黄道一二宮が一、天蠍宮が地へと叩き落とされた。
その数か月後の話だ。
東京エリアに再度危険が迫っている、という話が男の耳に入った。
男――――社長と呼ばれた彼は、どういうことだと問うた。
すると、こう返答があった。
不死身のガストレア、アルデバラン率いる軍団が迫ってきているのだ、と。
実につまらないニュースだった。
その数日後に、対アルデバラン軍の連合部隊を指揮するのが自分だと聞くが、それもひどくつまらない内容だった。くだらない、と男は鼻で笑った。
モノリスのエリア外。関東平原に設営された前線基地。
そこに多くの姿があった。
アルデバランと呼ばれるガストレアに対して集められた自衛隊、また民間警備会社のコンビからなるレイド群だ。
そこに夏世と彼女の上司である社長はいたが、〝不死殺しの彼女”の姿はそこにはなかった。
「社長、こんな時に何をしているのですか?」
「天誅ガールズの同人誌を呼んでる。あ、夏世ちゃんは読んだらダメだよ、これ18禁だからね」
「死ねばいいのに」
夏世はゴミを見る目で呟いた。
続けてため息と共に問う。分かっているのですか、と。
「目の前にアルデバランの軍団があるんですよ? 同人誌なんて読んでる場合じゃないでしょう」
「あ。俺、ロリっ子に怒られるの全然OKだよ。大好物だ。結婚しようぜ」
「……」
不死殺――――、ゼっちゃんの死後、社長は完全にどこかおかしくなっていた。
付き合いのあった聖天使とも縁を切ったのか、最近、仕事上でもプライベートでも会っているところを見るのは、なくなった。
以前はこんなロリコンではなかったのだが、今は完全に頭のおかしい変態にしか見えない。
ゼっちゃんとはあまり仲良くない間柄だと思っていたが何か思うところでもあったのだろうか。夏世はドン引きとは違う理由で、僅かながら眉を顰めた。
「しかし、不死身のガストレアね。不死身殺しのあのアサシン女を思い出すよ。あーあ折角の“直死の魔眼”だったのに勿体ない。あー」
何とも言えない顔でぶつくさと呟く。
あの時止めなかったことを後悔しているのだろうか。
夏世の内心の疑問に対して、
「後悔しているの?」
ショートカットの子供が代わりに問うた。先日、男がどこからか拾ってきた子供だ。
名前は火垂といった。
「するわけないだろ。そもそもあいつの願いは俺TUEEEEだったんだ。阻めるはずがない。そういう人間だったからな」
「頭おかしい人っていうのは聞いてたけど、私、会ったことないから」
「あれ? そうだっけ、あの時、火垂ちゃんいなかったっけ? あれ? 最近さ、どうも記憶があやふやでさぁ」
はっははは、とおかしそうに社長は笑みを浮かべた。
数万を超える大群を前にしての態度としては、確かに問題しかない。
それを咎める声があった。
軽鎧を纏った少女だ。火垂同様に、この少女も同時期に事務所にやってきた新入りだ。
「大将。戦争前だというのに、何をヘラヘラと」
「朝霞ちゃん」
武士っぽい見た目だけあって、どうも言っていることは真っすぐでお堅いなぁ、と社長は笑みを濃くする。
すると、それを見た周囲の少女達が再度口を開く。
「御大将なのですから、確りとしてください」
「まぁ、確かにその通りよね」
「まことに遺憾ですが、社長が総大将として任命されたのですから、それ相応に振る舞うべきです」
「いいね! ロリっ子にツンツンされるテンション上がるよ! 結婚しようぜ!」
「最悪。通報するわよ」
「腹を斬ってください」
「は? あたまおかしいんじゃないですか」
「頭もおかしくなるよ。もう嫌なんだ。なんだよこの世界! 無茶苦茶だ! 気持ち悪い! 死ねよ!」
突然、社長は狂ったように叫んだ。否、言葉に御幣があったかもしれない。事実狂っているのかもしれない。
常軌を逸した瞳で、この世の不幸を恨むその姿は、普通と表現するには無理があった。
・――――苦しんでいる〝呪われた子供達”を救いたかった。
ガストレアの因子を持つ子供に人権はなかった。玩具として扱われ、何の為に生まれてきたのかわからないまま死んでいく。
・――――間違っているこの世界を変えたかった。
赤目だの、ガストレアだの差別を受け、謂れもない暴力を振るわれ挙句の果てに殺される。
・――――皆を幸せにしたかった。
世界の変態嗜好家に買われ、言葉にするのも悍ましい程の虐待を受け消えていく。
「お前何様だよって話だが、敢えて言うわ。アニメ版の10話観たか!? なんだよおかしいだろ! 何で彼女達が爆発天誅されてんだよ! もう堪忍袋の緒が切れた! 俺がこの世界をTENCYUUする!」
「そもそもさ、彼が言う〝この糞貯めみたいな世界”」
