戦姫防御のグリーン・シンフォニー   作:北岡ブルー

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 前半だけ勢いでできて半年。

 ちと人にスランプを打ち明けてなんとか立ち上がったので、一ミリ一ミリの一歩を1日歩き、なんとかできました。

 ヒロアカ12話で終わるなんてウソだろ?ねぇ、時間帯替えるだけだといってよ(切実に)

 蛙吹ちゃんに蛇と化す未来とか蛙吹ちゃんに蛇と化す未来とか蛙吹ちゃんに蛇と化す未来とか妄想したのに…。



◇ソレは空から来る。

「いやぁ、響さんもツヴァイウィングのファンだったなんて知りませんでしたよ!意外に思うかも知れませんけど、僕も好きなんですツヴァイウィング!」

 

「…………」

 

「え?今何か言いましたか?」

 

…『我もこんな所で会うとは思わなかった』と言ったのだ。悪いが仕様だ。

 

…おっと、いつもこんなクセのある小説を見てくれてありがとう。といつも作者と共に感謝しているグリーン・グランデ(イコール)立花響だ。

 

…我は今、大人気のツインボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブに来られなかった未来の為に、指定された席に座りスマホ撮影の準備をしている所だ。

 しかしこの席、他と離れている上に金箔でデカデカとVIP(ビップ)としるされてないか? 家もそうだったが未来の家系は結構裕福なのだろうか。

 

…そして今、我の席の隣で話しかけているのはこの前 わ…我に告白…?し間違えた悠詞君という者だ。

 あぁもう思い出しただけで顔に火が出る…。

 悠詞君はどう考えているのだろうか…?告白し間違えた人と隣で気恥ずかしくないのか?我だったらもう気まずくなって帰ってしまうぞ…。

 

…聞くべきか…?いや本人も顔に出してないだけで気を使っているのやもしれぬ、もう触れないで置こ…、

 

「響さん!」

 

「…!?」

 

…何ッ!? いきなり我の手を掴んで来ただと!?

 ちょっと待てちょっと待て!! 周りを見ろ!悠詞君が大きな声を上げるものだから周りのライブに来た者達がこっちを見ているぞ!

 それにあれは勘違いでは――

 

「昨日は本当にすいませんでしたッ!いきなり告白なんてしてしまって!!実は僕…貴方に…

 

 

 

   一目惚れしてしまったんです!!!」

 

 

……ファッ!?

 

「貴方を知ったのは入学式の時、具体的に言うと僕が代表として上がった宣誓の時でした…」

 

「……………」←【今明かされる衝撃の真実ゥにオーバーヒート寸前の無口ビッキー】

 

「その時に見えたんです、ほだらかな稲穂を思わせるその髪と、誰にも見初められず密やかに咲く花の様な貴女の姿を。その全てに僕は…!」

 

「「「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!!!」」」

 

…そ、その先はなかった!聞こえなかった!何故ならばコンサートの舞台に光が差し、それを見て観客が歓声をあげ始めたからだ!おそらくツヴァイウィングの二人が出てきたのだろう!

 

 さ、さぁ悠詞君には申し訳ないが我も未来の為に作ったアプリを起動せねば!

 

……我は言いかけたままの姿勢になっている悠詞君に『また後で聞く!御免!』と書いたメモをピシッと膝に書き置くと、自作の生放送アプリを起動し、準備したスマホ用立て掛けにセットして、録画と転送が同時進行しているのを確認する。

 

 これで準備OKだ。我もライブを楽しむとしよう。

 

 

…しかし凄いものだ、風鳴翼と天羽奏。

 二人は翼をモチーフにしたのであろう服を身に纏い、一対の翼の様に息をあわせてステージの上を舞い踊っている。

 

 曲名は確か、ボーカル名ツヴァイウィングをイメージした新曲『逆光のフリューゲル』

 

…体を動かしながら歌うなど、相当の体力を消耗するハズだが二人の顔から疲れらしき物は見当たらない。流石はトップアーティストと言うべきか、会場のドームが翼の様に展開される仕掛けにもその人気振りが伺える。

 

…無論、歌の方も負けてはいない。むしろ歌こそ本懐と言うべき所だ。

 

