生徒会選挙中なので、私たちはそこまで仕事があるわけではない。普通受験生なのだから勉強とかした方がいいのだろうが、今日は息抜きをすると決めていたので勉強をするつもりはない。
「まさかカナも息抜きする予定だったとはな」
「シノっちやアリアっちのように私はそこまで余裕があるわけじゃないんですけど、息抜きは大事ですから」
「それでどうしてウチに集まるんですかね?」
たまたまアリアと津田家へ遊びに行こうと言っていたのだが、そのことをタカトシに伝え忘れていたのだ。まぁ、こいつは私たちの思考を読んでいたから分かっていただろうけど。
「先輩たちが来てくれたので、せっかくだから遊びましょうよ」
「お前は宿題終わらせろ」
「今日は本当に宿題ないんだよ!」
どれだけ信用されていないのか、タカトシは携帯を取り出して誰かに確認している。
「タカ兄、何してるの?」
「八月一日さんに確認している」
「タカ兄、何時の間にマキの連絡先を……」
「生徒会のことでいろいろと聞きたいと言われて、この間」
八月一日がタカトシに恋慕しているのは知っていたが、まさか連絡先を入手するまで進展していたとは……
「(気にしていなかったが、意外とライバルになるかもしれないな)」
「シノちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
中学時代のタカトシを知っているというアドバンテージがある分、八月一日は要注意人物だと分かっていたのだが、いつも一歩以上下がって話していたから気にしていなかった。だが、どうやらあいつも本格的に参戦するようだな。
「確認が取れた。確かに宿題はないようだな」
「だから言ったじゃん!」
「だが、小テストで平均点以下だったらしいな」
「うっ……」
「次そんな点数だったら、容赦なくゲームを捨てるからな」
「が、頑張ります」
タカトシに釘を刺され、さっきまでの勢いがなくなったコトミを、私たち三人は同情的な目で眺めるのだった。
とりあえずコトちゃんに対する補習は終わり、本当に遊べることになった。
「さぁ、嫌なことは忘れて遊びましょう!」
「そうやってすぐに忘れちゃうから、テストで大変な目に遭うんだよ?」
「分かってるんですけどね……」
毎回反省だけはしっかりとしてるのだが、コトちゃんの悪い癖でそのことをすぐに忘れてしまうのだ。だから毎回タカ君に怒られても同じミスを犯すのだろう。
「それで、何して遊ぶんだ?」
「たまにはアナログゲームをしましょう」
そういってコトちゃんがトランプを取り出す。今まで何度か遊んだことはあるけど、この四人でトランプをするということはなかったかもしれない。
「ところで、タカトシはどこに行ったんだ?」
「タカ兄なら晩御飯の準備を始めてますよ」
もうそんな時間だったのか、タカ君はキッチンで作業している。普通こういうのは私たちの誰かがやるのでしょうが、タカ君相手ならこれが普通なのです。
「それじゃあババ抜きでもしますか」
「普通にやっても面白くないので、一位の人がビリの人に命令できる罰ゲーム付きでやりましょう」
「タカ君がいないから、罰ゲームといっても面白みがなさそうですけどね」
そんなことを言っていたが――
「私が一位ですね」
「私がビリか……」
――意外と盛り上がりもう十回もババ抜きをしていた。
「それじゃあシノっち、名前で呼んでください」
「それくらいなら――」
「一人称を」
「羞恥プレイだとっ!?」
そもそもシノっちは普段から私のことを名前で呼んでいるので、今更そんなことを命令しても罰にはならない。なので私は一人称を変える罰を与えたのだ。
「し、シノ次は負けないからな!」
「シノちゃん、顔真っ赤だよ~」
私が課した罰でシノっちは顔を真っ赤にさせながらババ抜きを再開させる。今回はシノっちがさっさと上がってしまったので、追加の羞恥プレイを課すことはできない。
「やったー、シノが一位だー!」
「私がビリだね~。それでシノちゃん、私に対する罰は?」
「この罰を肩代わりしてくれ」
「シノちゃんの罰を、アリアがすればいいんだね」
アリアっちは意外とノリノリで私がシノっちに課した罰を肩代わりする。しかし、シノっちがやってるのを見てるのは楽しかったのに、アリアっちがやってるのを見ても微笑ましいと思ってしまうのはどうしてなのでしょう。
「そろそろ切り上げたらどうですか?」
「もうこんな時間か……」
「せっかくですから先輩たちも晩御飯食べて行ってくださいよ」
「お前が作ったみたいに言うな」
「でも、タカ兄のことだから先輩たちの分も作ってるんでしょ?」
コトちゃんの言葉に、タカ君は何も答えず部屋から出て行ってしまう。
「せっかくだし、みんなで晩御飯にしましょうか」
「帰りはアリアが出島さんに電話して迎えに来てもらうから、シノちゃんも安心だよ」
「てか、この罰ゲームは何時までやるんだ?」
「とりあえず、ご飯を食べ終わるまではやってくださいね」
「よくよく考えたら、コトミがビリになることはなかったな」
「ゲームだけはコトミちゃんに勝てなさそうだね~」
最初は乗り気ではなかったけど、結局はみんなで楽しめたので、提案してくれたコトちゃんには感謝しておかないと。だけど、言葉にすると調子に乗るので、心の中でしておこう。
シノは兎も角アリアは違和感がなかったな……