機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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光の裏で

 

 

 

地球の明け方、MSはこの美しい太陽の光を受けて輝いているようにも見えた。

そして、そのオーガスタ研究所を護衛しているMSを観察している者がいた。

それは迷彩服に身を包み、敵に気付かれないように行動する『ネオ・ジオン』の兵士だった。

兵士に通信が入る。

 

《そっちはどうだ?ワックス》

「キャプテン、情報がだいたい揃いました」

《わかった前線基地に帰投しよう。これでコマンダーに土産話ができる。サイア通信終わり》

「聞こえたな!撤収するぞ!」

 

行動を共にしていた兵士が待ってました!と声を上げた。ようやくこの不快な湿気から逃れることができるのだ。

 

 

オーガスタ研究所から北西数十キロの山間にカイトたちはいた。

今回の目的はオーガスタ研究所から情報を奪い取ること。今現在オーガスタはMSのテストを主に活動しているが、カイトたちの存在によりいまだに強化人間の実験をしていることがわかっている。それをメディアに公開すれば人権団体が黙っていない。これを機にジオン側に立ってくれるものがいるかもしれない。それを狙っているのだ。

 

「ま、それだけじゃあないかもしれないがな」

「少尉?どうかしました?」

「いや、それよりもサキ、今の私は()()()()だ。間違えるな」

 

そう、今のカイトの階級は特務中尉だった。だが、この作戦が終われば元に戻る。この作戦の指揮官に必要だから階級が上がっているに過ぎないのだ。

 

「そういえばサキ、セルジ少尉はどこにいる?」

「まだシミュレーターを起動させていたと思うっスけど」

「そろそろ偵察部隊が戻ってくる。情報をまとめ次第会議を始める。ヤスハにもそう伝えといてくれ」

「了解っス!」

 

偵察部隊の帰投から数十分後、MSパイロット・陸上部隊に召集命令がかかっていた。しかし、そこにセルジの姿はまだない。

 

「すいません。シミュレーターに没頭していて遅れてしまいました」

「遅いぞ」

「言い訳のしようがありません」

「気をつけろ。よし、全員集まったな。これより作戦会議を始めるとしよう」

 

カイトはサキに合図をしてマップを表示させる。

 

「先ほど戻った偵察部隊からの情報なんだが、MSが常に4機研究所を囲むように護衛している。しかしこの警備網が緩くなる時がある。それは2200だ。この時MSパイロットが交代する。よって交代要員がMSに乗る前で気が緩む2130に攻撃を開始する。なにか質問のあるものは?」

 

1人手を挙げる者がいた。強襲部隊の隊長でもあるサイアであった。

 

「して、どう攻撃をするのですか?」

「いい質問だ。まず私のMSでヤスハのMSで研究所まで運び、その後戦闘。その間セルジは後方からランゲ・ブルーノ砲で援護だ。MSを沈黙させたあとに君たちが研究所を襲撃、データを奪って撤収。襲撃の合図は追って通達する。ほかには?」

 

手を挙げる者はいない。

 

「わかった。では解散。各自装備を確認してくれ」

『イエッサー!』

 

兵士たちが会議室から出ていく。残ったのはカイトとサキ、セルジとヤスハだった。

 

「セルジ少尉、地球の重力には慣れてきたか?」

「中尉、まあ多少は…。今回の作戦では後方支援がメインですので中尉の邪魔にはなりません」

「そうか。サキちょっと待ってくれ」

 

セルジとの会話が終わり、サキに話しかける。

 

「なんすか?何か問題でも?」

「今回の装備だが…改造が終わって少ししか経ってない。少し不安だ。調整手伝ってくれないか?」

「ああ…()()は相当デカいっすからねえ。善は急げッス!すぐ行きましょう!」

「待て!」

 

サキが先に会議室を出ていき、それを追ってカイトも出て行った。

セルジはそれを見てため息をついた。

 

「ヤスハ少尉、そろそろ昼時ですし食堂行きますか?」

「確かにいい時間ですね。行きましょうかセルジ少尉」

 

 

21時23分。強襲部隊は所定の位置に到着した。

 

「武器チェック」

『武器チェック!』

 

兵士たちは安全装置を外した。

 

「コマンダーに準備が終わったことを伝えろ」

「イエッサーキャプテン」

 