…彼女らはマイクの補助があるからとはいえ、その歌声はここにいる者達の魂と心を震わせ、歓声へと変えていく。

 その大きな歓声の中にあっても二人の歌声はかき消されず、それを越えていく歌が強く高く『鳴』り、『奏』でられている。

 

…まさに限界という壁を飛び越え続ける鳥の如し。名は体を表す(ツヴァイウィング)とはよくいったものだ。

 

…未来はこのライブを見ているだろうか。正直、我もこれほど凄いものだとは思ってもいなかった。

 

…これがライブ、これこそがツヴァイウィングなのだと、我の胸に強く刻まれていくのを感じた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇――――悠詞サイド――――◇

 

 

クソッ…!クソックソクソクソクソクソクソオオオオォォォォ!!!!

 

何でなんだよ!何でこのタイミングで歓声を上げるんだクソモブ共ォォオッ!!!お前ら能力が覚醒したらぶっ殺してやるから覚えとけよッ!

 

畜生が!!このままじゃあヤクザ共にチケットを奪わせて、もう一度VIP席のチケットを作らせた意味がなくなるじゃねぇか!!

 

クソッ早く終われよ一曲目!告白の続きが出来ねぇじゃねぇかよ!!もう前世のCDやYou○ube(ユー○ューブ)で聞き飽きてんださっさと終われ!

 

ん?いや待てよ…? 思い出した二曲目はない!何故なら直後でこの作品の敵である『奴ら』が出てくるからだ!

 

そうすれば響がピンチになって僕の能力が覚醒する!! クッ…クフフ…、フハハハハハハハハハハハハよっしゃあ!!そうなれば主人公の僕に不可能はない!!響も助ければ僕に惚れるだろうしそのまま勢いに乗って奏と翼を陥落させることもできらぁなぁ!

 

こうして僕は主人公らしく崇高な考えを浮かべていると、ついに運命の時が、合図がやってきた!奏の声だ!!

 

『どんどん行くぞ――――ッ!!』

 

さぁ来い!主人公であるこの僕が、貴様らを灰塵に帰してくれるぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇――――響サイド――――◇

 

 

…沸き立つ歓声、渦巻く大衆。我はそれを巻き起こしたツヴァイウィングに感嘆の声をあげていた。加速世界の維持に付きっきりだった我はライブの事など全く無知だったからこそ、その興奮もひとしおだった。

 

…さすがに場の雰囲気というのは実物でないと分からないだろう。未来がいない事が本当に悔やまれる。今こそこの興奮を分かちたいと言うのに、人生とはままならぬものだ。

 

…そう惜しみつつも、次はどんな歌が聴けるのだろうかと期待してスマートフォンの角度を調整し、2曲目に備えていた時だった。

 

 

…突然観客の一人が空を指差し、声を上げる。

 

 

「おっオイ! 何だアレ!?」

 

 

…その声につられて我も上を向いてみると、遥か上空に鳥の群れがいた。最初は鳥がどうかしたのかと思ったが、我はすぐにそんな認識を改めることになる。それはなぜか。

 

…その鳥はなんと体をねじれさせ、まるでドリルの様に体を変化させて落ちて来たのだ。このライブ会場目掛けて、しかも複数。繰り返すがそんな事ができる鳥はいない。同時に我は確信した。

 

 

 

 ―あれは『(エネミー)』の類いだと―

 

 

 

…次々に地面へと激突し、ステージに亀裂をいれる鳥らしき生物。その内数体は人間に直撃した。我はいきなりの事態に思わず身を乗り出すが、その瞬間に衝撃の光景が目に入った。

 

「うわあぁ!!! 刺さった!刺さ――

 

「イヤアァァァ!!死にたくない!死にたくな――

 

…なんと、その生物に体を貫かれた人間は体の至る所を黒く染め、完全に染まりきると欠片となって崩壊、四散したのだ。あの鳥らしき生物ごと。

 

…気づけばライブ会場の下層部は人形、オタマジャクシ、果てまでは怪獣の様な生物などが沸き上がり充満し、その足元は漆黒に染まっていた。あんなに大量にいるものがどこから沸いてきたのか想像もつかないが、その姿と先の自爆攻撃に、我は見覚えがあった。

 

 

 ―特異災害『ノイズ』―

 

 

…前世の、二つの世界(仮想と現実)を含んで存在しなかった、謎の生物群の総称。

 

