『オアシス』で輸送されて数時間。ヤスハ等による追撃もなしに順調に『アイリッシュ級バエル』と合流できた。現在は、私や試験に使う積み荷などを運び出す作業をしており、私は一足早くバエルに乗船している。
乗船し今向かっているのは、艦長室……ではなく将官がいる貴賓室だ。そこには今回の評価試験の視察に来ておられる方々がいらっしゃり、そこで辞令を受け取るのだ。
「(ここか……。){ピ!}こちら、カイト・マツムラ中尉、入室の許可を」
《ほう…君が……。よろしい、入り給え》
「は、失礼します」
扉が開き、中に入る。部屋の中には、恰幅のある男性と、理知的であることを匂わせる男性がいた。ちなみに、恰幅のあるほうが中将、理知的なのが准将だ。
「改めまして、カイト・マツムラ中尉です。今回のMS評価試験にパイロットとしての要請に応じ
参りました」
「私はロイ・キャンベル中将だ。立ち話もなんだ、椅子に座り給え」
「は、はぁ……」
中将に勧められるがままに椅子に座らされる。
「中尉、君の働きはマイケル君から聞かされているよ。なんとテストパイロットとしてかなり腕利きのようだね」
「そこは小官にはわかりません。小官は己に出来ることを全力で為しただけですから」
「君がそう思っていても我々は君を評価するよ」
「…ありがとうございます」
そういったお世辞はいいから早く要件を言ってほしい。試験までの時間はないのだろうから。
「そんな君に我々はあるMSを動かしてほしい。これだ」
そう言って資料を渡される。「拝見しても?」と事前に聞き、承諾を得てからそれを見る。
「『フェネ…クス……』?」
資料の一番上にはそう書かれていた。その下へ読み進めていくと、その詳細な事が書かれていた。
『 RX-0 フェネクス
来たるU.C.100年の連邦宇宙軍再編計画のフラッグシップ機。
ムーバブルフレームにサイコフレームが使われている。そのことにより追従性が従来機をはるかに凌ぐためにインテンション・オートマチック・システムを搭載。思考によって機体を動かすことを可能としている。
武装
ビームマグナム:通常のビームライフルの4倍の威力を有する。腕部、またはバックパックに装備可能。Eパックは腰のリアアーマーに装備。
ビームサーベル:両腕、バックパックに計4基搭載されている
ハイパー・バズーカ:独自規格の実態バズーカ。砲身にはグレネードランチャーやミサイルランチャーが装備可能。弾倉はリアアーマーに装備。
60㎜バルカン砲:連邦規格のバルカン。5発に1発の割合で曳光弾が仕込まれているため途中で軌道修正が可能。
シールド:中央にIフィールドバリアを発生させることができ、実体弾やビームに対応可能。
アームド・アーマーシリーズ
ハイパー・ビーム・ジャベリン:アームド・アーマーシリーズのプロトタイプ。先端に斧状のビーム刃と槍状のビーム刃を発生させる。2つに折りたたむことでシールド裏に装備可能。
DE:ビーム・キャノンとスラスターが一体化したシールド用の増加ユニット。スラスター自体に推力偏向装置を組みこんでいるため装備したままで姿勢制御可能にする。
BS:内蔵されたセンサーユニットから得られた空間データをサイコミュで伝達し、そのデータを2枚のフィン型ビーム偏光機と連動させ、高精度の予測照準が可能。一撃の威力はビームマグナムより低いものの、大気圏内でガンダリウム合金を切断するほどの高い収束率と長い照射時間を誇る。
VN:サイコフレームの強靱性を利用した超振動破壊兵器。通常は前腕を覆うナックル状の打撃武器として機能し、変形後は獣の顎を思わせる4本のクローが上下に展開される。ガンダリウム合金製装甲を内部フレームごと粉砕する威力を持つ。外装にはビームコーティングが施されており、シールドとしての機能も併せ持つ。
』
「カイト中尉、現時刻をもって『フェネクス』のテストパイロットに任命、及び2日後に行われる合同評価試験に本機に同乗して参加することを命ずる」
「ハッ、拝領いたしました!」
資料をテーブルの上に置き、立ち上がって敬礼する。
「中尉、長旅だったろうから今日は休むといい。明日は中尉が試運転をして体になじませて備えるんだ。いいな?」
