機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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信頼を得るには
大脱走


ゴーーーン

 

「うっ……」

 

私を目覚めさせたのは、鈍い痛みだった。頭の傷を確認しようとヘルメットを外そうとして気づく。ここは宇宙だと。

 

「なっ!?なんで外にいるんだ!?私はフェネクスに乗っていたはず!!」

 

混乱していたが、だんだんと落ち着きを取り戻し、あたりを見回してどこにいるか確かめる。幸いにも、ぶつかったのは『バエル』の甲板だったようで、カタパルトデッキが開きっぱなしになっているのが見える。

最初にするべきことは酸素のあるパイロットスーツを換えることだろう。次はヤスハの捜索といったところだろうか。そう判断してMSデッキに向かう。

 

カタパルトデッキから進入し、MSデッキに入る。中には全くMSがなく、デルタガンダムだけが存在していた。

 

「デルタ…お前は残っていたのか……。しかし人の気配がしない……放棄されたのか?」

 

機材には人が使用した形跡が残っている。放棄されて間もないのだろうか。……考察は後にして着替えて来よう。

 

 

 

 

いつものパイロットスーツに着替えデルタガンダムに乗り込む。ちなみにだが、乗り込む直前に簡易的だが爆弾が仕掛けられているか確認している。

 

ウィー…ン

 

「融合炉の起動確認。OSへの工作の形跡なし。機体状況オールグリーン。…よし、ヤスハ待ってろよ」

 

デルタガンダムを歩かせて外に出る。外は相変わらずデブリが多い。ビームマグナムによってきれいに穴が開いたのもあるが。また、それによって熱探知ができない。

 

「どうする…。熱探知ができない。目視もデブリが多いうえに元々の機体色が黒だ。発見できる気がしない。……気?いや、まだ探すことができる。バンシィはサイコマシーンだ。サイコフレームには感応波を増大させる性質があると聞く。不自然にでかい気を探し当てるんだ」

 

サイコミュの感度を最大にして集中するんだ。以前の彼女の感覚は覚えている。その気が前以上の大きさになっていればいい。

 

「…………見つけた」

 

コンピューターに今感じ取った場所を重点的に探させる。すると、すぐにバンシィの場所が特定できた。直ちにそこに向かわせる。

 

「あそこか」

 

バンシィと相対速度を合わせ、バンシィのコックピットをこじ開ける。バンシィからヤスハを引きずり出し、コックピットの補助席に括り付ける。空気が充填されたのを確認すると、ヤスハのヘルメットを外した。ヤスハは激しく呼吸をし、若干だが意識を取り戻した。

 

「ヤスハ…大丈夫か?」

 

「ゲホッゲホッ……ハァ…大丈夫です。少し息苦しいけど……何とか」

 

「そうか。まぁ取りあえず艦に戻って逃げる準備をするぞ。どこかに行きたいところでもあるか?」

 

「後で答えます。今はちょっと寝かせて」

 

「りょーかい」

 

 

 

 

デルタガンダムをゆっくり動かして艦に戻る。ハンガーにデルタガンダムを収納し、推進剤の補充を行うとともにヤスハを起こしす。

 

「ヤスハ、起きろ。『バエル』に着いたぞ。少し着替えてこい」

 

「ん……ハッ!今どこ!?」

 

「だから『バエル』と言った。さっさと着替えてこい」

 

「…はい」

 

「ヘルメット忘れんなよ。外は真空だからな」

 

「わかってます!」

 

ヤスハがヘルメットをかぶったことを確認してコックピットを開ける。ヤスハがコックピットから出ていく。

 

「さて、私も自分のすべきことをしますかね」

 

 

 

何十分後、私は食料品や日用品をゲタに詰め込んだ。さらにゲタの両面にはデルタガンダムの予備パーツが積んであるコンテナを括り付けてある。ちなみにゲタの左右にプロペラントタンクを追加で装備している。

 