強襲部隊の準備が整ったことはセルジの搭乗するギラ・ドーガを中継してカイトたちに伝わった。

 

「わかった。こちらも出撃しよう。ヤスハ、そちらも準備はいいな?」

《ばっちりです》

「よし、では作戦開始だ!」

 

デルタガンダムの目に火が灯った。すぐにWR形態に変形する。ヤスハが乗るギラ・ドーガがデルタガンダムに飛び乗った。

 

「うっ。行くぞ!」

《はい!》

 

デルタガンダムが雲よりも高く飛んだ。オーガスタ研究所は距離的にそこまで離れていないため、すぐに到着した。ギラ・ドーガがバーニアを使ってゆっくり飛び降りる。デルタガンダムも急降下した。

 

《CT-1、上空から何かが接近s――――》

「CT-3どうした!?何が来ている!?」

 

CT-1がCT-3のMSを見ると、頭部と脚部にビームが撃ち込まれているのがわかった。CT-3が立っていた場所から逆算すると、敵のいる場所は《ピピピピピッ!》

 

「遅い!」

 

「こい…ッ!」

 

CT-1がデルタガンダムを認識した時、CT-1の頭が撃ち抜かれていた。頭がやられた程度ではMSはまだ動ける。事実、CT-1のMSは攻撃者に反撃しようとしていた。デルタガンダムはMS形態に変形して追撃する。シールドに装着されたシールドエッジがCT-1の腕に刺さった。さらに腹部に大腿部ビームカノンを撃つ。CT-1は完全に沈黙した。

 

「重いがいい武器だな」

 

「CT-1がやられた!?ほかにm」

 

デルタガンダムに気取られている間にギラ・ドーガの放ったシュツルム・ファウストがあたり爆散する。

最後に残ったCT-4が管制室に連絡する。

 

「こちらCT-4!管制室聞こえますか!敵襲にあっている!数は2!ギラ・ドーガとガンダムタイプの2機です!他機がやられた!応援を頼む!」

《CT-4、こちら管制室。こちらも敵機を確認した。応援を出す。どうか耐えてくれ》

「耐えてくれだって!?無茶言うなよ!敵はもう目の前…!」

 

CT-4もやられ、見張りがいなくなった。その様子をサイアたちも見ていた。

 

「野郎ども!合図が来た!ゴーゴーゴー!」

 

研究所はカイトらのMSに意識を向けている。浮足立っている今がチャンスだ。強襲部隊は走り出した。

 

「誰だ貴様ら!止ま―――」

 

警備兵の制止が言い終わる前に警備兵が撃ち殺される。

サイアは部隊を3つに分けるように指示を出した。データの奪取をする班、撹乱する班、状況に合わせてバックアップする班の3つだ。

サイア率いる奪取部隊が研究所内に入っていった。

研究所の中は言うほど狭くはないが、班が展開できるほど広いというわけでもない。それでもバリケードがまだ張られていないだけマシではあるのだが。人は研究者然としたものが多い。自衛用の拳銃を持っている者もいるが、戦闘訓練を受けていないのか撃ってもなかなか当たらない。

 

「意外とすんなりいけたな」

「気を抜くな。態勢を整えられたら数で劣る俺たちは一瞬で蒸発するぞ」

「イ、イエッサー」

「キャプテン!敵が来ます!」

「ほら見ろ、本当の闘いはこれからだ!」

 

「敵の動きはどうなっている」

「MSが2機、現在戦車の相手をしています。また、森の奥にも支援している砲撃タイプの『ギラ・ドーガ』を確認」

「そっちはいい。先ずは金色のガンダムをどうにかするんだ。近隣の基地からの応答は!?」

「通達を受け、今準備をしているとのこと。あと1時間できます」

「遅い!何をやっているんだ軍の連中は!?侵入している奴らは!?」

「現在警備隊が対応しています!」

 

指揮管制室、そこではカイトら『袖付き』の対応が急務だった。護衛のMSが瞬く間にやられて、待機しているMSも砲撃タイプによって格納庫ごと破壊されてしまった。出すとしたら『公式には存在しないMS』しか残っていない。

 

「司令官!地下のMSの準備が終わったようです!」

「今すぐに出せ!何としても『アレ』を護るんだ!護り切れなかったらわれらの首は飛ぶぞォオ!」

 