…我がハイハイをし始め、この世界の情報をインターネットで収集をしていた頃に知った『加速世界』と同じ、日常の中に紛れる『非』日常の存在。

 

…数年前に突如現れた人類の天敵であり、触れた人間を炭素…、つまり炭に変えてしまうという恐ろしい能力を持つ怪物だ。ネットで流出したといわれる監視カメラの動画を見た時は、こんなものが実在するのかと背筋が凍った。触れることが炭化の条件ならば、我の防御も貫通してしまうかも知れないからだ。

 

…しかし、その一方でノイズと遭遇して死ぬ確率は通り魔事件に会うよりも遥かに低かったはず。それがよりにもよってこんなに人が集まる場所に出てくるとは…、最悪の奇跡という奴か。

 

「きゃあッ!」

 

…その時、下から不意に小さな女の子の声が聞こえた。思わずその方向へ首を傾けると、転んだらしい少女の姿が目に入る。その後ろからは、オタマジャクシに似たノイズが少女の命を奪おうとのしかかろうとしていた。

 

…その姿を見た時にはもう、我の体は少女を救う為に動いていた。かつて守護の要として戦っていた我の、戦士(バーストリンカー)としての本能が無視できなかったのだ。戦えない者達の犠牲を。

 

「……………!(訳)先にすまないと言っておく!」

 

「響さん大丈夫ですよ!僕がついグエッ!?」

 

…我はすまないと思いつつ、悠詞君の服の襟を掴み席の真横に移動すると、床に向かって全体量を乗せた踏みつけをお見舞いする。

 

…すると次の瞬間、床は我の重みに耐えきれず無数の破片となって粉砕され、土台がなくなったVIP席が衝撃で僅かに浮く。

 

「……………(訳)上手くいったな…。行け!」

 

…そしてVIP席が浮き上がったのを確認した我はVIP席を壊さぬように手加減して――

 

 

 ()()()()()()()思い切り蹴り、押し飛ばした。

 

 

…飛ばされたVIP席は、人を避けつつ水切り石の様に周りを吹き飛ばしながら少女の元へと向かい。ギリギリのタイミングでノイズの攻撃から少女を守った。ノイズはぶつかって弾かれた後、ターゲットを見失って右往左往している。

 

…おそらく倒れていた少女も、いきなり現れた席を見て唖然としているだろう。まあ驚くのは当然か。

 

…あれは、我がまだ大楯を持っていなかった時期に編み出したスキル《創盾撃(シールドクリエショット)

 

…地表を割って即席の盾を作り、味方の前に飛ばして守るアビリティ……というより我の高い防御力を利用した力技なのだが、精密な起動計算をしないと味方をヤってしまうわそもそも加速世界の地面は硬いわで、我以外誰にも使えなかった悲しい技術だ。

 

…最初は失敗し続け、練習に付き合ってくれたパウンドをボコボコにしてしまったのだよなぁ…。あの時はホントすまなかったパウンドよ。

 

…しかし、少女を守っているのはあくまで普通の席だ。先の鳥型が繰り出した突貫攻撃が来たらひとたまりもない。

 

…そう考えた我はジュースを股関にこぼしたらしい悠詞君を背負い、ノイズが近くにいない時を狙って少女を助けようと下層へ降りていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇―――翼・奏サイド―――◇

 

 

 

「全く。今日は厄日かよ、ノイズまでアタシらのライブ邪魔しにきやがって…」

 

 一方その頃、ツヴァイウィングの片割れである天羽奏は、大量に溢れだしたノイズに悪態をついていた。

 

 その目に恐れは全くない。

 

 攻撃をすり抜け、触れたものを炭に変えてしまうノイズを前にして、アイドルは至極冷静に文句をいう。

 

 普通の人間から見れば、間違いなく正気を疑う行為だろう。災害相手に愚痴を言うなど狂気の沙汰だ。しかし、彼女は違う。

 

 奏にとって、こんな文句はいつもの事。災害に予定を狂わされるのは日常茶飯事である。

 

 今回が最悪なタイミングである事を除けば、だが。

 

(全く、"アレ"の起動もかねているってのによ――)

 

「飛ぶぞ翼。この場に剣を携えているのはアタシ達だけだ!!」

 

「でっ…でもまだ司令からは何も――」

 

「このままじゃ聞きに来てくれた奴ら皆死んじまうだろ!」

 

