機動戦士ガンダムUC F   作:壊れゆく鉄球

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初フライト

私が転勤してから1か月ほどたった。そして、この1か月で大体の順位が決まった。

 

今私が見ているのは生徒たちのシミュレーターでの成績だ。この成績によって乗ることのできる乗機が変わる。

 

――――成績のいい者には『Zプラス』を、それ以外には『アッシマー』になるのだが、カタログスペックだけを見ると、アッシマーの方がかなりいい。要するに成績にいいものには『ガンダム(もどき)』を、それ以外には『モノアイ機』に乗せて意識の向上を狙ったものである。―――――

 

ともかく、私が担当している生徒にも出来のいいのがいるのだ。名前は『リディ・マーセナス』と言い、見た感じかなりの好青年だ。そして、かなり勤勉で生真面目な奴で、ほぼ毎日シミュレーターの授業外での使用許可を求めてきてる。それが功を奏してか、この士官学校の全体トップなのだ。

 

「{コンコン}リディ・マーセナスです。入室の許可を」

 

私が明日の成績発表の仕方について考えていると、ドアをノックする音とリディ君の声が聞こえてきた。時計を見ると、いつも通りの時間である。

 

「いいぞ」

 

「失礼します。カイト教官、シミュレーターの使用許可をお願いします!」

 

「いいだろう。これいつものカギな」

 

リディ君は入室するや否や、シミュレーターの使用許可を求めてきた。それに対しては特に問題ないので、鍵を渡す。鍵を受け取ると、リディ君は手に持っていた袋のうち、小さいほうを渡してきた。(ちなみにリディ君が持っているもう一つは、袋の切れ目からプラモの絵が見えた)

 

「あ、あとカイト教官。配給の方からこれを渡されてきたのですが……」

 

「ん?ありがとう」

 

私に郵便を送る者はいただろうか、と考えながら封を切る。すると、中から可愛らしい絵がプリントされた便箋と、T字をした何か、そしてDISKが入っていた。それと同時に、誰かの視線を感じた。言うまでもなくリディ君だ。リディ君の方に顔を向けると、そこにはニヤニヤした顔のリディ君がいた。

 

「教官、もしかしてk「そんなこと聞く暇があったらさっさとシミュレーター室に行ってこいっ!」は、はぃぃいい!」

 

バタンと音を立ててリディ君は部屋を出ていった。あのニヤケ顔にまだイライラしたのか、私は1回壁を思いっきり殴ってから手紙を読んだ。

 

 

『 私たちを救ってくれた軍人さんへ

 

 

お久しぶりです。忘れているかもしれませんが、あなたに助けてもらったホタル・シラギクです。最近、私たちの街も復興を遂げ、ようやく以前のような生活に戻ってきました。それは、カイトさんのような軍人さんに手伝ってもらったからです。そして、その生活が出来るのはカイトさんに助けていただいたからです。そのお礼にこれを送ります。お守りとして持っていてください。

 

 

 

ホタル・シラギクより』

 

 

DISKには野球の映像と、ホタルちゃんたちからのビデオメッセージが入っていた。また、あの事件がきっかけであそこにいた酔っ払いとも仲良くなったらしい。ホタルちゃんたちもあの後無事のようで何よりだ。

 

 

 

 

 

 

翌日、私はMS格納庫にいた。ほかには生徒がいる。そして、全員がパイロットスーツを着ていた。

整備については、工学科がすでにやっており、万全な状態のはずである。

 

「全員、準備はいいな?」

 

『はい!!』

 

「今回が初のフライトだ。緊張するのはわかる。だからあえて言おう。落ち着いて行動しろ。以上だ。各人自機に移動!」

 

『はいっ!』

 

生徒が各々のMSに移動したことを確認して、私も自機に乗り込む。今回使うMSは『ギャプラン』だ。なぜなら、ワンオフ機は持ってこれない上に、公式では『存在しない』機体のためここにはない。その代わり、このギャプランが配備され、こいつは熱核ジェットエンジンに換装すると言った改修を加えられている。

 