「これで出発の準備は整ったな。ヤスハ、ゲタの操縦はできるな?戦闘になったらデブリで身を隠してくれ。もしなかったら《見捨てて早くコロニーに行け、だよね?》…そうだ」

 

《敵に会うことはそうそうありませんよ》

 

「そうかねぇ。……じゃあ行くぞ。行先は『インダストリアル7』だ。そこで新たにシャトルとか買ってどこかに逃亡する」

 

《シャトル買うお金あるんですか?》

 

「テストパイロットってのは危険手当ががっぽりでるんだよ。口座が閉められない内に引き出すぞ」

 

《そうなんですか。ではブースター点火まで3…2…1…点火!》

 

ゴォオオオオオ

 

ゲタはどんどん加速していき、デルタガンダムはコンテナにつかまり振り落とされないようにする。そしてゲタは数十分で暗礁宙域を抜け出した。

 

「ヤスハ、センサーの感度を最大にしろ。敵がいたらそいつを迂回していくぞ。…いや、もう遅いか」

 

《え…?》

 

「プレッシャーがこっちに来ているが数はわからん。特定してくれ」

 

《ホントだ……。前方にジオン系MSが3。その後ろに母艦らしき艦艇あり、エンドラ級です》

 

「らしいな」

 

モニターに前方を拡大したウィンドウが出現していく。機種はドライセン、ギラ・ドーガ、バウが各1機。後ろのエンドラ級は主砲がこちらに向いていていつでも撃てると言った雰囲気を醸し出している。そして何よりも特徴的なのは『袖』を巻いていることだ。

 

「さて、どう撒く……?」

 

 

 

 

 

先日、ある指令が私の所属しているエンドラ隊に飛んできた。某暗礁宙域に行き、連邦の新型MSの調査をしろと言ってきたのだ。事件の発端は、先日とある部隊がその宙域に訓練のために訪れていたところ、連邦の新型MSと遭遇、交戦をするが部隊は壊滅。生き残ったMSが帰還したためにこの事件が発覚した。

 

「全く……俺らは警察じゃあねーのになんでこんな仕事が来るんだか」

 

この人はザミュ大尉。MS隊の隊長であの『第二次ネオ・ジオン戦争』に参加して生きて帰ってこれた古強者だ。この人から学べるものはかなり多い。

 

「しかしザミュ大尉、帰ってこれたパイロットが『ガンダム』にやられたから調査に行くのではないのでしょうか」

 

「セルジか……。俺はこの任務がやりたくないわけじゃない。問題は戦力の乏しいこの部隊でやるのがおかしいと言ったことだ」

 

エンドラ隊には艦載機が6機ある。しかしパイロットが4人しかいないために1個中隊ほどの戦力がないのだ。艦載機は我々ネオ・ジオンの中でも比較的恵まれているほうだが人員不足のために使われることもなくほこりをかぶっている状態だ。

 

「ですがパラオから艦隊を待っていたら敵に逃げられてしまいます」

 

「そんなことはわかっている。俺たちがやるべきことは『倒す』ことじゃなく『情報を集める』ことだ。それを忘れんなよ」

 

「はい!」

 

《第2戦闘配備発令。各自持ち場につけ。繰り返す第2―――――》

 

戦闘配備?暗礁宙域手前で?何が起きたかわからないが指示に従わないと。パイロットスーツに着替えて乗機であるギラ・ドーガに乗り込む。すると、ザミュ大尉から通信が来た。

 

《セルジ、今ゲタを履いたMSが1機こちらに向かっているらしい。こちらに気づいているかは不明だがゲタにコンテナが括り付けてあるようだ。鹵獲してパイロットを尋問する。いいな?》

 

「はっ」

 

《振り分けは俺とセルジ、それにサキが「ちょっと待ってください」なんだ?」

 

「サキって…彼女はそもそもメカニックですよ!?戦闘機動に耐えられるとは思えません!」

 

サキは、私の同期でこのギラ・ドーガの機付長だ。これで彼女がいなかったのは説明できるが、サキがMSに乗ることにはつながらない。何を考えているんだ!?

