戦姫防御のグリーン・シンフォニー   作:北岡ブルー

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◇響、運命の日の前夜その2

…こんばんは、催促をしてくれてまでこの話を楽しみにしてくれた人よ。ただいま沈みゆく夕焼けをバックに、盟友未来と『ふらわー』に向かっている立花響だ。我の一人称視点が久しぶりな気がするのは全て北岡ブルーって奴の仕業なんだ。

 

……分かる者がいるか怪しいネタは置いといて、暇潰しがてら、我らが目指している店『ふらわー』の説明をするとしようか。

 

…『ふらわー』とは、我立花響、隣の未来を初めとする女子の中で最近有名になっているお好み焼き屋で、レトロな雰囲気とヘルシーかつ美味なお好み焼きが楽しめる隠れた名店だ。

 

…店の店長も中々のよい性格をしていて、そっち方面でも人気がある。念のために言っておくが女性だ。

 

…我としても、前世では滅多に楽しめないレトロな内装と面白い大人に会えると言うことで結構気に入ってる。

 

「響!『ふらわー』見えてきたよ~!」

 

…よほど腹が空いていたのか、珍しく明るい声を発する未来に、我はいつも通りの頷きで答えた。

 

 

 ◇

 

 

「まあぁ~!いらっしゃあい響ちゃん未来ちゃん!他の三人は一緒じゃないのかぁい?」

 

「……。(訳)こんばんは店ちょ」

 

「へ?今なんて言ったんだい?」

 

…元気満点のおおらかな声で出迎えてくれたこの人こそこの『ふらわー』の店長「店ちょさん」だ。本名は誰も知らない、本人もボケて本名を教えない。誰も知らない。ねーみんぐばい創世だ。我じゃないぞ

 

「こんばんは店長さん。ちなみに響もそう言ってます。今回は私達二人きりです」

 

…未来がいつも通りに我の言語通訳を交わし、席に付くと、「今日はお安くしとくよぉ!」とシルバーに光るヘラを店ちょがクルクルと回す。

 

…その途中で未来が思い出したかの様に、驚きの注文を交わした。

 

「あっ店長さん。今日は自分たちで作れるお好み焼きをお願いします」

 

「あららぁ?いつもの店長手作りお好み焼きじゃないのぉ?」

 

「はい」

 

…その「ごめんなさい店長さん」とお詫びを入れる未来の顔を見て、我も我ながら、唖然としていた。

 

…なぜなら、未来はお好み焼きを焼くのが下手な故に、自分の分はいつも店ちょに焼いて貰っていたからだ。

初めて来た時に、友達(より響)にカッコいい所でも見せようとしたのか勢いよくアツアツのお好み焼きを我の顔面にぶつけたのがトラウマになったのかと思っていたが、どうやら違った様だ。まあよく考えて見れば、未来は我の防御カを知っているハズなのでトラウマになるはずはないのだが。

 

「へい『お好みお玉』二丁! ゆっくりしていってね!」

 

…得意技を披露できなかった店ちょだが、彼女の接客態度は相変わらずで、どんぶりクラスの巨大お玉の中にお好み焼きの具が入ったセルフサービス料理『お好みお玉』を出してくれた。

 

…よし焼くか…。と腕をまくり、金属ベラを取ろうとしたその時、金属ベラの上に見覚えのある手が覆い被さった。顔を上げると、その手は案の定未来だった。

 

「ごめんなさい響。今日は、私に先やらせて…」

 

「……。………。(訳)ム…そうか、気をつけろよ。油跳ねるからな」

 

「…っ!うん、ありがとう響…それじゃあするね」

 

…我の了承を得て、水に入った魚の様に元気な声を出した未来は、早速油の敷かれた鉄板の上にお玉の中の具を一気に入掻き込んだ。

 

「わ…!」

 

「………!」

 

