機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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U.C.93年に勃発した戦争、俗にいう「シャアの反乱」を生き抜いたエンドラ隊はU.C.94年の某日、新たなネオ・ジオンを名乗るレウルーラと接触した。
これを好機と物資(特に人員)がギリギリだったエンドラ隊は補給を要請するが、レウルーラからの返信は、ある強奪作戦への参加の命令だった。



番外編 『袖付き』

《……大尉、部下を連れて撤退を、自分は殿を務めます》

 

これは……夢か?しかもあの時のか……。

 

「少尉!」

 

《ザミュ大尉、あなたの機体は損傷しています。それにあの機体のパイロットですよ。だから……!》

 

この時の相棒(ドライセン)は右腕がやられていてこれ以上の戦闘は困難だった。それでも作戦上敵陣の深くまでいたあいつら(カイト率いるギラ・ドーガ隊)を迎えに行った。

 

「……くっ……!ギラ・ドーガの坊主どもついてこい!」

 

《しかし、ザミュ大尉!隊長が……!》

 

「お前らがいるとあいつも撤退できないんだ!いいから撤退するぞ!」

 

《……了解》

 

作戦は成功した。その直後に、連邦の援軍によりカイトの隊のギラ・ドーガが1機やられた。それによってカイトは激昂、味方を仕留めた敵を追いかけて行った。カイトの言い分は間違ってなかったと思うし、殿は必要だった。なんせ俺もそうだが残りのギラ・ドーガも損傷ないし戦闘継続不可能な状態だったからな。

 

「エンドラ聞こえるか!?着艦準備に入ってくれ!」

 

《了解!……大尉、カイト君は?》

 

「あいつは殿をやっている。そのうち戻ってくる」

 

しかしアイツは戻ってこなかった。レウルーラから離れてその宙域に戻ってもあったのはカイトが乗っていたバウの残骸だけだった。脱出ポッドは作動していたから生きていると思いたいが……絶望的だ。宇宙で作動しても見つけてもらえる可能性はゼロに等しいからだ。

 

《大尉……》

 

「なんだ?」

 

《カイト君が死んだのは……あなたのせいではないですか?」

 

その瞬間、俺の視界は紅く染まった。

 

「!!ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

夢か……。息が荒い。水でも飲みに行こう。

 

 

 

 

ガコン

 

「ん…{ゴク…ゴク…}はぁ」

 

あの時のことをまだ見るということは、まだあのことを気にしているということか。それもそうか。アイツは初めての部下で、弟分だったからな。

 

「ザミュ?珍しいね、君がこんな時間に起きてるなんて」

 

「ジェトロか…、ちょいと嫌な夢を見てしまったんでな」

 

「夢?」

 

「ああ、アイツが死んだときの夢をな……」

 

ジェトロが気まずそうな顔をしている。徹夜明けのはずだからこんな話を聞かせないほうが良かったかもな。

 

「気にするな。過ぎたことだしな」

 

「でも死んだって決まったわけじゃないだろ?」

 

「そうだ。だが生きてるって保証もない。生きていたとしても連邦に捕らえられている」

 

だからその気まずい顔をするなって。こんな話をするから気まずくなるんだ。話題を変えよう。

 

「そ、そういえばだ。俺のドライセンの改修は済んだのか?」

 

露骨な話題そらしだが、これ以上暗くなりたくない。それに、これも重要なやつ…かもしれない。

 

「え?あ、うん。終わってるよ。でも変な要求だったよ。『袖飾り』を付けろなんてさ」

 

「シャア大佐が行方不明になってしまったんだ。それに伴って失った求心力を高めようという魂胆なんだろうさ」

 

「だろうけど……まあいいか。それよりも君は大丈夫なのかい?()()()()()|で行くなんて」

 

「その話か…。艦長にも言われたよ『お前正気か?』ってね」

 

「……」

 

艦長のモノマネは受けなかったか……。まあいい、話を続けよう。

 