 煮え切らない相方の言葉を置いて前へと走り出し、ステージから飛び出す奏。その下に群れる晴れ舞台を邪魔してくれた雑音無勢(ふぜい)を前に、防人は歌う。

 

 

 

 自身をもう一つの世界へと誘う聖詠(・・)を。

 

 

 

「《クロイトザァル・ロンゼル・ガングニー…・ズィール――》」

 

 瞬間、奏の服は弾け飛び、同時に光の中に包まれた。肌の上にはオレンジと黒を主色としたボディスーツが形作られ、その上から角付きのヘッドホンやガントレットなどが装着、変形され火花が舞い上がる。

 

 光が消えるとそこには、SFさながらの姿に変わった奏が――『防人』がいた。

 

 彼女の足がノイズの同じ地に立つと、それに呼応するかの様に波状光が発生し、触れたノイズから透明じみた色が消えて、カラフルな色合いになってゆく。

 

 それは、強者と弱者の関係が反転した事を意味していた。

 

「フンッ!」

 

 奏はそれを確認するまでもなく両腕を前に突きだすと、半円状の特異な形をしたガントレットはひとりでに奏の腕から離れて形を変え、一振りの巨大な突撃槍(ランス)に姿を換える。

 

 得物を掴み、戦闘態勢を整えた奏は歌『君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ』を口ずさみ始める。

 

 『―幻、夢…、優しく包まれ…―』

 

 そのまま奏は槍で次々とよってくるノイズを凪ぎ払い、突き、切り裂いていく。その体に炭化の兆候はない。

 

 これは奏の纏っているFG式回天特機装束――通称《シンフォギア》の効果だ。

 

 ノイズにあらゆる攻撃が通じないのは、自身の存在を異次元より跨がせる『位相差障壁』によって『半存在』と化すからであり、彼らはそこから行き来きる。

 いわば普段の彼らは常時セーフゾーンに片足を突っ込んで戦っているようなものなのだ。

 

 しかし、そのセーフゾーンを、無敵化という逃げ道を無効化する手段として、シンフォギアは調律を、歌をぶつけることで位相差障壁を中和して打ち消し、こちらの世界に引きずり込む。

 

 そうすれば通過を気にせず戦えるようになり、殲滅することが可能になるのだ。

 

 しかし、ノイズ達はその絶対的優位を失ってもなお炭に変えようと、奏のもとに向かい続ける。

 

 届く範囲のノイズを片付けた奏も、それに負けじと槍を複数に分裂させて投げつける技『STARDUST∞FOTON』を炸裂させてノイズ達を迎え撃ち、炭へと変えていく。

 

「奏ッ!遅れてごめん!」

 

 一足遅れてきた翼も、奏と同じようにシンフォギアをまとい相棒の前に降り立ち、首をしゃがめた奏の後ろにいるノイズを二分に断つ

 

「気にすんなよっと!」

 

 相棒の参戦でさらに戦意を燃え上がらせたのか、しゃがみ様に槍を突きだし、翼の背後に迫る二、三体を串刺しにした奏は、背中合わせになった相棒にある提案をした。

 

「翼、やっこさん数多いからアレ(・・)使いたいんだ!アタシもそろそろ限界が近いしな!」

 

「ッ!…わかった、終わらせよう…!」

 

「あんがとよ、翼ならそういってくれると思った!」

 

 相談を終えた二人はアーティストとして歌っていた舞台へと走り出す。

 生き残ったノイズも獲物を逃すまいと追従し、大型は二人を狙って炭化効果を持つゲルを吐き出した。

 

 ノイズが集まったのを振り返って確認した奏は叫ぶ。

 

「今だ! いくぞ翼!」

 

「了解ッ!」

 

 合図と共に、翼は刀を巨大に変形させ、振り向き様に蒼の斬撃を飛ばす。

 奏もそれを追いかけるように槍を突き出し、回転させる事で荒れ狂う橙色の竜巻を作る。

 蒼の斬撃を巻き込んだ嵐は、ノイズの大群へと突っ込む。

 

 ゲルを吹き飛ばす橙の嵐は蒼の斬撃によって切り裂かれ分裂し、まるで獲物に飢えた蛇のようにノイズ達を次々と喰らい、吹き飛ばし、飲み込んでいく。

 