そして、今回の教導から、幾つかのチームに分かれて行うようだ。私が担当するのはリディ君含むZプラスで構成されたAチームだ。

 

「Aチーム各機、聞こえるか?」

 

《リディ機、問題ありません》

 

《ブラウン機、問題ありません》

 

《ウィルバー機、問題ありません》

 

3機とも問題ないのを確認し、指示を出す。

 

「それじゃあ、リディ機から順番に滑走路からポイントK13まで飛翔しろ。シミュレーション通りにやればできる」

 

『りょ、了解』

 

格納庫から出、その場で変形して飛び立つ。その間にもリディ機から目を離さない。すると、リディ機から順にZプラスが飛び立っていく。

 

10分後、そこには小隊単位のZプラスが集まっていた。ぎこちなくではあるが、しっかり飛べているようだ。

 

《俺が宙に浮いているようだ……》

 

「その気持ちはよくわかるが、操縦がおぼつかないようにな」

 

《は、はい!》

 

「では、各機!Aフォームをとれ」

 

『了解!』

 

返事をしてから陣形をとり始める。と言っても、三角形の形をとるだけなのですぐに組み上がった。

 

「今日は戦闘機動をとるわけじゃない。基本的な操縦でただ単純に飛ぶだけだ。あんまり気負うなよ?」

 

『了解』

 

この後は進路を北西にとり、山岳地帯を1周してから帰投する予定だ。今日の山の天候は晴れ、ただ、最近は風が強いから操縦をしっかりやっていないと崖にぶつかることになる。

 

「各機、しっかりついて来いよ。迷子になっても捜しに行かないからな」

 

『了解』

 

ペダルを踏み加速する。後続のZプラスがついてきていることを確認し、Zプラスの限界まで加速する。すると、ほんの2時間で着いてしまった。予定より1時間早い。

 

「各機、計器にしっかり目を向けておけよ。風にあおられるからな」

 

『はい』

 

ビューー!

 

言った直後に風が吹いてきた。私は素早く姿勢制御をこなしたから何とかなったものの、Aチームの陣形はいともたやすく崩れていた。

 

「Aチーム各機、大丈夫か?」

 

《リディ機、問題ありません……》

 

ほかの2人も同じ反応だった。初めてとはいえ、風に陣形を崩されるとは……。先が思いやられるな……。

 

 

 

山地の中腹あたりまでやってきた。先ほどからどこかから視線を感じる。使用許可を求めた際には武力集団などの情報はなかったんだが……。

 

すると突然、ミノフスキー濃度が高まってきた。瞬く間に濃度が上がり、戦闘濃度になる。

 

《ミノフスキー濃度上昇、何かの訓練なのか…?》

 

「各機、Eフォーム!これは訓練ではない!モニターから目を離すなっ!」

 

『……了解!』

 

意図を感じ取ったのか、すぐに隊形を組み替える。すぐに私は手動でセーフティを解除して戦闘態勢になる。

 

「各機、機体にあるすべての武器を使用可能な状態にするんだ。いつ戦闘が起きt{ピピピピ!}散開!!」

 

『は、はい!』

 

隊形の中央にビームの弾が通る。先に指示を出したのが功を奏し、当たる者がいなかった。しかし、これが敵の狙ったものだった。

敵は、散開したところを狙ってきたのだ。敵の攻撃がブラウン機に集中する。

 

《うわあああああ!》

 

「ブラウン!聞こえているかブラウン!聞こえているのなら返事をしろ!」

 

《敵が僕を狙って……!ああああああ!》

 

「上昇しろ!敵の攻撃が当たらないところまで動くんだ!」

 

《誰か助けてェェェ!》

 

「ええい……!」

 

《ブラウン!このォ……!》

 

「リディ!勝手に動くな!」

 

敵の攻撃が実弾中心のおかげで機体にたいしたダメージを与えていないが、パイロットに対する心理的動揺を与えると言った意味では成功と言えるだろう。

勝手に動くバカ(リディ)もいるが、ブラウンを放っておくことも出来ないため、ブラウン機の前に滑り込んで盾になるように動く。

 

「ブラウン!高度をとって敵の射程から離れるんだ!」

 