 

《サキはパイロットとしての訓練も一応受けている。それに後方で支援砲撃をしていればいい。話をつづけるぞ?テルスとジョンソンは直援に回る。以上だ。質問は?》

 

『……』

 

《ないな?なら作戦会議は終わりだ。出番まで待機》

 

『了解』

 

 

 

 

しかしその待機時間はすぐに終わった。所属不明機が本艦の防衛ラインを突破したのだ。そのまま無視するわけにもいかず出撃、戦闘が始まったわけではないものの緊張が私を襲う。おそらくはサキもそうだろう。

 

ちなみに、機体の装備は、ザミュ大尉のドライセンはバズーカとヒートサーベルを持ち、私のギラ・ドーガは基本装備一式のみでサキが搭乗するバウは特殊なビームライフルを装備して超長距離射撃にも対応している。

 

《サキはここで狙撃できるように待機。セルジは俺とともに来い。武器を構えることを忘れんなよ》

 

『了解』

 

バウが止まり、ビームライフルを接近中のMSに向ける。これで多少なりとも威嚇になるかな…?

 

《接近中のMSに告げる。直ちに武装解除し、停船せよ。繰り返す。直ちに武装解除し、停船せよ。しない場合そちらに危害を加える場合がある。よく考えるんだ》

 

ウィンドウが表示され、所属不明機の姿が露わになる。そしてその姿に私は驚愕した。なんとそのMSは金色だったのだ。なぜ戦場で目立つ色を機体色にしているのか。アタマがどうかしている。そんな風にしか思えない。

そんなことを考えていると、相手からの返信が来た。

 

《申し訳ないがこちらには時間があまりなくてだな。ここらで立ち止まる暇はないのだよ》

 

《つまり止まる気はないと?》

 

《そうなるわけだが……そちらに対して危害を加えない。それを保障しよう。信用しないと思うが》

 

「それはそうだろう!敵か味方かわからないやつにそんなことを言われても信用できるはずがない!」

 

《落ち着けセルジ少尉!申し訳ないな。だが少尉の言っていることも確かだ。なに、ちょっと聞きたいことがあるだけだ。それに答えてくれればいい》

 

ザミュ大尉はなぜここまで冷静でいられるのだろうか。金色はスピードを緩めて慣性航行をしているが着実に『エンドラⅡ』に向かっているというのに。

 

《答えられるかどうかは保証できないぞ》

 

《それならそれでいいさ。まず1つ目、なぜ暗礁宙域から来た?》

 

《恥ずかしいことにとある組織から脱走してね。その目を避けるために通っただけだ》

 

《2つ目、ココを抜ける途中で交戦中の場面に出くわさなかったか?》

 

《……いや、ないな。そんなことがあったら敵認定されて追撃されるのがオチだ》

 

ん?今変な間がなかったか?ラグなのだろうか……。

 

《……そうか。引き留めて悪かったな。もう行っていいぞ》

 

《ああ。こっちも急ぎなんだ。早めに終わって助かったよ》

 

そう言って金色のMSはベースジャバーの追加プロペラントタンクを点火した。その瞬間、ザミュ大尉は叫んだ。

 

《サキ!ベースジャバーを撃ち落とせ!》

 

『!?』

 

《は、はい!》

 

サキが返事をしてビームを放つ。それと同時にドライセンのバズーカが火を噴いた。するとベースジャバーはビームを避け、金色のMSがバズーカ弾をバルカンで迎撃しつつ背面撃ちの要領でバウのビームライフルを狙撃した。

 

「ザミュ大尉!なぜ発砲するんです!?」

 

《その通りだぜ!そっちの要求にこたえただろ!?何が不満なんだ!》

 

《こちらの入手した情報によるとネオ・ジオンを襲ったMSは『ガンダムタイプ』、しかも金色なんだそうだ。画像データが不自然に消去されてパイロットの証言のみの情報だから不安なんだがそちらのMSはその両方に合致していてな。連行するぞ》