「守る価値なんてないんだ。俺は悟った。不平等だ。そんなのおかしいだろ。不幸が世界中に溢れて、呪われた子供達ばかりが割を食う。不平等だ。不公平だ。不均一だ。だから、是正する。俺が是正する」
こういう時はなんて言ったらいいのだろうか。
テンション高いですね、と夏世は口を開きそうになって慌てて閉じた。
こういう面倒な状態な時は無視するに限る。
夏世は火垂と朝霞にジェスチャーで、そのことを伝えた。面倒なので無視しろ、と。
彼女の意をくみ取ったのだろう。両名は無言で頷いた。
するとどうだろうか。
周囲の引いている視線を感じて、社長は自己嫌悪に浸りながら、口を閉じた。
彼が以前言っていたことを思い出す。自分も他のオリシュ同様に心がやられてきているのだろう、だったか。そんなことを頭の片隅で思った。
「そういえば、社長。一応、命令は出されてましたね」
夏世の言葉に、火垂は首を傾げた。
「命令? そんなもの出ていたの? 私、初めて聞いたんだけど……」
「現状待機。自衛隊も民警もそれ以外も持ち場を動くな、と確かに指令は出ていますね」
「……真面目にやって下さい。人が死ぬんですよ」
少女達の言葉に、男は呟いた。
確かに、と。
「野ブタ共が何匹死のうがどうでもいいが、子供達が死ぬのは大変だ。俺のロリっ子帝国のためにもな。行こうか、戦場へ」
自身に刻まれたスティグマを感じながら、社長は前方を見やる。
大量のガストレアが渦巻いていた。
どうしようもないな、と破顔しながら、最愛の〝子供達”に声をかける。
「火垂」
「気安く話しかけないで」
「朝霞」
「何方様ですか」
「夏世」
「社長、臭いです」
世界平和?ガストレアの廃絶?
そんなものはどうでもいい。
彼がこの世界にTENNSEIしたのはそんなくだらないこの為ではない。
「俺は、俺だけの、俺の為にロリっ子帝国を作る。だから此処にいる。俺はこういう人間だ、俺はこういう人間。これ以上のものもないし、これ以下でもない、俺はこういう人間だ」
妄言全開の男に周囲の少女達はドン引きだった。
「何か浸っているとこと申訳ありませんが、前方に敵影有り」
「アルデバラン率いるガストレアの集団でしょう」
「どうするの?」
3人の少女の声に、男は恍惚とした顔で応えた。
「どうするも、こうするも、踏みつぶすしかないだろう」
それも丁度いい、と笑みを伴ってだ。
「デモンストレーションだ。俺の帝国を作るための第一歩だ。存分に使おう――――〝オリ主の力を”」
彼自身は無能力者だ。何も嘘は言っていない。
まともな戦闘力は並以下だろう。
原作主人公はおろか、一般的な呪われた子供達にも及ばない戦闘力。
ガストレアに勝負を挑んだとしても、3秒でミンチになるだろう。
別に特別武道を齧っているわけでもない。TENNDOURYUUなるものも使えない。
銃の撃ち方も、剣の振り方、殴り方も知らない。
そういう人生を生きてきた男だった。
突然、自分の常識が通じない世界にやってきたからといって、その本質は早々変わるものではない。
彼は弱きものだ。
戦いなんてものは最悪だ。元来が平和主義者の男だ。
態々自分から藪を突きに行く必要はない。世界はなるようにしかならん、と考えていた。
何もかもを失っても、そのスタイルは変わらなかった。
しかし、頭のおかしいTENNSEI処女の死以来、それが変化した。
素直に自分の欲望のままに生きて死ぬ。そういう生き方も悪くない、と思えるようになった。
好き勝手生きて、ゴミ屑のように死ぬ。
それはなんて素敵なのだろうか。
くだらない柵や、他のTENNSEI者の目なぞ関係ない。
原作を壊したところで、それで悲しむ少女達が減るのなら、それはそれでいい。
間違ったとしても間違いなんかじゃない。
いい意味でも悪い意味でも男は吹っ切れた。
「【魔神創造――Monster of the greed――】展開」
自分に戦う力がないのであれば作ればいい。
何も自分が馬鹿正直に武力を振るう必要はない。
他所から持ってくればいい。
KAMISAMAと呼ばれる存在が刻んだスティグマはそういうものだ。
創造する〝魔神”の能力はいくらでも候補がある。
なにせ、彼の能力【魔神創造】は、
過去存在したありとあらゆるオリ主の能力を、生み出すというものだからだ。
そして再現した能力を他者に植え付けられるという点が、
彼の能力の特徴だ。
「さぁ、蹂躙の時間だ! 世界を壊そう!」
・――――朝霞には【BLEACH】の概念力を付与。
「万象一切灰燼と為せ 流刃若火」
【BLEACH】の概念を扱う魔神。
