オーガスタ研究所から戻ってきて数日、私のもとに新たな機体が配備された。
型式番号MSN―001『デルタガンダム』だ。渡された資料によると、コイツ自体は
U.C.0090に製造され、アナハイムの倉庫に眠っていたものを引っ張り出してきたものらしい。それに合わせてジェネレーターや推力周りの改善をしており、かなりの高機動、高出力になったようだ。
しかし、目的はそれのテストというわけではない。このデルタガンダムの後継機を製造するためにデータをとるというのだ。主にオプション装備開発のためのだ。そのために高出力のジェネレーターに換装して余裕を持たせている。さらに、基本的な武装がビームライフルからロングメガバスターに変更された。
「だが、世間は『フル・フロンタル』とやらでもちきりなのに私はここでMSのテストとはね。悲しくなってしまうよ」
「そう言わないでください中尉。このデータがいつかは役に立つんですから」
「いつなんだろうねぇ~」
「さあ」
「はっきり言うねぇ君も」
「ええ、それが自分のいいところだと思っていますから」
それがいい方向に向いているかわ知らんがな。それよりも、デルタガンダムのシールドに新たな武装が取り付き終わりそうだな。確か…メガマシンキャノンだったか?サナリィから提供されたのをシールドに取り付けているんだったか。もともとこいつのシールドには何かを付けない設計だから、武装自体にマウント装備を新たに追加したらしい。
「……シールドに武装を付けるのか。あれじゃあシールドの意味がないな。ただのプラットフォームじゃねえか」
「そうですねえ。しかしデルタガンダムの後継機、MSN―001X1のシールドはもともとそういう風に設計されているようですね」
「わざわざこいつでやる必要あったのか?こいつにも他にあっただろう。デルタ…プラスだったか?そんな感じのが」
「確かにMSN-001A1でやる計画もあったらしいのですが、シールドが曲面になっているので断念したようです」
ともかくシールドにオプションを付けるのは確定だったのか。
「あ、あとそういえば中尉、この試験が終わったらこの機体を基本的に使うらしいですよ?」
「なんでだ?他にもテストする機体や装備があるだろ?」
「MSN―001はユニバーサル仕様なのでいろんな武装が使えるのです。そのためにこの機体で新規開発した武装を試験するのですよ」
なるほど、新たに機体を配備しなくてもデルタガンダム1機あればテストできるというわけね。私もめんどくさい機種転換訓練を受けなくて済むってことだから大歓迎だけどね。
「中尉、そろそろ換装が終わります。搭乗を。あと言い忘れていましたが、今回は開発中の新型MSの試作OSも一緒に試験させていただきます」
「了解した」
そう言われ、デルタガンダムに乗る。そういえば、あの整備兵が言うには、私が乗ることを想定して『バイオセンサー』を搭載しているらしい。聞く限りだと、機体制御機能を高めるらしいが……ま、どんなものでも乗りこなせば問題ない。
《中尉、準備はいいですか?》
「問題ない。いつでもいいぞ」
《了解しました。それでは試験を開始します。まずは指定ポイントに飛ばし、そこから標的に向かって撃ってください》
「了解した」
指示通りに機体を変形させて飛ばす。シールドに武装を施したにもかかわらずデルタガンダムは高い機動力を示す。が、試作OSの影響か、思った通りの動作ができない。
「到着した。それでは試射を行う」
デルタガンダムをMS形態に変形し、的に狙いを合わせてトリガーを引く。メガマシンキャノン自体にも対空精密照準センサーを搭載しているが、うまくデルタガンダムのセンサーともリンクしているようだ。そのおかげでこの距離からも的に命中する。……と言ってもペイント弾だが。
《命中を確認……!?ミノフスキー濃度上昇中!警戒されたし!》
「何!?他に異常は!?」
《高熱源接近!MSと推定、しかし早……!MSの……ない!?》
「可変機じゃないのか!?ちっ……!通信が切れてしまった」
ピピピピピ!