「しょうがないだろ?『エンドラ』の戦力は俺とテルス、あとはギラ・ドーガの坊主一人だけだ。ここで俺が離れるだけでも危険なんだ。誰かを連れて行くわけにはいかんだろ」

 

「それは…そうだけど……」

 

「それに知ってるだろ?俺は単独プレーのほうが得意だってよ。ジェトロ機付長殿?」

 

「ちょ、茶化さn「さて、チョード眠気が出てきたから寝るわ。明日も早いからな」ザミュー!!」

 

「はははは!」

 

 

 

 

 

翌日、出撃まであと少し。俺はドライセンをカタパルトにセットし、機体の最終チェックをしていた。

 

「ジェトロ、機体に不備は本当にないんだろうなあ」

 

「問題ないよ。何度もチェックしてる。注意してほしいのは君が冷静さを失わないことだよ」

 

「……それは昨日のことの仕返しか?」

 

「どうとでも思えばいい」

 

「この文句は帰ったらにしてやる」

 

「その前に僕は部屋で寝ているよ」

 

そう言ってジェトロはドライセンから離れていく。時計を見ると、出撃時刻になっていた。

 

「さて、一働きしてこようかね」

 

《ザミュ君》

 

「何でしょう艦長」

 

《相手はレウルーラ所属とはいえ指揮系統があの時からかなり変わっている。友軍とはいえ注意しろ。あと、必ず帰ってこい》

 

「……了解!ドライセン、出るぞ!」

 

ハッチが開き、ドライセンが出撃する。前方を見ると、ギラ・ドーガの部隊がいた。

……専用カラーの機体が2機いるな。赤と紫。だが『大佐』と呼ばれていたから赤い方か?そう思っていたら赤いギラ・ドーガから通信が入った。

 

《『エンドラⅡ』所属のザミュ大尉で間違いないな》

 

「問題ないです」

 

《1機のみの訳は艦長から聞いている。協力に感謝する》

 

「小官は軍人です。命令ならばそれに従うだけです」

 

《ふっ…心強いな》

 

「大佐、自分はどの小隊に加われば?」

 

《そうだな。ザミュ大尉には基本的には1人で動いてもらう。いざとなったら危険になった部隊の援護をしろ》

 

「了解」

 

大佐……。声は確かにシャア大佐だが……実力はどうか。見極めさせてもらう。

 

 

 

 

《聞こえるか小僧ども》

 

《はっ!》

 

もうすぐ連邦の部隊に接触するタイミングで通信が入ってきた。すぐさま紫のギラ・ドーガから返事が来たが……若い。カイトと同じ年代なのか?……いや、もうすぐ戦闘が始まる。余計な事は頭からしぼり出そう。

 

《会敵予想時刻T-600、まもなくだ。目標はクラップ級巡洋艦『ウンカイ』と『ラー・デルス』。『ラー・デルス』は護衛で、本丸は『ウンカイ』だ。こいつが大切な荷物を運んでる》

 

《は》

 

《貴様たちは『ラー・デルス』の方に回れ。護衛のMSを引き付けておけばいい。その間に俺たちが『ウンカイ』に取り付き荷物を奪取する。欲をかいて母艦を沈めようなどと考えるなよ。我が軍のMSは貴重だからな。貴様たちがどうなろうと知ったこっちゃないが、貴重な機体を破壊されては困る》

 

『貴様たち』というのは紫のヤツの部隊か?主な援護はこちらに向けるべきか。だが若いのにこの作戦に参加するということは戦力として期待できると見るべきか。それとも数合わせと見るべきか。

 

《了解です。敵護衛部隊を殲滅した後、本隊と合流ということでよろしいですね?》

 

《なに?》

 

《我々はフル・フロンタル親衛隊です。フロンタル大佐と行動を共にして、その身をお守りする義務がある。大佐が『ウンカイ』に斬り込まれるのであれば――――》

 