 

《マジかよ……!》

 

《セルジ!俺が接近戦を仕掛ける。援護しろ。その間にサキは後退するんだ》

 

『了解!』

 

ザミュ大尉に命令されてすぐに行動に移す。ギラ・ドーガとドライセンから放たれるビームが金色のMSの退路を断つ。すると、金色のMSはビームサーベルを抜き取ってドライセンとつばぜり合いになる。

 

《こいつは俺が抑える。今のうちにベースジャバーを拿捕しろ!》

 

「了解!」

 

ズドォン

 

いきなり機体のバランスが崩れて回転しだす。アポジモーターを使ってバランスを安定させてディスプレイを見ると、右足を撃ち抜かれていた。

 

「ザミュ大尉が抑えているはず!いったいどうやって脚を!?」

 

《セルジ!?うおおお!?》

 

私がザミュ大尉の方を向くと、ドライセンの周囲にダミーバルーンがあるのを見、金色のMSが変形して私の方に向かってくるのを最後に、目の前が真っ暗になった。

 

ブッピガン!

 

 

 

 

 

「まず1機……。残りをどう扱うか」

 

変形を解き、シールドに突き刺さっているギラ・ドーガ(の頭部)を蹴り飛ばす。敵は直掩含めて4機。それに加えて無傷の戦艦が1隻。勝つのは明らかに無理。ただでさえインダストリアル7にたどり着けるかわからないのに戦うのはバカすぎる。ここは……。

 

「威嚇射撃をして素早くこの宙域から出るのが最善!」

 

再びデルタガンダムを変形させてゲタに追いつく。

 

「ヤスハ、抜けられそうか?」

 

《あなたがしっかりエスコートしてくれるなら》

 

「そうかい……!?」

 

返事をしようとした瞬間に戦艦の主砲が火を噴いた。何とかよけたものの、ギラ・ドーガを捨てたのは失敗だったかもしれない。

 

「さて、先にどちらをつぶそうか……」

 

《迷っているならMSを墜としてください。大まかな動きしかできない主砲より小回りの利くMSの方が厄介ですから》

 

「あいよ!」

 

ディスプレイを見て素早く敵の位置、武装を把握する。まずドライセン。ドライセンはビームランサーを装備していてる以外に差異はない。次にギラ・ドーガ。先ほどのヤツとは違い砲撃仕様になっている。最後に先ほど後退したバウ。さっきとは違いノーマルのビームライフルを装備しているが、こちらに近づく素振を見せない。

 

「まずはギラ・ドーガからか!」

 

見た限り大砲の残弾は少なそうだがなかなか撃ってこない。だったら破壊して撃てなくさせる……!

 

「当たれ!」

 

そう叫んで放たれたビームは吸い込まれるように大砲まで進み、命中する直前に何かに阻まれた。

 

「なに!?」

 

《おまえがやりそうなことは大体わかるんだよ。なぜかは知らんがな》

 

後ろを見ると、ドライセンがダミーバルーンの森を抜け、腕のビームキャノンを構えていた。ほかのMSも陣形を組み直して主砲を撃てる状態にし、ゲタやデルタガンダムがどこに避けてもどのMSに当たるようにしていることに気づく。

 

《これは降参です。投降しましょう。いいですね?》

 

「ああ。投降する。投降する身として傲慢かもしれんがゲタのパイロットはケガをしている。そいつに治療してやってくれ。頼む」

 

武装をパージしてコックピットから出る。正気を疑うかもしれないが、こうしないと信用しないだろう。その思いが通じたのか、向こうからはこう帰ってきた。

 

《わかった。憲兵付きにはなるが診察をしよう。だが君は独房いる。あとそのまま連行されるんだ。いいな?》

 

「オーケー」

 

さて、これがどう転ぶか。いい方向に向かってくれよ?カミサマがいるってんならよ。

 

つづく




第3章開幕。

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