《は、はいいい……》

 

「いい子だ。ウィルバー機はブラウン機を護衛しつつ現区域から離脱、基地にまで撤退しろ」

 

《教官はどうするつもりなんです?》

 

「君たちが撤退するまでの時間稼ぎをする。それに、熱くなって勝手に動いたバカを回収しなければならん」

 

《了解です。ご武運を》

 

「祈るまでもないさ」

 

ウィルバー機とブラウン機が上昇するのを確認すると同時にリディ機の居場所を把握する。距離は1㎞ぐらいか。

 

「(ホタルちゃんのお守りの効果を期待するしかないか。)待っていろよリディ、迎えに行く!」

 

リディ君は変形を繰り返しながら下にいるMSに攻撃を仕掛けているようだ。センスを感じるが、機体を酷使しすぎだ。あれではMSが壊れる。

 

「リディ!聞こえるか!?ブラウンは無事だ!今はウィルバーとともに撤退している、私たちも後退するんだ!」

 

《こいつ…こいつ……!》

 

「集中しすぎて聞こえていないのか……!」

 

熱くなりすぎて周りを見ていない。その結果、リディ機は右足を撃ち抜かれた。

 

《うわああああ!》

 

リディ機は脚を撃ち抜かれてまともに姿勢制御を出来ないはずなのだが、見事に山の斜面に不時着した。武装は壊れていないのか、ビームの帯が多数発生する。しかし、敵のドライセン3機はそれを避けつつビームトマホークを構えて接近する。

 

《来るな!来るなぁぁぁあああ!》

 

「落ち着け!リディ!」

 

ギャプランもビームを撃って牽制するが、ドライセンはトライブレードをこちらに放ってきた。

 

「猪口才な!」

 

ほとんどをビームライフルで墜とすが、無理なものは変形してビームサーベルでぶった切って進む。

トライブレードをほとんど減速なしで墜としたためか、3機とも私を標的に変更したようだ。

 

「ジェットストリームアタックの再現か……。いい加減古いんだよ!!」

 

ビームライフルを連射するが、大気圏中だからビームが減衰した影響か、それともドライセンの装甲が厚いためかビームがほとんど効かない。

 

「腹をくくって接近戦するしかない……と思っていたのか!」

 

接触する直前に両腕についているバインダーを反転させ、搭載されているスラスターを思い切り吹かす。そのことによって振り切ったことで硬直した一番前のドライセンにビームサーベルを投げつける。この距離なら減衰も関係なく、ドライセンの装甲を破り、ジェネレーターを貫通して爆発した。

2機目は、右から来たのを右腕のムーバブルシールドで受け止め、左腕のビームライフルを連射して撃破。

3機目は、左から来たのを左腕のシールドのスラスター側を押し付け噴射。そのことによって姿勢を崩したのをビームサーベルでコックピットを焼き尽くす。

 

《す…すごい……》

 

「他の敵機は撤退を開始をしている模様。追撃の必要性はなしと判断、撤退する」

 

モニターとディスプレイを見て判断する。すると、リディ君が申し訳なさそうな声で話しかけてきた。

 

《教官……申し訳ありません。自分のせいで……》

 

「わかっているのならあとはわかるな?今回のことをレポートで提出だ!」

 

《了解であります……》

 

変形し、リディ機周辺を旋回する。旋回し、安全を確認したあとにムーバブルシールドにあるグリップを展開してリディ機の前まで移動する。リディはグリップの意味を理解し、スラスターを使って浮かび上がってグリップをつかんだ。ガゴン!と音を響かせ、Zプラスを載せたギャプランは士官学校に進路をとった。

 

「リディ君、さっきの動きを見て確信した。君には良いセンスがある。だが、熱くなるな。冷静でいれば君は良いパイロットになれる」

 

《はい、教官……》

 

「ま、今回生き残れたのはこのお守りのおかげかな」

 

そう言ってお守りをなでる。そしたら、お守りが紫に光ったように見えた。

 

《は?》

 

「ふっ……なんでもない」

 

あとはこいつらを使い物になるまで育て上げるだけだ。

 

 

つづく


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