…だが勢いで注いだせいか、油の滑りが良すぎたせいか、具が鉄板の上を滑らかに伸びてしまい。大きいサイズである鉄板の半分を殆ど覆い尽くしてしまった。

 

…流石にこれは一人では無理だ。そう判断した我はもう一組の金属ベラに手を掛け助太刀しようとすると、大砲を撃った様な、しかし確かな決意と熱意を感じさせる大きな声が上がり、我は体が止まってしまった。

 

 

 

「大丈夫っ!大丈夫だから響は見てて!大丈夫、大丈夫だからっ!!!」

 

 

 

「……!(訳)未来…?」

 

……かつて、緑の王と称された我の前世では、様々な攻撃が降りかかった。我の肉体を覆い隠せる程の閃光のごときレーザーをくらった事もあるし、我を後退させる程の衝撃にも、何度かあった事がある。

 

…だから何より驚いた。

 

…ただの『声』だけで驚き、椅子の下で僅かに後ずさった自分が。それをさせた 未来が。

 

 

「見ててね…、響」

 

 

…そのあとの我はもう、石の様に固まって見守る事しか出来なかった。

 

…固唾を飲み、焼け上がってきた具の端と端に金属ベラを潜り込ませる未来。それを見て、我の心の中で静かにこぼれ落ちた、二つの言葉があった。

 

 

…失敗させたくない。 させない。

 

 

…と言う、確かな硬い想いが

 

「………。(訳)…奥だ」

 

「…え?」

 

我の声を聞いて、お好み焼きに向いていた未来の目が我の目と合う

 

「………。……。(訳)上げる時、腕もお好み焼きの奥に潜り込ませて思い切りひっくり返せ。熱いのはお好み焼きの熱の一瞬だけ、上げる時に思い切り歯車を回す感じでひっくり返せば、この油ならなんとかひっくり返る」

 

「…アドバイスありがとう響…、行くよ…!」

 

…要らぬ世話だっただろうか。そんな事を僅かに心配したが、未来は我の言葉に笑顔で答えると全神経をお好み焼きに注ぎ、顔をしかめる。お好み焼きは未来が火を強くしたのか、表面が裏返す必要もない位に焼き上がっている。未来もそれを見てか大きな皿を横に置いて準備する

 

「……やあっ!!」

 

…そこからの未来の動作は素早かった。未来は先程のアドバイスを聞き入れてくれた様で、ヘラと共にその手をお好み焼きの下、その奥まで入れ込み、その勢いに乗って思い切り上へと腕を上げる。それを滑走路にする様にお好み焼きも高く宙を舞った。

 

…ブオン、ブオンと空中回転を決めるお好み焼きを尻目に未来が用意した大きな皿を持ち上げる。未来がお好み焼きの落ちる方向に合わせて皿の端を持った為揺らぐが、反対側の端を我が持った事で何とか受け止める姿勢を磐石にする。

 

…ドス!とお好み焼きは勢いよく皿の上に着陸し、その衝撃に僅かながら皿が揺れ、未来と我は目をつむってしまう。

 

…皿を安全圏に下ろし、目を開けるとそこには、とても素人が作ったとは思えない程キレイにできたお好み焼き(特大)がそこにあった。

 

「―――! やった…! やったぁ!!」

 

「…………シッ!!!」グッ!

 

未来のお好み焼きリベンジが大成功に終わり、椅子の上で小さくピョンピョンと跳ねて喜ぶ未来に合わせて、我も思わず小さなガッツポーズを上げてしまう。

 

「響響!出来た…!出来たよ!私出来たよ!」

 

「…!」コクコク!