 

 

 絶大な威力を誇るこの技、名を『双星ノ鉄槌-DIASTER BLAST-』

 

 奏と翼の、無双の一振りである。

 

 

 

 技を解き放ち、ほとんどのノイズを一掃した二人。

しかし地上に降り立った瞬間に槍から輝きが失われ、奏はよろめいた。

 

「っと…!?」

 

「奏ッ! 大丈夫!?」

 

 危うく倒れかけるも、それは翼が奏の体を受け止めることで回避し、その場に座らせた。あと僅かとはいえノイズはいる。油断はできない。

 

「…あぁ大丈夫だ。ワリぃ、時限式はここまでだ。後のノイズは任せる」

 

「無茶したのは奏でしょ? もう、任された」

 

「おう」

 

 会話を終わらせると、翼は奏のいる所を振り返りつつ、ノイズの残党狩りに向かって走っていった。

 

「はぁ…。よっ、…と」

 

 その後ろ姿を見届けた奏は一息吐いて槍を持ち、残っている力を振り絞り立ち上がる。

 

 槍を支えにするその姿は痛々しさを感じさせるが、目に宿る戦意が消えた訳ではない。

 

 この状況でしかできない戦いも、確かに存在するのだ。

 

(頼む。誰か…、誰かいるなら生き残っててくれよ…)

 

 周囲を見渡し、生存者を探す奏。

 

 双星ノ鉄槌で大部分のノイズが消滅し、翼が後ろでノイズ達を引き付けている今こそ、逃げ遅れた者達を逃がす最大のチャンスだと奏は考えていた。

 

 もう皆死んでしまったのなら奏の行動は無駄骨ものだが、目の前で殺されるのを防げるなら喜んで折ってやる。その思いで全ての感覚をフル回転させる。

 

 もしもの時にはこの槍を投げつけるとばかりに自身の得物を固く握りしめる奏。その前に、幸か不幸かその姿がうつった。

 

「―――子供…! 生き埋めになってたのか!?」

 

 いたのは、大きな観客席の空洞に挟まれる形で生きていた少女だった。足が挟まって動けないらしく、その目はこの惨状を見て涙を流していた。

 

(落っこちてきた観客席があの子をノイズから隠してたのか? とりあえず不幸中の幸いだ、本当によかった!)

 

 生きてくれていた喜びから一瞬顔を綻ばせるも、少女を助ける事を優先して気持ちを引き絞り、槍を三本目の足にして傍まで走り寄る。

 

「あ…、お姉ちゃん、助けて…」

 

「ああ大丈夫だ!絶対助けてやるからな!」

 

 奏は少女を助けようと観客席に手をかける。だが、鉄の様に重くなってしまった上に力を失ったシンフォギアではなかなか持ち上がらない。

 

 ならばとばかりに槍を隙間に刺し、テコの原理で動かそうとするも、地面と一体化したかのように観客席は動かなかった。

 

(クソッ! コイツ落ちた衝撃でめり込んでやがる! 翼は後ろで()り合ってるしどうしたら――)

 

 テコもきかない観客席に焦りを覚える奏。

 

 次の瞬間、一般の観客席の前に倒れていた巨大なスクリーンが突如爆散し、黒煙が上がった。

 

「何だッ!?」

 

 奏は咄嗟にその爆発に反応し、少女のいる席を守ろうと前に出て臨戦態勢に入る。

 

 ショートして壊れた爆発ならいいが、ここには不意に現れるノイズの存在がある。

 

 万が一大型ノイズが出た場合、シンフォギアがマトモに動かないこの状況で戦わなければならない。それは死すら想定しなければならない最悪のシナリオだ。

 

 しばしの緊張、それを土煙と共に破ったのは――

 

 

 

 

 気絶したらしい少年を肩に持ち上げて無言で歩く、もう一人の少女だった。

 

 

 

 

 

「――は?」

 

 一瞬、奏は我が目を疑いまぶたをこする。しかし、間違いなく同じ少女が正面を歩き、こちらに近づいていた。

 

 奏がおかしい訳ではない。どこの世界にさっきまでノイズが闊歩していた会場を顔色一つ変えずに歩ける幼女がいるというのか。

 

 いや、そもそもなぜ爆発があったスクリーンの先から無傷で歩いているのかすらも、奏には理解できなかった。

 

 シンフォギアどころか、武器すら持たず感情を見せない幼子。では一体、この子は何を考えてここまで来たのか。明らかな違和感と静寂が空気に張り付き、奏は思わず汗を流してしまう。

 

「……どうしたらいいんだコレ…?」

 

「……ッ!」

 

「は? 今何か言ったのか? ここは危ないから早く退(しりぞ)―」

 

「……ッ!」ピッ!

