バイトもなく、部屋でくつろいでいたらコトミが部屋にやってきた。
「何か用か?」
試験前ではあるが、今回は自力で何とかするようにと言ってあるので勉強を教えてほしいなら断るつもりでコトミの相手をする。
「タカ兄って凄いよね」
「なんだいきなり……」
本当にいきなりだったので、俺は如何反応していいのか困った。何をもって凄いと言われているのかも、何が目的でそんな事を言い出したのかも、今の段階ではさっぱりだったのだ。
「だってほら、タカ兄は生徒会副会長でしょ? それに加えて学年二位の優秀な成績に人々を泣かせるエッセイの作者でもあるじゃん?」
「大袈裟だろ……別に俺は泣かそうとしてエッセイを書いてるわけじゃないぞ」
そもそも書いた本人の前で棒泣きする人がいて困ってるくらいなのだ……止めさせてくれと畑さんに交渉したが、桜才新聞で取ったアンケートでは続けろの声が多く止める事は出来なかったのだ。
「だからほら、そんなタカ兄の妹だからって私まで出来る子と思われてるんだよね」
「ふーん……」
「出来る兄を持つと大変なんだよ~。少しは私の苦労を考えてよね」
「まさか最後に否定が来るとは……それと、比べられるのが嫌なら、もう少し努力しろ。俺だって最初から出来てたわけじゃないんだぞ」
まだ文句を言いたそうだったコトミを部屋から追い出し、俺は課題を片づけるため机に向かった。
試験期間などというものはあっという間に終わり、我々は生徒会室で会議にいそしんでいた。
「さて、来週は桜才初行事、水泳大会が行われる。我々は実行委員と連携して大会を盛り上げなければならない」
「裏方の辛いところですね」
「そうね……津田、ここのところなんて答えた?」
「えっとそこは……」
会議をしながら、同学年の津田と萩村はテストの答え合わせをしている。学年トップと二位なので、大抵の答えは一緒だ。
「でも、裏方だから出来る楽しみ方とかあるじゃない?」
「例えば?」
「エッチなハプニングの演出とか!」
「ふむ……はみ毛か」
「………」
「あれ?」
普段ならここで津田のツッコミが入るはずなのだが、今回は入らなかった。私とアリアは疑問に思い津田を見ると……ものすごい形相で私たちを睨んでいた。
「ま、まぁ冗談はさておき……」
「冗談だったんですか?」
「あ、当たり前だろ!」
津田の視線が突き刺さる中、私とアリアは必死に会議をする事で誤魔化したのだった。だってあの目は興奮する事すら出来ないくらいの恐怖だったから……
生徒会の手伝いをするために、私はコトミとトッキーと一緒にプールへとやってきた。ボランティアなのでそれほど人は集まらないだろうと津田先輩がぼやいてたのを聞いて、私は手伝うと決心したのだ。
「何で私たちまで……」
「いいじゃん! 遊べるんだしー」
「遊ぶな!」
「ウゲェ!? タカ兄……」
コトミが遊ぼうとした途端、その背後に津田先輩が現れた。
「八月一日さんも時さんもありがとうございます。今日は大変だと思うけどよろしくね」
「は、はい!」
「まっ、来た以上は頑張りますよ」
津田先輩に話しかけられ、私はいつも以上に元気よく、トッキーは最低限の気力で返事をした。
「それじゃ、ここの担当は私だから」
「頼んだよ、萩村」
区画ごとに担当が決まっているようで、私たちが掃除する区画の担当は萩村先輩だった。ちょっと残念だけど、津田先輩にお礼を言ってもらっただけで私は頑張れる。
「ほらコトミちゃん。お兄さんに怒られるからしっかり掃除しなさい」
「分かってますけど……スズ先輩だって何となく気分が乗らない日ってあるでしょ?」
「……貴女の場合は常に気が乗って無いんじゃないの?」
萩村先輩の言葉に、妙に納得してしまった私とトッキー……コトミが気が乗ってる場面に出くわした事が無いのだ。
「それにしても……タカ兄の担当区画だけ妙に騒がしいですが、あれは何ですか?」
「津田の担当区画は三年生が主なのよ。それで津田も手を焼いてるんじゃないの」
「でもタカ兄なら年上だろうがなんだろうが構わず突っ込みますよ?」
「ツッコムでしょ?」
ニュアンスの違いを指摘する萩村先輩。確かにコトミが言ったニュアンスでは全く違う意味になってしまうような気が……
「お前ら……何で私が一番真面目に掃除してんだよ!」
「「「あっ……」」」
見た目ヤンキーのトッキーが一番真面目に掃除してるのに気づいて、私たちは掃除を開始する事にした……それにしても、出来ればあの区画が良かったな……
掃除を終え、私たちは生徒会室へ戻ってきた。
「ねぇシノちゃん、大会ではチーム組まない?」
「残念だがそれは出来ない」
「如何して?」
本気で分かってないのか、アリアは首を傾げている。
「自分の胸に手を当てて考えるがいい」
「う~ん……」
アリアが胸に手を当てる……その反動で揺れるアリアの巨乳……
「それだー! もー!!」
「会長がご乱心だ!?」
「落ち着け萩村。割と何時も通りだろ」
「……言われればそうかも」
おいそこ! 聞こえてるからな。
「まぁこれで準備は終わったし、後は当日を待つだけですね」
「そうだな! 津田」
「はい?」
「当日、興奮してたら容赦なく蹴り抜くからな!」
「……何を?」
津田は本当に分かってないようだったが、まぁ津田なら興奮する事も無いだろう。何故なら去年、我々の水着を見ても無反応だったからな! 今更ながら腹が立ってきたぞ……うら若き乙女の水着姿を見て興奮せんとは……
「当日は新聞部が取材するのでよろしく」
「……何時の間にいたんだ」
「割りと最初の方から」
いきなり会話に加わってきた畑に、私とアリアと萩村が驚きの態度を示したが、津田は気づいていた様で特に反応は見せなかった。
「それから津田君」
「何でしょう?」
「今年も客寄せパンダよろしく!」
「……その表現は気に喰わないんですが」
去年学園からの依頼で、津田の泳いでいるムービーが新入生募集に使われたのだ。その結果希望者が前年度の倍くらいになったらしい……さすが津田だな。
「じゃ、そういう事で」
畑が帰り、我々も帰る事にした、今から当日が楽しみだ!
次回水泳大会……ロマンスは起こるのか!?