恭しき華は霞の中で何想う   作:音子雀

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12、勉強しました。

 さてはて現在、自宅にて山積みのプリントと戦ってます。

 

 これ、一体何かといいますと、リボーンによって課せられた課題なんです。

 

 えーっとほら、前に我が家に来た時に「課題あげるからな」とかなんとか言われたじゃないですか。

 

 まさしくあれの末路です。

 

 さすが一流の家庭教師と言いますか、僕の学力を知ったリボーンから大量の勉強プリントを出されてしまったんです。

 

 しかもこのプリントはツナがやっているものとは内容やら構成やらが全く違うらしい。

 

 ツナは基礎を身につけること、僕はひたすら数をこなすことがそれぞれの学力アップに繋がるということで、わざわざ2人分を作り分けたというのだ。

 

「……だからって一問一答形式を一教科につき1000問はちょっと頭がおかしいのでは」

 

 一問一答形式、1000問を国数英理社。

 

 それが課せられた課題の量。

 

 ちょっとどころかかなり意味がわからないよ。

 

 国語を100問まで頑張った時点で脳ミソが疲れました。

 

 このプリント地獄への唯一の救済は、教科書をガン見してていいことくらいかな……。

 

「ネロ、代わりに解いて」

「やだよ。人の言葉は読めないんだ」

「なんだって」

 

 こんなところで衝撃の告白はいらないよ。

 

「それに、読めたとしても代わらないからね。情けは人の為ならず、だっけ」

「諺は言えるんかい」

 

 ネロのことがよくわからなーい。

 

 えーい、こうなったら僕にだって考えがあるんだからね!

 

 いでよ、家電(いえでん)

 

「あ、奈々さんこんにちわー」

『あら恭華ちゃん。どうかしたの?』

「ツナくんとリボーンはいますか?」

『2人ともお部屋で勉強してるわ。恭華ちゃんも来る?』

「行きまーす!」

 

 カバンに荷物を詰め込んで、いざレッツラゴー!

 

 ずるいとか叫んでるネロは無視。

 

 ずるくないもん。

 

 問七の話みたいに、みんなでやれば捗る精神なだけだもん。

 

 だからずるくないもん。

 

「いってきまーす」

 

 家を出てすぐにツナの家に向かう。

 

 もう何回も行ってるから迷子には絶対にならないのが嬉しくなってきた。

 

 本当なら走っていきたいところなんだけど、そんなことしたらそのへんの道端で屍になってるのがオチだから絶対にやらない。

 

 とても走りたい欲求に駆られているよ僕は。

 

 僕の住むマンションからツナの家までは歩いて15分くらいと地味に遠い。

 

 僕の15分だから普通の人なら10分以内で歩けるとは思うけど。

 

「こんにちわー」

 

 沢田家のチャイムを鳴らすとすぐに奈々さんが出迎えてくれた。

 

 そのまま2階のツナの部屋に向かうのだが、奈々さんには僕の来訪は内緒にしてもらった。

 

 だってなんかそのほうがドッキリみたいで面白い気がするから。

 

 なんだかこうしてると、リボーンと初めて会った日のこと思い出すなあ。

 

 ツナの部屋に上がるのはあの日以来だっけ。

 

「やっほーツナくん」

「きょっ、恭華ちゃん!?」

 

 ノックもしないで入ってみれば、期待を裏切らないリアクションが返ってきた。

 

 ドッキリ大成功。

 

「ど、どうしたの?」

「遊びに来たよ、と言いたいところなんだけれども、残念ながらお勉強をしに来ました」

 

 突然の事態に頭が追いついていないか硬直しているツナの隣に座って、鞄から大量のプリントを引っ張り出す。

 

 それを見てツナの硬直はどうやら解けたようだ。

 

「んなーっ!? 何これーっ!?」

「終わらないんだよ。5000問なんて終わるわけがないんだよ」

「5000問!? 何でそんなことしてるの!?」

「リボーンに課題出されちゃって」

 

 白紙に近いプリントを見てげんなりしてしまう。

 

 本当、僕の家庭教師のお姉さんとは大違いだ。

 