「了解、失礼しました」
資料を手に取り退室する。今日はほどほどに休むが、資料は目に焼き付けるほど読み込ませてもらう。
2日後、試験当日。
ついに試験か……。機体は万全に仕上がっているし、サイコミュも私に同調している。専用のパイロットスーツにも不備はない。
気を落ち着かせるためにミッションを再確認する。
「ネオ・ジオン残党軍、通称『袖付き』の新型MSの試験を強襲、これを殲滅させる。敵は複数だが、『フェネクス』の性能なら覆らせることも可能…か」
簡単に言ってくれるが、確かにカタログスペックだけを見るならいけそうな気もする。あとは新型とやらの性能だけか……。ちなみに今回使用する武装は、ビームサーベル、ビームマグナム、アームド・アーマーDE、ハイパー・ビーム・ジャベリンだ。アームド・アーマーDEは背部に翼のように2枚装備になっている。
《0-3、カタパルトへ》
どうやら時間のようだ。オペレーターの諭され、フェネクスをカタパルトまで移動させる。そこで、中将から通信が入った。
《カイト中尉、聞こえるかね》
「は、聞こえています」
《今回の試験は軍の威信がかかっているんだ。絶対に負けることは許されんぞ》
「了解しております」
《いいか?絶対だからな!》
そう言って中将殿からの通信が切れた。かなり焦っているように感じられたが……。
「まあいい。フェネクス、カイト・マツムラ、出る!」
ペダルを踏み、バエルから発艦する。昨日操縦したが、やはりこの機体はかなりのじゃじゃ馬だ。
前方には、『バンシィ』と5機の敵MSがいた。敵機には袖飾りが施されているから噂の『袖付き』というヤツだろう。その内4機が『ギラ・ズール』と表示され、残る1機は『バウ』のようなシルエットだ。しかし、姿はやや華美な印象を受け、ところところバウにはないモノがある。いわゆるマイナーチェンジと言うヤツか。
敵機を視認して数秒後、バンシィが右手に装備したアームド・アーマーVNでギラ・ズールを粉砕した。
―――――後れを取るな!
―――――行け、フェネクス。相手は生きた標的だ。バンシィの分も食い尽くして、ビスト財団の鼻を明かしてやれ。
サイコミュを通じて将官どもの声がアタマに響く。そういわれなくてもこっちはそうするつもりだ。
フェネクスは左手に持ったビームマグナムをバンシィに接近するギラ・ズールの間に撃ちこむ。ヤスハに対する牽制を含めてだ。バンシィはマグナムが来ることを察知してか距離を多くとったがために無傷だったが、ギラズールはビームの前に止まりその至近弾にやられた。
「掠めただけでこの威力か」
そう呟き、別の方にマグナムを向ける。いくらセンサーが役立たない暗礁宙域とはいえ、サイコミュが敵の意志を感じ取ってくれる。
「そこっ!」
マグナム弾がいくつものデブリを食い破ってギラ・ズールが隠れるデブリに進む。そして、ギラ・ズールは己に死神が襲い掛かっていることに気づかずに爆散した。
バンシィのほうに顔を向けると、バンシィは切りかかるギラ・ズールの頭部をつかみ、0距離でビームマグナムを撃っていた。
「これで2:2か……{キイイイン!}そこか!」
背後からプレッシャーを感じ、上方に飛ぶ。すると、さっきまでいた場所に一条のビームがそこを通った。
「そこにいたか……。当たれ!」
ビームマグナムをプレッシャーに向けて撃つ。すると、2機の燐光を散らす戦闘機が左右からフェネクスを襲う。
「戦闘機…?いや、バウの分離した状態か!」
両腕にアームド・アーマーDEをセットして迎撃する。原型機より早いためか、メガ粒子弾が当たらない。
「後ろに回られた!?だが……!」
アームド・アーマーDEとビームマグナムを背部にやり、ジャベリンを構え直し、下から掬い上げるように切りかかる。それに対しバウは、シールドに装備されているビームアックスで受け止める。
「全く……ジオンにも腕が立つヤツがまだいるのかよ」
しかし、フェネクスのパワーは凄まじく、バウのシールドを弾く。返す刀で切りかかると、バウはまた分離してジャベリンを避けた。その直後、マグナム弾が襲い掛かる。シールドを前面にやりIフィールドバリアで防ぐが、その勢いに負けて吹き飛ばされる。