《抜かせ。てめぇのけつも拭けん小僧ッ子どもがそう簡単に敵を殲滅できるものかよ。貴様らの大佐は俺たちがお守りしてやる。余計な口叩くな》

 

《……》

 

《大体、大佐が本当に噂通りのお人ならばお守りなんぞ必要ない。貴様たちも確かめたいだろう?シャアの再来の実力ってやつをな》

 

《まさか…!そのために我々を引き離して――――――》

 

《思い上がるな!貴様らお稚児さん部隊を引き連れてきてやったのは大佐のお顔を立てるためだ。戦場をうろちょろして、俺たちの邪魔をするなと言っている》

 

俺はいつ返事をしたらいいんだ?口を挟みこむ雰囲気じゃないしな。

 

《……》

 

《それに、そう気張らんでも作戦はすぐに片が付くようになっている。そういう段取りだ》

 

《……どういう意味です?》

 

《戦後の戦争は持つ持たれつってことだ。……気にするな。せいぜい祈っているんだな。貴様たちの大佐が馬脚を表さんようにな》

 

……出来レースってわけか。だが、ヤツらが反撃してきた時のことを考えていたほうがいいと思うけどな。いつ何が起きるかわからないからな。どんな増援がくるかわからないしな……。

 

「話はそれで終了だな?それと、俺も了解した。『ウンカイ』と『ラー・デルス』の間でどちらの援護にも行けるようにする」

 

《了解した。そんな気遣いは無駄になると思うがな》

 

「無駄に済めばそれでいいさ」

 

《ふん。会敵時刻T-300。各員、現状のコースを維持。以後、無線は封鎖される》

 

 

 

『ウンカイ』近傍に爆発光……。始まったな。?…いや、向こうは乱戦のように見える。まさかとは思うが……なってしまったか……!

 

《撃ってきた!あの特務機は本気だぞ!》

 

《全体、特務のジェガンだ!ヤツに攻撃を集中しろ!》

 

《話が違うじゃねえか!敵機は上がってこないはずじゃ……うわっ!?》

 

《やられた!トクミンのギラ・ドーガだ!》

 

「全く……。アンジェロ中尉、君はこのまま『ラー・デルス』を引き付けていてくれ。俺は向こうのヤツらをまとめ上げる」

 

《は》

 

『ウンカイ』に向けてドライセンを急行させる。やる気のないジェガンを墜とす必要はない。必要があるのはギラ・ドーガ隊のヤツらが言った特務だけだ。先方は穏便に済ませたいから艦砲は上がらないはず。

 

「てめぇら何やってる!早く『ウンカイ』に取り付け!母艦を盾にしちまえばあいつは何もできないはずだ」

 

《そんなことはわかっている!》

 

通信で連邦兵が何か言っているが……やる気があるのはMS隊だけだな。戦艦からは何も来ない。

 

《敵の増援がまた来る!ヤツら裏切りやがったんだ!》

 

「新手は到着するまで時間がかかる。それまでに『ウンカイ』に取り付ければいい!俺が特務機を抑える。そのスキに!」

 

《……了解した》

 

クラップ級の搭載MS数は6。ラー・デルスから来るのは3。つまりウンカイ周辺の敵機は9になる。それに対して俺たちの戦力はギラ・ドーガが2、俺のドライセンが1。親衛隊とやらはラー・デルスを牽制している。

 

「大佐がどこにいるかは知らないが…、友軍を墜とさせるわけにはいかん!」

 

ほかのジェガンの出足が遅い。そう判断して特務機に攻撃を仕掛ける。

 

ドライセンが牽制にとビームを連射する。それを特務機は避け、お返しにとばかりにバズーカを撃ってきた。

バズーカの弾をトマホークで切り裂き、ランサーと接合して特務機に接近戦を仕掛ける。特務機はビームサーベルを取り出し応戦する。

 

