トリントン基地、それはシドニー湾にある湾岸基地と街を挟んだ砂漠側にもう一つある基地で構成されている。そこは戦略的価値が低く、戦闘がほとんど起きないためにMSはジムⅡなどの旧式ばかり。もっとも、それはトリントン基地に限ったことではないのだが。
現在、オーストラリア大陸より東に10㎞地点。もうそろそろトリントン湾岸基地から通信が入るはずだ。先の戦闘で翼を一部損傷してしまっている。念のためにもパーツ交換を早くしたい。
《ザー…ザザー……s近中のMS及びベースジャバー。こちらトリントン・コントロール、所属と目的を明らかにされたし》
「(繋がった!)トリントン・コントロール、こちらシャイアン基地所属のカイト・マツムラ中尉。現在新型MSの試験稼働任務を遂行中。作戦コードを送る」
《……作戦コード受領。任務照会…確認した。進入中のMS及びベースジャバー。最終進入コースへ誘導する》
「了解した」
トリントン基地からの誘導に従い機体を着地させる。
やることはまずはシールド・バインダーの交換。これはオプション装備なのでただ交換するだけだからすぐに終わる。次に脚部の翼だ。こいつは装甲を一部変えるだけだがそれでも20分ほど時間がかかる。20分と言ったらかなり長いと思うかもしれないが、MS内に食料などを詰めることを考えたらそこまで時間はないだろう。
しかし、今日はこの湾岸基地で一泊する予定だ。さすがにぶっ通しでやるには長旅すぎる。
「さて、部屋は格納庫があるブロックの奥だな……遠いな、エレカでも借りとこうか」
翌日、私は食堂で朝食をとった後、ある一つの格納庫に来ていた。理由は特にない。強いて言うならば、とてつもない熱意に導かれたと言うべきか。
その格納庫には、『バイアラン』と呼ばれる曰く付きのMSが2機あった。手前のバイアランの前にあるリフトには、整備兵の男が1人で作業をしていた。
「あの!ここで何をしておられるのですか!?」
あそこにいる男はただの整備兵であるはずなのに思わず敬語を使ってしまった。それほどの貫録をあの男は持ち合わせている。……うまく隠しているようだが。
「ちょっとした技術試験計画をしております。……申し遅れました。この計画を主導しているディエス・ロビンです」
「カイト・マツムラ中尉です。よろしく」
手を差し出し握手をするが、ディエスさんの手はかなりタコができている。このタコの配置はMSの操縦桿と大体同じ……。
「中尉はどんな用件でこんな『僻地』に?」
「とある新型MSの試運転で来たんですよ。あと1時間ほどしたら今度はダカールに飛びます」
「今度はダカール……。長時間、長距離の運用に耐えうるかといった感じで?」
「……!!そうですね。途中で戦闘データを採ったりしますが主だったモノはそうでしょう」
結構鋭いな。こんな少ない情報で導き出されるものなのか?
「ディエスさん……この試験計画はどういったものなんですか」
「廃棄予定の旧式非可変MSの滞空能力向上計画、しかし、これは研究機関からもたらされた新技術ではなく今まであった技術で改良を施すと言ったものです。目の前にある1号機で改修の検証、奥の2号機にそれを反映させる。つまり2号機が完成版と言ったところです」
そしてディエスさんは「しかしトリントン基地からしか資金が回ってこないんでいつもギリギリですよ」と言った。
「……だったら…」
「?」
「だったら何か連絡ください。自分にできることなら全力を尽くしますよ」
「……!ありがとう!」
その後たわいもない話をして格納庫、そしてトリントン基地を後にした。
現在1432。ダカールまではあと3時間ほどで、この砂漠を超えればたどり着ける。今はダカール警備隊所属のアッシマーとともに行動している。
《中尉、後方8㎞地点で所属不明機を確認、偵察のため離脱します》
「了解した。誘導に感謝する」
2機のアッシマーが反転して後方に向かっていく。それにしてもダカール警備隊のカラーリングは特徴的だ。連邦政府のマーキングカラーが採用されているのだ。
「代り映えしない風景だな……。防眩フィルターがかかっているとはいえまぶしいし、シャイアンの風景が懐かしい」
これがいわいる
「はあ……。早く任務を終わらs{キイイイン!}プレッシャーが近づいてくる……。おい!後方からなんか来ていないか!?今すぐ確かめろ!」
《了解!………後方から所属不明機が高速で接近中!先ほどアッシマーが向かった方向です!》
「この状況だと警備隊の連中はやられた可能性が高いか……。ベースジャバーは高度をとって警備隊の方に迎え、もしかしたら生きているかもしれん」
《了解!》
「さて、所属不明機とご対面ってね」
機体を反転させ、先ほど感じたプレッシャーの方向に向かう。すると、ものの数秒で敵機を視認できた。そして、なぜ通常のMSより早く接近できたのを理解した。ギャプランだ、しかも背面には巨大なブースターが接続されている。
ギャプランを視認したとたん、ギャプランはブースターユニットをパージし、アンクシャに特攻させた。
「マジかよ……!あんなものを背負うってことは遠くから来たってことだろ?それをパージするとは……なっ!」
ドオオォォン!