「これはさっきのお返しかな?だとしたら……いや、だとしなくてもやりすぎだぜ」
そう言いつつディスプレイに目を走らせ、損傷がないことを確認してからスラスターを焚かせる。
「そういやあのバウからたまに出るあの燐光……まさかサイコフレームを搭載しているのか?」
可能性がなくもない。そう思いつつマグナムを撃つ。バウはそれを避けてビーライフル下にあるグレネードランチャーで迎撃。弾種は散弾、高速で動く鉄球がフェネクスに襲い掛かる。
カカカン
「この距離で!?だが、散弾ではなァ!」
頭部に命中したものの大した損傷もなく、フェネクスはさらに速度を上げて接近し、ジャベリンを投げつける。投擲したジャベリンは、リバウにあたることなく通り過ぎていき――――――バンシィを襲った。
バンシィは慌ててアームド・アーマーVNでジャベリンを弾き飛ばす。しかし、勢いづいたジャベリンの衝撃を殺しきることができず、バンシィは姿勢を崩した。
これを好機とみなしたリバウはバンシィに襲い掛かる。その瞬間、バンシィは『変身』した。
バウとの戦闘中にフェネクスから2度目の妨害が入った。なんとジャベリンを投擲してきたのだ。その攻撃をアームド・アーマーVNで防いだものの、体勢を崩してしまった。それを好機と切りかかるバウが接近し、バンシィは姿を変えた。
その影響はコックピットまで及び、シートの形も変形する。何が起きたかはわからない。でも直感的に本来の力が引き出されたというのがわかった。
「これなら……!!」
すぐそこまでに迫ってきているバウに体当たりを仕掛ける。その圧倒的なスピードで仕掛けたためにバウは分離することもままならずに直撃する。
意識は残っていたのか、バウは分離して離脱を図る。そうはさせないとスラスターを吹かせようとした瞬間、目の前をビームが横切った。
「またですか!」
そう叫んでフェネクスの方を見ると、フェネクスも変身して『ガンダム』になっていた。でも問題はそこじゃない。問題なのは『明確な殺意を持って私に襲い掛かることだった』。
「な…!?カイトさん!?何やってるんですか!敵は私じゃありません、敵は向こうのジオン残党です!」
通信機に怒鳴っても反応がない。それもそうだ。彼の意識と呼べるものがほとんど感じ取れなかったんだから。
「まさか……!」
システムに意識を乗っ取られている。それしか思いつかなかった。確かに、最初に呪詛のようなものが聞こえた。でもそれは『ぺイルライダー』のモノと……!
まさか
「本当に、面倒な方ですね。あなたは!!」
フェネクスは目の前まで迫ってきていて、左腕のビームトンファーを発振してつばぜり合いになる。すぐさまフェネクスは左腕のビームトンファーを構えるが、それをアームド・アーマーVNで掴んで抑える。
「これで攻撃は…{ガン!!}キャッ」
コックピットに強い衝撃が走る。フェネクスが膝蹴りをかましてきたのだ。その影響でできた隙をフェネクスは逃さず、ビームサーベルを切り落とす。
そこで私は賭けに出た。アームド・アーマーVNで掴んでいる腕を放し全速力で後ろに下がったのだ。
ジジ…ジ……
私は賭けに勝った。胸部を多少切られたものの、何とか生きている。フェネクスはまだ追ってこなく、私はカイトの母艦であったはずのバエルを探そうと周り見る。すると、特異な事に気が付いた。
「なに…この赤いのは……?」
今フェネクスがいるところから赤黒いモノがシミのように周囲に拡がっていく。まるで何かを逃がさないための牢獄みたいに。
ピピピピ!
「なに!?」
センサーが反応し、その場から離れる。すると、そこに複数個所からビームが来た。フェネクスがいた場所を見るが、そこにはまだフェネクスが立って……いや、何かが違う。
「なに…この違和感……」
ビームが飛んできた方を見る。そこで違和感の正体を知る。アームド・アーマーDEだ。それがビームを放ったんだ。しかし、それ以上に驚くことが発生する。
「ファンネル……」
でもアームド・アーマーDEにそのような効果はないはず。これが『ガンダム』の力なの……?
