えー、はい。ついにこの日がやってまいりました。
「転校生の獄寺君だ。仲良くしてやれよ」
「ありゃ、もうそんな日か」
原作にして第2話、つまるところツナの告白劇の次の話なんだけど、個人的に色んなことがありすぎてだいぶ長い時間が過ぎたように感じてる。
でもやっと来たって感じだね。
仲良くなれるといいなあ。
ガタンッ
「うわっ」
ツナの机を蹴り飛ばすのは原作通り、っと。
ネロからは特に何も聞いてないけど、もしまた大きな相違があったらどうしようと気が気じゃない。
獄寺のことを目で追っていたらなんとなく視線を感じた。
ちらっとそっちの方を見てみると、ツナと目が合った。
あ、そういえば原作でも京子ちゃんの反応を気にしてたっけ。
でも僕って無表情というか、感情が読み取りにくいって散々言われてきたからなあ。
「ねえ恭華ちゃん、獄寺くんってかっこいいね」
「うん、そうだね」
京子ちゃんはやはり目をキラキラさせていた。
そういえば男の子をかっこいいとかそういう感じで見たことがあまりなかったような気がする。
ツナに告白されてもドキドキしないのは、漫画のキャラクターだという認識があるからだとは思っていたけど、今獄寺を目の前にしてもあまりドキドキしてない。
転生する前なんかは男子と会話はおろか顔を合わせたことすらないのだから、結局はその理由が彼らがキャラクターだからなのかはよくわからない。
そんなこんなで時間は過ぎて、気づけば放課後になっていた。
思っていた以上に何事もなく一日が過ぎてしまったものだからとりあえず遠目で獄寺を眺めてみる。
なるほど、かっこいいんだなあ獄寺。
僕にとって“かっこいい”とかはどうしても漫画やアニメのキャラクターにしか適応されないし、獄寺を見てそういう感想が出るのはやはりキャラクターだから?
それにしても転校初日から女子に囲まれる人気っぷりを発揮するのはさすがとしか言えない。
「あっ」
気のせいかな、今……獄寺と目が合っちゃった気がする。
曲がりなりにも殺し屋なわけだし、ずっと見ていたから視線が気に障っちゃったのかも。
あ、こっちに来た。
「おい沢田」
と思ったら僕じゃなくてツナだった。
まあ、そりゃそうですよね。
というよりも未だにツナが教室に残ってるのが驚きだ。
確か原作では獄寺の威圧か何かに怖がって慌てて教師から逃げ去ってたような記憶だったんだけど違ったかな?
「ちょっと来い」
「え、あっ、ちょっと!?」
バイバイ、ツナ。
学校の平和のためにも頑張ってね。
……なんて、ついていかないわけがない僕なのである。
表向きの理由を言うなら、そうだな、ただならぬ雰囲気の2人が心配になって様子を見に行った、かな。
っていうことでこっそりと2人の後をついていくことにした。
向かった先は校舎裏。
なんというかジメジメして嫌なところだ。
しばらくしてツナと獄寺が何やら話し始めたから、僕は近くの木の陰に隠れた。
「こんなところで何してんだ恭華」
「ひゃうんっ!」
ちょっと誰だよびっくりして変な声が出ちゃったじゃないか。
「って、リボーン」
もうこの殺し屋さん怖い。
「あの2人を追ってきたのか」
「うん、まあね。気になっちゃって」
「ここにいると危ねーぞ。教室に戻れ」
「えー……」
悔しい、実に悔しい。
確かに獄寺のダイナマイトがこっちに飛んでこないとも限らないし、本当にそうなったりしたら危ないで済む話じゃない。