アンクシャが回避行動する前にギャプランがブースターユニットを撃って爆発させ、それに巻き込ませようとするが、アンクシャは一気に加速させてその有効範囲から逃れつつビームサーベルで切りかかった。青黒いギャプランもサーベルを抜き取って応戦する。
「カラーが若干変わっているがあいつと変わらないんだろ?だったら何が目的で私をつけ狙う!答えろっ!」
《………》
敵のパイロットは何も答えない。その代わりに両腕のムーバブルシールドにあるスラスターを吹かしてアンクシャの姿勢を崩しながら距離をとり、MA形態に変形して突進する。
「私が以前使った戦法か……。だが……使う相手を間違ったな!」
《なにっ……!?》
「外した!?」
アンクシャはすぐに体勢を立て直し、上下逆さまになりつつビームサーベルを振るう。しかし、ギャプランが下に少し移動したためにその攻撃はギャプランの肩装甲をほんの少し焼いたに過ぎなかった。
「逃がすかよ!!」
アンクシャをMA形態に変形させて追撃するが、追いつけない。元々の比推力に差があるのだ。
「追いつけないか……。だが、そいつが強いのは直線だけ。曲がる時がチャンス!」
ビームライフルを撃ち続けその時を待つ。
「焦るな……いつかは方向転換するんだ。そうしなければあいつは私を墜とすことはできん」
ついにその時が来た。ギャプランが減速し、機体を反転した。だがそれはチャンスではなかった。
ヤツはわかっていたのだ。この機体の弱点を。
ギャプランは反転した後、フルスロットルで突っ込んできたのだ。アンクシャはギャプランが減速したことで距離を詰めたために回避しきれなかった。シールドでガードしたが、アンクシャは強い衝撃とともに吹き飛ばされた。
「うぉおおおお!!」
そのままギャプランはバインダーのスラスターで方向転換してビームサーベルを振るう。それを回避したが、ビームライフルの砲口が切られてしまった。返す刀でコックピットを突き刺そうとした瞬間、光があふれ―――――
―――――私は敵のパイロットを視た。
―――――人形。私は自分の意志で動けない人形。
なんだ、なんなんだこれは。アタマ…いや、心と言うべきか。そこに相手のココロと形容すべきモノが入ってくる。
『じゃあ次はこれを投与します。そうすれば性能が1割上がる試算です』
『アレは『UC計画』のための大切な試験体なんだぞ。使い捨てとはいえ、かなりの金がかかっているんだ、結果はしっかり出してもらわないと困る』
『わかっています!』
なるほど……。敵のパイロットも強化人間ってヤツなのか。おそらくはだが、ヤツは戦災孤児ってやつだから適当なところから連れてこられて強化されたんだろう。
『所長、連邦主体で計画を進めようとしている一派の強化人間の試験運用が始まりました』
『ここで強化したヤツか……。ヤスハを向かわせろ。ヤツらを戦わせてデータを採取するんだ。ヤスハが負けそうになったらミサイルをぶち込んでも構わん』
『了解です!』
――――――あそこで初めてあなたと戦った。あなたの機体は武装がたいしたことなかったのに負けた。経験も機体も、システムで覆せると思っていたのに。
あの時か、初めて会ったのは……。あの時は結構やばかった。試験した機体でなければきっと負けていただろう。
『負けたか……。まあいい。あのシステムが起動できただけで良いとしよう』
――――――その後はずっと各地の残党を倒しながら再戦の時を待っていた。あなたに勝つことが自分の価値を表すと思っていたから。
『ヤスハ、よかったな。君が戦いたいと思っていたやつがわかったぞ。ギアナ高地だ。君のわがままに付き合ったんだ。結果は出してもらうぞ』
『……はい、わかってます』
――――――そしてその時が来た。あの時のあなたは以前より弱い機体だった。あれじゃあ勝っても意味はない。でも、勝たなくてはいけない。そうじゃなきゃ消されることもあり得るから。ヘタしたらもっとひどいことも。