 

未来はこの成功が夢じゃない事を我の頷きで確認すると、さらにもう一声「やったあぁぁ!!」と歓喜の声を上げるのだった…。

 

 

 ◇

 

 

「もう夜になっちゃったねぇ」

 

「……。(そうだな、にしても今日は月がキレイだ。)」

 

…『ふらわー』で未来のリベンジミッションを楽しんで時間を忘れ、未来の作った特大お好み焼きを食べきって外に出た頃には、もう夜になっていた。未来の成功を祝してくれているかの様に、空には明るく蒼い月がスポットライトとなって小さな成功者を照らしてくれていた。

 

…月に照らされていた未来をなんとなく見つめているうちに、一つ ふとした疑問が浮かんできた。

 

「…(訳)所で…、」

 

「ん?」

 

「…………。(訳)何で急に『ふらわー』に行こうといい出したのだ?未来はいつもお腹がすいたら近くのコンビニでチョコボー買うのが日課ではなかったか?」

 

…そう言うと未来は目に見えて慌て出した。

 

「えぇ!?そ…そうだったかな~?」

 

「…?(訳)そだぞ?何ならいつもよる近くの公園のクズカゴ見てみるといい、未来の食べたチョコボーの空で一杯だぞ?」

 

「うわぁ~!体重計に乗るの怖いよぉ~!」

 

…その話を聞くと耳を塞いでイヤイヤと首を左右に振る未来。

 

…大丈夫だ。我が乗った後の体重計に乗れば一ミリも動かん。

 

「とっ…とにかくっ!今日はそんな気分だったの!リベンジもしたかったしそれでいいでしょ?」

 

「……。(訳)あぁあぁ。それでいいさ」

 

「んもぉ~、信じてよぉ~!響ィ~!」

 

…全く、未来といると飽きないな。

 

 

 

 ◇―まさかまさかの店ちょサイド―◇

 

 

…その頃店ちょは閉店した店の中、未来と響のいたテーブルの上で、特大お好み焼きを食べたが為に残ってしまった響の分のお好お玉を使ってお好み焼きを作っていた。

 

そこは流石店長と言うべきか、片手で頬杖付いたままの不安定な状態で、すらすらとキレイなお好み焼きを作っている。

 

今店ちょの頭の中にあったのは、未来の事だった。

 

「全く、知らん顔も楽じゃないねぇ…未来ちゃん毎日ここに来て練習してたクセに…」

 

まぁ、確かにあんな大きなお好み焼きを作ったのは初めてなんだけどさ。と言うと、まるでカードを裏返すかの様な手軽さでお好み焼きを表裏と、彼女愛用の特性金属ベラでひっくり返し続ける。

 

そんな彼女の頭の中で浮かぶのは、毎日毎日時間があればここに来て、なけなしのお金を払い、たくさん失敗してそれを口に運ぶ。涙目の少女の姿だった。

 

不思議に思って何故毎日来るのか聞いた事があった。その答えは別の意味で店ちょを驚かせた。

 

『響に、私のきちんと出来たお好み焼きを食べさせてあげたい。笑顔にさせてあげたい』

 

それが答えだった。彼女は自分のリベンジではなく、前に自分のミスの巻き添えを食らわせて迷惑をかけた響に、今度は自分のお好み焼きを食べて笑って欲しいと言う思いだけで、中学生には重いお金をはたいてまで練習しに来ていたのだ。

 

にしても何故今日だったのだろうか?

 

今の彼女ならいつもの5人組の輪の中でも慌てずにうまいお好み焼きを作れたハズなのに…。そっちの方が無口な響二人きりよりもたくさんの歓声なども起きて賑やかになっただろうに…

 

そう言えば、響の顔が僅かに影が差していた気がする。それに関係があるのだろうか。

 

「正直に言って…響ちゃんは無口なのも相まって、何考えているのかが全く解らないのよねぇ…あの子余程の事がないと顔の表情変えないから…」

 

初めて会った時なんて、余りにも表情を変えないから仮面でも被ってるのかと思ったもんねぇ。と呟いて、焼け上がったお好み焼きを金属ベラでピンとコインの様に弾いて、皿の上に落とした。

 