「1人だとやる気も出なくて終わる気がしないんだ。ツナくんと一緒なら頑張れる気がするし、いいでしょ?」

「うっうん、もちろんだよ! 恭華ちゃんがいてくれると心強いよ」

 

 期待されても、僕だってギブアップしたからここに押しかけちゃってるんだよなあ。

 

 僕だって根津にいびられる程に酷い点数なんだからね……。

 

 うっ、自分で言って悲しい。

 

 根津にいびられるのだけは嫌だ。

 

 途中途中でリボーンからの文句を受けながらもツナと2人で少しずつプリントを消化していく。

 

 当たり前といえば当たり前なんだけど、一向に減る気がしない。

 

 だというのにリボーンはひたすら急かしてくるもんだから余計に進まない。

 

 ツナ……毎日この重圧の中で暮らしているなんて君はすごいよ尊敬するよ。

 

 僕には無理だ。

 

「終わる気がしない……」

「右に同じく……」

 

 数時間後、僕らは揃いも揃ってテーブルに突っ伏していた。

 

 お互いなんとか片付いた課題は奇しくも半分に満たないと言うのに、経過チェックとしてプリントを眺めているリボーンからはため息が聞こえてくる。

 

 どっちのプリントを見てこぼしたため息なのかはわからないけど、これは明らかに呆れている。

 

 僕のじゃありませんようにと願うのは悪くないはず。

 

「まったく、情けねえな。これしか解いてねえのに恭華は5割、ツナに至っては2割しか当たってねえぞ」

 

 5割正解してるんだったら大目に見てほしい。

 

 数ヶ月前までだったら全問不正解の自信だってあったんだからね。

 

「ところで恭華。お前の英語なんだが、何個かスゲー間違い方してるぞ」

「スゲー間違い方?」

「イタリア語になってる」

 

 そりゃスゲーや。

 

 なんでそうなったかって?

 

「なんかイタリア語に見えた」

「イタリア語読めんのか」

「まったく読めない」

「どうしてこうなった」

「面白い言葉は片っ端から弥奈ちゃんが教えてくれた」

「知識偏りすぎだろ」

「うん知ってる」

 

 うん知ってる(2回目)。

 

 だって弥奈ちゃんってば、なんでも知ってるんだもんさ。

 

 ジッリョネロとかミルフィオーレとかその他のあれやこれやの直訳を教えてくれたのだって弥奈ちゃんだし。

 

 確か色んなところに旅行に行ってるとかなんとか。

 

 イタリアにも何回か行ってるって言ってたし、羨ましい限りだ。

 

 僕もいつかイタリア旅行してみたいな。

 

「恭華ちゃん。弥奈ちゃんって誰?」

「あ、ツナくんには話してなかったっけ。僕の従姉でね、面白いことを沢山教えてくれた人だよ。漫画とかアニメとか好きになったのも弥奈ちゃんのおかげなんだ」

「へえ、そんなんだ!」

 

 ほんと、頭もよかったんだよな、弥奈ちゃんは。

 

 博識っていうかさ、なんでも知ってる人だった。

 

 おそらくだけど、僕の知識は家庭教師のお姉さんより弥奈ちゃんに教えてもらったことの方がよっぽど多く蓄積されてる。

 

 頭が良くて、それで美人ときた、これは強い!

 

 人生勝ち組ってやつですかね。

 

 弥奈ちゃん、今頃はどこで何をしているんだろうか。

 

 またイタリア旅行にでも行ってるんだろうか。

 

 そもそも、この世界に存在しているんだろうか。

 

 お母さんとも会うことができないであろうこの世界で弥奈ちゃんを探すのは、雲を掴むような話なのかもしれない。

 

 リボーンに無理難題を押し付けてしまったという自覚はある。

 

 だけどそうまでしてでも僕は弥奈ちゃんに会いたくて仕方がないんだよ。

 

 もちろん、できることならばお母さんにだって会いたい。

 

 僕の願いが、この希望(のぞみ)がどこまで実現可能なのかわからないけど、生きていれば、自分が生きてさえいれば大抵の事はなんとかなるってお母さんが教えてくれた。

 

 だから僕は信じてる。

 

 お母さんにも、弥奈ちゃんにもきっと会えるって。

 

 僕はちゃんと、信じてる。


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