桜才学園での生活   作:猫林13世

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自分もたまに間違える


曜日間違い

 生徒会選挙中だというのに、校内の雰囲気はそこまで盛り上がってる様子はない。もともとお祭り騒ぎするよなことではないのだが、今年はタカトシ一強なのでこの間の生徒会長選挙のような盛り上がりはないのだろう。

 

「それにしても、ここ最近タカトシと一緒に行動する回数が減ってる気がするのよね」

 

「そりゃそうでしょ。スズちゃんも生徒会選挙に立候補してるんだし、候補者同士が一緒にいるのは避けた方がいいでしょ」

 

「私はあくまでも会計よ? 会長候補ならともかく」

 

「畑先輩が津田君だけが候補で良いのかって煽ってるらしいから」

 

「私は会長なんてやらないって言ってるのに」

 

 

 私が壇上に立っても見えないからというそれらしい理由をつけて会長職を辞しているのだが、本音はタカトシ以上に会長職を全うできる気がしないからだ。

 

「おはよう」

 

「おはようタカトシ。今日はもう木曜日なのに、今週初めて話した気がするわね」

 

「今日水曜だけど?」

 

「えっ?」

 

 

 タカトシに言われて携帯で日付を確認すると、確かに水曜日だ。

 

「時間割り間違えた!?」

 

「スズちゃんにしては珍しいミスだね」

 

「教科書見せようか?」

 

「お願い……」

 

 

 私の席の隣はタカトシなので、必然的にタカトシに教科書を見せてもらうことになる。高校生にもなって机をくっつけて授業を受けることになるとは……

 

「恥ずかしくて顔が熱い」

 

「見てるこっちも顔が熱いよ」

 

「冷やかさないでよ」

 

 

 ネネや他のクラスメイトから冷やかされ、私は本気で困って見せる。ムツミだけは微妙な気持ちで私のことを見ていることに気づいたから。

 

「それにしても、タカトシは教科書に落書きとかしてないのね」

 

「する必要がないだろ?」

 

「前にコトミに勉強を教えてた時、あの子は落書きしてたから」

 

「そんなことしてる暇があるなら少しでも真面目に授業を聞けって言ってるんだけどな」

 

 

 タカトシに教科書を見せてもらいながら授業を受けていると、なんだかいつも以上に頭がスッキリしてる気がする。

 

「それでは萩村さん、この問題をお願いします」

 

「はい」

 

 

 教師に指名され、私は黒板に方程式を書いていく。

 

「ありがとうございます。ここは以前教えた公式の応用になりますので、皆さんもちゃんと勉強しておいてください」

 

 

 浮かれすぎてミスを犯すなどということはなく、私はしっかりと問題を解いてみせた。

 

「では、今日はこの辺で」

 

 

 先生が公式の説明をしたところで時間になり、授業が終わる。大抵のクラスメイトは解放されて喜んでいるが、私はもう少しこの時間を楽しみたかった。

 

「もう終わりか。やっぱり時間が流れるのが早く感じてるよ」

 

「だから時間割りも間違えたんだね」

 

「もうそれは言わないでって!」

 

 

 ネネにからかわれ、私はネネを追いかける。

 

「廊下は走るなよ」

 

「分かってるわよ」

 

 

 タカトシに注意され、私とネネは早足で廊下を進む。

 

「スズちゃんも随分と積極的になってるよね」

 

「どういう意味よ?」

 

「だって、スズちゃんが時間割りを間違えるなんてありえないでしょ? ああやって教室で津田君といちゃいちゃすることで、他の女子に対する牽制してるんじゃないの?」

 

「そんなわけあるか! 素で間違えたんだよ」

 

 

 なんとも恥ずかしい宣言だが、本気で今日が木曜日だと思っていたのだ。そこまで疲れてるつもりはなかったのだが、どうやら知らず知らずに疲れが溜まっているようね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の最後は体育ということで、私は漸く自分の本領発揮できると張り切っている。

 

「スズちゃん、私のサイズで大丈夫?」

 

「少し大きいけど、問題ないわ」

 

 

 体操着も忘れたスズちゃんに、私のジャージを貸したのだが、少しぶかぶかのようだ。

 

「今日はそこまで激しい運動じゃなさそうだし、気を付けておけばずり落ちるってことはなさそうだね」

 

「せっかく私のサイズを貸して、スズちゃんに強制露出をさせようと思ってたのに」

 

「ネネのサイズって、私とそこまで変わらないんじゃないの?」

 

「縦は兎も角横はね……」

 

 

 ネネの言葉の意味が分からず首をかしげたが、スズちゃんはネネに同情的な視線を向けている。

 

「どういうこと?」

 

「ムツミは普段から運動してるからスリムだけど、ネネはそこまで痩せてないってことよ」

 

「スズちゃん!? それってさっきまでからかってた私に対する仕返しなの!?」

 

「さぁ、どうかしらね」

 

 

 ジャージが落ちないように気を付けながら運動をしているスズちゃんを、私は少し羨ましく思う。

 

「(私が教科書を忘れたらタカトシ君、見せてくれるのかな?)」

 

 

 残念ながら席が隣じゃないのでありえないのだけど、もし私が隣の席で、教科書を忘れたらタカトシ君はスズちゃんと同じように私に見せてくれるのだろうか?

 

「ところで、どうして男子はマラソンなんだろうね?」

 

「タカトシ以外の男子がやらかして、連帯責任らしい」

 

「巻き込まれたタカトシ君はもう終わってるみたいだけどね」

 

「相変わらず他の男子は体力がないわね」

 

「仕方ないんじゃない? 津田君以外の男子は自家発電で体力を消耗してるだろうし」

 

「タカトシに失礼だろうが! そもそもマラソンになったのもタカトシは関係ないんだから」

 

 

 自家発電が何か分からなかったが、どうやらタカトシ君には関係がないものだということは分かる。とりあえずタカトシ君に確認して変な目で見られないようにしないと。




巻き込まれ系男子のタカトシ

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