずと近づいた。

 

「I present this to you with my thanks. 受け取ってくれるかい?」

 

 差し出したのは真っ白なラッピングがされた小さな箱、それを金剛は震える手で受け取った。

 

「これ……開けても、okay?」

「もちろんだ」

 

 航暉が笑えば、袋を破かない様に丁寧にテープをはがし、中身の紙箱のふたも開けた。

 

「……あ」

 

 中身を見て驚く金剛に榛名が声をかける。

 

「今日は3月13日ですから」

「榛名、わかってるなら止めてくれよ」

「嫌ですよ。女性にとって殿方は自分以上に大切な方。金剛姉様は貴方が心変わりをしたんじゃないかと心配になるのも榛名には痛いほどわかります。そこまで想われていると言うことを月刀提督は知るべきですよ。それで? 何を買ってきたんです?」

 

 榛名が覗き込んだ先には金の地に黒が乗った小ぶりな缶とクッキーの詰め合わせがあった。

 

「RIDGWAYSのH.M.B……」

 

 好きだっただろ、リッジウェイ。と航暉が頭を掻きながら目線を逸らした。

 

「覚えててくれたの……?」

「……どれだけお茶に付き合ったと思ってる」

 

 そう言った航暉はどこか不機嫌そうで、それが照れ隠しであることも丸わかりで……

 

「――――――テートクゥ!」

 

 金剛が飛びつくもの無理はないと榛名は思った。

 

「とってもとってもうれしいデース! そうだ! ちょうどアフターディナーティーの時間ネー! カズキ、淹れてくだサーイ!」

「今からか?」

 

 航暉が抱きつかれた金剛の体に引きずられるように背中を丸めると、金剛は満面の笑みで頷いた。

 

「しょうがないなぁ……。下手でも文句言うなよ?」

「もちろんデース! 一緒に淹れましょうネー」

 

 その様子を見て霧島と榛名は頷き合った。比叡だけはどこか不満そうである。

 

「お姉さま……」

「金剛姉様が楽しそうだから良しとしましょうよ、比叡姉様?」

「そうなんだけどなー。なんだかなー」

 

 比叡が腑に落ちない感じで首を傾げたタイミングでドアがノックされた。電や睦月が顔を真っ赤にして、初霜は目を赤くして入ってくる。唯一通常運転なのは若葉だ。

 

「……ごめんなさいなのです」

 

 電のいきなりの謝罪から向うでも話したらしい。できれば話さないでほしいとは言ったが、お話というよりはO☆HA☆NA☆SIだったらしい。若葉も少し汗をかいているところからも見て取れる。

 

「まぁいいよ。初霜若葉にもしっかり謝っておけよ。久々に紅茶を淹れようか」

 

 航暉が疲れたような表情をしながらも用意を始める。その後ろを金剛が至極嬉しそうについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は英国王室御用達の紅茶の味を振る舞った結構な規模のお茶会になった。金剛がストックしていたスコーンなども出てきて夜のお茶を楽しんだのだが……。

 

「ホワイトデーは明日だっていうのにほぼ今日で終わってしまったじゃねぇか」

 

 最後の片づけを終えて執務室の椅子に腰かけた航暉の前にコップがことりと置かれた。コーヒーを淹れてくれたらしい。

 

「しれーかんは頑張りすぎよ。今日一杯も紅茶飲まなかったでしょ?」

「自分が贈ったものだぜ? 普通に考えて飲まないだろ」

 

 そう言った航暉に雷はそれでも納得しないようだった。

 

「金剛さんに聞いたわよ? リッジウェイの紅茶ってあんまり日本に入ってないんでしょ? 見つけるの大変だったんじゃないの?」

「そうでもないよ。金剛へのお返しはもう決めてあったからな。それよりも睦月たちに何を送るかの方が大変だったよ」

 

 航暉は苦笑いしながら今日のことを思い出す。暁と響にはそれぞれ色違いのテディベア、睦月には深緑色のハンカチ、如月にはコンパクトミラーなど一人ひとりに別々のものを買っている。買い物に付き合ってくれた若葉にはチェスボード、初霜には香水の小瓶をプレゼントしていた。

 

「電、雷」

 

 二人を呼んで航暉はデスクを開けた。引き出しから取り出した小さな箱を二人にそれぞれ手渡した。

 

「……他の人には内緒だぞ?」

 

 航暉はにやりと笑みを浮かべてそう言った。ラッピングはされていないが化粧箱に入ったそれを二人はしげしげと眺める。持ってみると結構重い。

 

「開けてごらん?」

 

 航暉にそう言われゆっくりとふたを開ける二人。

 

「これって……」

「万年筆……なのです?」

 

 化粧箱の中には黒い艶のある万年筆が入っていた。それと小ぶりなインク瓶が一つ。

 

「あ、これって……!」

「俺とお揃いだ。若干違いはあるけどな」

 

 そう言ってペントレーに乗っていたペンを振った。二人が持っているのとそっくりなその万年筆はかなり使い込まれていてしっくりと手に馴染んでいるのがわかる。

 

「これ、名前が入ってる……?」

 

 インク瓶に張られた手書きのラベルを見て雷がそう呟いた。

 

「ふたりとも濃紺のインクだが、それぞれ色の配合を変えてある。世界に1つだけの色だよ。月詠オリジナルとでも言おうかな?」

 

 そう言って航暉はどこか寂しげな笑みを浮かべた。

 

「軍はお前たちに機械としての性能と成果を求めるだろう。でも、それに慣れちゃいけない」

 

 二人の前にしゃがみ込んで航暉は頭をそっと抱いた。

 

「人間らしさを失うな。感情を失うな。お前たちは代替が効くような機械じゃない。世界でたった一つの(こせい)を持つ人間だ。俺はそう信じてるし、信じていたい」

 

 少女特有の温かみを感じる二人の頭を抱いて航暉はそっと目を閉じた。

 

「俺は今度准将になる。そうなれば今まで以上に俺はお前たちに兵器としての性能と成果を求める立場になる。それに慣れるな」

 

 それは命令なのかお願いなのか、彼自身にはわからなかった。だが、それを分けるつもりもなかった。それできっといいのだと思う。

 

「ありがと……なのです」

「大切にするからね!」

 

 静かな空間に広がる余韻を味わっていると、ドアの外から騒がしい足音が響きだした。

 

 

 

「こんの、待ちやがれパパラッチ――――――!」

「すいませ――――ん! 悪気はなかったんですぅ!」

「すまんで済むなら特調はいらねぇんだよ! とりあえず笹原焚きつけた分と掛け金巻き上げた分――――……」

 

 

 

 ドップラー効果で音程が上がって下がると足音が一気に遠のいていく。

 

「今のって……」

「高峰と青葉……だな」

 

 どういう展開になったか読めたところで三人はほぼ同時に噴き出したのだった。

 

 

 




はい、こんなことになってましたね、えぇ

今年のは軽快のおまけと合わせて次話に投稿します。

それでは、次話でお会いしましょう。

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