………。
――――――でも負けた。コンビを組んでいたとか、先に武装を破壊されたとかでもない。もっと根本的なところで負けたのだと思う。
そのあとはマイケル大佐に監視されてはいたが安全ではあったんだろ?なんでそんなものに乗っているんだ。
―――――参謀…いえ、ビスト財団から圧力がかかったんでしょう。所詮は一将校、できることも少ない。それに、また乗ることにしたのは自分の意志であなたと戦いたかったから。初めてだった。自分の意志で何かを成し遂げたいって思ったのは。ある意味これは『恋』なのかもしれない。
表現にセンチメンタリズムを感じるな。あと言うならばそのアピールはもっとほかの方面にしてもらいたかった。
――――――そして勝った。機体の性能差もあったけど、ついに勝つことができた。
その勝利が評価されないにもかかわずにもか。
―――――――それでもいい。対等な条件で勝ちたかったけど、それはあり得ない。もう、時間がないから。
時間がない?一体どういうことだ。まさか……
―――――――私の体がって意味じゃない。次の週に評価試験がある。それにあなたも参加することになっている。でもそれにあなたを何としても参加させたくない人たちもいたから私も協力することにした。しなければ、移動中に『不慮の事故』が起きるかもしれないから。
そうか、そのことが聞けて良かったよ。でも、こうして話したからには私も『デルタガンダム』で君と戦いたかったよ。
――――――そうね。それだけが心残りかもしれない。それじゃあ……さようなら!!
「……ハッ!」
《さようなら!!》
意識が肉体に戻った。しかし、状況はさっきと変わってない。それでも、私自身はさっきより落ち着いている。
ドババババ!
頭部バルカンを撃ってサーベルを持ったマニピュレーターを破壊し、蹴り飛ばした。
「ハァ…ハァ…ハァ……。まだやるか?こっちは遠距離攻撃はできんが接近戦に持ち込めば勝利はあるんだぜ。それに対して君のギャプランはビームライフルを撃ちながら逃げ回っても航続距離が短いからジリ貧になる。もう一回聞くぞ、どうする?」
《……さっきの言葉にウソはないですね?》
「ああ。……いや、さっき君の言った評価試験で勝負をつけよう。さっきの口ぶりからしたら同型機なんだろ?おそらくは装備を換えたやつで」
《……少しあなたを見くびっていたかもしれませんね。この場を引きます。ではその日に結着をつけましょう》
そう言ってどこかに飛んで行った。飛んだ方向を検索しても該当しそうな場所はなかった。
《中尉、カイト中尉!警備隊の方々が生存していましたよ!》
「そうか、よかったな」
顔をベースジャバーに向けると、その背には2機の半壊したアッシマーが乗っていた。どうやらヤスハは私以外にはそこまで興味はないらしい。
ピピピピ!
《カイト中尉、聞こえているか?》
「はっ、マイケル大佐」
いきなり大佐からレーザー通信が送られてきた。このタイミングで来られるとさっきのヤスハのことが脳裏にちらつく。
《最終的な目的地なのだが……『ガルダ』に向かってもらう。宇宙で評価試験があってそれを中尉に任せたいのだ》
「私に異論はないのですが1つ、お願いしたいことがあるのです」
《ほう……?》
「デルタガンダムを用意してほしいのです。道中何が起きるのかわかりません。ですから自衛のためにデルタガンダムの使用の許可を」
《……わかった。今すぐに準備しよう。座標は今送る》
送られてきたデータを確認し、通信を切る。データには明日、大西洋の某所にガルダが通過すると書かれていた。それに遅れるとさすがにやばいか……。
「ともかく、ダカールに急ぐか。機体バランスがかなり悪い」
その時なんとなく見た『お守り』は虹色に輝いて見えた。
つづく
ニュータイプ関連の描写が難しすぎる……。