顕現するのは”原作最強の炎熱系斬魄刀”
・――――火垂には【東方Project】の概念力を付与。
「きゅっとしてドカーン」
【東方】の概念を扱う魔神。
顕現するのは悪魔の妹が操る”ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”
・――――夏世には【型月】の概念力を付与。
「対軍宝具展開――――軍神の剣」
顕現するのは自身を殺戮の機械と称した大英雄が携えるAランク宝具、〝あらゆる存在を破壊し得るとされる神の鞭”
「こう、よく知りも知ない概念が当然のように馴染むというのはやはり慣れませんね」
「……神の如き力を振るう――――願ってもいないことですが、本当にこれでいいのでしょうか。疑問です」
「使わなかったら私達が滅ぶのよ。使うしかないんだから、そんな問答は無用だと思うけど」
原作破壊?だからどうした。
「そんなことよりヒャッハーしようぜ!」
「なにこのおっさんキモイ」「社長うざいです」「死ねばいいのに」
ありとあらゆるものを焼き尽くす炎が、ありとあらゆるものを破壊する能力が、ありとあらゆるものを破壊し得る神の鞭が、
ガストレアの集団を薙ぎ払う。
結果なぞ言うまでもないだろう。
蟻ン子を踏みつぶすしたらどうなりますか、とそんな分かりきった解を問うようなものだ。ただ、それだけだ。
●
その後、彼は自身の異能とロリっ子達の力により国を建国した。
邪魔者は多数いたが、武力を行使すると脅せば、大抵のものは黙って退いた。
アルデバラン率いる数万の軍を一瞬で殲滅した武力があるのだ。
世界を敵に回したとしても勝てる。
今の彼には世界を敵に回す力と覚悟があった。
他国からの介入が酷い場合、その国を亡ぼすことも辞さない。
何の抵抗もない。
世界は力で制することが出来るのだ。これ以上簡単なことはない。
独裁者だろうがなんだろうが、もうなんでもいい。
自分の正義を貫くためなら、些細なことだ。
世界から、虐げられている子供達を救い、人の皮を被った悪魔には鉄槌を下す。
欲しいものを手に入れるには力がいるが、逆に言えば、力さえあれば何でも出来た。
オリ主の力は神の力、そのものだ。何でも出来る。
完全自給都市を作ることも、ガストレア化の治療も出来る。
彼女達がそれを望んでいるのかどうかなんて、正直、男にはわからなかったが。
だが、悲しむ子供の数は減っただろう。
それが為せただけでも、きっと意味はあった。
初めからこうすれば良かったのだ。
自分がしたいことして、生きて、死ぬ。
そんな当たり前のことをして生きて死んだ”あいつ”が男の脳裏に浮かぶ。
「あいつ、楽しかったかなぁ」
「お父さん、何ニヤニヤ笑っているんですか? キモイですよ?」
「キモイって言うのやめてくれない?」
「あ、そうだ。お父さん、これ、さっき焼いたんですけど食べますか?」
「夏世ちゃん。なにこの黒いの?」
「黒パン」
そんな彼を、世界はこう呼ぶ。
無限の少女の父――――ビッグダディ、と。
●
鬱屈していた。
我慢ならない。何故自分はこんなにも情けないのだろうか。駄目なのだろうか。
何かもが許せない。我慢ならない。
世界が悪い。そうだ。これは世界が悪いのだ。周囲が自分に理想を押し付けるからだ。
幼い頃から理想の自分像を植え付けられていたのだ。
それに満たない自分はゴミ以下の存在で、常に自分を傷つける。
だから、自分を捨てた。
夢へのキップを手に入れた。
その筈だったのに。
何だこの体たらくは。
吐き気がする。
「たかだが超再生巨大スライム如きと相打ちで死ぬとか……こんなのじゃ満たされないです」
直死の魔眼で死点を付いて必殺した。心は満たされたはずだった。
なのに、自分は未練がましく、霊魂としてこの世界をいまだに彷徨っていた。
そんな折だ。
彼女は常識外の光景を目にする。
『万象一切灰燼と為せ』
軽鎧を纏った少女が刀を構え、告げる。それはこの世界にあってはならないもの。
ゼっちゃんがかつて地獄と称した世界にあった創作物。かの有名なブリに出てくる山爺が持つ炎熱系最強の斬魄刀の――――。
『〝流刃若火”!』
真名解放。
溢れる炎が、無数のガストレアの群れを文字通り消し飛ばす。漂白される世界。
「え」
「なにこれ意味がわからない」
fate go
この道が間違いだったしても俺はガチャを回し続ける。☆5が出なかったとしても、きっと、いつか……。
キャス子、槍兄貴、緑茶、バサタマモ、ハサンばかりが強化されていく。
なんでセイバーでねぇんだよ。アルトリアじゃなくてもいいから、セイバーがほしい。
うわ…マジで1年ぶりだ。