今日の時間割は、数学・国語・理科Ⅱ・社会・英語そして体育と、なんともスタンダードなものだ。
……うん、一般的にいうスタンダードなもののはず。
正直な話、数学は脳みそが算数でお手上げ、国語は漫画読んでりゃなんとかなる精神、理科社会は知ったこっちゃない、英語はなんとかなる、体育(目逸らし)である。
え、家庭教師はどうしたのかって?
ゆるゆるお喋りを楽しんでました!(ダブルピース)
……やったよ、やりましたよ、ちゃんと授業してましたよ。
どうせ僕の頭が残念なんですよ!
*数学*
担当は予想通り、三枝先生だった。
ちなみに教科書を読んでみてもちんぷんかんぷんである。
「それじゃあ霞さん、この問題を解いてみて」
「んー……2+3×4は……10!」
「その数字と自信はどこから……。答えは14です」
「ひょえっ」
*国語*
えっ赤津先生って国語の担当なの!?
吹奏楽の顧問なのに国語なの!?
教科書ちらっ。
はっ、この漢字、漫画で見たことある!(進○ゼミなノリ)
「1人1行音読なー」
「おじいさん、は……や、ま? あっ山! へ、しばかり、に、おばあさんはー川、へ、えっとー、せんたく! しに、いーきました!」
『(なんで読み終わったあとにあんなにドヤ顔なんだろう……)』
*理科Ⅱ*
さてさてどうしたものか。
なんか違う教室に移動したと思ったらお花がいっぱいあるぞ。
ルーペとはなんぞや。
おしべとめしべとはなんぞや。
「ふぉっ! おっきくみえる! すっごい!」
「ルーペを目に近づけて持って、花を近づけたり遠ざけたりするんだよ」
「はっ!? 手が真っ黄色に!? へっくち」
「あー、花粉触ったのね。洗ってき――って霞! 舐めちゃダメよ!」
「霞さん!?」
*社会*
鬼門その2のお時間がやってまいりました。
いやぁ、ちゃんとした地図なんて初めて見ましたよ。
「うーみーはーひろいーなーおおきーいーなー」
「どうしたの?」
「地図見てたら思い出したの。青くて綺麗って本当?」
「行ったことない?」
「うん」
「それじゃあ海開きしたら一緒に行こうね!」
「うん!」
「こらそこ! 無駄話をしない!」
「「ごめんなさい」」
*昼*
お昼だーっ!
給食、きゅうしょ……ん?
あれそう言えば、並中ってお弁当じゃなかったっけ?
あ゙ーっ!
持ってくるの忘れたーっ!
「霞さん、一緒にお昼食べよう?」
「ごめんなさい……お弁当……ない……」
今の僕はさぞかし滑稽にさめざめと泣いているだろう。
なんだよネロの奴、一言くらい教えてくれればよかったのに……。
学校初日からお昼抜きなんてあんまりだぁ……。
「元気出して。よかったら私の分けてあげるから。ね、花?」
「京子がいいなら構わないけど……」
「笹川さん、黒川さん……ふぇぇ、ありがとうぅぅ……」
奇跡的に昼抜きは回避した。
優しすぎかなこの2人、天使かな。
あ、天使か。
「朝は聞いてる暇なかったんだけどさ、霞ってどこから来たの? なーんか全体的に変な奴って感じなんだけど」
「ちょっと花、失礼だよ」
「えっと、その、実は、学校って人生初でして……さっぱりなもので」
「えっ!?」
「それって小学校も行ってないってこと? 義務教育はどうしたのよ」
「うーんとね、家庭教師のお姉さんに教わってたよ。ほとんどおしゃべりだったけど」
「ていうか何で行かなかったわけ」
「大変な病気だったの?」
「んー……どうなんだろ。とにかく外はダメって言われてて家から出たことがないんだよね」
「なにそれ! 閉じ込められてたってこと!?」
「そうなるのかなぁ……よくわかんないや」
「学校のことで何かわからないことがあったらなんでも聞いてね」
やっぱり天使だこの人。
ツナがベタ惚れするのもわかる気がするなぁ。
僕も好きになっちゃいそう。
あ、百合をする気は全くないからね。
遠くでニヤニヤの予定が近くでニヤニヤに変わるだけだから。
え、不審者? 知ってる。
でも、いくら京子ちゃんたちが天使でも甘えてばっかりはいられない。
午後は迷惑をかけないようにしなきゃ。
*英語*
「僕これは知ってるよ。アルファベータでしょ」
「……アルファベットの間違いだと信じたいわね」
あれ、またなんかやらかしたかな?
