桜才学園での生活   作:猫林13世

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終わりが近い


生徒会役員選挙

 生徒会選挙前日、他に候補者がないので信任投票だというのに、マキの顔は青褪めている。

 

「マキ、何をそんなに緊張してるの?」

 

「だって、明日の演説失敗したらどうしようって……」

 

「畑先輩の調査の結果、選挙をするまでもなく三人は当確だって言われてるんだし、別に失敗しても問題ないと思うけどな」

 

 

 そもそもマキを落選させたとしても、タカ兄から指名が入るだろうからどちらにしてもマキは生徒会役員になれるのだが、どうやらそのことを知らないらしい。

 

「津田先輩と萩村先輩だけで生徒会は運営できるだろうし、私がいたとしても何もできないだろうから、ひょっとしたらそういう考えの人が不支持に回るかもしれないし……」

 

「いや、タカ兄とスズ先輩だけじゃ生徒会は回らないと思うけど」

 

 

 実際タカ兄一人で回してるような感じがしているけど、今の生徒会役員は四人だ。それが半分になったらさすがのタカ兄だって厳しいと思うだろう。

 

「トッキーもなんとか言ってあげてよ」

 

「てか、わざわざマキを落選させてまで生徒会役員になりたいヤツがいるとは思えねぇんだけど」

 

「そんな人がいるのなら、最初から出馬してるよ」

 

「そうかな……」

 

 

 そもそも不純な動機で立候補したとしても、タカ兄に見抜かれて選管から指導されるのがオチだろう。例えば、私が立候補しようとしたら、全力で怒られただろう。

 

「今回の選挙はこの間のお祭りのような感じじゃないんだし」

 

「よく立候補しようとしたよね、あの時は」

 

「畑先輩から頼まれたんだよ。盛り上げるのに手を貸してほしいって」

 

 

 実際一定以上の盛り上がりを見せたので、畑先輩の目論見は成功したと言えるだろう。まぁ、あの後タカ兄にこってり絞られたようだけど。

 

「もしあの選挙でコトミが勝ってたとしても、すぐに不信任案が提出されてリコールされてただろうけどね」

 

「リコール? トッキー、どういう意味か分かる?」

 

「分かるわけないだろ」

 

「もっと勉強しなきゃダメだよ」

 

 

 マキが使った難しい単語に、私とトッキーは首を傾げたのだが、マキには呆れられてしまった。

 

「てか、推薦責任者がタカ兄なんだから、何も問題ないと思うんだけど」

 

「よく兄貴が引き受けてくれたよな。自身も立候補者なのに」

 

「津田先輩なら推薦責任者が居なくても問題ないだろうし、時間的余裕があるかなってお願いしたら引き受けてくれたんだよ」

 

 

 ちなみに、タカ兄の推薦責任者はシノ会長で、スズ先輩の推薦責任者はアリア先輩だ。現役の生徒会役員が推薦するので、この二人はどう間違っても当選すると言われている。

 一方のマキも、一年の中では成績上位者であり『あの』タカ兄が推薦する候補者だ。マキのことは兎も角タカ兄のことを下に見れる生徒など、この学校にはいないだろう。

 

「とりあえず明日に備えてそろそろ帰ろうか。何時までも学食でおしゃべりしてるわけにもいかないし」

 

「そうだね……はぁ、緊張する」

 

「今からしてたら身が持たないって」

 

 

 三人で駅まで向かう間も、マキを励まし続けたのだけども、あまり効果は見られない。これは明日の本番、何かミスを犯すんじゃないだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄貴、ちっこい先輩と淡々と演説をしていき、その推薦責任者も問題なく演説を済ませた。

 

「(次はマキの番だね)」

 

「(教室でもあれだけ緊張していたから、何か失敗しないか心配だ)」

 

「(トッキーじゃないんだから、大丈夫だとは思うけど)」

 

「(どういう意味だ!)」

 

 

 確かに私はドジを踏むことが多いが、こういう時くらいしっかりできる。だが責任感が強すぎるが故にマキは何かやらかさないか心配なのだ。

 

「(まぁ、マキが失敗してもタカ兄がフォローするだろうから問題ないでしょ)」

 

「(兄貴だもんな)」

 

 

 マキのことも信頼しているが、兄貴に対する信頼は揺るがないものだ。コトミの兄貴を長年やってきているというだけでも尊敬できるのに、あの成績に指導力、文才に運動能力まであり、家事も万能という非の打ちどころのない能力。それでいてそれを鼻にかけない性格。あの人を悪く言う方が難しいだろう。

 

「(ところどころ噛んでたけど、マキの演説は成功みたいだね)」

 

「(噛んだところが逆に好印象になってる雰囲気だな。前の四人はあまりにもすらすら喋っていたから)」

 

 

 こういう場面に慣れているというのもあるだろうが、前の四人は噛むどころか原稿すら見ずに演説していたのだ。私たちとは違う人間なのだと思われてしまっても文句は言えない。だがマキは原稿を確認しながら演説し、ところどころ噛んでしまった。それが逆に私たちと同じ人間なのかと思われているみたいだ。

 

「(タカ兄の推薦理由も伝えられたし、これはやっぱりマキも当選だね)」

 

「(そもそも信任投票だっての)」

 

 

 演説会が終わり投票作業に入り、私たちは三人ともに〇をつけて投票用紙を提出。その日のうちに集計が行われるらしく、その間私たちは教室で待機だ。

 

「マキ、お疲れ様」

 

「緊張したよ……」

 

「その緊張が逆に好印象だったよ」

 

「そうかな?」

 

 

 コトミに励まされてもあまり効果はないだろうが、こういうことがサラッとできるあたり人付き合いが上手いんだろうな。

 

「あっ、発表された」

 

 

 新聞部と選管の共同サイトで選挙結果が発表され、無事マキも当選していた。

 

「おめでとう」

 

「あ、ありがとう」

 

「これでマキも生徒会役員だね」

 

 

 最初から分かっていた結果だが、友達が当選したのは素直に嬉しい。クラスメイトたちもマキを称え始め、マキもようやく当選したと自覚できたようだった。




まぁ順当ですけど

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