機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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試験稼働

リディ達Aチームの初フライトから5カ月ぐらいだろうか。ということは、この士官学校の卒業試験がすぐそこまで迫っていることだ。この士官学校の特殊さはそこで、航空科は約半年ほどしか訓練を受けないのだ。と言っても、基本的なことは航空科に入る前に受けていることなので問題はない。

 

そして今日は、生徒と教官と2人で卒業試験後の配備先について話し合うのだ。成績が良かったら、希望先に行けるように頑張るし、悪かったら……そいつの運に任せるしかない。残る生徒はあと1人、リディ君だ。あいつは他の奴らから『親の七光り』とか言われているが成績はかなりいい。この調子ならどこにへだっていけるだろう。

 

コンコン

 

「入れ」

 

ドアがノックされ、反射的に答える。中に入ってきたのは予想通りリディ君だ。しかし、その顔はいつもよりどんよりしている。

 

「まあ…座って話をしよう。そこの椅子に腰かけてくれ」

 

そういいながら淹れた緑茶を差し出す。リディ君はそれを少し飲み、顔を一瞬しかめてから口を開いた。

 

「カイト教官……お…自分の配属先ですが、『ロンド・ベル』にしたいのです」

 

「それはなぜかな」

 

「自分の夢はパイロットになることでした。MSではなく、航空機のです。しかし、現在の航空機はどれも似たり寄ったり、だからここのMS航空科を選んだんです。それでもここ卒業して地上や宇宙軍に入ったら父の影がちらついてしまう。だから外郭部隊である『ロンド・ベル』に入りたいのです」

 

「リディ君、私は君の気持ちはわからない。が、それを気にしない人物にならなければ君は『成長』出来ないぞ」

 

「?」

 

「つまりだ。『マーセナス家』というのは今後どこまでも付きまとう。だが、それでも自分に出来ることを全力で成し遂げればみんな君のことを『親の七光り』とか言ったりしないさ」

 

「は、はぁ」

 

「さて、難しい話はこれで終わり!ロンド・ベルに入りたいんだったか?その件は私がしっかりやっておこう。君は来週の卒業試験を頑張り給え。あと、緑茶のお替りいるか?」

 

「い、いえ入りません。それに話はこれで終わったので退室します。失礼しました!」

 

『緑茶』という単語を聞いた途端にリディ君は立ち上がって退室した。緑茶うまいのに…もったいない……。

 

 

 

 

 

翌週、ついに卒業試験が始まった。だが、私はこれに参加することができなかった。担当教科がないわけではない、新型MSの試験運用が決まったのだ。機体名は『アンクシャ』。リゼルと同じ開発コンセプトで、『リゼル大気圏内バージョン』と言っても差し支えないだろう。しかし……地上で大規模な戦闘が起きる可能性が極めて低いこの状況でなぜこの機体を開発したのか疑問に思う。

 

「中尉、準備ができました。ご搭乗を」

 

「了解した」

 

ともかく、久しぶりの任務だ。いつになくテンションが上がる。機体のチェックをしながらそう思った。

 

「中尉、整備兵が引きました。発進準備完了」

 

「了解、カイト・マツムラ。アンクシャの試験を開始する」

 

今回は基本的に地球を1周するだけだ。その過程で戦闘を確認したらそれに介入と言ったところだ。この機体はカタログスペックでは地球を余裕で1周出来るほどではあるが、念のために2つ中継地点が設定されている。トリントン基地とダカール基地だ。すでに話は通してあり、補充パーツは運ばれているはずだ。

 

アンクシャを変形させ、基地から飛び立ってデータ収集用のベースジャバーと合流する。

 

《中尉、ルートですが、『ウィンドリバー山脈』にいる武装集団を殲滅してからトリントン基地に向かってください》

 

「了解」

 

 

 

 

最高速度を出し1時間で山脈に到着する。例の武装集団はすぐに見つかった。山間にある平地にセンサーが反応したのだ。そこにはMSが9機ほど、そのうち3機が遠距離攻撃に対応した装備をしている。

そのさらに先にネモの2個小隊が来ている。会敵まで約1分。

 

「ベースジャバーは上空で待機。私は友軍の援護に回る。私の存在は向こうは知っているな?」

 