 

 少女の口が僅かに動いたのを見た奏は今の状況を思い出して我に返り、避難を呼び掛けようとする。

 しかしその発言よりも早く、少女は少年を背負ってない方の手から何かを投げ落とした。

 

 それはスケッチブックであり、開かれたページには分かりやすい大文字でこう書かれていた。

 

「『それよりも、その童を救う事が先決だ』…? まさか、お前そのために…?」

 

「……。」コクン

 

 奏はその頷きに唖然とし、名も知らない少女の目を見る。その目の奥には、絶対に助けると言わんばかりの確信めいた輝きがあった。

 

 それは防人の目。

 

 戦う時の自分の相棒や、初めて会った時の絃十郎と同じ目を、この少女は宿していたのだ。

 

 その目を見た瞬間、奏は確かな確信を持ってこの娘をどう扱うかを決めた。

 

「……お前みたいな奴、まだいたんだな……」

 

「…?」

 

「いや、何でもねぇ!そうと決まれば力を貸してくれ!!」

 

「…!」コクコク!

 

 小さく頷いた無言の少女は肩に抱えた少年を降ろすと、少女の下に歩みより観客席の端を掴む。

 

 奏も同じように構えて観客席を掴んだ。

 

 四本の手に力が入り、奏が少女に呼び掛ける。

 

「いくぞッ!踏ん張れぇッ!!」

 

「……ッ!」

 

 奏は歯を食い縛り、少女は瞳の輝きを増して全力全霊の力を細い腕にかける。

 

「うおおおおッ…!!」

「………ッ!」

 

 ミシ、メキ。と観客席が震え、先程と違う感触を感じた奏はさらに力をこめる。

 

 すると、機能が死んだはずのシンフォギアが僅かに動き出し、赤いクリスタル部が輝き始めた。

 

「――いける! よしッ!!全力で上げろおおおおおおおおッ!!!」

 

「――――…ッ!!」

 

 ――ボゴンッ!とめり込んでいた観客席が上がり、砂埃が巻き上がった。

 

 そのチャンスを逃すまいと奏は「一瞬だけ頼むッ!」と喋らぬ少女に現状の維持を託すと、突き立てられていた槍をできた隙間に突っ込み、支えにする。

 

 そこから少女の手を掴み、引き上げたのだった。

 

 よほど不安だったのか、少女は引き寄せられた勢いで奏の胸に抱き付き、火が付いたかの様に泣き出した。

 

「おっと」

 

「うわぁあぁああ…! ごわかっだぁ…! 怖かったよぉお姉ちゃあぁぁん…!!」

 

「よしよし、もう大丈夫だ、よく生きるのを諦めないで頑張ったなぁ。よしよし…」

  

 経験があるのか、抱き付かれた奏は驚いたものの、その後は冷静に少女を落ち着かせようと頭を撫で、背中をさすっている。

 

 そのまま奏は、ある程度落ち着いた少女をそっと降ろすと、観客席から手を離した無言の少女に近づき、太陽のような笑顔をパッと浮かべて礼をいった。

 

「ありがとうな。お前が来てくれなきゃアタシは何もできなかった。ノイズのいた所に助けに駆けるなんて、勇気あるよホント」

 

 ポンポンと、軽く無口な少女の頭を叩く奏。しかしその態度とは裏腹に、彼女は助けに駆けつけたこの少女に敬意を抱いていた。

 

 なすすべもなく黒く染まり、消えていく蹂躙劇。

 

 そんなものを見てしまえば、大人でも逃げてしまっておかしくないのだ。しかし、目の前の少女は心が折れることもなく、窮地の命を助けるために動いた。それがどんなに困難な事かは、奏自身がよく知っていた。

 

(あの頃のアタシにもこんな勇気があったら、父さんや母さんを死なせなかったのかなって、そう思うよ)

 

 その勇気に称賛を、その勇気に喝采を。

 