だからと言って、獄寺がツナに敵意を向けるこの貴重な数時間を見逃したくはない。
「ねえ、僕の銃でどこまで回避とかできると思う?」
「……お前、その銃口がどこに向いてるのか自分でわかってるのか?」
「いいえ全く」
「論外だな。家から持ってきて出直せ」
「悲しき」
この場に存在しない銃の細かい制御だなんてできるわけがないじゃないかばかー。
「わかったら戻れ。巻き込まれる前にな」
「えー……」
悲しきなり。
やはり僕はただのモブでしかないのか。
ありきたりな2次創作主人公みたいに余裕ぶっこいて観戦することさえも許されないのか。
なんてことだ。
そうは言っても長居すればするほどにリボーンにきつく叱られてしまうかもしれない。
誰に対しても容赦ないリボーンのことだ、僕のことだって蹴るなりなんなりして追い返そうとするだろう。
つまり、大人しく戻るしかないということだ。
トホホ。
がっくりと肩を落として教室に戻った僕を待っていたのは、京子ちゃんと花ちゃん。
鞄をほっぽり出していなくなった僕のことを探していたらしく、花ちゃんにこってり怒られた。
めっちゃごめん。
でも、もっと謝らなくちゃいけないのは、僕はまだ帰るつもりはないことだ。
せめてツナが戻ってくるのを待ちたい。
「あら、遂に恭華も積極的になったのかしら?」
「そっ、そういう意味ではないから!」
単純に獄寺とあの後どうなったのか気になるだけだから!
「じゃあ私たちは先に帰るわね。2人の邪魔しちゃ悪いし」
「ちょっと花ちゃんってばあ!」
原作での京子ちゃんに対してもそうだったけど、花ちゃんってホントこういうとこ意地悪だよねえ。
まあ確かに、少なからずマフィア~んな会話になるだろうから居てもちょっと困っちゃうけどさ。
ばいばいと手を振ってから数分後、色々な意味でボロボロになったツナと、既に忠犬になった獄寺が戻ってきた。
……にしても爆音とか聞こえなかったような。
「アレ、恭華ちゃん? まだ残ってたの? 京子ちゃんたちは?」
「置いてかれちゃった。だからツナくんのこと待ってたんだ」
半分嘘ですけどね。
「本当はツナくんのこと追いかけていきたかったんだけどリボーンにダメだって追い返されちゃって。だから心配してたんだよ」
「んなっ!? ついてこようとしてたの!?」
「10代目、こいつは……?」
「しがないモブでクラスメイトですどうも」
ツナが何か叫んで突っ込み入れてた気がするけど気にしない。
「それでさ、仲直りはできたの?」
「え?」
「だって朝からずっと仲が悪いみたいだったし、あれ、さっきのは喧嘩に行ってたんじゃないの?」
我ながらになかなか天然キャラっぽい発言をしたと思う。
ああでも
まあ現状の僕ではこんなもんでしょ。
そこまで天然キャラを目指してるわけでもないしね。
「お前、名前は」
「ほえ? 霞恭華だけど」
「霞! 10代目に馴れ馴れしくしてんじゃねえぞ」
…………はい?
え、ごめん、今なんて言った?
僕、なんて言われた?
「な、なに言ってんの獄寺くん!?」
「いやホント何言ってるのかよくわからない。そもそも僕は君よりもずっと前からツナくんとは友達なんだけどさ……」
「そんなこたぁ関係ねえ。10代目は大事なお方だ、10代目をお守りするのが俺の役目だ」
全力で訳が分かりませーん!!
何で僕が敵対視されてるのかも分かりませーん!!
ていうか僕って一応ボンゴレに保護されてる人間なんですけど!?
