恭しき華は霞の中で何想う   作:音子雀

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9、知りました。

 目を覚ました僕が最初に見たのは、何の変哲もない、部屋の天井だった。

 

 屋上ではなく、かと言って保健室でもなく。

 

 ここは、僕の部屋だ。

 

「起きたか恭華」

 

 数回まばたきを繰り返していると、視界にネロの姿が舞い込んできた。

 

「ネロ……?」

「驚いたよ。あんたの家で寛いでたら突然電話がかかってくるもんで何かと思って出てみたら、相手はあの雲雀恭弥だし、あんたが倒れてから起きる気配がないって言われるしでさ。どんな無茶をしたら2回目の死を迎えかけるわけ?」

 

 雲雀恭弥……って、え、それマジですか。

 

 それってつまりあの後雲雀さんに世話かけたってことなんだよね。

 

 待って何それ怖い。

 

「ねぇ、今って何時?」

「お昼の12時過ぎ。ただし、あんたが倒れた2日後のね」

「……え?」

 

 ふ、2日後!?

 

 じゃあ僕は丸2日も寝ていたってこと!?

 

 ……そうだ、僕は逃げていたんだ。

 

 ツナのことが怖くなっちゃって、顔も合わせられなくなっちゃって。

 

 謝りもしないで逃げ出したんだ。

 

「……ネロ、聞きたいことがあるんだけど」

「沢田綱吉のことでしょ」

 

 驚いた。

 

 確かにツナのことを聞こうとしていたけど、こうもあっさり当てられるとは。

 

「ま、言ってなかった私も悪いし、ちゃんと教えてあげるよ。その代わり心して聞きなさいよ。あのね恭華、転生してからあの日に至るまでの間、あんたがどんな考えでどう生活してどう行動していようと、沢田綱吉はあんたに告白していたよ」

「どういう、こと?」

「恭華は仲良くなったせいで告白されたって思ってるようだけどそれは間違い。むしろ、告白されるために仲良くなったのかもしれないね。沢田綱吉が霞恭華に告白する、それがこの世界の運命なの。全部、あんたが前の世界で生を受けた時から決まっていたことなんだよ」

「ちょっと待った! 本当に待って! 全く意味がわからないんだけど、どうしたってツナは僕に告白していたって? 前の世界から決まっていたって? ぜんっぜん理解できないんだけど」

「理解しろとは言わない。ただ知っておいて欲しかったのよ」

 

 冗談じゃない。

 

 そもそもそんな意味のわからない話、寝起きで聞くような事じゃないんだって。

 

 頭がパンクしそうっていうかもうパンクしてる。

 

 なにがどうしてこうなった。

 

「んで、結構気にしてたみたいだから言っておくけど、あんたが告白されたからREBORNの世界が崩壊する、なんてことは全く持ってありませんので悪しからず。まあ、間違いなく巻き込まれルートだけどね」

「何それ! じゃあ初めからモブなんてできないって知ってたの!?」

「うん。だって教えてたらショック受けてたでしょ」

「今知る方がよっぽどショック!」

 

 どうせだったらツナに告白されるショックを受ける前に教えて欲しかったんですけど。

 

 でも、話が崩壊しないってことはツナと京子ちゃんは問題なく仲良くなることができるってことなんだよね。

 

 それを知って少しは安心したよ。

 

 で、今ってお昼なんだよね。

 

 お昼、お昼かぁ……。

 

 今から学校に行けば午後の授業には出られるかも知れないんだけど、まだ心の準備がなぁ。

 

「行けよコミュ障」

「酷い暴言だね!?」

 

 誰がコミュ障だ、誰がっ!!

 

「はいはい行きますよーっだ」

 

 クローゼットから制服を引っ張り出す。

 

 ああ、髪がボサボサだよ悲しすぎるよ悲劇だよ。

 

 よしまずはお風呂に入ろうそうしよう。

 

 僕の髪のために。

 

 

 

 

 **********

 

 

 

「そこの君、止まって」

「ひゃいっ!」

 

 支度に30分かけてようやく学校までやってきた僕なのだが、幸か不幸か(いや絶対に不幸だ)、校門を通り抜けようとしたところで雲雀さんに呼び止められた。

 

 え、何で雲雀さんってわかるかって?

 

 目の前に立ってるからだよ!!

 

「あ、えと、その、先日はご迷惑をおかけしました。それと、色々とありがとうございました!!」

 

 考えるよりも先に頭を下げる。

 

 あれかなぁ、もしかしたらここで待ち伏せでもされてたのかなぁ。

 

 だとしたら今から咬み殺されるってことかなぁ。

 

 ひぇぇ。

 

 まあ、あんなことをしちゃったわけだし当たり前だけどさぁ。

 

「もう学校に来ても平気なの?」

「……へ?」

「もしかして目の前で倒れた小動物のことを気にしていないとでも思ったの?」

 

 思ってました。

 

 とは口が裂けても言えないだろうなぁ。

 

 言った瞬間に意識と別れを告げるハメになりそうだし。

 

 でも正直に言ってここまで気にかけてもらえていたとは思わなかったんだよね。

 

 いや絶対に思いませんから。

 

 だって雲雀さんって無慈悲イメージが強いしさ……まさかの思い込み?