ここでようやくフェネクスが動き出す。2基のファンネルを従えて。
「ここで私が負けるわけにはいかないの!!」
ビームマグナムを撃つ。しかし、撃ったビームをシールドが防ぐために意味がない。やはり勝負は接近戦で決めるしかない。そう思って右腕のビームトンファーを発振させ切りかかる。しかし、これすらもシールドのIフィールドが防ぐ。
「なんでIフィールドがビームサーベルを防げるの!?{ガン}きゃっ!?」
横から衝撃が入る。フェネクスの蹴りをまともくらったらしい。身体に力が入らない。そのせいでバンシィを動かすことができず、フェネクスのパンチを避けられずにいる。
ガン…ガン…ガン…ガン…ガン…ガン―――――
何度…殴られたんだろう……。3回目から数えていない…。この衝撃に耐えられず意識が闇に落ちていった……。
「カイト…さ………」
バンシィが『ガンダム』に変身し、バウに攻撃を仕掛けた瞬間。この機体にも異変が訪れた。
――――――コロセ…コロセ……敵意ヲ向ケルヤツ全部……!
「なんだこいつは…!黙れ、しゃべるな」
――――――コロセコロセコロセコロセコロセ………
「ウオオオオオオオオオオ!!」
わかっている!俺に敵意を向けるやつすべてが敵だッ!
ビームマグナムをあの2機に向けて撃つ。結果としては2機とも避けたが、バウの方に敵意はそこまでない。なら先にバンシィをやる!
バックパックからビームサーベルを抜き取ってバンシィに切りかかる。それをバンシィはビームトンファーで防ぐ。すぐに左腕のビームトンファーで突こうとするが、アームド・アーマーVNを左腕を抑えられてしまった。
「小賢しいんだよ!!」
何も攻撃手段は武装だけじゃない。膝をコックピットにたたきつけ、その衝撃で動けないうちにトンファーのサーベル部分を焼き切る。そのままコックピットも焼こうとしたら、バンシィは右手のアームド・アーマーVNを放し、後退した。そのせいで胸部装甲を一部焼いただけで仕留められなかった。
また攻めようとしたがやめた。また同じことになったら面倒くさいからだ。だったら……。
「行け―――――」
多方向から攻めればいい。この機体にそういった装備はない。アームド・アーマーDEをそう使うだけだ。もちろん、アームド・アーマーDEにもそういった機能は搭載されていない。ただの増加ユニットだ。しかし、これにはサイコフレームが使われている。つまり、サイコミュ装置としての働きもしているのだ。それにサイコミュ・ジャックを仕掛ければファンネルとして使用できる。
「―――――ファンネル!」
ファンネルと呼ばれたシールドが、マウントラッチから離れていく。俺が指定した場所に到着したのを確認して、ビームを撃たせる。
それを避けたバンシィだが、これ以上攻撃させずにフェネクスの周囲に漂うように指示する。バンシィが接近戦を仕掛けると予想したからだ。
予想通り、バンシィはビームを撃ちながら接近してくる。ビームをシールドでガードしながらフェネクスもバンシィに近づく。バンシィがビームトンファーで突こうし、それもシールドで時間を稼ごうとする。しかし、ここで予想外の事が起きた。シールドのIフィールドがビーム刃を防いだのだ。
バンシィもこれに驚き一瞬動きが鈍る。それを見逃さずに横から蹴りを加える。そしてバンシィの動きは止まった。しかし、敵意は消えていない。
「だったら……!」
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン
殴った。敵意が消えるまで殴った。敵意が消えたのを認識すると、他に敵意を出すものを探し…ミツケタ。
―――――こっちに来るぞ!
―――――げ、迎撃だ!いや、撤退しろ!
「貴様らで最後だ!」
ファンネルで砲台を破壊し、ブリッジにいるやつらに近づく。ヤツらは怯えきっている。だがそんなことはどうでもいい。うるさいんだ。
「ココから消えろーーーーー!!」
ブリッジを殴る。原型をとどめないほどに殴る。やがて、静かになった。
「これでも何も聞こえない……。とても…静かだ……」
ジオン残党狩り編 完
はい第二部終了です。どうでもいいことですが、母艦のバエルですが、
これは「ソロモン72柱」のトップ、バエル(地位は王)から採ってみました。
お気に入り400人突破したので、その記念に番外編を書こうと思います。
アンケートの内容は活動報告内の「アンケート1」に記載しております。
興味ありましたら、アンケートに参加してください。
期限は7/31です。ご協力をお願いします。