桜才学園での生活   作:猫林13世

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凄いのは昔から


タカトシの過去

 今日の体育は男子がサッカー、女子は陸上だった。女子の体育はそこまできつくないので、男子のサッカーを見学している生徒もちらほらと見受けられる。

 

「スズちゃん」

 

「ネネはまだノルマ達成してないんじゃないの?」

 

「さすがにちょっと休憩。連続でやっても結果は出ないし」

 

「そんなもん?」

 

 

 私は三回でノルマ達成したし、ムツミに関しては最初からノルマ以上の結果を残してるのですることがない。なので男子のサッカーを見学しているのだ。

 

「スズちゃん、さっきから津田君しか見て無くない?」

 

「ほとんどの時間タカトシがボールを持ってるんだから仕方ないじゃない」

 

 

 他の男子は最低限参加してるだけで、ボールはタカトシに回している。タカトシも無理にチームプレイをしようとはせず、攻められるときは自分一人で攻め込んでいる。

 

「それにしても、もったいないよね」

 

「何が?」

 

 

 ネネが何を以てもったいないと言ったのか分からなかったので、私は問い返す。

 

「だって、あれだけの身体能力があるのに、津田君は何も部活やってないわけでしょ? もし部活やってたら全国制覇だって夢じゃなかったかもしれないのに」

 

「タカトシ一人じゃ難しいと思うわよ?」

 

「別に団体競技じゃなくても、個人競技でもいいわけだし」

 

「まぁ、何をやらせても超高校生級なのは認めるけどね」

 

 

 弱点らしい弱点がないのが憎たらしいけども、そこが魅力でもある。私は暫くネネとおしゃべりしていたのだが、その間もタカトシが絶え間なくゴールに襲い掛かっていた。

 

「お疲れ様」

 

「スズも」

 

 

 授業が終わり、私はタカトシに話しかける。他の女子から鋭い視線を向けられているが、この場所を譲るつもりはない。

 

「他がやる気がなかった分もあるかもしれないけど、凄い活躍だったわね」

 

「そうかな? まぁ、一応試合だったから」

 

「相変わらず真面目ね」

 

 

 タカトシと話しながら更衣室へ向かう。こういうことができるのは、クラスが一緒だからだろう。

 

「津田君の括約筋が凄かったと萩村女史が告白、っと」

 

「相変わらず神出鬼没ですね、貴女は」

 

 

 途中で畑さんを捕まえてお説教をしたので、生徒会作業には少し遅れてしまった。

 

「遅かったな」

 

「畑さんにお説教してたので」

 

「なるほどな。ところで、さっきの時間グラウンドに黄色い声が上がっていたのだが、何かあったのか?」

 

「かくかくしかじか」

 

 

 会長にさっきの授業中のことを説明している横で、タカトシは今日の資料に目を通している。ここで会話に加わらないのも、真面目よね……

 

「なるほどな。タカトシの活躍に対する歓声だったのか、あれは」

 

「正式な試合じゃなくて授業の一環なのに、凄い歓声でしたからね」

 

「そりゃ、タカ兄は幼少期『黄金の右』って呼ばれてたくらいですからね!」

 

「急に入ってくるな」

 

 

 ノックもなしに生徒会室に入ってきたコトミに一応の注意をする会長だが、彼女の意識はタカトシの過去に向いている。

 

「それで、幼少期のタカトシは凄かったのか?」

 

「ジュニアユースから声がかかるくらいでしたから」

 

「それは凄いな! だが、入らなかったんだろ?」

 

 

 もしそのまま入団し、プロにでもなっていたら私たちと会うことはなかっただろう。あまり高くない確率ではあるけど、幼少期に入団するという決断をしてくれなくて良かったと思う。

 

「その時から私が問題児でしたから、タカ兄の時間を私が奪ってたんですよ」

 

「自覚してるなら改善しろ?」

 

「努力はしてるんですけどね」

 

 

 どうやらコトミが原因でタカトシはジュニアユースへ所属しなかったらしい。普段ならコトミのだらしなさに呆れるところだけども、今だけはそのだらしなさへ感謝しておこう。

 

「そういえば、コトミは何の用でここに来たんだ? 一応関係者以外立ち入り禁止なんだ。気軽に遊びに来られても困る」

 

「そうでした! これ、柔道部の活動報告書です。提出が遅れて申し訳ありませんでした」

 

「ちゃんとマネージャーをしてるんだな、コトミも」

 

 

 裏ではタカトシの方がマネージャー業をしていると言われているけども、コトミも意外と頑張っているようだ。まぁ、こうやって提出期限に遅れたりするのは相変わらずなんだろうけども。

 

「それと、今度の生徒会役員選挙ですけど、立候補するにはどうすればいいんですか?」

 

「コトミ、あんた立候補するの?」

 

「いえ、私ではなくマキが」

 

 

 さすがにコトミが立候補してもにぎやかしにしかならないだろう。それは以前の会長選挙で証明されているし。

 

「八月一日か。あいつなら立派に生徒会役員を務められるだろうな」

 

「別に特別な条件はないわよ。選管に立候補の旨を伝え、問題なしと判断されれば正式に候補者になれるから」

 

「まぁ、どうせタカ兄の一人勝ちで、スズ先輩も再任でしょうけどね。波乱なんてないでしょうけども、一応選挙するから聞いておこうと思いまして」

 

「コトミだったら全力で止めたところだが、八月一日なら問題ないだろ。これで次の代の生徒会も安泰だな」

 

「というか会長、さっきからタカ兄一人で作業してますけど、二人は良いんですか? というか、アリア先輩はどちらに?」

 

「「あっ」」

 

 

 アリアは所用で今日は欠席だが、私と萩村には仕事があった。だがタカトシが黙々とその分も終わらせてしまったので、私と萩村はなんとも気まずい気分でコトミを生徒会室から追い出したのだった。




コトミが問題児なのも昔から

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