 

 それともこの世界での雲雀さんのあり方がそうなのかなぁ。

 

 うーん。

 

「まああいいよ。午後の授業に出るんでしょ、今ならまだ間に合うよ」

「あ、はい!」

 

 何が何だかわからないけど咬み殺されないなら万々歳だよ。

 

「次に風紀を乱したらその時は見逃さないからね」

 

 背後から聞こえてきた物騒なセリフは聞かなかったことにしよう。

 

 さて、教室まで来てしまったわけだけど、こっわいわぁ。

 

 ものすっごく怖いわぁ。

 

「あれ、霞か?」

「ひゃいっ!」

 

 また変な声が出てしまったぞい。

 

「あ、赤津先生。お久しぶりです」

「軽いな。ずっと休んでたからみんな心配してたぞ。特に笹川とか黒川とか沢田とか」

「ひぇっ」

「奇声多いなぁー」

 

 奇声じゃないですぅー。

 

 口を尖らせながら教室のドアに手をかける。

 

 よし、行ける行ける。

 

 頑張れ霞恭華。

 

 ガラッ

 

「…………」

 

 ちょっと待ってくださいねぇ?

 

 なんでみんな一斉に静かになるんですかねぇ?

 

 やめてくださいよまだお昼休みですよ騒いでいてどうぞ。

 

「恭華!」

「恭華ちゃん!」

「ぐへっ」

 

 今日だけで何回変な声を出せば気が済むんだ僕は。

 

「え、えっと、おはよう。花ちゃん、京子ちゃん」

 

 ともあれ僕は速攻で抱きしめに来た花ちゃんと京子ちゃんに挨拶をした。

 

 勢いと不意打ちで後ろに倒れそうになったのを踏ん張った僕を誰か褒めて。

 

「なに呑気に挨拶してんのよ! どれだけ心配したと思ってんの!」

「そうだよ。会えなくてすごく寂しかったんだよ?」

 

 天使にこんな悲しそうな顔をさせるなんてそんな不届き者は誰だ!!

 

 ……僕か。

 

 そう言えば僕が休んでる間ってなんて説明されてたんだろうなあ。

 

 まさかの無断欠席だったのかな。

 

 2人には苦笑いで返しながら、目だけで教室の中を確認した。

 

 探していた人は、案外すぐに見つけることが出来た。

 

 ちょっとごめんねって言って2人の間を通って、彼の元まで歩いていった。

 

「ツナくん」

「恭華ちゃん……?」

 

 どうしよう、また怖くなってきちゃった。

 

 言葉が詰まりそうだ。

 

 頑張れ、頑張れ。

 

「ツナくん、あのね」

 

 頑張れ、頑張れ。

 

「ツナくん……この前はごめんなさいっ!」

 

 深々と頭を下げた。

 

「恭華ちゃん!? な、なんで謝ってんの!? 謝るのは俺の方なのに!」

「だって、だって僕、ツナくんから逃げたんだもん。転校してきてからずっと仲良くしてくれてたツナくんから逃げちゃった」

「そ、そんなの」

「冗談だって知らなかったんだ、ごめんね!」

「はい!?」

 

 最終的対処、京子ちゃんと同じオチ。

 

 いやあだってほら、これなら互いにのちのち笑い草にできるかなって。

 

 僕ってば天才じゃないかな?

 

 ね? ね?

 

 ちなみにツナは見事なツッコミ顔で何か言ってるけど気にしない。

 

 気にしない、気にしない。

 

「いやあ仲直りできてよかった」

「へ?」

 

 頭にぽんと手が置かれる。

 

 花ちゃんの手だっていうことはすぐにわかった。

 

「ここ数日、だいぶ空気がヤバかったのよね。恭華が来ないのは沢田のせいだとかってさ」

 

 え、えー……うん、間違ってはいない。

 

 どっちかって言うと全力疾走した自分が一番の原因なんだけどね。

 

 でもまさか死亡回避はしたものの代わりに2日間も昏睡してるなんて誰も思わないじゃん?

 

 走った自分が悪いんだけども。

 

 全力疾走した自分が悪いんだけども!

 

 改めて考えると本当によくもまあ雲雀さんに咬み殺されずに済んだこと。

 

 ハッ、まさか実は気を失った後に咬み殺されててそれが原因で昏睡状態になっていたとか!?

 

 ……ないな。だって起きた時に痛いところとかなかったし。

 

「そう言えば午後の授業ってなんだっけ」

「あんた、確認もしないで来たの!?」

 

 テヘペロ☆

 

「体育と英語よ」

「…………」

「あ、珍しくわかりやすいほどに落ち込んでる」

「体育のことはいい加減諦めなさい」

 

 あー寝よっかなーふて寝しよっかなー保健室と見せかけて屋上でぽかぽかお昼寝しよっかなー。

 

 ……あ、ダメだ、屋上は雲雀さんがいる可能性がめちゃくちゃ高いんだ危ない。

 

 じゃあ保健室かなぁ。

 

 保健医さん優しいから許してくれるでしょ。

 

 よし決まり。

 

「なんでだろう、今日の恭華ちゃんすごくわかりやすい」

「奇遇ね、私もよ」

「うん、私も」

 

 何か言われてる?

 

 気にしたら負けなのだよワトソン君。

 

 というわけで保健室へ直行!

 

 

 

 

 **********

 

 

 

 

「……まさか2時間爆睡をキメるとは思わなかった」

 

 目を覚ました時にはとっくに英語の授業も終わった放課後というトラップ。

 

 ついさっきまで丸2日間も寝ていたというのに我ながらすごい睡眠欲だ。

 

 おかげさまで結構頭が痛い。

 

「さっき笹川さんたちが様子を見に来てたよ」

「ひぇっ」

 

 こらあかんわぁ。

 

 一体何をしに学校来たんだって感じだね。

 

 ホント何しに来たんだろう。

 

 苦笑気味な先生はさておいて、教室に戻らなくちゃね。


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