桜才学園での生活   作:猫林13世

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そこまで変わってない


世代交代後の心境

 発足式も済み、私もいよいよ生徒会役員になったんだという実感がわいてくる。役職は津田先輩が会長に昇格したことで空いた副会長。これはつまり、次の生徒会長候補ということだ。注目されるのも仕方がない。

 

「マキ、おはよー」

 

「おはよう」

 

「顔が良くないよ?」

 

「この顔は生まれつき。コトミが言いたいのは顔色が良くない、でしょ?」

 

「そうそう、それ」

 

 

 相変わらずの友人のお陰で、少しは気持ちに余裕が出てくる。コトミがそれを見越して声をかけてきたとは思えないけど、こういうところは立派だと思える。

 

「そういえばタカ兄も生徒会に入った時は緊張してたな」

 

「そうなの? 津田先輩なら淡々と仕事をこなせそうだけど」

 

「タカ兄の場合は共学化して初めての男子役員ってこともあっただろうから。まぁ、今回は男子初の生徒会長って肩書まであるんだけど」

 

「津田先輩が目立ってるから忘れてたけど、ここって共学化したばっかりだったね」

 

 

 津田先輩があまりにも自然に中核にいるので忘れがちだが、桜才学園は元女子高で、共学化したのは二年前。つまり三年生に男子はおらず、津田先輩が生徒会に入った時にはその上の代も残っていたのだ。今以上に男子の数は少なかったはずだ。緊張しないはずがないではないか。

 

「そんなタカ兄と比べれば、マキにかかってるプレッシャーなんて微々たるものだと思うよ」

 

「まぁ、コトミにかかってる『津田先輩の妹』ってプレッシャーくらいだとは思うけどね」

 

「そ、それは相当だね……」

 

 

 あまりにも大したことないみたいなことを言い出したので、私はコトミが感じているプレッシャーを引き合いに出した。

 

「はよー」

 

「あっ、トッキー」

 

「朝から何の話だ?」

 

「マキにかかってるプレッシャーの話だよ」

 

 

 トッキーも加わり、私はいつも通りに振舞おうと心がける。コトミだけでなくトッキーにまで心配されたら、自分が相当やばい状態なのではないかと思ってしまうから。

 

「始めの内は失敗しても兄貴やちっこい先輩がフォローしてくれるだろうから、そこまで気負わなくても良いんじゃないか? てか、あの二人がマキに完璧を押し付けてくるとも思えないし」

 

「確かに津田先輩や萩村先輩はそんなことしてこないだろうけど、周りの人がどう思ってるかって考えると、ね」

 

「最初からできる人間なんてそうそういないんだから、気にし過ぎだと思うけどな」

 

 

 トッキーに言われ、私は自分自身が一番自分を追い込んでいたことに気づく。

 

「ありがとう、トッキー」

 

「? どういたしまして」

 

 

 なんでお礼を言われたのか分からないという顔のトッキーを見て、私は小さく笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒会を引退し、いよいよ受験シーズンへ突入――

 

「と、意気込んだのは良かったんだけどな」

 

「シノちゃん、推薦であっさり決まっちゃったもんね」

 

「そこまで評価が高かったとは思わなかったんだが」

 

 

――課外活動などが評価され、私はあっさり大学生になれることが決定した。

 

「私もほぼ合格間違いなしって家庭教師に言われてるし、そこまで気合入れなくてもよさそうかな」

 

「いつの間に家庭教師なんてつけたんだ?」

 

「出島さんだけどね~」

 

「あの人、そこまでできるのか」

 

「このためだけに猛勉強したらしいよ~」

 

 

 あの人のことだから、家庭教師とアリアを二人きりにして過ちが起きるんじゃないかと思ったんだろうな。そもそも七条家が雇う家庭教師にそんな不届き者が選ばれるわけないのに。

 

「兎に角そこまで受験生しなくていいのは良いことだね~」

 

「生徒会OGとして、後輩の仕事っぷりを見に行けるしな」

 

「引退した人がしょっちゅう顔を出すのは後輩を委縮させてしまいますよ」

 

「おぉ、五十嵐か」

 

 

 こいつも私と同じく推薦で合格が決まっているので、受験生らしい雰囲気はない。むしろ問題行動が多すぎた畑が焦ってる感じだ。

 

「普段からタカトシ君ばかり目立っていましたが、天草さんや七条さんも立派な生徒会役員だったということですね」

 

「言われても仕方ないと自覚してはいるが、もう少しくらい評価された余韻に浸らせてくれてもいいだろ?」

 

「仕事っぷりは評価してますけど、それ以外は評価できませんでしたから」

 

「カエデちゃんにもかなり怒られてたもんね~」

 

 

 風紀委員長として仕方がなかったとはいえ、五十嵐は少し頭が固すぎたような気がする。もう少しくらい柔軟な考えができないと、何時まで経っても恋人ができないだろうし。

 

「そういえば五十嵐」

 

「何でしょう?」

 

「どうして女子大ではなく共学にしたんだ?」

 

「体質的に難しいのは分かっていましたけど、何時までも逃げていたら克服できないので」

 

「つまり大学ではヤリ〇ンデビューか!」

 

「そういうところを評価できないと言っているんです!」

 

「おっと。浮かれすぎて昔の癖が」

 

 

 タカトシが私たちの枷として機能していたから後半は大人しかったのだが、最近はタカトシと行動することが減っているから枷が緩んでいるのだろうな。

 

「大学に通うようになったら気を付けないとな」

 

「冗談で済むのは高校時代までだね」

 

「そもそも、高校でも冗談で済まないはずなんですけどね……」

 

「その辺りは、前任が古谷先輩で、卒業してからはタカトシが居てくれたから」

 

「ほんと、タカトシ君には感謝しかないよね~」

 

 

 しみじみとそんなことを考えていると、窓越しにタカトシの姿を見つける。新生徒会長としてしっかりと仕事しているんだと思い、なんだか嬉しくなる半面、隣にいる八月一日に嫉妬する自分に気づき、複雑な思いを抱いたのだった。




感謝するだけじゃ足りない気がするが……

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