「その程度……!」
手動で試作OSを切り、ロングメガバスターを使えるように再設定する。すると、遠くからビームが飛んできた。それを回避し、デルタガンダムを変形させる。
ビームの飛んできた方向に機体を飛ばす。その瞬間にまたビームが飛んできた。それも難なくかわすと、機体のカメラがビームを撃ってきたモノを捉え、モニターに映す。
それは驚愕に値するものだった。なぜなら――――――
「なぜ『スタークジェガン』がいるんだ……!?」
―――――友軍のMSだったからだ。スタークジェガンとは言ったが、細部が異なっている。頭部は狙撃用のバイザーが付けられ、胸部も特殊部隊用の装甲が、手には旧型のスナイパーライフルを持っている。塗装は青く、このデルタガンダムほどではないが、他に何もないこの地域では十分目立つ。
「ミサイルがないのが救いだが……それでもあの精密な狙撃が厄介だな」
当たらなければどうということはないが、昔からあー言ったビーム兵器は威力は高いからな。しかし、あー言ったヤツはチャージ時間が長いのが相場だ。
「よし、途切れた。そこ!」
ロングメガバスターの射程に入り、相手の攻撃が止んだ瞬間に撃つ。MS本体には当たらなかったが、スナイパーライフルに命中した。モニターを見る限り、他にヤツの武装は見当たらない。あるのはボックスユニットにあるものだけだ。
「なんだ……この感覚は……?嫌な予感がする……」
その予感が早速的中する。スタークジェガンのバイザーが上がったと思ったら、ゴーグルが赤く染まっていったのだ。それに合わせて排熱ダクトから熱量が上がってきている。
動き出した。そう思ったら既に違う場所にいた。スピードがかなり上がっている!?私が試験した時よりも格段に速い!推力が大幅にアップしたせいか、空を飛ぶ真似事すらやってのける。ベースジャバーを使ってはいるが、それも時々だ。
「だが、そのスピードは機体の負荷が大きいだろ!?どうせすぐにガタが来る。しかし、それがいつ来るかわからない。ジェガンは優秀な機体だからな。だったら……こちらからやればいい!」
そう言いってメガマシンキャノンを掃射する。いくらペイント弾とは言え、メインカメラに当てれば効果はある。
「速すぎる……!……後ろをとられた!?」
後ろをとられ、接近を許してしまう。変形して機体を反転させ、シールドから直接ビームサーベルを展開する。
「う…っぐ……。だが出力は私のより低いようだなァ!」
バルカンで頭部を撃ち、足で蹴り飛ばす。蹴とばした先にはベースジャバーがあり、乗ろうとした瞬間を狙撃する。
「避けたか…だが……それも想定通り!こちらから仕掛けさせてもらう!」
ロングメガバスターをフレキシブルバインダーにマウントし、ビームサーベルを抜いて接近する。それに合わせてスタークジェガンは、両手にビームサーベルを持つ。
デルタガンダムが振るったサーベルは、2本の交差したサーベルに防がれた。
「かかったなマヌケ!私はこれを
すぐにシールドを構えてメガマシンキャノンをコックピットに向かって放つ。所詮ペイント弾だが、ずっと撃ち続けることでセンサーが誤認し、増加装甲が剥がれた。敵パイロットが驚愕し動きを止める。その瞬間を逃さずに両腕を切り落とす。
すぐさまシールドにビームサーベルを戻し、空いた手でスタークジェガンの肩をつかんで着地した。
「敵MSパイロットに告ぐ。キサマのMSはもはや抵抗できるほどの能力はない。直ちに投降せよ。この警告を受け入れない場合は死を覚悟してもらうことになる」
《……》
相手からの反応はない。強制連行でもいいのだが……友軍と連絡できないこの状況では無理と考えるべきか。そう考えていたら、スタークジェガンがタックルを仕掛けてきた。
ブッピガン!
「うぐぁ……!こいつ…無駄な抵抗h{ピピピピ!}!?ミサイルだと!?」
タックルが命中し、よろけた瞬間にミサイルが飛んできた。見た感じ目の前のスタークジェガンに当たってもいいという感じがある。
私はすぐさまシールドのビームガンとメガマシンキャノンを撃って対応する。すると、スタークジェガンは全速力で逃げ出した。
「ま、待て!ええい……!ミサイルがうっとおしい!」
そう言った時には既にスタークジェガンの姿は見えなくなっていた。それと同時にミサイルの雨もやむ。
「逃げられたか……。だが、何が目的で私を襲ったんだ?くそっ!また
変形し、基地の方向に進路を向ける。さて、これから逃げられたことに対する報告書を書かなくてはらないのか。くそっ……!
司令室、そこにはマイケル大佐がいて、目の前にはモニターが点いている。そのモニターにはカイトからの報告書と、その時の戦闘データが示されていた。
「ふむ。グレイブの遺産とも呼ぶべきものがあったとはな……。オーガスタにあるとは聞いてはいたが、搭載されるとは…これは妨害工作とみるべきか……?心当たりはあるが武力行使してくるとは……。そこまでご執心と言うことか?まあいい。この程度の障害物でやられては逆に困る」
モニターを閉じ、立ち上がる。この時の彼は、いつもの温和な笑みとは違い、獰猛な、獣のような顔をしていた。
「やってみるがいい。この連邦をキサマらの好きにはさせんぞ……!」
つづく
ちなみにですが、カイトはシャイアン基地に勤めている設定です。
もちろん『システム』のことは知らされてはいません。