花ちゃんからの視線がとても痛いよ。
*体育*
さてさて、本日最難関の授業がやってきましたよ。
一応軟禁の理由は体が弱いってことだからね、どういう支障が出るかもわからんもので。
でもやっぱりやらない訳にはいかないでしょう。
だってなんだかんだで一番楽しみだったんだから!
「ウォーミングアップだ。グラウンド一周走ってこい」
因みに先生は髪が2つ縛りでメガネに赤ジャージという風貌。
……ヤンクミかな?
そもそも走ったことすらない僕はとりあえず転ばない程度に足を運ぶ。
けどそれがあまりにも遅かったのか、京子ちゃんと花ちゃんが隣を同じペースで走っていた。
「霞さん大丈夫?」
「え、あの、わざわざ僕に合わせなくても……」
「ん、大丈夫そうね。それじゃあ京子、先に行きましょ」
「う、うん。無理しないでね?」
「行ってらっしゃい」
これではダメだ、また2人に迷惑をかけている。
もっとしっかりしないと。
走るペースを少し上げてなんとか2人に追いつこうと頑張る。
「ぜえ……はあ……」
あれ、ヤバイかも。
京子ちゃんが心配してくれてる以上に、僕が思っている以上に、意外とヤバイかも。
ほんの数十メートル走っただけなのに息苦しい。
くらくら、する……。
どさっ
「霞さん!?」
「言わんこっちゃない」
次に僕が目を覚ましたのは保健室のベッドの上でだった。
京子ちゃんと花ちゃんはもちろん、何故かツナまで様子を見に来てくれていた。
え、ちょっと待って、なんでツナ!?
現時点においてツナとの接触とか全く無くないですか!?
り、リボーン来てないよね?
来てないんだよね?
よし、セフセフ。
いやいや、来てないのに京子ちゃんの近くにツナがいるってどーゆー状況!?
ああ、でもまた迷惑かけちゃった。
「笹川さん、ごめんなさい」
「謝らなくても大丈夫だよ」
「心配かけたことに対してだったらここにいる全員に言いなさいよ。なんでか知らないけど沢田まで来ちゃったんだから」
「うー……黒川さんと沢田くん? も、ごめんなさい」
「今朝ぶつかった時も体調悪かったみたいだけど、大丈夫?」
「えっ?」
今朝ぶつかった?
ぶつかった?
今朝?
「あっ、あの時にぶつかったのが沢田くん……? ご、ごめんなさい!」
「いやっ、俺は大丈夫だから!」
まさかそんなところで接触点を作っていただなんて、お天道様もびっくりだよ。
怖がってないでちゃんと確認していたらツナだってわかっただろうに。
まずはこの臆病な性格をどうにかしないと。
「霞、調子はどうだ?」
不意に保健室に入ってきたのは、あのヤンクミさながらの体育の先生だった。
「びっくりしたぞ、あの距離を走って倒れた生徒を見たのは初めてだからな」
「人生で最長の走行距離です」
「マジかよ」
マジです。
「悪いこと言わないから、明日病院に行ってこい。赤津にはアタシから言っとくからさ。親御さんは家にいるか?」
「あ、えっと……親はいない……というか、一人暮らし、です……」
『え!?』
ああ、そっか。
普通に考えたら、やっと親の許可がおりたから学校に来れるようになった、だと思うよね。
本当は僕が死んでなんやかんやあって転生したもんで一人暮らししてネロのおかげで学校に通えるようになったわけだけど。
こんな話をしたら頭を打ったかもしくはやばい子だと思われるのがオチだ。
だから一応は、親が事故死したことにでもしておこう。
「大丈夫、1人で行く」
「却下よ。あんだが1人歩きして町中で倒れたりなんかされても困るもの」
「黒川の言う通りだな。それに日中に中学生が1人出歩いてたら補導されるぞ」
「全くしょうがないわね。私が付き添ってやるわよ」
「花が行くなら私も行くよ。だって霞さんのこと心配だもん」
「なら俺も」
「沢田はダメだな。黒川と笹川は許可する」
「な、なんで!?」
「さっきのウォーミングアップで霞を除いたドンケツはお前だ。それに全教科において成績最下位のダメツナの話は職員室でも尽きない話題でな。……言いたいことはわかるな?」
「……はい」
お前に授業を休めるほどの成績的余裕はないってか。
ヤバすぎでしょツナさんや。
ていうかなんなのこの人たちは。
優しすぎて禿げるよ。
「えっと、じゃあ、黒川さんと笹川さん、お願いします……」
かくして僕の初・病院行が決定したのだった。