桜才学園での生活   作:猫林13世

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明日最終回にしたいので今日も投稿


卒業式

 生徒会選挙からあっという間に時が過ぎたような気がする。その間に文化祭やら体育祭やらがあったのだが、タカ兄が生徒会長である限り大きな問題が起こるはずもなく、平和な時間が流れていた。

 

「マキもだいぶ生徒会役員っぽくなってきたよね」

 

「いい加減慣れたってば」

 

「タカ兄とスズ先輩を目標にするのはやめたんだよね?」

 

「あの二人は別格過ぎるから」

 

 

 天才少女であるスズ先輩と、いろいろと高スペックなタカ兄を目標にしたところで、凡人には到達することはできない。そのことをマキも分かっていたんだろうけど、同じ生徒会役員としてそれなりに目指そうとは思ってしまうのだろうな。

 

「そういえば、この間のテストはコトミもまぁまぁだったみたいだね」

 

「今回平均以下があったらいろいろと危なかったからね」

 

 

 タカ兄とお義姉ちゃんに思いっきり押し込められたお陰で試験中はいつも以上にペンを走らせることができた。もちろん、試験後には何も残っていないレベルで燃え尽きていたのだが……

 

「これでようやく津田先輩も解放されるのかな?」

 

「まだ自力じゃ無理だけど、お母さんたちも帰ってこられるみたいだから、タカ兄に全部任せっきりって感じはもうなくなるかもね」

 

「小母さんたち、ようやく落ち着いたんだね」

 

 

 マキは私のお母さんたちと面識があるので、まるで自分の両親に久しぶりに会えるみたいなテンションで付き合ってくれている。

 

「これでようやく、タカ兄も彼女を作ろうって考えが持てるかもね」

 

「っ!」

 

 

 私が何気なくつぶやいた言葉に、マキが肩を跳ねらせる。

 

「(そういえば、マキも生徒会活動をするようになってからだいぶタカ兄との距離が縮まってるような気がする)」

 

 

 スズ先輩はそのままだが、シノ先輩やアリア先輩、カエデ先輩とかはタカ兄との時間が減ってる。そこだけ考えればマキが私のお義姉ちゃんになる可能性も十分あり得るということか。

 

「てか、兄貴の人気を考えたら、誰を選んでも未練が残りそうだけどな」

 

「トッキー、聞いてたんだ」

 

「最初からいただろ」

 

 

 

 トッキーはタカ兄に恋愛感情は抱いていないから他人事だが、確かにその通りかもしれない。もちろんタカ兄が選んだ人なら選ばれなかった人も納得はするだろう。だがタカ兄以上の男性に出会えるかどうかは分からないので、少なからず未練は残るだろうな。

 

「というか、兄貴が恋人を作れなかった原因はコトミだったもんな。その問題に一応の目途が立ったら、兄貴の心境にも変化があっても不思議じゃないよな」

 

「えへへ……」

 

 

 責められてるのが分かるので、私は愛想笑いで誤魔化す。タカ兄に恋人ができてほしいと思う反面、兄離れしなければいけないと思うと寂しいと思ってしまう自分を誤魔化したのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ私たちもこの桜才学園を卒業する。入学時から考えるとかなり濃い時間を過ごしたはずなのだが、思い出すのはタカトシやアリアたちと活動した生徒会長としての時間しか出てこないな。

 

「シノちゃん、泣くの早くない? 卒業式はこれからだよ?」

 

「いや、いろいろと思い出してたら、な」

 

 

 入場の前に感極まって泣いているところを見られてしまい、私は慌ててハンカチで目を抑える。

 

「シノちゃんは卒業生代表としての挨拶があるんだから、今から泣いてたらモタないよ?」

 

「分かってる。だが、アリアだって泣きそうな顔してるじゃないか」

 

「だって、明日からみんなと会うのが大変になると思うと、ね」

 

「会おうとすればいつでも会えるだろ」

 

 

 確かに同じ高校であることはもうないだろう。だがそれでも外で会おうとすれば会えるだろう。まぁ、新生活が落ち着くまでは難しいかもしれないが。

 

『卒業生、入場』

 

「おっ、いよいよだな」

 

「だね」

 

 

 司会の小山先生の合図で私たち卒業生が体育館へ入場する。ついこの間古谷先輩を見送ったと思っていたのだが、あれからもう二年も経っているのか……

 

「なんだか、あっという間の高校生活だったな」

 

「だね」

 

「おっ、タカトシと萩村だ」

 

 

 生徒会役員として脇に控えているタカトシと萩村を見つけ、私は自然と笑みがこぼれる。つい最近まで私の居場所はあの二人の側だった。だが今はこの距離が私の普通なのだ。

 

「シノちゃん?」

 

「いろいろあったな……」

 

「思い出に浸るのは式が終わってからにしようよ」

 

「分かってるんだが、こういざ自分が卒業生だと自覚してしまったら止まらなくて」

 

 

 私とアリアがひそひそ話しているのに気付いているのは数人。その内の一人であるタカトシは、一瞥しただけで肩を竦め見逃してくれている。おそらく、最後だからと思っているんだろうな。

 

「卒業生答辞。代表・天草シノ」

 

「はい!」

 

 

 タカトシの送辞が終わり、今度は私の番。元生徒会長として恥ずかしくない答辞をしなければ――などという意気込みもなく、慣れた感じで答辞を終わらせる。あぁ、これで本当に高校生活は終わりなんだな……

 

「卒業生退場」

 

 

 小山先生の合図に、私以外の数人も泣き始める。おそらくは高校生活が終わりだと実感したのだろう。

 

「あとは、タカトシが誰と付き合うのかだな」

 

「負けるつもりはないからね」

 

「あぁ。もちろん、他の連中にもだがな」

 

 

 タカトシの両親も日本に帰ってきて、コトミの成績にも一応の目途がついた。タカトシの心境にも変化があってもおかしくないので、私たちはこの後タカトシに告白するつもりだ。誰を選んでも恨みっこなし。最後の最後で大勝負だな。




卒業式で泣くことはなかったな

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