 すると、そんな気持ちが伝わったのか、自身の目を見続けていた少女は僅かに顔をそらし、柔らかそうな頬を人差し指の先でこちょこちょと撫でてた。照れたのだろうか。

 

「ふふっ」

 

 かわいい所もあんだなぁ。と口元を緩ませると、気を引き締めて助けた少女をその子に背負わせる。分かりやすいように、槍を矢印に逃げ道を示した。

 

 勇気あるこの少女を死なせてはならないと、防人の使命を新たにして。

 

「んじゃ、次はちゃんと避難するんだぞー? あそこの避難経路はまだ崩れてないから、そこから外へ――」

 

 

 

 

 その時の奏は、間違いなく油断してしまっていたといえよう。

 

 頼りになる相棒である翼にノイズの残党退治を任せた事で、奏の意識は完全に助ける事に回ってしまった。

 

 彼女は僅かな一瞬(とき)とは言え、ノイズを見くびりすぎたのだ

 

 

 

 

《■■■■■■■■■■■ッ!!》

 

「お姉ちゃんうしろっ!!」

 

 ノイズとは不意に現れるもの。その予知方法は完全に確立されておらず、それはノイズと長い戦いを続けてきた熟練者ですら例外ではなかった。

 

「チィ――、狙いすましたかの様にでてきやがって――」

 

 出てきたのは三体。不意討ちを狙うような出現に多少驚きはしたものの、態勢が崩れる程のインパクトではない

 

「ひっちくどいんだよぉッ!!」

 

 奏は槍で一閃し、三匹纏めて炭に変える。しかし、両断した隙間から見える次元の裂け目はまだ消えていない。奏は嫌な予感を感じ、後ろに叫ぶ。

 

「伏せろぉ!!」

 

 間もなく、ドドドドドと何十ものガトリング砲の様に次元の裂け目からドリルと化した鳥型ノイズが射出された。その数、百以上。

 

 先に出てきたのは囮兼、視界を妨害する煙幕に過ぎなかったのだ。

 

「くっ…そぉおおおおーーッ!!」

 

 今の状態で直撃を食らえば、機能が止まっているシンフォギアごと自分を、そのまま後ろの少女達をも殺しうる災禍の弾幕。

 

 逃げることは不可能、そう判断した奏は、少女らを守る為に盾となることを選んだ。

 

 槍を猛回転させて敵を粉砕、波状に炭の破片を飛ばし直撃を凌ぎ続けるも、遂にシンフォギアの端々が限界を越え、砕け初める。

 

「ぐぅううう…ッ!!」

 

 ヘッドホンアンテナが、ガントレットが、ヒールがノイズの肉片に当たり砕ける。

 

「………ッ!」

 

 咄嗟に少女の前に出て、飛んできた破片を弾く無口な少女。当たる度に服が破け、ガキンッガキュンと火花が散るが、ノイズ弾の対処に追われる奏や頭を抱えて悲鳴を上げる少女らに知られることはなかった。

 

 しかし、彼女達の足掻きを終わらせるモノは次元の先からではなく、空から来た。

 

 

 

 

 ー少女達を狙って、真っ直ぐ上からー

 

 

 

 

「――――……!?」

 

 その正体は、ツヴァイウィングとの戦闘を回避した鳥型ノイズだった。

 

 この時を待ちわびていたかのように高高度から飛来してきたソレは、間違いなく現在最速のスピードで、ブレることもなく無口な少女の下へと向かう。

 

 間の際に無口な少女は気付き、下の娘と一緒に回避しようとするが間に合わない。

 

 奏もノイズの弾幕を防ぐのに手一杯だ。

 

 無口な少女は覚悟を決め、ノイズから覆い隠す様に少女を抱き締める。

 

 ――あと数秒で無口な少女の背中とノイズが接触しようとしたする、その時――

 

 

「響さんっ!!!」

 

 

 無口な少女を押しやった少年が、腹に大穴を開けられた。

 




※ちと時列系がおかしかったりしますが余り気にしないで下さい。

 しかしここの表現がおかしいとかこのキャラクターはこういう喋り方だ!トカは気にして教えて下さい。

 奏語録難しすぎるよぉッ!!!(泣)

6/27追記
活動報告に、自分の妄想サーヴァントの設定を書いてみました。良かったら見てってください!

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