カイトは何かを感じた。地下からだ。戦車の砲弾を防ぎながら気配がどこから来ているのか探していた。

 

「ヤスハ、何か感じたか?」

《いいえ、どうかしましたか?》

「何か嫌な予感がした。何か知っているような感じがする」

《ならそのカンはアタリでしょうね。ジェガンD型です。嫌というほど見てきました》

「……」

 

知っているのはこいつらじゃない。見た目の話ではないんだ。この感じ…。

 

「くそっ。考えさせてくれるほどやさしくはないか!」

 

ジェガンのみで構成されたチームがデルタガンダムを襲う。

デルタガンダムはバーニアを吹かして上空に逃げ込んだ。囲まれないためだ。

 

「敵の数は6…。この隠し方といえただの研究所にしてはMS多すぎないか?」

 

敵が持っているのはビームライフルが2、ジムライフルが3のバズーカが1だ。狙うとしたらバズーカ持ちだ。ビーム・実弾は装甲でなんとかなるがバズーカはだめだ。一発でも当たったら即お陀仏だ。

 

「セルジ少尉どこにいる?敵が新たに現れた。援護してくれ」

《了解です中尉》

 

 返事からしてからすぐに砲弾が来た。ジェガンに当たりはしなかったが、十分な牽制にはなっている。

 

「ヤスハ、今のうちに後退する。ジェガンをおびき寄せるんだ」

《わかりましたが、強襲部隊はどうするんですか?》

「彼らには彼らのやり方がある。せいぜい邪魔にならないようにな」

 

「隊長、奴ら後退していきます。追跡しますか?」

 

「2チームに分かれよう。1チームが追跡、もう1チームがここに残り防衛に徹しろ」

 

『了解』

 

 Bライフルとバズーカを持ったジェガンが追跡チームになった。

 追跡するとなるとデルタガンダムは不利だ。月の光に照らされてよく映えるからだ。

 ビームの弾幕がデルタガンダムを襲う。

 

「甘いな!」

 

 ビームの弾丸を避け続け、反撃のビームを放った。

 しかし、相手の練度は高く、難なくシールドで防いだ。

 

《カイト中尉、ここからどうするんですか?このままではジリ貧ですよ》

「わかっている!ここは無理やり突破するしかないか…!援護を!」

《りょーかい》

 

 WRからMSに変形して突撃した。ギラ・ドーガがそれを援護する。ジェガンがギラ・ドーガの対応で足止めされる。砲弾がジェガンのシールドに当たり壊れ、爆炎が周囲を覆った。

 煙をかき分け、デルタガンダムは直観に従い突進した。ジェガンとぶつかり衝撃が走る。

敵を視認したカイトはシールドエッジを起動させた。シールドエッジが加熱して赤くなる。

 ジェガンが体勢を整える前にシールドエッジを突き出した。ジェガンの胸部装甲が焼け立たれ、ジェガンから光が消える。

 

「1機倒した。ヤスハ、各個撃破だ」

《わかりました》

 

 煙から抜け出したジェガンがギラ・ドーガと戦っている。見た限りヤスハの優勢だ。

 戦いを見ていたらビームが飛んできた。

 

「おっと、見とれている場合じゃないな」

 

 ジェガンがビームサーベルに持ち替えて突撃した。デルタガンダムはビームカノンからビームサーベルを取り出す。

 ジェガンがBサーベルを振り下ろす。デルタガンダムはつばぜり合いには持ち込まず、手を回転させてジェガンの腕を切り裂いた。そのまま胸部を突き刺した。ヤスハの方を見ると、ヤスハもジェガンを倒していた。

 

「司令、追撃に出たチームが殲滅されました」

「なに!?『アレ』を出せ!最後の手段だ!『03』を出して敵を壊滅させるんだ!」

「しかし司令!『03』の使用許可が下りていません!「私が出す!でなければこんなことは言わない。パイロットを招集しろ!早く」…了解です司令」

 

《中尉!ランゲ・ブルーノ砲の弾数が少なくなってきました。急いでください》

「それを私に言うな!キャプテン!今どうしている!」

 

「コマンダー!今我々は機密データを奪取したところです。これから脱出します」

《急いでくれ。セルジ少尉の支援がなくなりそうなんだ》

「イエッサー。サイア通信終了。聞いたな?脱出を急ぐぞ」

 