「あんまり酷いことを言うとおしおきしちゃうぞ」
「はあ?」
「ばんっ」
子供の手遊びレベルの手銃で獄寺の眉間を狙う。
普通の銃を構えるのと違ってこれを使えば人差し指の向く先がつまりは銃口になるから狙いがつけやすい。
「い゛っ!?」
そして当の本人は突然の痛みに戸惑っているらしかった。
今回の銃はお遊び程度だからBB弾や輪ゴム、とにかく子供遊びの範疇内の威力をイメージしているが、それでもこの至近距離で眉間はそれなりに痛いのだろう。
「てめえ、何しやがった!」
「もういっちょ、ばんっ」
今度は頬を狙う。
ちょっと指ではじく程度の可愛い威力だ。
それでも獄寺にとっては正体不明の衝撃で痛いらしい。
ふ~む、なんだかんだで手銃使いってのはなかなかのものみたいだね。
「きょっ、恭華ちゃん!? 獄寺くんに何したの!?」
「あれ、ツナくん知らないの? リボーンから聞いてない?」
「知らないよ!」
あれま意外だ。
僕が手銃使いだからファミリーに入れる、みたいなことくらいは言ってそうなのにな。
どうしてだろう。
「てんめえ、
ツナが理解してないとか現状マジヤバ。
「ごめんごめん、ほんの冗談のつもりだったんだよ。ツナくんは知ってるとばかり思ってたし何より君が理不尽に突っかかってくるから……」
「うるせー、果てろ!」
「それに僕、これでもボンゴレの保護下にいる人間だから無闇に攻撃されると後が怖いというか……」
「なっ!」
教室内だというのに僕に投げられたダイナマイトは既に獄寺の制御範囲外にある。
なんていうか、本気でマズイ。
一か八かで撃ってみるしかない。
咄嗟に拳銃の構えを取ろうとした、その時だった。
チィンッ
“本物の”弾丸が導線を割いた。
「そこまでだ」
いつ来たのか、窓にリボーンがいた。
「恭華、無闇にその力を使うんじゃねえ」
「ごめん。煽られたからつい」
「獄寺、恭華に手を出すな」
「で、ですがリボーンさん……」
わー、喧嘩両成敗ってやつですかねこれ。
難しい言葉は知らんけど。
「ねえリボーン、どうしてツナくんに僕のこと言ってなかったの?」
「面倒だったからな」
「いやそこめんどくさがらないで!? ホウレンソウ大事!!」
おかげで死にかけたんですけど!?
「つーわけで紹介しとくな。こいつは霞恭華、幻と言われた手銃使いだ。本人の同意の上で今はボンゴレの保護下にいる」
「んなー!? 恭華ちゃんもマフィアだったのー!?」
「いやいや、違うよツナくん。それは誤解。確かに不思議な力は持ってるみたいだけど、それを除けば一般人、僕はあくまで普通の人だよ。ただ、僕の力が裏社会だと危険視されてるから、ってリボーンに言われて、僕は自分も守れないからお世話になることにしたの」
ただしこの世界に置いてのマフィアひいては裏社会事情に詳しいことに関しては割愛してほしい。
リボクラは強い。
それを差し引いたって僕は一般人だ。
一般人のハズ。
一般人……だよね?
「で、何すか、その手銃使いって」
「実体のない銃を扱うことのできる特殊な人間のことだ」
「実は私も最近知ったばかりで、思ったより情報が多いから詳しいことは資料でも読んでね」
図書館で調べたことを基にリボーンが火炭の資料を作ったと知った時には驚いたよ。
なんでもボンゴレに報告するために必要だとか何とか。
ついでにこういうときにも役立つだろう、なんて言ってはいたけど……早速役に立ったよね。
ありがたや。
渡された資料に、訳が分からんという顔をするツナの一方で、獄寺は真剣に目を通してくれていた。
「つまり霞は、繁栄を目論む奴らから狙われやすいってことですか」
「そうだぞ。それに恭華はそれを差し引いても大事な人材だ、保護対象であると同時にファミリーの一員でもあるんだぞ」
「えっと……今日のことは僕も悪かったし、そういうことでもあるから、もう攻撃とかしないでもらえると嬉しいなって」
「……っち、わぁったよ」
ふう、これで何とかなった。
それにしても改めて考えてみると、ファミリー第一号が僕って……いいのかなあ。