「でも、そんな響ちゃんでも未来ちゃんと一緒なら表情を感じさせてくれるから、不気味がらずに仲良くなれたのよねぇ」

 

表裏一体 そんな言葉が相応しい二人だ。もし異性だったらきっとピッタリだったろうに。そう惜しみながら、かつおぶしとソースであえた質素なお好み焼きを噛み締める店ちょだった…。

 

 

 ◇―響サイド―◇

 

…戻り戻って我だ、響だ。さっき未来の家に着いた所なんだが、未来の両親に玄関先で怒られてしまった。前世ではこんな風に心配してくれた大人に怒られた事がなかったため真摯に聞いていたのだが、夜も遅いのでと終わってしまった。少し残念だ。

 

「……響はMっ気の素質アリっと…大丈夫、言…攻…鍛え…きっと…」ブツブツ

 

「……………?(訳)…何書いてる未来?」

 

「あっ!!!いやなんでもないよ!?」

 

…おかしいな…?先ほど未来の手元に『響ノート20019』とか何とかと書かれたノートが見えた気がするんだが消えた…。まさか未来に何かしらの能力が有るわけはないし気のせいか。疲れたんだな。←(読者よ、これが現実逃避だ)

 

そんな事を考えていると、未来が「あっそうだ!」とポケットから何かを取り出した。

 

「響!良かったら明日ツヴァイウィングのライブ行かない?」

 

その手に握られていたのは二枚のチケットだった。いやにクシャクシャだが…ツヴァイウィングってなんだ?

 

「……。(訳)…ツヴァイ…ウィング…?何だソレ?何かのアニメか?」

 

「響違うよぉ!もぉ~だんだん弓美にアニヲタ浸食されてる~!しっかりしてよ響ぃ~!」

 

…あうあうあうあうあうあうあ←肩を掴まれ、ガクガクと揺らされている我

 

…しばらくカクカクすると気が済んだのか、手を離した未来は今度はその手を交えてツヴァイウィングの説明をしてくれた。

 

「いい響?ツヴァイウィングって言うのは最近人気急上昇中のツインボーカルユニットなんだよ?今ツアーの最中で今度この近くでライブを初めるんだって。しかも相方の風鳴翼さんの母校が近いからってツヴァイウィング専用の巨大ステージで!」

 

「…………。(訳)ほぉ~、それは凄まじいな。ニャーKBに迫る勢いじゃないか」

 

「にゃ…ニャーKB…?」

 

「……。(訳)にしてもよくそんなライブチケットを手に入れたな。どこで売ってたんだ?」

 

そう質問してみると、何だか顔を黒くして答えを帰してきた。

 

「………えっとね、(響をたぶらかそうとした)人から(せめて私が有効活用してやろうと)もらったの」

 

「……。(訳)もらった…か、親戚か?」

 

「うん♪(響を想う人としては)親戚だね♪(まぁ天地の差だけど)」

 

…そうだなぁ…、どうせ明日は何もないし、未来と一緒ならば遠出も悪くまい。我の親ならすぐに了承してくれるだろう。

 

「…………。(訳)ああいいぞ。行こうか、ライブ」

 

…そう返事を返すと、未来はその黒くなっていた顔をまるで太陽の様に明るくして集合場所や時間を教えてくれた。

 

「それじゃあ明日、10時の○○バス駅前でね!また明日!」

 

「………。(訳)あぁ、また明日」

 

…そう未来と明日の約束を交わすと、我は内心意気揚々とさせながら帰路を後にした。

 

 

…それが、悲しき歌と、『絶対防御』の戦いの、再来の日になるとも知らずに…




何か余りコメント来ないなぁ…(´・ω・`)

なんでなんやぁ…?

あと補足の説明をすると、今回未来がお好み焼きに挑戦したのは、響が悠詞君に言い寄られたせいで疲れていると考え、未来の私お好み焼き出来る様になったよパフォーマンスで元気になってもらいたいと考えたからです。

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