 サイアはカイトとは別のところに通信を開いた。

 

「ワックス、聞こえるか?」

《聞こえますキャプテン。どうしました?》

「データを手に入れた。バックアップを頼みたい」

《了解しましたキャプテン。ワックス通信終わり》

 

 サイアは通信を切り、小銃を持ち直した。

 

「よし行くぞ野郎ども!」

 

「司令、パイロットが『03』に到着しました」

「今すぐ出撃させろ。今!すぐにだ!」

「了解。『03』出撃を許可します。敵は3機、ギラ・ドーガが2機にガンダムタイプが1機です」

《了解。『03』出撃します》

 

《中尉、新たな敵影を確認しました》

「こちらも確認した。だがあの機体は…!」

 

 カイトは驚愕した。あの機体―――フェネクスがこの地球にいたことに。

 

「あの野郎生きていやがったか」

《カイト…》

「私が相手する。ヤスハはセルジと共にジェガンの遊び相手をしていてくれ」

《わかりました》

 

 シールドを外し、両手にBサーベルを持たせる。フェネクスはビームマグナムを撃ってきた。ビームカノンで反撃しながら通信機に手を伸ばした。

 

「ビームマグナムだ!威力が無駄に高いぞ!かすめただけでもやられる!流れ弾に気をつけろ!」

『了解』

 

 フェネクスが最後の5発目を撃った。余裕たっぷりとって避け、スラスターの向きを変えた。

 ヤスハはガンダムたちが研究所から離れていくのを見てセルジに通信をかけた。

 

「セルジ少尉、どこにいますか?」

《ランゲ・ブルーノ砲の弾が切れて今、武器をビーム・マシンガンに持ち替えて研究所に向かっています。もうすぐ着きます》

「分かりました。では私がおびき寄せておきます。そこをついてください」

《了解です。セルジ終わり》

 

 ギラ・ドーガがマシンガンを撃ちながら後退する。ジェガン全機が追いかける。ギラ・ドーガは巧みに弾丸を避けながら反撃していた。

 

《あのギラ・ドーガちょこまかと》

《どうします?》

《陣形を崩すな。確実に1機ずつ倒すんだ》

《ラジャー》

 

「ちゃんと釣れてますね。セルジ君が来てくれれば何とかできるんですが」

《すみません、遅れました》

「いいえ、グッドタイミングです。合図をしたらシュツルム・ファウストをすべて撃ってください」

《ぜ、全部ですか!?》

「はい、全部です」

《りょ、了解しました》

 

 ジェガンの1機がジムライフルの弾倉を入れ替える。それを見たヤスハがセルジに手を振った。

 

「撃ってください」

《了解》

 

 残ったシュツルム・ファウスト全部、計7発がジェガンたちを襲う。ジェガンは手遅れだと思いながらもバルカンやBライフルを撃った。そのおかげか、命中弾がなかったが、周囲を爆炎が覆った。

 

「外れましたか。でもいいです。セルジ少尉、私が突っ込みます。援護お願いします」

《了解!》

 

 Bマシンガンからビームホークに持ち替えてジェガンの群れに飛び込んだ。

 ビームホークを振るう。ジェガンはシールドで抑える。この対応は正しくもあり、間違いでもあった。

 

「ここでシールドを使えば、もう防ぐ術はないですよね?」

 

 ジェガンの腹にBマシンガンを当てた。Bマシンガンの下部にあるグレネード・ランチャーが火を噴いた。ジェガンがまた1機機能停止した。

 

「1度引いて、またトライしましょうか」

《ヤスハ!今どんな状況だ!?》

「中尉!今、ジェガンを1機倒して残り2機です。増援が来る気配はありません」

《急いで片づけてくれ!性能は向こうの方が上だ。長くなるとこっちが危険になる!》

「わかりました。セルジ少尉聞こえてましたか?急ぎましょう!」

《了解!善処します!》

 

ビームカノンが一基潰され、中距離での対応も覚束なくなってきたカイト。そろそろもう一アクション加えたいところだ。幸いなのはアームドアーマーが装備されていないことだろう。でなければすでに勝負が決まっていたといっても過言でもない。

