機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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デブリに潜むモノ

 

 

パラオ到着から1週間ほど経過した。特にやることもなく筋トレなどに費やしているうちにデルタガンダムは最終調整に入り、OS面が終わり次第乗ることもできるらしい。

だが、カイトが格納庫にいるのはそれを聞くのが本来の目的ではない。とある試作機のテストパイロットになってほしいからという。

 

「で、どうして出戻りの私がこの機体のテストパイロットなんだ?いくら『ネオ・ジオン』といえど優秀な人材はいるだろう?例えるならばアンジェロ・ザウパー大尉とか」

「たぶんッスよ?怒らないで下さいよ?その出戻りだからじゃないスか、ね。新たな戦力として組み込むにも時間がかかることですし、この時期なら消えてもらっても問題はない。むしろ新品のMSが手に入っておつり来るくらいかな…と」

「……まあしょうがないか。だったら私の実力を見せつけてやるしかあるまい」

 

渡されたマニュアルに再び目を通す。機体、コンセプト共にカイトの苦手分野の小型端末の操作、長距離からの砲撃、得意の接近戦用は申し訳程度のビーム・ホーク1本のみ。実戦でなくてよかったとため息をついた。

 

「操縦はともかく、問題は有線式メガ・ビーム砲だな。ある意味腕が4本あるようなもんだ。システムがある程度やってくれるとはいえ、直感的に操作できないというのはつらいものがある」

「そこはまあ…少尉の腕の見せ所ですよ!今回の試験はあくまでもシミュレーションを用いた動作の確認ですから」

「気休めでもうれしいよ。機体の整備は完璧だな?」

「はい!ねじ一本緩んでいないのは確認済みです!」

「わかった。予定通り30分後に出るぞ」

 

 

 

『YAMS―130 クラーケ・ズール』は一年戦争時に開発されたという『サイコミュ試験型ザク』の開発コンセプトを今現在の技術で再現昇華するという目的で生産された機体だ。だが元となった機体と違うのは、既存パーツを改良するのではなく、新たに外骨格を追加して新機能を搭載させることだろう。

化け物(クラーケン)の名を与えられた兵器は、まもなく(宇宙)を泳ぐ。

 

 

「こちらカイト、予定ポイントに到着した。指示を頼む」

《了解ッス。ではディスプレイを操作してシミュレーションモードを選択してください。その中に、『003』と書かれたものがあるはずッス。それにしてください。内容は実際やってのお楽しみです!》

「お楽しみねえ…」

 

言われたとおりに『003』のファイルを選ぶ。すると、いきなりコックピット内にロックオンされたという警告音が鳴った。

 

「いきなりか…!?」

 

回避運動を考えず機体をフルスロットルで真上に動かす。押し付ける、というよりかはたたきつけると表現したほうが正しいと思えるほどの衝撃が襲う。

 

「ウッ…!さすがはMAだ。デルタのWR(ウェイブライダー)、いやそれ以上のスピードが出せるのか。だが、本能に突き動かされているようだな。意思がない」

 

機体を反転させ敵の姿を視認する。コンピューターが『ジムⅢ』と判断する。おそらく現在最も連邦の宇宙軍で採用されているMSだからだろう。だが、その背後にはジェガンの姿もあった。

 

「今の連邦の編成を再現している…?だとしたら母艦もあると考えたほうがいいのかな?」

 

手に持ったマシンガンを撃つだけでなく、この機体独自の兵器『有線式メガ・ビーム砲』を射出する。時折目を計器に向けながら操作する。MB砲はカイトの意思通りに動きジェガンたちを翻弄する。

ジムⅢはMG砲が自分に向いていないことに気付きビームライフルを連射して接近する。

 

「ほう…。この機体、思ったより小回りがきくのだな。だったら!!」

 

ビーム・ホークに持ち替えてジムⅢに突撃する。ジムⅢはライフルからシールドに変えるものの、圧倒的な質量差からジムⅢは吹き飛ばされる。そこを追撃してビーム・ホークでとどめを刺す。

 

「このスピードこの威力!意外と好みかもしれないな」

 

MG砲を呼び戻し、マシンガンでけん制する。けん制しているとはいえ、2機のジェガンが踏み込んでこないことにカイトは違和感を覚える。

 

「なぜ来ない?ふつうは数の利から攻撃を仕掛けるはず。そして当てる気のない弾の目的はまさか……!」

 

カイトの嫌な予感が命中する。2機のジェガンの間から何かが飛び出す。弾だと気づいた時には回避運動を行っていた。先ほどまでいた場所に散弾がまちきらされる。さらに6発ものミサイルが放たれていた。気がつくと、スターク・ジェガンが1機と下からジェガン4機の合計5機がカイトに襲い掛かる絶望的状況になっていた。

 

「なるほど。確かにこれは楽しいなあっ!!」

 

 

サキのいるモニター室。そこにある画面にはコックピット内のカメラ、機体から送信されてくる細かい情報が映し出されていた。

 

「送られてくるデータはどれも想定の数値内。MG砲もちゃんと機能しているから今のところは心配しなくてもいいとして…母艦を落とさなきゃ無限湧きする『003』にしたのはまずかったかな~?」

「調子はどうかな?」

「はい。クラーケ・ズールの方も異常なく、カイト少尉はようやく()()がわかってきたのか処理のスピードが速くなってきてるッスね。さすがに5機に囲まれているので墜とされるかもしれない…ス……?」

 

調子を聞かれ答えていくうちに声に聞き覚えがあるのに気づく。ギギギ…と聞こえそうなほどゆっくり声をした方向に顔を向けると、そこにはフル・フロンタル大佐がいた。

サキはすぐさま立ち上がり謝りだす。

 

