中学時代はあまり交流のなかった人だけども、高校に入学してからはそれなりに付き合いがあった。と言ってもコトミの友人Aとしての認識だっただろう。それでも、先輩たちが生徒会を引退し、それに代わるように入った生徒会で親交を深め、私は津田先輩とお付き合いすることができた。
付き合いだした当初はいろいろと言われたり、陰で妬まれたりしたけど、コトミやトッキーが居てくれたお陰で滅入ることなく高校生活を送れている。
「それにしても、本当にマキがお義姉ちゃんになるなんてね」
「気が早すぎる。私も津田先輩もまだ高校生だよ」
「でも、いずれはそうなるでしょ? タカ兄が選んだ相手だから、多分そこまでいくだろうし」
「まぁ兄貴だしな」
コトミは兎も角、トッキーまでもがそんなことを言い出し、私は顔を赤くする。
「まぁマキにそのつもりがないなら、私がタカ兄にそう言っておくよ」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
私が大声で否定すると、コトミはニヤニヤと笑い出す。
「やっぱりマキも相当むっつりだよね。タカ兄との新婚生活を妄想しているんだから」
「今のは誘導尋問でしょうが!」
「引っかかった方が悪いんだよ」
コトミに一本取られた気がして、私は釈然としない気分になる。
「あっ、津田会長」
廊下に津田先輩の姿を見つけ、私は駆け寄る。津田先輩がこの教室に来る理由は私に用事かコトミが何かをやらかしたかのどちらかだが、明らかに私の顔を見て手招きしていたので生徒会の用事なんだろうと理解した。だって、個人的な用事なら携帯にメッセージが送られてくるから。
「八月一日さん、今日の生徒会活動は休止になった」
「そうなんですか? 何か問題でも?」
「スズの家の都合でね。振り替えで土曜日に登校してもらうことになるけど、大丈夫?」
「問題ありません」
津田先輩は学校では私のことを苗字で呼ぶし、私も津田先輩としか呼ばない。そのことを不思議そうに見る生徒は少なくないけど、事情を知っているコトミやトッキーは何も言わない。
「相変わらず公私混同しない人だね」
「家では名前で呼んでるのにね」
「べ、別にいいでしょ」
「二人のいちゃいちゃを見せられる私の気持ちにもなってよ」
「見たくないのなら、コトミは部屋で勉強してなさい。これ以上津田先輩に迷惑かけるなら、私が容赦しないから」
「うへぇ……厳しいお義姉ちゃんができちゃったよ」
コトミに釘を刺し、私は自分の席に戻る。そう、私たちは学校では以前の通りの付き合い方を続けているのだ。
振り替えで土曜日に登校し、生徒会作業を終えた帰り道。私はロッカーに預けていた荷物を持ってタカトシさんと合流する。
「荷物、持つよ」
「あ、ありがとうございます」
今日はこのまま津田家へお泊り。両親にはコトミの家に泊まると言ってあるので問題はないし、嘘も吐いていない。ただ、目的がコトミではなくタカトシさんだということを除いては。
「マキは優秀だから助かる」
「タカトシさんの教え方が良いんですよ」
「教えたことをすぐに吸収してくれるから、こちらとしても気持ちよく教えられるからね」
タカトシさんが比較対象として誰を思い浮かべているのか理解して、私は苦笑いを浮かべる。
「コトミと比べられても嬉しくないですよ」
「そうだろうね」
タカトシさんも苦笑いを浮かべている。手のかかる妹だと思っているんだろうな。
「それにしても、まさかタカトシさんとお付き合いできるとは思っていませんでしたよ」
「そう? マキは前々から俺に好意を向けてくれていたじゃないか」
「好意というか、憧れというか、そんな曖昧な気持ちでしたけどね」
初めて見たのは中学時代。サッカー部で活躍するタカトシさんを見て憧れ、そして高校で再会して自分の気持ちに気づいたという感じだ。
「まぁ、タカトシさんに出会う前にコトミと友達になっていたのがよかったのかもしれませんね。もし逆だったら、タカトシさん目当てでコトミに近づいたとか思われそうですし」
「誰もそんなこと思わないだろ」
「タカトシさんは、ご自分の人気を理解していなかったですからね」
タカトシさんは中学時代から人気が高く、付き合いたいと思っている女子生徒は沢山いた。そして少しでも近づこうとコトミと仲良くする女子も。
「まぁ、コトミはあんな性格だから、邪な気持ちで近づいてきた相手とも仲良くなれるからな」
「良い意味で鈍感ですからね」
「まったくだ」
二人して声を出して笑う。共通の話題がコトミというのもなんだか寂しいけど、こうしてタカトシさんと仲良くなれるきっかけをくれたコトミに、少し感謝してしまう。
「ただいま」
「お邪魔します」
津田家へやってきたが、どうやらコトミは出かけているようだ。
「ちゃんと宿題はやったんだろうな……」
「まぁまぁ、夜に確認すればいいですよ」
頼んでおいた洗濯物はしまってくれていると、タカトシさんはリビングに放りこまれている衣服を見てやれやれと肩を竦めて拾い出す。
「タカトシさん」
「何だ?」
普段なら届かないけど、タカトシさんがかがんでいる今がチャンスと思い、私は自分の唇を彼の唇に重ねる。
「いきなりだな」
「だって、誰もいないって思ったらしたくなってしまいまして」
「マキは相変わらず甘えん坊だな」
「ダメでしたか?」
厭らしい子だと思われたらどうしようと焦ったが、タカトシさんは笑顔で首を左右に振る。
「本当に嫌なら、気配が近づいてきた時点で止めてる」
「そうでしたね」
タカトシさんは人の気配とか考えが読める人だ。私程度が近づいてきたらすぐに分かる。そのうえで受け入れてくれているのだ。
「タカトシさん」
「ん?」
「大好きです!」
勢いよく抱き着き、そしてもう一度キスをする。これからもこんな時間が続くことを願って。