桜才学園での生活   作:猫林13世

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ムツミEND

 高校最後の大会。この舞台を目指してずっとやってきたから、たどり着けただけで嬉しいのだけど、まさか決勝まで勝ち進めるとは思っていなかった。

 

「相手は星恍女学院の津田ハナヨさんか」

 

 

 柔道の天才少女である津田さんと、こんな舞台で勝負できるとは思っていなかった。いくら桜才の中では最強と言われていても、外に出たら私はここまで来られる実力ではなかったと自覚している。

 ではなぜここまで勝ち進むことができたのか。それはタカトシ君の存在が大きいんだろうな。

 

「主将、ここで勝てば全国制覇です。頑張ってくださいね」

 

「団体戦は残念だったけど、個人ならムツミも負けてないって」

 

「みんな、頑張ってくるね」

 

 

 控室で柔道部のみんなにエールを貰い、私は会場へ向かう。観客はかなりの数入っているのだけども、私がいてほしいと思っている人はすぐに見つかった。

 

「(タカトシ君、私頑張るから)」

 

 

 三年生になっても一緒のクラスだったことがきっかけで、私は自分の中にあるタカトシ君への想いが恋だと自覚して告白した。そして付き合うことになり、勉強面や栄養面だけでなく精神面でもタカトシ君に支えてもらえることとなり、その結果がこの大会だろう。

 

「お久しぶりですね、三葉さん」

 

「練習試合以来ですね」

 

 

 相手はすでに世界に挑戦している猛者。ひいき目に見ても私の勝率は三割あればいい方だろう。そう、私一人だったら。

 

「(タカトシ君が応援してくれている。それだけで普段以上の力が出せそう)」

 

 

 タカトシ君がいるから何とかなる。そう思えるようになってから私の身体は以前以上に動くようになり、強敵相手でも善戦することができるようになった。

 

「始め!」

 

 

 審判の合図でお互いに組み合い、そしてお互いの力を認識しあう。やっぱり、津田さんの方が強い。

 

「(でも、負けたくない)」

 

 

 タカトシ君と同じ苗字ということで必要以上にライバル視しているのかもしれないけど、それ以外にも負けたくないと思う気持ちがあるんだろうな。だって、せっかくここまで来たんだから、最後は勝ちたいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局判定で負けてしまったが、それでも悔いがない試合ができた。

 

「三葉さん、お疲れ様」

 

「津田さん、おめでとう」

 

 

 表彰式が終わり、お互いの健闘をたたえあった後、私はタカトシ君に抱き着いて思いっきり泣いた。

 

「ゴメンタカトシ君、勝てなかった」

 

「お疲れ様。ムツミは頑張ってた」

 

「うん……」

 

 

 タカトシ君に名前を呼ばれるのはなんだか気恥ずかしいけど、改めて付き合ってるんだって実感できる。

 

「やっぱり強かったか」

 

「仕方ないよ。相手はすでに世界相手に戦ってるんだから。高校レベルの私じゃ歯が立たないよ」

 

「ムツミ、何時までも彼氏に慰めてもらってるのは良いけど、主将として挨拶して」

 

「あっ、うん」

 

 

 チリに呼ばれて、私は次期主将を指名するために一度タカトシ君から離れる。

 

「トッキー、来年はお願いね」

 

「分かりました、頑張ります」

 

 

 トッキーなら、私たちができなかった全国制覇を成し遂げてくれるだろう。私は自分の夢を後輩に託し、そしてチリたちとその場を去る。

 

「これで残る問題はムツミの学力だけだね」

 

「問題って?」

 

「だって、津田君と同じ大学に通うんでしょ? 今の学力じゃ到底無理だって」

 

「うっ!?」

 

 

 自分の学力がタカトシ君に遠く及ばないことは自覚している。それでもタカトシ君と同じ大学に通いたいという気持ちがあるのだ。チリの言うようにこれは問題だろう。

 

「で、でも三年になってからはそれなりに点数採れてるし」

 

「それなりじゃダメなことくらい、ムツミだって分かってるでしょ? 津田君は全教科満点なんだから」

 

「スズちゃんもだけど、どういう勉強してるんだろうね……」

 

 

 全ての教科で全ての問題を理解できるなんて、私にはできない。たぶん柔道の問題でもそんなことはできないだろう。

 

「とりあえず残りの期間はタカトシ君に付きっ切りで勉強教えてもらう」

 

「勉強って名目で他のことするんじゃないよ」

 

「他のこと?」

 

「こいつマジか……」

 

 

 なんだか呆れられたけど、とりあえず私は外で待っているタカトシ君の許へ急ぐ。

 

「お疲れ様、ムツミ」

 

「うん。これからは受験生として頑張る」

 

「それじゃあ、明日からウチで勉強を教えるから」

 

「た、タカトシ君の家で!?」

 

「別に俺がムツミの家に行くのでもいいけど」

 

「た、タカトシ君の家でお願い」

 

 

 どっちかの家に行くなんて、本当に付き合ってるんだな……てっきりタカトシ君は他の人と付き合うと思ってたから、いまだに緊張してしまう。

 

「それじゃあ、最低限の着替えと勉強道具を持ってきてくれ」

 

「着替え?」

 

「ムツミの学力だと、それくらいしても届かないかもしれないからな。少しでも無駄な時間を減らすために、夏休みの残りはウチに泊まって勉強してもらう」

 

「お、お泊り!? そ、それはもうちょっと大人になってからの方が……」

 

「? 何か勘違いしてるようだが、勉強だからな?」

 

「わ、分かってるよ」

 

 

 でも、男の子と同じ部屋でお泊りなんて、もっと先のことだと思ってた……

 

「タカトシ君」

 

「なんだ?」

 

「子供ができたらどうしよう」

 

「はぁ? ムツミは何を言ってるんだ?」

 

「だって、同じ部屋にお泊りして、キ、キスしちゃったりしたら」

 

「……保健体育も教えなきゃダメそうだな。俺もそれほど得意じゃないけど」

 

「何を――」

 

 

 言っているのと言おうとしたのだけども、タカトシ君にキスされて言えなかった。

 

「ムツミ」

 

「な、なに……」

 

「キスで子供はできない」

 

「えぇっ!?」

 

 

 今日一番大きな声が出た気がする……本当に、タカトシ君にはいろいろと教えてもらわないといけないみたい。


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