「す、すみません大佐!その、気づかなくて、えと…」

「気にするなサキ機付長。私は技術屋とはそういうものだと認識している」

「あ、あの…」

「ふむ、さすがはあの戦争を経験した者というべきか。同時に5機もの相手をしていて機体にかすり傷すらつけさせないとは」

「た、大佐どこに!?」

「私はただ興味があって見に来たにすぎんよ。デスクワークは息が詰まるからな」

 

それだけ言うとフロンタル大佐はモニター室を出て行った。そしてサキは、パイロットにはなにがかおかしい人しかいないことを再認識していた。

 

 

 

 

ただ1機のMAがその軌跡を描いている宇宙。だが、フィルターにかければそこにはさらに5本の軌跡と緑やピンクで華やかになっていた。その一筋を描くクラーケ・ズールのパイロットであるカイトは、コックピット内で独りごちていた。

 

「5対1のこの状況…。切り抜けるには自分に有利な環境に整えなくては。そのためにはやはりこの機体の性能をフルに生かさなくてはならんか」

 

解決策を即座に実行する。それは、無理やりでも1対1の状況にする先ほどのジムⅢと同じ戦法だった。しかし、MG砲を撃ったとしても都合よく1対1になれるとは限らない。

 

「だから最低でも2対1にする。そうすりゃスピードで何とかなる!」

 

MG砲をチャージせずに連射する。目論見通り3と2に分かれる。当然、狙うのは2機編成の方だ。

2本の腕にそれぞれ別の武器を持たせる。クラーケ・ズール(海の狩人)は近くにいたジェガン(獲物)に狙いを定める。ジェガンはシールドを前面に押し出して防御体制をとってビーム弾から身を守るが、ジェガンを襲うのは弾丸だけではない。ジェガンの死角からパイルモードのビーム・ホークが飛び出てくる。ジェガンは反応する間もなくコックピットを焼かれ沈黙した。間髪入れずに銃口をもう1機のジェガンに向ける。ビーム弾がたまたまシールドに内蔵されているミサイルにあたり誘爆する。腕が消失し、戦闘能力がなくなったことを確認すると用はないとばかしにその場から離脱した。

 

「これで3機目つまり最初に出てきたやつらの分は倒したというわけなんだが…!?奥からさらに3機!?合流されたら面倒なことこの上ない。だが合流される前に瞬殺することもできない。…合流?そういえば奴らはどこから出てきているんだ?システムならセンサーの範囲内からポンと出てきてもいいはず。…まさか」

 

コンピューターに新たに出てきた3機の航路を逆算させる。出された答えの座標にスコープを向けると、母艦の存在が確認できた。

 

「あそこが拠点なら真っ先につぶさなきゃいかんってことか。…っ!邪魔するな!」

 

不用意に接近してきたジェガンにグレネードをプレゼントする。その喜びを表すかのような爆発を無視し、フルスロットルで機体を敵母艦に向かわせる。そのスピードはスターク・ジェガンですら置いてかれるほどだ。

 

「チャージ完了まであと3…2…1…当たれ!」

 

MG砲から伸びる一筋の線は敵艦をかすめるだけに終わった。次にフルチャージが済むのはスタークジェガンに追いつかれる直前だ。

 

「だから長距離射撃は嫌いなんだ」

 

一旦敵艦を墜とすのは中断し、邪魔になるMSの排除にかかる。先に目を付けたのはジェガンだった。MG砲を飛ばしあえてシールドに当てて態勢を崩させる。そして、態勢を直させまいとビーム・マシンガンを撃つ。ビーム弾に当たることによって発生する衝撃がジェガンの操縦を狂わせる。クラーケ・ズールは同時にグレネードを撃ち、沈黙させた。

爆発の中スタークジェガンは飛び出てくる。全速力でその手にはビームサーベルがあった。いまさら取り出そうとしても遅いだろう。取った時には貫かれている。

 

 

 

 

「だが、まるで全然!俺を墜とすにはほど遠いんだよョッ!!」

 

MG砲から放たれる極太のビームがスタークジェガンを下から貫いた。腕と同じくらいの太さを持つビームはスタークジェガンを消し炭にし、存在していたとわかるものは手に持っていたビームサーベルだった。

 

「さて邪魔者は消えた。あとはじっくりと狙いを定めて…!?」

 

警告が鳴る。とっさに回避運動しその場から離れる。クラーケ・ズールの横を通り過ぎたのは敵艦の主砲だった。出撃した機体がすべて墜ちたため遠慮なく撃てるのだろう。

 

「時間稼ぎされても困る。さっさと墜とすか」

 

カイトは狙いを定め引き金を引いた。

 

 

 

「お疲れ様です少尉。どうです?面白かったッスか?」

「ああ。まさか全滅させなきゃ終わらないとは思わなかったよ。サキ機付長?」

「いやあ他にも面白そうなのはほかにもあったんスよ?今までの少尉の戦闘データと戦わせるとか」

「ほう?どうせあと数日はコイツに付き合わなくてはならないんだ。明日はその方向でいかせてもらおうかなぁ…?」

「あははは…。データの整理しなくてはいけないんでお先に失礼いたします」

 

そそくさと去っていくサキから目線を格納庫の奥に向ける。

同じ開発・改造というカテゴリのおかげか、クラーケ・ズールと同じ格納庫でデルタガンダムが黄金の輝きを放ちたたずんでいた。大まかなシルエットは以前とあまり変化はないが、追加の固定武装を施すなどの強化などされている。

 

「デルタのロールアウトまであと少し。ヤスハの治療も終わる。忙しくなるな…」

 

つづく


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