桜才学園での生活   作:猫林13世

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風情には興味ないですね


風情を求めて

 最近は先輩たちも大人しくしてくれているので、タカトシも心穏やかな表情をしていることが多い。そのせいで、沢山の女子生徒がより魅了されているのだが本人はそんなこと気にしている様子もない。というか、気づいているが気にしていないという感じだ。

 

「スズ、どうしたの?」

 

「何でもないわよ。それでパリィ、何か用事?」

 

 

 考え事をしていたせいか、パリィの接近に気づけなかった。さすがにタカトシではないので、遠くから近づいてきていたら分からなかったが、まさかここまで接近していたのに気づけなかったとは……

 

「この間スズがお勧めしてくれたお蕎麦屋さんに行ってきたんだよ」

 

「そうなのね。迷わなかった?」

 

「迷った」

 

「あっ、やっぱり」

 

 

 あのお店は少しわかりにくい場所にあるので、初めての人はだいたい迷うらしい。パリィも多分に漏れず迷ったらしい。

 

「私も一緒に行ければよかったんだけど、その日は先約があったからね」

 

「でも、通りかかったケーサツの人が教えてくれた」

 

「それはよかったわね」

 

 

 最近では通りすがりの人に道を尋ねるのも憚られるし、聞いても分からないと答えられたら困ってしまうから、警察が通りかかったのはラッキーだったと言えるだろう。

 

「何の話?」

 

「私がケーサツの厄介になった話」

 

「誤解が生まれるぞ!?」

 

 

 途中参加のネネにかいつまんで説明したせいで、とんでもない誤解が生まれそうだったので、私はネネに詳細を説明した。

 

「凄く美味しかった。さすがスズのお勧め」

 

「実は私も会長から教えてもらったんだけどね」

 

「そうなの? シノってああいうお店もっと知ってるのかな?」

 

「どうかしら? その辺は今度聞いてみたら?」

 

 

 パリィは私と違って毎日会長と会うわけではない。こっちで聞いても良いのだけど、パリィがどんな店を望んでいるのか分からない。

 

「気に入ったから写真も撮ったんだ」

 

「写真? ちゃんと許可取ったわよね?」

 

「もちろん」

 

 

 店によっては写真お断りの場所もある。ちゃんと店主の許可を取ったのならこれ以上気にすることもないだろう。

 

「ほら」

 

「のれん?」

 

「風情があって好き」

 

「さすがパリィね」

 

 

 今時の高校生でのれんに風情を感じる人なんてどれくらいいるのかしら? パリィは日本人ではないから感じられるのかもしれないけど、そういうところは見習いたいなと思う。

 

「それだったら私の行きつけのお店に行く? のれんがあるんだけど」

 

「ほんと? どういうお店?」

 

「掘り出し物があってね」

 

「高校生が入っちゃいかん!」

 

 

 ネネがどういう店を想像しているのか分かってしまう自分が嫌だけども、ある意味純粋なパリィをネネ色に染めたら大変なことになってしまう。

 

「のれんをくぐりたいのなら、またそういうお店を探しておくから」

 

「分かった」

 

「スズちゃんも一緒に行く?」

 

「行かん! ……行かん!」

 

 

 大事なことなので二回言っておく。間違ってもネネと同族なんて思われたくないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は宿題もちゃんと終わらせ――お義姉ちゃんに散々説明してもらったけど――ので、まったりとした時間を過ごせている。

 

「タカ兄とお義姉ちゃんのお陰で、最近は突発的な小テストでも平均点は採れるようになったよ」

 

「あれだけ説明して平均点しか採れないのは問題だが、赤点じゃなくなっただけマシか」

 

「そもそもギリギリで滑り込んだ私に、桜才のレベルは高いんだって」

 

 

 面接官が横島先生だったから合格したようなものだし、そもそもあの時点では私の学力はかなり低かった。タカ兄とスズ先輩に詰め込んでもらったお陰で、何とか点数を確保していたくらいだし。

 

「タカ君は相変わらず厳しいよね。コトちゃんだって緩やかに成長してるのに」

 

「あのレベルから緩やかにしか成長できないのが問題だと言ってるだけで、成長してる面は認めてます」

 

「それが厳しいんだって。コトちゃんの元々のレベルを考えれば、飛躍的に成長できるわけもないって」

 

「お義姉ちゃん、フォローするのかとどめを刺すのかどっちかにしてもらえませんかね?」

 

 

 思いっきりとどめを刺された気がして、私はその場に倒れこむ。すると私の横をムラサメが通り抜け、籠の中にすっぽりと納まった。

 

「猫って狭いところ好きだよね」

 

「苦しくないんだろうか」

 

 

 珍しくタカ兄が私の独り言に付き合ってくれた。最近ではスルーされることが多いのに、これはタカ兄に心の余裕が出てきた証拠だろう。

 

「試してみる?」

 

「はい?」

 

 

 お義姉ちゃんにアイコンタクトされ、私は無言でうなずいて立ち上がる。

 

「圧迫プレイの良さが分かるかもしれないよ?」

 

「二人してくっついてきて何言ってるんですかね?」

 

「うわぁっ!?」

 

 

 私とお義姉ちゃんはタカ兄に体重を預けていたのだが、そのタカ兄があっという間にその場から抜け出してしまったので、私とお義姉ちゃんは倒れそうになる。まぁ、タカ兄が倒れる前に支えてくれたのでケガはしなかったが。

 

「さすがタカ君です。あの状況から抜け出すのも、私たちを軽々と支えるのも」

 

「というかタカ兄、また身体能力上がってない?」

 

「さぁな。さて、夕飯の支度でもするか」

 

「手伝おうか?」

 

「義姉さんはゆっくりしててください。というか、何故今日もいるんですかね?」

 

「良いじゃない。もう殆ど家族なんだから。それに明日はお休みだし」

 

「まぁ、義姉さんがそれでいいなら」

 

 

 タカ兄もお義姉ちゃんが家にいることを自然だと思い始めているようで、無理に帰そうとはしない。これはこれで特別なんだろうけども、まだ彼女を作る余裕はないんだろうな。




身体能力が高いタカトシ

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