《了解しました》

 

「アンクシャ、武装勢力を鎮圧する」

 

アンクシャを加速させる。その時には戦闘光が観測され始めていた。

 

 

 

 

 

先に気づいたのはギャンだった。しかし、データベースとは形が違う。肩や頭部が異なっているのだ。だが、さらに目を引くのはバックパックに繋がれているガトリングだろう。

 

「気づかれたか!だが……!」

 

両腕に装備されているビームライフルを撃つ。しかし、それをギャンは避け、ガトリングで応戦してきた。

 

「当たるかよ!」

 

ギャンの相手ばかりをしているわけにもいかない。そう思い他の機体を狙って撃とうとする。しかし、ギャンがそれを許さない。敵の機体が味方機(ネモ)を包囲していく。いくら敵が旧式とはいえ、数の差は影響するからな。

 

「こっちはガンダリウムを纏っているんだ。怯えることはない。……突っ切る!」

 

ギャンの張る弾幕を突っ切ろうとする。すると、ギャンのガトリングからはメガ粒子の弾丸が放出されてきた。しかし、空を高速で動けるアンクシャには全く命中しなかった。

 

《数が情報より多いぞ!どうなっているんだ!?》

 

「そこか!こちらシャイアン基地所属カイト中尉だ。貴隊を援護する!」

 

《援軍か!?助かる!》

 

ネモの舞台を包囲している敵戦力は、MSが7機。内訳はザクⅡ改が3、鹵獲されたのかジムⅢが1、ガルスJが1、ザクタンクが1、陸戦型ゲルルグが1だ。その中のザクタンクにはスナイパーライフルが肩に装備されている。

 

そして、友軍はネモが6機、その内2機がバズーカ持ちだ。しかし、1機が左腕を損傷している。

 

「空と地上、双方からの攻撃をくらえ!」

 

そう言ってビームライフルを連射する。地上のネモも、損傷した機体を援護する形で撃つ。

 

この攻撃で1機のザクⅡ改と脚の遅いザクタンクが撃破された。これで残りはギャンを含め6。これで戦力比は約1:1。確実とは言えないが、これで少しは楽になった。

 

《ハーミアⅠから各機へ通達。ハーミアⅤ、ⅥはハーミアⅢを援護しながら撤退。Ⅱ、Ⅳは俺とともに打って出る。いいな!申し訳ないがカイト中尉は上空から援護をしてくれ》

 

『了解』

 

返事をしつつ敵機に牽制弾を撃つ。すると、森の中からメガ粒子弾と実体弾の混合した弾幕が張られた。

 

「……すまないハーミアⅠ。今弾幕を張ってきたヤツは結構強敵だ。そいつの相手をする」

 

《…了解した。だが出来る限り早くしてくれよ》

 

「わかっている!」

 

弾幕を避けつつ言うが、どうする。あの機体は見た目と違ってかなりの高機動型だ。弾幕を避けつつ接近戦を仕掛けるか?NOだ。実体弾だけならまだしも、メガ粒子弾を吐き出してる時点でやばい。ガンダリウムと言えど、ビームの耐久性は通常よりマシ程度だ。

 

「しょうがない。このまま銃撃戦で制させてもらう!」

 

ビームライフルを連射するが、ギャンは避けようとせず、シールドで防ぎ、さらにはシールドに格納されていたミサイルを放ってきた。それに加え、ガルスJがザクタンクから回収したのか同型の狙撃ライフルで支援してくる。

ガルスJの攻撃を避けつつミサイルの迎撃をする。しかし―――――

 

「―――――攪乱幕だと!?」

 

ミサイルの中に攪乱幕弾が混じっていたのだ。そのせいでビーム兵器が扱えなくなった。それに伴い、ギャンとガルスJが接近してくる。おそらくこちらがビーム兵器を主体としていることに気が付いたのだろう。

 

「だが、接近戦をやろうってことはだ。そっちのガトリングは弾切れってことだろ!!」

 

ギャンが手に持ったヒートトマホークを構える。それと同時にアンクシャは膝のニークラッシャーからビームサーベルを取り出す。だが、攪乱幕の影響でサーベルを形が安定しない。それを見てか、ギャンのパイロットがオープンチャンネルで話しかけてきた。

