桜才学園での生活   作:猫林13世

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アリアEND

 高校、大学とあっという間に卒業して、私は家の手伝いをしている。とはいっても、来年には跡取りが入社してくるので、私はすぐに裏方に回るだろう。

 

「お嬢様、若旦那様がお帰りです」

 

「ありがとう」

 

 

 高校を卒業するタイミングで告白され、学生時代に結婚。彼は卒業してからの方がいいと言っていたのだけども、私が我慢できずにお願いしたのだ。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

 

 高校時代からタカトシ君のことは見てきているが、いまだに見飽きることはない。むしろどんどん沼に嵌っているんじゃないかってくらい惹かれている。

 

「俺の顔に何かついてます?」

 

「ううん、私の旦那様は今日もかっこいいなって思ってただけだよ」

 

「アリアはいつもそう言ってるからな」

 

 

 付き合っている時は『アリアさん』だったのだが、結婚してからは呼び捨てにしてもらっている。タカトシ君も初めの方はぎこちなかったけど、一年以上経てば普通に呼んでくれるようになった。

 

「若旦那様、今日のスケジュールです」

 

「どうして学生の身分である俺にこれほど仕事が回ってくるんですかね……」

 

「それは若旦那様が優秀だからです。大旦那様は若旦那様が卒業したら自分の地位をすべて譲るつもりでしょうから」

 

「それはさすがに早すぎだと思いますがね」

 

 

 タカトシ君の今の地位はあくまでも七条グループの系列でアルバイトしている学生でしかない。だが裏でグループ総帥の仕事を肩代わりしているのは、重役クラスであれば誰でも知っている、いわば公然の秘密状態なのだ。

 

「若旦那様が総帥になられれば、向こう数十年は七条グループは安泰。そうおっしゃっている方々も沢山おられますので」

 

「タカトシ君じゃなかったら、こんなにもスムーズに世代交代できなかっただろうって、私も言われるよ」

 

「アリアが継いでも問題なかったとは思うがな」

 

 

 そう言いながらもタカトシ君は仕事を片付けていく。高校時代もそうだったけど、相変わらず一個の仕事にかける時間が短い。それでいてミスがないのだから、本当に優秀なのだろう。

 

「あとはお世継ぎが誕生されれば、大旦那様も大奥様も安心して引退なされるでしょう」

 

「一応まだ俺は学生なんですが?」

 

「今時学生で親になることなんて珍しくありません。まして若旦那様と若奥様は学生結婚。何時お世継ぎができても不思議ではないと思いますが」

 

「タカトシ君、あまり積極的に求めてくれないもんね」

 

「せめて卒業するまでは待ってくださいよ」

 

 

 それなりに行為はするけど、ちゃんと避妊しているし私も安全な日しか誘わない。一度出来やすい日に誘ってみたのだけども、私が嘘を吐いているとタカトシ君に見破られてしてくれなかったのだ。

 

「というか出島さん」

 

「なんでしょうか、若旦那様」

 

「その呼び方、どうにかならないんですか?」

 

「タカトシ様がアリアお嬢様とご成婚なされ、いずれ七条グループのトップに立つお方なのは変わらない事実です。そして私はアリア様の従者。アリア様が総帥の妻として活動なされるのでしたら、私もそのお傍でお二人を支えるのが使命。そしてタカトシ様をそうお呼びするのが自然の流れというものです」

 

 

 出島さんの意気込みを聞いて、私は感動した。いずれは出島さんも結婚して辞めて行ってしまうのかと思っていたのに、私のことをそこまで思ってくれていたとは。

 

「そしてお二人の愛の結晶のお世話をするのを楽しみにしているのです」

 

「出島さん、その時はお願いね」

 

「お任せください。不肖出島サヤカ、命尽きるまでお二人にお仕えいたします」

 

 

 出島さんの気持ちを聞いて、私は嬉しくなる。子供の頃から沢山の従者がいたけど、ここまで私に尽くしてくれた従者は出島さんだけだから。

 

「アリアのことが好きなのは知っていますけど、寝室に侵入しようとする癖はそろそろ治してくれませんかね? 俺としても、優秀な従者を失いたくないので」

 

「こ、これからはなるべく我慢する所存ですので、折檻だけは何卒」

 

 

 よっぽど怖い目に遭ったのか、出島さんはタカトシ君に土下座をして許しを請う。確かにタカトシ君は怒るとものすごく怖いけど、結婚してからは私が怒られることは無くなった。

 

「そういえば、この前お母さんが来たんだけど」

 

「お義母さんが?」

 

「早く孫の顔が見たいって」

 

「お義母さんまで……俺が学生だってこと忘れてるんじゃないんですか?」

 

「確かにタカトシ君はまだ学生だけども、私は卒業してるじゃない? それに、子育て環境はしっかりしてるから、新卒でも十分対応できると思うって言ってたよ」

 

「そんなこと言って、ご自分が孫と遊びたいだけじゃないんですかね」

 

「かもしれないね。孫は可愛いって聞くし」

 

 

 私も自分の子供なら可愛いって思うだろうけど、やっぱり孫の方が可愛いと思うのだろうか?

 

「どうなんでしょうね。出島さん、これをお義父さんにお願いします」

 

「おや? もう終わられたのですね。相変わらずの仕事の速さです」

 

「感想は結構。それほど急ぎではないとはいえ、早く持っていくに越したことはありませんので」

 

「承りました」

 

 

 出島さんに書類を任せ、タカトシ君は一息吐く為に手を伸ばし――

 

「えっ?」

 

 

――急に引き寄せられキスされた。

 

「アリアが望んでくれているのは嬉しいが、やっぱり卒業するまで待ってくれ」

 

「う、うん……」

 

 

 今はこれで我慢してくれということなのだろうが、こんな不意打ちはズルい。こんな風にされたらタカトシ君に逆らえないって思っちゃうじゃない。

 

「タカトシ君が卒業したら、我慢できなくなっちゃうかもね」

 

「お手柔らかに頼む」

 

 

 来年の事を言えば鬼が笑うと言うが、笑われようが構わない。タカトシ君が卒業したらすぐにでも励むとしようと決心したのだった。


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