フェネクスがBサーベルを大振りで攻撃してきた。デルタガンダムはBサーベルを交差して防いだ。フェネクスがもう一本のBサーベルを突き出す。デルタガンダムはバルカンで迎撃した。バルカンがBサーベルにあたり爆発する。

デルタガンダムは蹴りを加えて距離を取った。フェネクスは少しだけふらついてデルタガンダムを追いかける。

背後からペレット状のビームが飛んでくる。ヤスハだ。彼女がやってきたんだ。

 

「意外と早いな。そんなにジェガンが詰まらなかったのか?」

《いえ、中尉が危なそうなのでやってきたんです》

「なに!?じゃあセルジ少尉は!?」

《もちろん一人で対処していますよ》

 

「ヤスハ少尉!この貸しはちゃんと返してもらいますからね!?」

 

「少尉の実力を疑っているわけではない。むしろもっと強くなると思ってはいるのだが…まだ経験が少ない。早く戻らねば」

《カイト、フェネクスが!》

 

フェネクスの動きが変だ。もがいているようにも見える。装甲が開いていくとともに動きが落ち着いてき…フェネクスは『ガンダム』となった。

 

「ははっ…。最悪の状況になった」

《なってしまってはしょうがないです》

「それはそうなんだが…。来るぞ!」

 

 フェネクスが行動を再開した。さっきより段違いの速さだ。

 ヤスハのギラ・ドーガは後ろに下がり、デルタガンダムは前に出た。

 フェネクスがビームサーベルを抜き取らず殴りかかってきた。デルタガンダムはBサーベルで切ろうとするが、フェネクスはBトンファーではじき返されてしまい、さらに蹴り倒された。フェネクスがBサーベルを突きつける。

 

「1発は1発ってわけか…。ヤスハ!」

《わかってますって!》

 

 ギラ・ドーガがグレネード・ランチャーを撃つ。いくらサイコフレーム製といえど無事では済まない。フェネクスがグレネードを切り裂いた。これしかチャンスはない。

 デルタガンダムはスラスターを全開に立ち上がった。バランスを崩したフェネクスもスラスターを使って距離をとった。

 逃げるフェネクスを追いかけようとしたが、それをヤスハが止めた。

 

《待ってください!私たちの任務はデータの奪取部隊の護衛、フェネクスの相手ではありません!研究所に戻るべきです!セルジ少尉が心配なのでは?カイト!》

「…ああ、そうだな。だが!中尉をつけろ」

《すみませんでした。中尉殿》

 

 研究所に戻ると、セルジは未だジェガンと追いかけっこしていた。デルタガンダムはBライフルを持ちジェガンに狙いをつけた。

 何本ものビームがジェガンに当たった。しかし、どれも決定打とはならず手足を撃ちぬいた。

 

「地上だとこんなものか。セルジ少尉、無事か?」

《なんとか…》

《中尉、フェネクスがまた来ます!》

 

 フェネクスがビームマグナムの弾倉を補充して戻って来た。自信ありげにBマグナムを向けてくる。

 

「研究所から離れろ!部隊に被害が出るぞ!」

《了解!》

 

 飛び上がりBライフルの引き金を何度も引いた。フェネクスは細かく軌道を変えて避け、Bマグナムを撃った。

 Bマグナムの軌道はデルタガンダムとは的外れであったが、その大きな効果範囲がデルタガンダムの行動を制限していた。

 フェネクスがBサーベルを持って切りかかる。デルタガンダムはフェネクスの腕を掴んで抑えた。しかし、長くは持たなかった。フェネクスが振り払い、左フックをかました。

 

「う…っ。こいつ…!」

 

 デルタガンダムは右ストレートでフェネクスを殴った。シールドエッジを搭載するためにさらに強化された右腕にフェネクスはたじろいだ。

 デルタガンダムがBサーベルを抜き取ろうとしたら、森の奥から信号弾が上がった。あの色は強襲部隊が作戦を成功した証だ。デルタガンダムは後ろに下がった。

 

《中尉!》

「わかっている!」

 

 しかし、フェネクスが動いているならば下手に戻ることができない。こいつの戦闘力は恐ろしいほど高い。

 

「先に戻れ」

《中尉!?》

「フェネクスを倒してから行く」

《そんなこと言ってないで早く戻りましょう!?あの信号が上がったってことは帰りの便の準備も始まっているんですよ!》

「分かっている!だがあいつから逃げることは不可能だぞ!」

 