 

《いくら新型だろうが…この『ギャンバルカン』に勝てると思っていたのか!しかもその出力の安定しないビームサーベルでだ!!》

 

ギイン!と音が鳴りつばぜり合いになる。ギャンのパイロットが言った通り出力が安定せずアンクシャは押され気味になっている。背後からはガルスJが接近してくる。

 

「確かにこのビームサーベルじゃあな……。だが!こいつを引き抜いたのはただの時間稼ぎ。本命はこっちだァ!」

 

そう言って膝のニークラッシャーをギャンのコックピットに突き刺す。そのまま振り返ってギャンをガルスJに投げつける。

 

《ナニィ!?》

 

「テメーらはこれで最後だな」

 

攪乱幕の効果が消えたことを確認してビームをギャンに撃つ。ピクリとも動かないギャンに命中しガルスJを巻き込んで爆発した。

 

「これで残るは隊長機のゲルググだけか」

 

次の照準をゲルググに合わせる。そして、ゲルググは逃げることも叶わないと悟ったのかコックピットから出て投降の意思を伝えた。

 

 

 

戦闘が終結し30分ほど経ったときに、装甲車が来た。これで基地にいるヤツらの逮捕劇が始まる。しかし、それに私は参加しない。アンクシャのテストに加え、MSでは敵に投降を促しても反感をくらうだけだからだ。しかし、逃がさないための見張りぐらいはできた。あとは彼らに任せよう。

 

「戦闘データは採れたか?」

 

《ばっちりですよ。しかし、細かいことは設備の整ったとこでやらないといけませんね》

 

「そうか。……そちらの部隊も無事だな」

 

《ああ。一時はどうなるかと思ったが助かった。ありがとう》

 

「任務を果たしただけです。ではお互い頑張りましょう」

 

《そうだな。あんたも頑張れよ!》

 

「ええ!」

 

次に目指すのはトリントン基地。海を渡っていくことになるが敵に会うことはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに!?拿捕したパイロットを釈放ですと!それに乗機であったMSもだと!?一体どういうことだ?!」

 

ここはシャイアン基地司令室、そこにはいつもマイケル大佐がいるのだが、そこには驚きと焦りが顔に浮かんでいた。その原因はモニターに映っている尉官のセリフだった。

 

《ですから、そちらの基地が検分したMS及びそのパイロットを引き渡せということです。これは参謀本部の命令です。断ることはできませんよ》

 

「だからなぜだと聞いている!これは上官の質問に答えろ!」

 

《えっと……『そちらより高精度で取り調べを行うため』だそうです》

 

「だったらそいつをこちらに回すように上申しろ!ダカールに引き渡すんだったら好都合だ。そちらにこの基地所属のMS、ベースジャバーが通る予定だ。そいつらに機材を渡すんだ!」

 

《一応申告しときますが期待しないでください》

 

モニターが消え、司令室を静寂が支配する。そのなかでマイケル大佐は1人姦計を巡らせていた。

 

「(なぜ今になって引き渡しを要求してきた。これまでいつでも通達できたはずだ。来週末にはようやく取り付けられた『RX-0』の評価試験……これが目的か?手早く強化人間を手に入れるためにこんなことを?それだったらカイト中尉を選ぶこともできたはずだ。これはお情けと捉えるべきか?ええい……。だったら…)」

 

モニターを先ほどの尉官に繋ぎ直す。

 

《何かほかに言うことが?》

 

「さっきのことだがやはり取り消しといてくれ。引き渡しは確か明日だったね。準備させよう」

 

《え?あ…はぁr{ブツッ}》

 

相手が返事をする前に通信を切る。やはりさっきの怒りはまだ消えていないようだ。

 

「(そっちがあいつを使うと言うならば好都合だ。『アレ』はこの半年ろくに動いてはいない。それを数日で元に戻すのは不可能!どんな薬を使おうともな。あとはカイト中尉のことだけだな。死ぬんじゃないぞ……!そうすれば連邦が民間にへいこらしなければいけない状況は終わる!)」

 

 

 

つづく




この主人公は以前強化人間でだったはずだがって書いたけどそれは日常生活で、戦闘だとメッチャエグイようだ。

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