艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー 作:オーバードライヴ/ドクタークレフ
はじめまして、オーバードライヴです。艦これ二次小説始めます。
ハーメルンでは始めての挑戦。(生)暖かい目で見て頂けると嬉しいです。
それでは、抜錨!
「嫌だ! 死にたくない! 死にたくない!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。街が燃え、海が燃え、逃げ場などないのだ。建物が燃え、倒壊する音。哭泣に怒声、散発的な小銃の音に何かが飛翔する音。
制空権も無く、制海権などあるはず無く、海岸線を埋めるのは人のようで人ではない“なにか”
「兵隊さん、せめてこの子だけでも連れてって!……兵隊さん!」
もう息絶えた赤子を差し出す母親。自分の足を探して這いずり回る老人。放心して立ち尽くす兵士に、逃げ惑う群衆。
「8ブロック先に軍のトラックが来ている! そこまで走れ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図の中、声を張り上げる男が一人。
「民間人の保護を最優先に! エリア2、ライン4-11を死守せよ!」
「隊長、こんなのちっぽけなライフル程度で倒せんのかよ!?」
「知るか! 一秒でもいいから時間を稼げ! 無反動砲前へ! とりあえずここが最前列、狙いなんてどうでもいいからとりあえず前にぶっ放せ! 400を切ったものから優先的に撃破!各員発砲を許可する。全責任は俺が取る! 歩兵部隊の意地を見せてみろ! 攻撃開始!」
無反動砲の爆炎が伸びすぐに火柱が立つ。それに怒り狂うように飛んでくる“なにか”
「ダメだ! こんな人用の銃じゃ刃がたたねぇ!」
「――――――化け物がぁあああああああ!」
ある人は“それ”を“天罰”だと言った。傲り高ぶる人間への天罰だと。
海を我が物顔で行き来していた人間はある日を境に、やせ細った陸にしがみつかなければならなくなったのだ。その陸地すら長く続いた戦争のせいでほとんど死んでいるのだから、もう手の施しようが無い所まで人間は堕ちたのかもしれない。
《国連は国連軍の結成を初の全会一致で採択し、全ての軍が国連平和維持軍の管理下に統合されることが決定しました。異形の軍隊を相手取って全世界足並みを揃えた反攻への第一歩を踏み出すことになるでしょう。異形の軍隊に対する新兵器の開発も進んでおり、本日、茅葺内閣総理大臣はあす開催される臨時国会で日本海軍に600億円規模の臨時予算を策定する予算案を提出する見込みであることを明らかにしました。これに日本恊産党を除く全党が賛成し即日可決される見通しです……》
それでも、それでも
生き残るためには諦める訳にはいかなかったのだ。たとえ――――
『諸君らの働きが全人類の希望となり、この海を切り拓く鏑矢となる事を確信するものである! これより、第一次反攻作戦“オペレーション・フルムーン”の開始を宣言する!』
――――たとえ、罪の無い少女達を戦場に追い立てたとしても、諦める訳にはいかなかったのだ。
これに関わる人間はすべからく地獄におちるべきであろう。罪なき少女の家族も友人も戸籍も記憶も自由も、名前までも奪い、戦場に追い立てる。そんな人の皮を被った悪魔が地獄に落ちずにどこへいく。人が人を殺めてから、いや、禁じられた果実をかじってから、人間は呪われた種族だが、その呪いも極まれりと言える。でも、それでも生き残るためにそうせざるを得なかった。愚かな人間にはこうするしか方法が無かった。
ならば、せめて。
せめてその罪を背負い、後の世代のために屍を超え、血の海を渡ろう。少女達だけにこの海を渡らせてはならない。その重責を華奢な両肩に預けてはならない。少女達を死なせてはならない。その代償が計り知れないものだとしても、それを背負わねばならない。
それが軍人にできるせめてもの贖罪だ。
「……いくぞ」
「はい、なのです」
せめてもの救いがあると信じ、せめてもの救いとなると信じて。
『艦娘』と『提督』は海を進む。
「全艦に通達、これより私が指揮をとる。両舷原速赤20。出航する」