 Bマグナムのカートリッジを取り換え、その銃口はデルタガンダムに向けていた。

 

「どうやら彼は私にご執心らしい。早く!」

《…了解》

 

 ヤスハ達はしぶしぶと撤退していく。

 デルタガンダムはBライフルを撃った。フェネクスはビームを避け、Bマグナムをしまい、Bサーベルを取り出した。

 2機のガンダムがつばぜり合いになった。だが、パワーはフェネクスに分があった。

 デルタガンダムが押しのけれる。スラスターを使って距離を取った。

 突如、フェネクスの動きがおかしくなった。再びもがくような動作を始めたのだ。

 

「今のうちだな」

 

 シールドを拾いWRに変形した。すぐにヤスハ達に追いついた。

 

《意外と早いお帰りですね》

「だろ?どうだ?乗ってくか?」

《危ない!》

「なに!?」

 

 背後からBマグナムから放たれた巨大なビームがデルタガンダムに迫っていた。スラスターを切ってMSに変形しなおし、シールドを構えた。落下していく中で巨大なビームはデルタガンダムの真上を通った。ビームに押し出されて制御が効かない。二射目はもうそこだ。

 

《…!》

「ヤスハ!」

 

 ヤスハのギラ・ドーガがデルタガンダムの脚を掴んで引っ張った。相対的にギラ・ドーガが上に昇った。ギラ・ドーガの体をビームが貫いた。爆発が起きる。デルタガンダムは地面に叩きつけられた。

 

「ヤスハ!ヤスハぁああああ!」

《少尉ーーー!!》

 

 フェネクスをにらむ。フェネクスは立ったままだ。動く気配がない。今しかチャンスはない。動こうすると、デルタガンダムの肩をセルジのギラ・ドーガが掴んだ。

 

《輸送船に戻りましょう。アイツが動かないなら好都合です》

「だがあいつは!ヤスハの命を奪った!その報復をするんだ!」

《ヤスハ少尉なら、任務を優先します。中尉、冷静になってください》

「…っ!」

 

 カイトは歯を噛み締め、操縦桿を握りしめた。

 

「撤退する…!」

《了解です》

 

 輸送船にたどり着くころには、出発できる状態にまで整っていた。MSを固定すればすぐに出れる。

 

《カイト中尉!ヤスハ少尉は?》

「ヤスハは…」

 

 サキは声で悟った。これ以上は聞かず、格納庫へ誘導した。

 

                  ☆

 

 帰りは不気味と思うほど順調だった。そしていま、作戦の詳細を報告するためにフロンタル大佐のもとへ来ていた。

 

「―――以上で、本作戦の説明を終わらせていただきます」

「ご苦労だった。ヤスハ少尉のことは残念だった。カイト特務中尉、もう下がっていい。頭の中を整理したいだろう」

「は、失礼しました」

 

カイトと入れ替わるように、サイアが入っていった。だがカイトにとってそんなことはどうでもいい。『仲間』が消えてしまったこと悲しみの方が大きい。この悲しみは消えることはないだろう。頭の中でそう思いながらカイトは自分の住居へ戻っていった。

 

 

 

 

 

「大佐、オーガスタ研究所に存在した機体との交戦データです。やはり連邦は新たなサイコミュ兵器を開発しておりました」

「やはりか」

「そして、一部ですがそのMSのサイコミュのデータを回収することに成功しました」

 

フロンタルが受け取ったデータは、現在ネオ・ジオンが造り上げようとしている兵器に大きく反映されることになる。

 

 

つづく




更新がだいぶ遅れて申し訳ありませんでした。
久しぶりなので口調がおかしくなっているかもしれません。
ご指摘よろしくお願いします。


デルタガンダム(袖付き改修機)
戦闘能力を向上させるためにZプラスに装備されていた『大腿部ビームカノン』を追加されている。
また、搭乗者のシールドの扱いが非常に悪いため、『シールドを守るための武装』としてシールドエッジを装備。ゼー・ズールのヒートナイフと同じ技術が使われておりエネルギー効率がいい。エネルギーはビームサーベルが装備されていた場所から供給されており、代わりにビームサーベルは大腿部ビームカノンに移植された。
外見上は上記の武装が追加されたほか、腕に袖が巻かれている。

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