機体の形状から遠距離支援機だと思っていたが、格闘戦もできるらしい。それに、俺と戦いながら友軍を説得するなんてな。チラリとギラ・ドーガ隊を見るが、若干押されているか?さっきより冷静だし何とかなると思うが……。

 

「それ以上敵を作らないでもらいたいな…!」

 

《抜かせ!ネオ・ジオンに荷物を渡すな。あれが連中に渡れば、戦力のバランスシートが狂う!また戦争が起きるぞ!》

 

《それほどのものならば、ぜひ手に入れねばな》

 

ようやく来たな、フル・フロンタル。こいつ(特務機)の相手をやめて、奪取に移ったほうがいい。

 

膝蹴りを食らわせ、よろめいたところでダミーバルーンを放出する。すぐさま離脱して『ウンカイ』に向かう。

 

《ザミュ大尉、よく部隊をまとめてくれた。各員はそのまま道を切り開け》

 

《りょ、了解、大佐》

 

《アンジェロ、私が『ウンカイ』に取り付く。援護しろ》

 

《は?は!親衛隊、援護いたします!》

 

フロンタル大佐が来た途端にに僚機の動きが変わった。迷いがないっていうのか?恐れがなく、一気にまとまった感じだな。

 

「ここは俺が抑える。お前らもフロンタル大佐についていき物資の奪取をしてくるんだ」

 

《わかった。任せたぞ》

 

そう言ってさっきまで悪態ついていたギラ・ドーガのパイロットも『ウンカイ』に向かっていった。

敵のジェガンの数が減っている。といっても2機程度だが。しかし数が減っているのはいいことだ。襲われる可能性が減るってことだからな。

 

「さて、多対一には慣れているんでな。一気にやらせてもらう!」

 

トライブレードを射出して接近してくるジェガンの前を通過させる。そのことにより停止したジェガンにビームのシャワーを浴びせる。残り9機。すぐに狙いを変え、ギラ・ドーガに夢中になって背を向けているジェガンに接近し切り裂く。アンジェロ機も墜としたからあと7機。

 

《よし!取りついたぞ!》

 

『ウンカイ』を見ると、フロンタル大佐のギラ・ドーガが取り付くのが見えた。すぐにジェガンが俺を狙ってきたからそれどころではなかったが。

襲ってきたジェガンはビームライフルをトライブレードに斬られ後退するが、ギラ・ドーガが放った銃弾が命中し爆発。残り6機。

 

「残り6機……。増援がなければ30分もあれば殲滅できるか……?」

 

その時、『ウンカイ』から1機のMSが発艦した。機体色は真っ白。常識的に考えるとあれが例の荷物…実験機か。

 

《私の機体は置いてゆく。『レウルーラ』に戻るぞ》

 

『了解》。デッキにある荷物を忘れんなよ」

 

《わかっている!》

 

声をかけた時にはすでに残りの物資を運んでいた。……その行動力を最初から発揮してもらいたかった。

 

《その前にあれを片づけねばならんか》

 

そう言ってフロンタル大佐は奪取したばかりの機体をまるで手足のように扱い、残存勢力を瞬く間に殲滅した。

 

 

 

《ザミュ大尉、確か貴官の部隊が補給を申請していたな》

 

「はい。しております」

 

連邦の部隊を殲滅し、その帰路でいきなりフロンタル大佐から通信が入った。ここで粗相を犯すわけにはいかない。ある意味で部隊の命運を分けるのだから。

 

《補給は後日、『パラオ』で受けてもらう。いいな?》

 

「りょ、了解です。大佐」

 

フロンタル大佐の言葉はいたくシンプルなものであった。補給を受けられる。その事実に歓喜しつつも前に出さずに返事をする。それっきり通信は入らなかったがまあいい。当初の目的を達成できたんだ。あとで祝い酒でも飲みに行こう。

 

 

後日、パラオで配属されたのは、パイロットが1人、整備兵が1人だった。

 

 

 




全裸さんの区長とかって難しい……。

次回本編入ります。



(それよりも積みプラ消費したい……)

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